天藤真『陽気な容疑者たち』角川文庫
その年の5月20日は忘れ難い日になった。日本橋室町にある藤本計理事務所で働く青年・沖はその日、事務所の入り口に赤旗が翻っているのを見る。それは横浜にある吉田鉄工の社長・吉田辰造から依頼されていた会社解散の清算事務を阻止するべくやって来た、同社の組合員たちの仕業だった。

📚 日頃から嫌われている強欲な経営者が、自己防衛のために作り上げた強固な要塞のような倉の中で死んでいた。その「密室」を攻略すべく警察が苦心惨憺している間、容疑者でもある関係者たちは、すこぶる陽気に酒宴に興じていた。侵入は不可能、死因に不自然な点もない。警察も殺人の可能性を早々に否定したこの「事件」、果たして真相は。

📚 以下、感想ですが……犯人が存在し得ない状況下で発生した、ある経営者の死が如何にして事件になっていくのか、そして攻略不可能と思われた倉の中で一体何があったのかを、ユーモアを交えた作者独自の方法で構成されている緻密な解明への過程と、それに付随する見事な発想・ロジックと共に、只々楽しみました :Shiropuyo_heart: そしてそれは間違いなく、幸福な読書体験でした。

さて、年越しでございます :Shiropuyo_mattari:

まずは読書タグから。

個人的には余り良いこともなく、色々と考えることも多い年でしたが、それでも藻掻いて前に進み続けた年でした。少しでも成長できていれば良いなぁ :Shiropuyo_niconico:

どうぞ皆様、良いお年をお迎え下さい :Shiropuyo_heart:

迷って迷って、私の「今年の一冊」です。とはいえやはり選びきれませんので例年に倣って国内作品&海外作品から、それぞれ一作品を選びました。

📘 江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫

📗 ケイト・モートン『湖畔荘(上・下)』創元推理文庫

どちらも波乱万丈。なのに読後感が良いです :Shiropuyo_true_wpeace:

📗 ケイト・モートン『湖畔荘(上・下)』創元推理文庫

📗 デイヴィッド・ヘスカ・ワンブリ・ワイデン『喪失の冬を刻む』ハヤカワ・ミステリ文庫

📗 アンドレアス・フェーア『咆哮』小学館文庫

📘 久生十蘭『顎十郎捕物帳』朝日文庫

📗 ジャニス・ハレット『ポピーのためにできること』集英社文庫

📗 S・A・コスビー『黒き荒野の果て』ハーパーBOOKS

📗 スティーヴ・ハミルトン『解錠師』ハヤカワ・ミステリ文庫

📘 月村了衛『機龍警察』ハヤカワ文庫

📗 エル・コシマノ『サスペンス作家が人をうまく殺すには』創元推理文庫

📘 天藤真『大誘拐』角川文庫

📗 L・T・フォークス『ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ』ヴィレッジブックス

📘 江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫

📚 結局選びきれず……2023年は12冊を選びました。順位ではなく、読んだ順です :blobcatreading: 今年も色々読みましたが……衝撃度でいいますと上半期は久生十蘭、下半期は江戸川乱歩の2023年でした。とはいえ選ばれていなくても印象深い作品はたくさんあったわけですが。また読んだ冊数も例年より減りましたが、年間通して充実した読書生活だったなぁと :17neko:

📘 原尞(りょう)『私が殺した少女』ハヤカワ文庫

📗 アリスン・モントクレア『疑惑の入会者』創元推理文庫

📘 月村了衛『機龍警察』ハヤカワ文庫

📗 ヘレーン・ハンフ『チャリング・クロス街84番地 増補版』中公文庫

📗 エル・コシマノ『サスペンス作家が人をうまく殺すには』創元推理文庫

📘 天藤真『大誘拐』角川文庫

📗 L・T・フォークス『ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ』ヴィレッジブックス

📘 辻真先『村でいちばんの首吊りの木』実業之日本社文庫

📘 江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫

📘 横田順彌『平成古書奇談』ちくま文庫

📚 毎回難しいのですが……2023年7月から12月までに読んだ28作品の中から読んだ順に10作品を選びました :blobcatreading: なお明日、上半期分12作品を合わせた計22冊の中から、2023年の本ベスト約10冊を選びます :ablobcat_dancing:

マイケル・イネス『ある詩人への挽歌』創元推理文庫
[訳] 高沢治
〈アプルビイ警部〉シリーズ第3作目。クリスマスの朝、スコットランド・エルカニーの城主ラナルド・ガスリーが城内の塔から墜落死した。桁違いの吝嗇家で村人に嫌われていた城主であったが、その死は自殺か他殺かすら曖昧であり、謎が付き纏っていた。当日の大雪で立往生し現地にいた者や捜査関係者等の語りによって徐々に明らかになっていく、ガスリー事件の顛末。

📚 江戸川乱歩が絶賛したことで読む機会に恵まれた作品。シリーズ物なので第1作目の『学長の死』、第2作目の『ハムレット復讐せよ』はできれば先に読んでおきたかったのですが……それでも凝った構成や意外性溢れる展開自体は読み応えもあり、堪能しました。だからこそ、上記のシリーズ2作を読んで予備知識を蓄えて、今作を再読してみたくなりました ☺️

角田喜久雄『霊魂の足』創元推理文庫
大嫌いな梅雨に祟られ本調子ではなかったが、親友である泉野刑事課長に会えるという理由でN県に公務旅行した警視庁捜査一課長・加賀美敬介。どうやら泉野は再調査中である「花屋マドモアゼル事件」において重大な新事実を見つけたらしいのだが……(表題作)。〈加賀美捜査一課長〉シリーズの短編を全一巻に集成した作品集。

📚 角田作品は少しずつ集めていたのですが、この作品が初読みになりました。ダンディでハードボイルドな第一印象に加えて、実は人情家でもある加賀美敬介捜査一課長の色々な表情が楽しめた短編集でした :Shiropuyo_heart: ちなみに私は全7編の中では「怪奇を抱く壁」「霊魂の足」「黄髪の女」「五人の子供」が特にお気に入りです ☺️

エル・コシマノ『サスペンス作家が殺人を邪魔するには』創元推理文庫
[訳] 辻早苗
シリーズ第2作目。バツイチ、ふたりの子持ちのサスペンス作家・フィンレイはウェブ上の掲示板に元夫・スティーヴンの殺害依頼が投稿されていることを知る。この件のせいで仕事が手につかない彼女に更に追い打ちをかけるように、プロの殺人請負人らしきアカウントが依頼主に接触を図ろうとしていた。彼女は同居人と一緒にスティーヴン殺害を阻止すべく奔走するが……。

📚 前作以上の「巻きこまれ型ジェットコースター・サスペンス」でしたが……今回はそれらを既知の状態で読み進められましたので最初からユーモア溢れる破天荒な展開を予見しながらの読書を存分に楽しみました 😆 ただ……前作のネタバレが多分にありますよ、ということは先ず、お伝えしておきます ☺️

📚 以下、感想です。本来フィンレイが書くべき内容を、彼女自身がそれよりも濃く体験しているんだよなぁ、と思いながら読んでいると……良く考えれば(構想だけとはいえ)作中作がある作品は読んでいくだけでもややこしいのに、それを整合性を持たせて書ける作者って、本当に凄いなと気付かされたり感心したりの楽しい読書でした。次回作も楽しみです :Shiropuyo_heart:

[幌メモ その64]
エイドリアン・マッキンティ『アイル・ビー・ゴーン』ハヤカワ・ミステリ文庫
[訳] 武藤陽生
〈ショーン・ダフィ〉シリーズ第3作目。MI5に依頼され王立アルスター警察隊特別部の未解決事件調査班となり、ある人物を捜索する任務に就いたショーン。捜査の途中、彼は有力な情報を得るために4年前に発生した「密室事件」の謎に挑むことに……。

📚 1983年9月25日のメイズ刑務所脱獄事件と1984年10月12日の〈グランド〉ホテル爆破事件。実際にあった2つの事件に「完璧な密室」で発生した事件を絡め展開される物語。凄く面白いです ☺️ 特に前作ラストの「衝撃」を回収し主人公を効果的な役職に就かせる導入部は後半へのフリも効いていて秀逸です 😍

📚 作者が島田荘司『占星術殺人事件』の翻訳版を読み、影響を受けたことから警察小説に「密室トリック」を入れ込んだという経緯も日本の本格小説が好きな身としましては嬉しい話です ☺️ この『占星術殺人事件』が『The Tokyo Zodiac Murders』に至る興味深い過程も巻末に書かれていて楽しく読みました。

読了日 2021年1月2日

[追記] 遠藤航選手、ついにプレミアリーグ第14節で初ゴール! :Shiropuyo_oiwai:

横田順彌『平成古書奇談』ちくま文庫
[編] 日下三蔵
フリーライターをしながら作家を志す25歳の馬場浩一は東急東横線・学芸大学駅近くにある小さな古書店・野沢書店に出入りしている。店主である野沢勝利やその娘・玲子たちと交流を深め、古書に通じたことで出くわした数々の不思議な事件や謎について綴った全9編の連作短編集。

📚 以下、感想です。紀田順一郎氏や出久根達郎氏が著すいわゆる「古書店もの」では、到底味わえないであろう角度から書かれた古書ミステリ集でした :Shiropuyo_good: 現実世界と空想世界とのチューニング具合やバランス感覚が、なんともヨコジュンさんらしいといいますか :Shiropuyo_thinking: ちなみに全9編のうち、私は「あやめ日記」「挟まれた写真」「サングラスの男」「おふくろの味」「老登山家の蔵書」が、特にお気に入りです ☺️

[幌メモ その63]
樋口有介『木野塚探偵事務所だ』創元推理文庫
〈木野塚佐平〉シリーズ第1作目。警視庁だけど経理課一筋だった主人公が退職後、憧れだったフィリップ・マーロウのようなニヒルでハードボイルドな探偵に自分もなりたいと、長年頭の上がらない奥さんに隠れて貯金したへそくりを元本に、探偵事務所を開設してしまったことから始まる「およそ本人の理想とは異なる」事件を痛快に解決していくユーモア・ハードボイルド連作短編集。

読了日 2017年12月11日

[追記] NHKでこのシリーズ作品を原作として主演・志村けんで映像化したのが『志村けん in 探偵佐平 60歳』でした。それより以前に放送していたコント番組『となりのシムラ』の流れを汲むコント仕立てのドラマで、恐らくは伊藤沙莉が世に知れ渡るきっかけになった作品だったように思います :Shiropuyo_thinking:

エヴァ・ビョルク・アイイスドッティル『軋み』小学館文庫
[訳] 吉田薫
シリーズ第1作目。恋人との関係が唐突に終わったことを機にレイキャヴィーク警察を辞めて故郷・アークラネスに戻り、地元警察の犯罪捜査部に職を得た女性刑事・エルマ。平穏なようでいて見えない所で色々起きているこの小さな漁港町にある灯台付近の岩場で、女性の不審死体が見つかった。

📚 2021年度の英国推理作家協会新人賞(ジョン・クリーシー・ダガー賞)受賞作品。過去と現在のエピソードを行き来し、被害者と捜査する刑事の両者に共通している「アークラネスに何故戻ってきたのか」というテーマに沿って展開される物語。陰鬱な出来事を丁寧に切り取って要所に散りばめることで事件に至るまでの過程を多面的に表現した濃厚な作品です。

📚 以下、感想です。読了後すぐは作品への物足りなさといいますか、納得のいく物語の解釈ができなかったのですが、色々な方のレビューを読むことで作品の印象が変わったことに加え、再読して情報量を増やしたことで作者の意図も把握できたかなと、思えるようになりました。それでも色々難しいお話ですが…… 😅 続編も楽しみにできるくらい理解は進んだ……と思います :Shiropuyo_thinking:

[幌メモ その62]
ラグナル・ヨナソン『闇という名の娘』小学館文庫
[訳] 吉田薫
〈女性警部・フルダ〉シリーズ第1作目。年末に定年退職する犯罪捜査部の女性警部フルダ・ヘルマンスドッティルは夏の近づくある日、年下上司に2週間後には後輩に席を明け渡すよう指示されてしまう。仕事を奪われた彼女に許されたのは、未解決事件の単独再捜査のみ──。

📚 アイスランドを舞台に仕事を取り上げられた定年間際の女性警部が未解決ロシア人女性不審死事件の真相を追う物語です。しかしながら内容を詳しく書けない面白い構造の作品で……そしてエピローグまで読み終えても、混乱は増すばかり 😱 このモヤモヤを晴らすには続編を読むしかない……全3部作なの?読まなきゃ 😤

読了日 2021年10月30日

[追記] 現在読んでいる本もアイスランドが舞台なので関連作として紹介します。このシリーズ、好きなんですよ :Shiropuyo_heart:

江戸川乱歩『孤島の鬼』角川ホラー文庫
体験した出来事の、余りの恐怖のために30歳にもならない青年・蓑浦の髪は総白髪となった。また、彼の妻には左腿の上に理由を判別しかねる程の大きな傷跡があった。世人が嘗て想像もしない人外境──奇怪至極な体験を、主人公である蓑浦が彼自身の回想という形で綴ったとする物語。

📚 物語の途中にある今後の展開を示唆する記述を読んだことから未だ見えていない全体像を想像し、頭の中で構築しようとしただけで、鳥肌が止まらなくなった作品です……こういう読書を経験したことがなかったので、非常に興奮しました。『パノラマ島奇談』『陰獣』を経て辿り着いた、恐らくは作者における最高傑作かと 🤔

📚 以下、感想です。今作品は推理小説と冒険小説において重要である部分ばかりで作られている印象です。プロットに隙が無く、展開にも無駄が無い。読者を飽きさせる余地が無く物語が進んだ上で最終盤に提示された事柄は、紛れもない恐怖そのもの :Shiropuyo_gaan: それでいて結末自体は一番最初にしっかり明示されているので安心して読める……はずなのに、これほどの恐怖を植え付けられるか、という物凄さ。決して万人受けはしませんしお勧めもしませんが、読むべき作品だと思います。素晴らしい読書体験でした ☺️

都筑道夫『キリオン・スレイの再訪と直感』角川文庫
〈キリオン・スレイ〉シリーズ第3作目。ふと如雨露を買ってきて、その晩に山の手線に飛びこんだ男。その半月前、綿菓子を買った後に首をくくった男。不必要なものを買い、理由もなく自殺した男たちに関するウォーターケイク氏からの問いかけに対し、アメリカへ帰ったものの東京が恋しくて日本に戻ってきた詩人・キリオンが再び好奇心を発揮し、調査を開始することに。

📚 今作は全6編の本格推理連作短編集です。キルとトニイ(青山富雄)のコンビに加え、水菓子屋の若旦那・ウォーターケイク氏や大学生の綱木、若い落語家の柳亭茶楽、推理小説家の安藤告など登場し、不可解な事件の謎を解いていきます。前述の友人に鍛えられ以前より偏りながらも上達した?日本語を駆使するキリオンにも注目です :Shiropuyo_mattari:

📚 前作を読んでから1年半ほど空いてしまっていたので、果たして覚えているかちょっと不安でしたが……推理小説が好きなアメリカ人の詩人・キリオンが異国の日本で王道のロジックで謎を解き明かしていくというスタイルは、やはり面白いです。ちなみに今作では特に「三角帽子が死につながる」「下足札が死につながる」「署名本が死につながる」が、私のお気に入りです ☺️

[幌メモ その61]
都筑道夫『キリオン・スレイの復活と死』角川文庫
〈キリオン・スレイ〉シリーズ第2作目。日本に来てからは推理小説ばかり読み、現実の事件に興味を持った挙句、幾つかの事件を解決までしてしまった好奇心旺盛な自称詩人のアメリカ人青年キリオン・スレイを探偵役とする全7編の本格推理連作短編集。

📚 スキー場ロープウェイのゴンドラ内で発生した女性刺殺事件、8階の宣伝会社に突如やってきた自殺志願者、出版社のパーティーで起きた推理作家毒殺事件、完全な論理で主人公が犯人になる事件、大安売りの密室事件を題材にした推理合戦……提示された難事件を、論理で鮮やかに解明していく個性的な探偵譚です。

📚 本格推理なので謎の解明方法はゴリゴリの王道ロジックです。そして探偵役を「プロ」に任せないための措置として怪しい日本語を使う詩人の外国人青年にそれを担わせるというギャップと可笑しさ 🤣 しかしそこに油断すると足元を掬われるという構造 😅 今作での私のお気に入りは「八階の次は一階」「二二が死、二死が恥」「キリオン・スレイの死」です ☺️

読了日 2022年3月21日

[幌メモ その60]
都筑道夫『キリオン・スレイの生活と推理』角川文庫
〈キリオン・スレイ〉シリーズ第1作目。アメリカからやってきた前衛詩人の「キル」ことキリオンが英語が堪能な友人・青山富雄(トニイ)宅に居候し、グウタラしつつも持ち込まれる不思議な事件を見事な論理で解決していく全6編の連作本格推理短編集。

📚 「トリックよりロジック」「名探偵復活を提唱」する作者が日本の推理小説に最も欠けているものは論理性だと指摘、アメリカからやって来た、怠惰だが論理癖のある詩人を探偵役に据えたシリーズです。ちなみに同年『七十五羽の烏』も発表しているのは主張を意欲的に実践していたということの証左でしょう。

📚 全6編のうち、特に私のお気に入りは「なぜ完璧なアリバイを容疑者は否定したのか」「なぜ密室から凶器だけが消えたのか」「なぜ幽霊は朝めしを食ったのか」です ☺️ 各編の標題が設問式なのも特徴なのですが……何といってもカバー画。山藤章二が半纏の背中に欛(つか)の文字を描いたのが、実に心憎い ✨

読了日 2021年12月17日

[追記] シリーズ第3作目を読んだので、それより前の2作品を取り急ぎ紹介しておきます :blobtanuki_work:

[幌メモ その59]
ガブリエル・ゼヴィン『書店主フィクリーのものがたり』ハヤカワepi文庫
[訳] 小尾芙佐

アリス島に一軒の小さな書店「アイランド・ブックス」。妻を亡くして以来、ずっとひとりで店を営んでいる偏屈な店主A・J・フィクリーと彼を取り巻く人々との交流や様々な出来事を、独特なユーモアで包み込んだ作品。意外とミステリでした 👍

以下、書影と印象に残った文章を。

読了日 2018年1月30日

[幌メモ その58]
スティーヴン・キャラハン『大西洋漂流76日間』ハヤカワ文庫
[訳] 長辻象平
1982年、イギリスからアフリカのカナリア諸島を経てカリブ海に浮かぶアンティグア島へ向かう途中、突如沈没した著者の小型ヨット。ゴム製救命イカダに逃れ肉体的・精神的に極限状態の孤独な漂流生活をも乗り越え生還したヨットマンが綴る壮絶なノンフィクション。

📚 遭難後や漂流中の救命イカダ内での生活と生命維持がこの本の大部分を占めるのですが……読んでいるだけで苦しいです 😣 蒸留器が機能せず真水を確保できない日が続くとか、イカダがゴム製なので一部に体重が加わると下にたわむのですが、そこを四六時中シイラが攻撃してくるだとか……想像するだけで 😱

📚 また巻末の長辻象平氏による「訳者あとがき」が非常に面白く、特に著者と、1952年に自ら漂流実験をほぼ同じルートで行っていたフランス人医師アラン・ボンバールとを比較した文章は必読です。

「通常、人間はどれ位の漂流に耐えられるのか」という問いを含め、色々と考えさせられた作品でした。

読了日 2021年2月7日

アンドレアス・フェーア『急斜面』小学館文庫
[訳] 酒寄進一
シリーズ第4作目。2011年12月初めのある日、おじの遺言を実行すべくヴァルベルク山に登ったクロイトナー上級巡査はその後、山頂近くのレストランで出会った奇妙な女性・ダニエラとスキーで一緒に上級者コースを下山することになったのだがゲレンデを外れて夜の迫る森に迷い込んでしまう。途方に暮れながらも山を下る二人が辿り着いたのは、雪の積もったベンチとそこに座る雪だるまのある小さな空き地だった……。

📚 2008年9月にあった、ある不審な出来事と3年後に発生した不可解な事件との関連性が徐々に明らかになるに連れて見えてくるレーオンハルト・クロイトナー上級巡査の素行具合と発想力。今回はそれ以外のらしからぬ彼の一面も見えたり 😁 もちろんクレメンス・ヴァルナー首席警部(寒がり)も健在。家庭に問題を抱えている彼を救う意外な理解者も登場します 🤗

📚 以下、感想ですが……改めて前代未聞の警察バディものだなぁと 🤔 ただこのカテゴライズにも収まり切れない程、詰め込まれている要素が複雑で多様で面白く、夢中になれるシリーズです。抱えた事件の闇の深さ、それに臨む個性的な各登場人物たち、何より彼らが活躍する南ドイツの美しい風景描写を今作でも満喫しました ☺️

[幌メモ その57]
出久根達郎『佃島ふたり書房』講談社文庫
明治末から東京五輪の開催年である昭和39年までの東京・下町を主な舞台に奉公先だった古本屋で出会った少年二人の友情や成長を描いた長編作品。ちょっと想像と違う作品でしたが 👍

以下、書影と印象に残った文章を。

読了日 2018年1月7日

[追記] 読了ツイートに色々試行錯誤していたであろう頃の呟きです。なお補足情報としまして、この作品は第108回直木三十五賞受賞作品。それも読む動機のひとつだったような :Shiropuyo_thinking:

また当時の自分の気分として「古書店が舞台の作品」を探して好んで読んでいたという記憶もあります。因みにそのきっかけは米澤穂信『追想五断章』でした。そして『追想五断章』を読んだきっかけが「リドル・ストーリーもの」に興味があったからで、そのきっかけになった作品が今邑彩『金雀枝荘の殺人』……もっといえば米澤穂信に辿り着くまでのルートもあるわけでして……全く読書は繋がっていきますねぇ :Shiropuyo_niconico:

余談の長いトゥートになりました :blobbonebook:

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