『SHE SAID/シーセッド・その名を暴け』
監督/マリア・シュラーダー
#映画 #感想
ハリウッドの大物プロデューサーの長年に渡る性暴力を告発し、「#Metoo」運動の契機となった、ニューヨーク・タイムズの新聞記事が公開されるまでの話。
構成は『スポットライト/世紀のスクープ』とまったくおなじで、物語や映像に目新しさは全然ない。けれど、暴力を受けたあとの女性たちがどれだけの傷を負い、孤立し孤独を感じ、人生を損なわれたのか、そして彼女たちの声を届け連帯することがどれだけ大切で難しいのかを、いろいろな角度から丁寧に描いていたとおもう。
日本ではこういう話は作れないのかな…『新聞記者』も『エルピス』も現実の事件をモチーフにはしていたけれど、一番大事なところが特大のフィクションになっていた。観た直後にそれでいいのか?とおもったし、この映画を見て改めてそうおもった。
誰かの尊厳を損なった者が適切に告発され、その不正義や理不尽に対しする怒りや悲しみに連帯を表明しても咎められず、共に声を上げてくれるひとがいる。そんな『当たり前』が、今までこの社会にあったかどうかわからない。でも、少なくとも海外ではそれを当たり前にしようとしているとおもう。
翻って日本はどうだ。なんか、だんだん悲しくなってしまった。
上司から長距離&海外出張を命じられたふたりの女性記者(ひとりは乳児、ひとりは複数児をの母)が「は?!マジで?!」みたいな反応だったのがおもしろかったな…そりゃその反応になるわ…。
性暴力だけではなく、産後の孤立(社会から取り残されてしまった絶望と孤独にはものすごく身に覚えがある)や、育児の困難(幼い娘が女性に関連する単語として「レイプ」を知っているという悲しみ…)や、身体を襲う女性特有の不調(がん検診ちゃんと行こう)や、男性の上司が対応するとまともに話し始める相手(身に覚えがある)など、この世で女の身体で生きるがゆえにふりかかる困難がいろいろと描かれていてよかった。