天藤真『陽気な容疑者たち』角川文庫
その年の5月20日は忘れ難い日になった。日本橋室町にある藤本計理事務所で働く青年・沖はその日、事務所の入り口に赤旗が翻っているのを見る。それは横浜にある吉田鉄工の社長・吉田辰造から依頼されていた会社解散の清算事務を阻止するべくやって来た、同社の組合員たちの仕業だった。
📚 日頃から嫌われている強欲な経営者が、自己防衛のために作り上げた強固な要塞のような倉の中で死んでいた。その「密室」を攻略すべく警察が苦心惨憺している間、容疑者でもある関係者たちは、すこぶる陽気に酒宴に興じていた。侵入は不可能、死因に不自然な点もない。警察も殺人の可能性を早々に否定したこの「事件」、果たして真相は。
📚 以下、感想ですが……犯人が存在し得ない状況下で発生した、ある経営者の死が如何にして事件になっていくのか、そして攻略不可能と思われた倉の中で一体何があったのかを、ユーモアを交えた作者独自の方法で構成されている緻密な解明への過程と、それに付随する見事な発想・ロジックと共に、只々楽しみました そしてそれは間違いなく、幸福な読書体験でした。