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『女ぎらい ニッポンのミソジニー』
著/上野千鶴子

社会学を多少かじって、フェミニズム関連の本も数冊よんでみたとはいえ、それでもうまく名前が付けられずにいたモヤモヤに、ぺぺぺっと名札を張って、痛快で明快な説明をしてくれる本。読むのも凄く楽しくて一日で一気に読んじゃった。刺激的な表現が多岐にわたってでてくるので電車の中で読むのは多少気を遣った。でもそこが好き。

ミソジニーの定義にはじまり「ホモソーシャル」についての解説、性の二重基準、児童虐待、皇室、春画、母と娘、女子高……と、盛りだくさんな内容だった。一家に一冊あったほうがいい。

2010年に刊行された単行本が2018年に文庫化されている。13年前の本だというのに、古いと感じるところはほとんどない。たとえ話とか出てくる本のタイトルが古いとかその程度。多分、あと10年20年は余裕で古びないとおもう。気が遠くなる。ちょっとは前進していればいいが、最近は反動的なうごきも強くなっているので、状況はむしろ悪化しているんじゃないかとすら思う。

2023年秋アニメ雑感(途中) 


『葬送のフリーレン』
今期覇権候補。声優さんの静かな演技に感情をはげしく揺さぶられて、毎話黙って観てしまう。すごい。

『ビックリメン』
キャラデザが武井宏之なので観た。90年代を彷彿とさせる展開と演出のオンパレードで、令和にこれをやるのかと、あたしゃそこにびっくりだよ。

『ミギとダリ』
ギャグなの?
サスペンスなの??
どっちが好きなの???
(※どっちでも好きです。ED曲好きです。)

『アンダーニンジャ』
面白そうなんだけど、青年誌は妙齢女性の扱いにミソジニーが滲んでることが多くてウッ…となる。面白そうなんだけど。

今期は『呪術廻戦(2期)』『SPY×FAMILY(2期)』『アンデット・アンラック』も観ます。あとるろ剣。

『べいびーわるきゅーれ』(2021)
監督/阪元裕吾

高校卒業と同時に同棲をはじめた殺し屋のおんなのこが、バイト探しつつゲームしつつ時々ヒトを殺してるガールズムービー。は?(は?)

ながら見するつもりでかけたのにおもしろかったので最後までわりとちゃんと見ちゃった。なんだこれ。

常にテキトーな雰囲気を醸しつつも、実はばりばりに演技できる人たちが本気の悪乗りとアドリブで繰り広げる、ネットミームと鉄板演出を逆手に取った悪乗りと社会人あるあるとおたくムーヴと関西しゃべくり漫才的な会話のテンポと時々さしはさまれる日常パートのゆるさで展開される怒涛の90分だった。は???(は???)

リコリコってこんな感じだったのかな。2話位までしか見てないんだけど。最近は女子高生が学校帰りに殺し屋やるのが流行ってるのだろうか。いや別にそんなもん今に始まったアレではないが。

特徴であり魅力のひとつのインターネットミームの多用は、一歩道を誤ればクソつまんない映画まっしぐらだったともおもうので、この映画では本当に上手な演出が為されていたとおもう。面白かったしクセになるタイプの映画なのでロングランした理由もわかる。他の監督作品も見てみたいな。

『地図と拳』
著/ 小川哲

中国南部に構想された理想郷『満州』をめぐる55年間の物語。物凄い量の参考資料が物語るように、色々と史実に忠実に描写されている一方、天気や湿度をピタリと当てる万能計測器人間や、自筆の予言の書で50年先を予見する男、どこからともなく現れては予言めいた言葉を残し、国家存続のために多くの人を翻弄して暗躍するメフィストフェレス的な男など、いろいろと変な人がたくさんでてきて、史実を土台にした寓話めいた話だった。松尾スズキの戯曲っぽい。

ページを捲る手をとめさせない面白さで終盤は一気に読んだ。単行本600p超と見た目は京極ばりにゴツいけど、四六判1pにつき45文字×20行程度なので文字数的にはさほどでもなく、本に厚みを持たせて超大作感を出すためにあえて厚くしてるかんじがしたので、個人的にはいろいろもっとツッコんで欲しい箇所もあった。でもこれは史実を描いた本じゃないからその辺はお門違いかもしれない。

『ワンピース』(2023)

Netflixオリジナルドラマ。原作未読、アニメは20年前の知識しかないなかで観たけれど、ちょうど印象深い範囲(出立~アーロン戦)をやってくれたので、懐かしさを感じつつも新鮮な気持ちで観ることができた。

アニメや漫画の実写化というと、コスプレめいた衣装や、舞台装置の陳腐さが目に付いて、物語に集中できないという事態になりがちだけれど、このドラマはその辺ものすごく上手だな~とおもった(きっとさぞやお金がかかっているんだろうけれど…)
衣装の古びた感や、船の使われている感、村の住んでる感がちゃんとあった。あと全体的に埃っぽくて煙たそうな画面が多く、原作よりもワルい雰囲気が漂っているのもよかった。原作の再現ではなく、実写化に合わせた再構築がちゃんとなされていたかんじ。曲もいい。あと衣装がくるくる変わるのもかわいい。

なによりキャストが全員魅力的。特に麦わら海賊団の5人は全員好きになってしまった。あとコビー&ヘルメッポ。二人が居てくれてよかった。「夢を追いかける」がテーマのドラマで、「夢を叶えたあと」がちゃんと描かれてるのがいいなとおもった。

シーズン続編が決定したらしいので楽しみです。

『SHE SAID/シーセッド・その名を暴け』
監督/マリア・シュラーダー

ハリウッドの大物プロデューサーの長年に渡る性暴力を告発し、「」運動の契機となった、ニューヨーク・タイムズの新聞記事が公開されるまでの話。

構成は『スポットライト/世紀のスクープ』とまったくおなじで、物語や映像に目新しさは全然ない。けれど、暴力を受けたあとの女性たちがどれだけの傷を負い、孤立し孤独を感じ、人生を損なわれたのか、そして彼女たちの声を届け連帯することがどれだけ大切で難しいのかを、いろいろな角度から丁寧に描いていたとおもう。

日本ではこういう話は作れないのかな…『新聞記者』も『エルピス』も現実の事件をモチーフにはしていたけれど、一番大事なところが特大のフィクションになっていた。観た直後にそれでいいのか?とおもったし、この映画を見て改めてそうおもった。

誰かの尊厳を損なった者が適切に告発され、その不正義や理不尽に対しする怒りや悲しみに連帯を表明しても咎められず、共に声を上げてくれるひとがいる。そんな『当たり前』が、今までこの社会にあったかどうかわからない。でも、少なくとも海外ではそれを当たり前にしようとしているとおもう。

翻って日本はどうだ。なんか、だんだん悲しくなってしまった。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』
監督/ナヴォット・パプシャド

夫を亡くした女殺し屋、恨みの炎に身を焼かれ、会稽遂げた雨のダイナーで哀れ親子は生き別れ。消えた母親の背中を追って、あの日の少女も殺し屋に。
こどもを助けた女殺し屋は組織に反旗を翻し、武器を求めて図書館へ。追っ手の死体を踏み越えて、血染めのジャンパーの背中にゃ今日も子虎が牙をむく。

……という感じの映画でした(どんな?)

タランティーノ作品が好きだったら絶対に楽しめる系。色々なものへのオマージュがタイトルの通り「シェイク」されていた。ボウリング場の闘いがまんま『キル・ビルvol.1』で喝采しちゃった。

最強の図書館員たちが本のから武器を渡してくれるんだけど、ラインナップがジェイン・オースティンとエミリー・ブロンテとヴァージニア・ウルフ(一瞬だったけど『自分だけの部屋』だった?)という強すぎる布陣で、それだけで勝利が約束されていた。

監督インタビューによると、女性暗殺者が出てくる先行作品をくまなくチェックして作られた、とのことで、どこかで見たことがあるシーンやモチーフが多く、一方でごちゃまぜ感が「どこでもなさ」でもあって面白かった。

フェミニズムへの目配せもあったけど個人的にはもっとやってくれてええんやで、と思った。

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2023)
監督/サラ・ポーリー

閉鎖的な村で発覚した集団強姦事件。村中の男たちが不在となる2日間に、残された女性たちは投票をおこなった。ほぼ同数の得票となったのが「闘う」あるいは「去る」――どちらを選ぶか、代表者が話し合うことになる。

現代(2010年)が舞台だけどまるで時間が止まってしまったような村には「メノナイト」というキリスト教の宗派の人々が暮らしていて、ガスや電気を使わない生活をしている。聖書の教えは知っていても人権の概念はない。男性と女性が平等である『べき』だという前提すらもない。それでも、自分たちがこんな扱いをうけていいはずはない、という静かな怒りと悲しみが漂う。まだ4歳の子が「痛いの」と涙を流す。
こんなことが起きていいはずがない。

村の女性たちは教育の機会を奪われており、読み書きもできず地図を見たこともないけれど、「同じ体験」を共有している。血に濡れて目覚める朝のイメージだ。それでも意見や態度はまったく異なるし、受けた傷の形も現れ方も、何もかもが違っている。フェミニズムにまつわる有名なことば『一人一派』のように。

続く→

『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』
著/信田さよ子

家族内でおこる暴力行為がいかに国家の思惑と結びついているかを説く。比較的さくっと読めた。別の本も読みたい。

家庭内での出来事に関して国家は不可侵であるべきである、という戦後日本の原則は、裏返せば、国家は家庭内における家長=男性のふるまいを黙認することだった、という指摘にぞくっとした。人類皆平等という建前のもと、家の中に発生する男/女、親/子の不均衡は『あえて』見過ごされた。不均衡を黙認する国家と利益を甘受する家長。家の内部で虐げられる者は犠牲者にすらなれなかった。名前が与えられたことで(DV、依存、虐待...)ようやく被害者は被害者として、加害者に責任追及できるようになる。

でも、自分がどれだけ相手を害しているか理解しない加害者は多い。加害者に責任を取らせることの難しさは、以前『言葉を失ったあとで』(著/信田さよ子・上間陽子)を読んだときにも語られていた。それでも暴力を振るう者が振るわなくなることで「家族」の形をギリギリ維持できる。

崩壊寸前の「家族」を見て見ぬふりして、うちの国家は『古き良き日本の家族』的なものを再生させるべくせっせと広報に励む。夫婦別姓とか同性婚とか夢のまた夢じゃないの、などとおもった。

『デ・トゥーシュの騎士』
著/バルベー・ドールヴィイ
訳/中条省平

19世紀のフランスが舞台。幽閉された騎士を助けるために派遣された12人の戦士の闘いを描いた小説。

作者も19世紀の小説家のためか、文体がすごく回りくどいというか、聞き馴染みのない比喩表現が大量に出てきて面白かった。読んでいるとしばしば眠くなったけれど。

塔に幽閉されているのが女性と見紛うほど美人の男性騎士で、語り部はかつての12人の戦士のうちひとりにして若いころから男性に混じって剣を振るってきた女性、という、ちょっと変わった構成だった。一応騎士物語だと思うので普通は逆なんじゃないだろうか。三人称の小説だったはずなのに語り部がいきなり自我を出してきたりと、色々と不思議な小説だな~と思いながら読んでいた。分からないことはありつつ、筋自体は、騎士奪還に至るまでの回想、という感じなので迷子にならず読めたけれど。

性別をひっくりかえしたような登場人物がたくさん出てきたので、ちゃんと分析して読めたらめっちゃ面白いんじゃないだろうか。翻訳者の本で『最後のロマン主義者―バルベー・ドールヴィイの小説宇宙』があるのでこちらも読んでみたい。

『メタモルフォーゼの縁側』(2022)
監督/

書店で偶然手に取ったBL漫画にハマった75歳のおばあちゃんが、書店員の17歳と仲良くなる話。「良い」とは聞いていたけれどとてもよかった本当に良かった、何年かに1本現れる繰り返し観たい邦画だった…。

「BL」が好きな主人公は、自分が好きな物を人前で「好き」と言うことができない。好き、を人前に出すのは怖い。拒否されるのも、変にチヤホヤされるのも、嫌だ。自分の好きをどうやって大事にしたらいいかも分からないのに、17歳には「進路」という難題が付きつけられる。何をすればいいか、どこへ行けばいいのか、自分に何ができるのか。進路を決めろ、目標を言えと言われても、自分には何もないと感じる気持ち、痛いほどに良く分かる。
一方75歳の行く末はある程度決まっている。人生の終焉が目前にあるからだ。腰は痛むし物も忘れる。でも、書店での偶然の出会いによって、大冒険が始まることだってある。自分の形が分からず、まだ何者でもない17歳と、自分の核も殻も形も持っている75歳が、それぞれほんの少しだけ「メタモルフォーゼ」する。

続く→

『赤と白とロイヤルブルー』(2023)
監督/マシュー・ロペス

アマプラ限定配信。アメリカ大統領の息子とイギリス王室の次男は犬猿の仲で顔を合わせると喧嘩が始まる。だがイメージアップの為に共に過ごすうち、かけがえのない相手になって…というラブコメ。

いわゆる「BL」的なラブロマンスを、歴史と伝統を重んじるイギリス王室の在り方とアメリカ大統領選挙に絡めて描かれており、恋愛描写以外もとても楽しめた。勿論、恋するふたりが最高に可愛くてずっと最高だった。なんならもっといちゃいちゃしてくれてもよかった。

同じく犬猿の仲から始まる韓国ドラマ『海街チャチャチャ』は喧嘩のシーンが楽しくて「もっと喧嘩しててくれ~!」と思ったのだけど、今回は割と序盤に犬猿ではなくなるせいか、愛情表現の演出レパートリーが豊富だった気がする。甘い言葉の応酬がシャレていて好きだった。

字幕もあったけど吹き替えで鑑賞。もともと小林親弘さんの声が好きなんだけど堪りませんでした。ラブコメは観てると叫びたくなるんですが、叫ぶ代わりにMisskeyでずっと呟いていたので、よければご参照ください。
misskey.yukineko.me/notes/9ia7

『誓願』

著/マーガレット・アトウッド
訳/鴻巣友季子

『侍女の物語』の続編、独裁国家・ギレアデ共和国滅亡の物語。前作は最初から最後までずっと息が詰まりそうな閉塞感を感じて、読むのが本当につらく、全然読み進められなかったのだけれど、続編の本作は爽快な冒険活劇、失われた過去を憐れみ懐かしみながら書き記す回顧録、ユーモアの中に復讐心渦巻く策謀の書、といった感じでとても楽しく一気に読んでしまった。虐げられた女性たちの勇気と連帯で国家転覆の野望を成し遂げる様は痛快だったし、希望にあふれていた。

が。

アメリカでは中絶が禁止され、日本でも代理母法制化がささやかれる昨今、私達はもう「ギレアデ」の内部に足を突っ込んでいる。保守的な意見は根強くはびこり、「女」の扱いは昔と変わらないどころか逆行しているところもある。そんななな、この希望の書に描かれていたような勇気と連帯を、今を生きる我々は示すことができるのだろうか。私はとても難しい気がする。

でも、それでも。

訳者あとがきによると、原題の「The Testaments」は「神と人との契約」「裁きの場での誓言」「遺言」という意味があるらしい。願いが無ければ叶わない。ならば私も祈りたい。私の選び取る道が私の娘に少しでも善い未来をもたらすように。

『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち 近世の観劇と読書』
著/北村紗衣

シェイクスピア劇が今に残る古典となるまでには、大勢の無名の人々が劇を鑑賞し、脚本を読み、感想を述べ、二次創作(!)し、コスプレしてフェスに参加(!!)した。当然女性も。残された資料から、16~18世紀頃の女性達がどのようにシェイクスピアを楽しんできたのかを検証した本。

想像していたよりも10倍ぐらい「お堅い」専門書だったので読み通せるか不安だったものの、中盤位からノッてきて最後まで読めた。索引と参考資料で本の1/4程を占めていたのが凄かった。

シェイクスピアをどう解釈するかで自らの言論の正当性を主張しようとした女性達の試みが興味深かった。例えば、シェイクスピアの学歴は高くなく、作品も英語で執筆されていることから、英語でも戯曲は書けるのだからラテン語の教養はなくてもいいのだという主張は、女性は教育をうけられなかったためラテン語の教養がなかったことに由来する、とか。今も昔も女性の発言や作品の受容の仕方は「正当ではない」と言われるものなんだなあと思った。

どんなやり方であれ、作品を愛するファンがいた。いまもいる。その中には私も含まれている。16世紀の女性達に、なんだか少し勇気を貰った気がする。

『ヘアスプレー』(2007)
監督/アダム・シャンクマン

1960年代、人種差別が続くアメリカを舞台にしたミュージカル映画。ずっと見たいと思っていたので見られてよかった。リメイク作品だったの知らなかった。

オープニングの歌が始まった時から「あ、これはええ作品やわ」とおもっていたけど最後までずっとハッピーなお話で、歌とダンスも最高で、観ていてすごく元気がでた。いまの自分自身がどんな姿でも、その背中をバシーンと叩いて肯定してくれるような力強さがあった。

改めて、この映画が2007年の映画ということを考えると、15年経っても世界はまだこんな調子なのかと思う。なにもかも、おとぎ話のように簡単に変わらない。それでもその年の分だけ私達は年老いて、多少は利口にもなって、間違いなく未来を作りながら歩いている。いまいるここは、もうこの世にはおらず、共に歩けなくなった人たちと共に作ってきた未来の世界。私達は歩き続ける。

この物語はおとぎ話だけど、今も昔も、闇の時代を生きる人の心にちいさな光を灯してくれると思う。展開がご都合主義すぎひん?とか主人公がエエ子ちゃんすぎちゃう?とかイチャモンはいくらでもつけられるけれど、それ以上に大事なものが詰まっている。これは高校生の夏休み必修映画にしたほうがいい。

『ニモーナ』(2023)
監督/ニック・ブルーノ、トロイ・クアン

twitterで評判を聞いて観てみたかった映画。序盤のスピード感やコメディのセンス、古今東西名作パロ(ゴジラもある!)がとても楽しかった。あとなんの理由付けも説明もなしに男性同士のカップルが登場したのもよかった。

ニモーナは何にでもなれる。強くてユーモアがあって、誰にも負けないすごい力を持っている。何だってできる、でもそれゆえに、皆から嫌われる。何者にもなれるニモーナは、何かに成れず、コミュニティに属することができないから。
「君は何者なの?」「ニモーナだよ」
何度か繰り返されるやり取り。ニモーナは何度も「何者」かを問われ、その度に「自分はニモーナだ」と答える。他の何でもないと繰り返す。

終盤、自らの命を絶とうとした「怪物」は、恐怖と憎しみで街を焼こうとする兵器に立ち向かって消えてしまう。結局自己犠牲か?そうではない、きっとそうしたかったからしただけだ。街を助けるためじゃない。恐怖と憎しみにムカついただけ。結果は同じでも、全然違う。

街の人々は『壁の外には怪物がいる』と1000年間信じていた。でも彼らが怪物と呼ぶニモーナは最初から壁の内側にいた。いなくなってから花を手向けて何になる?我らはすでにともにあるのだ。

『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』
著/高島鈴

”生き延び、抗い、何度でも会おう。”
私がこの本を手に取って序章を読んでいた2023年7月12日、芸能人の自殺報道があった。今こそ読むべき本だと思った。

この本の文章は、なんかすごくぐちゃぐちゃしていて血がだくだく流れている。読んでいると血の生暖かさを感じてゾクゾクする。熱くなる。生きている。なんかこれはすごくいいな。好きだ。いや、でもできれば血とかは流れないほうがいいし、私は誰かや自分が痛い目に遭うのは嫌いなので、やっぱり血を流させるこの社会がクソなんだけど。

世界、明日爆発しないかな。昔の私はずっとそう願っていた。地震とか疾病とか、色々と無茶苦茶なことが起こって、いろんなものがマジで「爆発」したけれど、世界はどうにもならなかった。

生き延びよう、と何度も何度も呼び掛ける本のラストには、死者たちについての章が収められている。生と死の境界線の向こう側にいる、いまはもう見えなくなった人たち。絶対に会えない「死者=他者」の声を聞き、血を流しながらこのクソみたいな社会に居続けること。

生き延びること。それこそが抵抗であり革命だ。だったら、私でもその革命になら参加できそうだよ。皆、一緒に生きようね。

『社会契約論ーーホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』
著/重田園江

『社会契約論』を、その原初である450年前の思想家から現代の哲学者にわたって解説した本。読み始める前は人名も単語も具体的にどういうものかはまったく理解していなかったのだけれど、お〜〜〜もしろかった〜〜〜!巻末の読書案内もふくめて、手元に置いて道しるべにしたくなる一冊。

ルソーの章ででてきた6の字の歴史認識がおもしろかった。ルソーとロールズめっちゃ好きになったのでもう少し何か読みたい。

小さくて無力な個人が、生きている間には絶対に関わり合えない、想像すらもできない圧倒的な他者と、おなじ社会で生きる者としてどうあるべきか、なにができるのか、これからどうすればいいのかを考えるための思想。いまこそちゃんと考えなくちゃいけないことが詰まっていた。

人間は自分自身の身分や地位を知らない状況では、自分が不利にならないよう、結果的に「みんなに公平で有あるような」ルールを制定する…という解説には納得なのだけれど、それでも、読みながら私は「自分が働けなくなったら生活保護を受けるかもしれないのに、なぜ生活保護受給者が糾弾されるのか?」みたいなことを考えていた。でもおそらく、それにはまた別の解説が必要なのだとおもう。

『機動戦士ガンダム/水星の魔女』

フェミニズム盛り盛りで始まった一話にわくわくした。今までと違うガンダムをやろうとしてるのだとおもった。でも24話全部見た感想は、「結局いつものガンダムやん…」だった。てっきり、家父長制解体の物語になるものだとおもってたのに。いや、私の浅はかな予想が裏切られたのは別にいいんだけど、さすがに一話に登場したテーマが最終回になってもいっさい回収されなかったのは「なんで???」だった。

トロフィーとしての花嫁ミオリネはなんかふわっといつの間にかトロフィーじゃなくなり、トキシック・マスキュリニティを体現したようなグエルは自らの有害さと向き合うこともなく(それどころか有害だった父親が死の間際に見せた僅かな悔恨に愛を汲み取って救われた感じになってませんでした?)目新しめなパーツを寄せ集めて作ってみたけどうまいこと処理できなかったので大量破壊兵器と最終決戦要塞だしていつもの味付けにしましたってかんじで、そりゃないぜ…じゃああの一話はなんだったの…というお気持ちでいっぱいになった。なんかふわっと大団円にしてたけどさあ。

ガンダムは家父長制を解体(はむりでも、脱構築とか)するような物語は作れないのか?そんなことはないとおもうんだけど。

『ハムネット』
著/マギー・オファーレル
訳/小竹由美子

息子を喪った父親は、息子の名前を戯曲に冠する。父親の名前はシェイクスピア、その戯曲とは『ハムレット』――という史実から着想を得た物語。なお主人公はシェイクスピアの妻。

森の草木や薬草に精通し、鷹を飼いならし、不思議な力で未来を予見する女性・アグネスの生き方が魅力的。浮世離れした彼女が自分の世界を保ったまま、同じく浮世離れしていてまだ何者でもないシェイクスピアと恋に落ちていくのがロマンチックに描かれていてとてもよかった。

題材から何が起こるかは予測していたものの、子供が辛い目に遭うのを読むのはしんどい。その後の主人公とその家族を襲う悲しみの嵐には何度もため息がでた。

それぞれの傷口はいつまでも癒えず、なぐさめあう方法もわからず、誰もがいつもどこかにいなくなったあの子の影を探している。それでも季節をやり過ごして、各々のやり方で折り合いをつけ、少しずつ生をとりもどしていく。それはある意味哀しいことでもあるけれど、他の誰かでお手軽に埋めてはいけないんだな、とおもった。血は今も滴るけれど、それでも生きていく。

ずっと淡々とした描写がなされている小説だったけれど、森や野花が色鮮やかで、草の葉が匂い立つような本だった。

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