『共謀家族』(2019)
監督/サム・クァー

横暴な警察官がハバを利かせる街で、警察署長の息子を殺してしまった妻と娘を守るため、男はこれまで観てきた映画の知識を総動員して完全犯罪を目指す。

この説明だけで観始めたのでどんなコメディーやねんと思っていたし、これはネタバレではないですが、「どこかで種明かし的に『実は全部フィルムでした~』って言うんやろ?」って思ってたらそういう映画ではなかった。ごめん。不誠実な権力への怒りを感じる凄く真面目な映画でした。

中国映画版『容疑者Xの献身』なので筋はまあだいたい予想できていたけれどめっちゃ面白くて最後までハラハラしながら観られた。子役の演技がものすごく達者でそれだけでもう泣きそうでした。

2013年制作のインド映画をその2年後にヒンディー語でリメイクして、それを中国で更にリ・リメイクした作品らしい。ややこしい。元ネタの映画ではダンスしたんだろうか。してほしい。

『アメリカン・フィクション』(2024)
監督/コード・ジェファーソン

あんまり売れてない作家(純文学寄り)が、白人をコケにするためにコテコテの黒人っぽい文学を書いたところ、発売前から重版出来、映画化も決まって文学賞まで取っちゃったから、さあどうしよう。

っていう…ね。笑。

めっちゃめちゃ面白かった。いたるところにダークなジョークが仕込まれていて頬が引きつった。でもいくつか見落としている気がする。黒人2名、白人3名でおこなう文学賞最終選考シーンの皮肉が個人的に一番強烈でした。

産まれたところや皮膚や目の色で、それに見合った音楽や口調や人生を求められる。そぐわなければ驚かれる。人間って、人生って、皆そんなに単純じゃないのにねえ。だけど複雑なものを複雑なままにしておくのは不安だ。

実は主人公の人生が一番『くだらないメロドラマ』っぽく描かれていて、ちょっとだけ悲哀だなぁなどと思いました。

『花様年華』(2000)
監督/王家衛(ウォン・カーウァイ)

仕事で忙しい妻をもつ男と、仕事で忙しい夫をもつ女が、たまたま隣の家に住むようになり、互いに惹かれあう話。

タイトルや監督のおなまえだけは知っていた。始終ばっちばちにキマった映像がでてくる美しい映画だった。影の使い方がやばかっこいい。映像に恋をするような映画だった。

遠景の映像が一切でてこず、始終「主人公から半径五メートル以内」程度の風景しかでてこないこと。同じやりとりが何度か繰り返されること(タクシーに乗る、電話をかける、別離の練習...)等、始終夢見心地で非現実的な雰囲気がつきまとい、どこからどのあたりが現実で空想なのかが一瞬わからなかった。最後の下りも結局シンガポールについていったのかよく分からず、Wikiのあらすじを読んでやっと把握した。これは私の初見での読解能力の無さも影響している気がするが…。

香港の歴史的事情を把握していれば、1966年という時代背景にももっと色々と感じることがあったかもしれない。

主演の張曼玉(マギー・チャン)が着るチャイナドレスがどれも美しくて格好良くて最高だった。眼福。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』(2023)
監督/堂山卓見

三日月形のユートピアを探すのび太達が、誰もがしあわせに暮らせる都市「パラダピア」に迷い込んで完璧な小学生になるハズが…?

大方の予想通り、完全無欠の未来型ユートピアに見えた世界は実は人の心を支配することで成り立つ監視国家であり、住人は特殊な光で思想を統制されられていたという展開になる。住民の大半がこどもたちという点がなかなかリアルで嫌だった。独裁者は教育から支配してくもんだからね…。

成人女性(と思われる)キャラクターが、窮地を子供たちに任せてどっか行ってしまったのはだいぶ無責任だった。でもドラえもんというコンテンツの性質上ある程度仕方ないな~とは思うし、その人物も義賊寄りのアウトローっぽく描かれていたので、目くじら立てるほどではないが。あと「不完全な僕たちだからこそすばらしい」という主題はいいとして、かといってジャイアンにいじめられるのを許容したらいかんので、友情パワーで本当の心を取り戻す展開はちょっとテーマを単純化しすぎちゃうか?と気になった。それはそれとして洗脳が解けるシーンは熱い。大好きですああいうの。

ドラえもんに同じネコ型ロボットの友達ができる、という設定は今まであまりみたことが無くて良かった。

『怪盗グルーの月泥棒』(2010)
『怪盗グルーのミニオン危機一髪』(2013)
監督/ピエール・コフィン、クリス・ルノー

黄色い生物ミニオンと自称大悪党のおじさんグルーのスラップスティックコメディ。私の知識はこれだけで娘が三人もいるのは知らんかったので大変驚いた。しかも続編の危機一髪を先にかけてしまったので状況が読み込めず大いに困惑した。

2010年のこども向け映画で「男らしさにこだわる中年男性が、強さを断念してケアする者(=三姉妹の保護者)になる」ってストーリーをやってるのが凄い。

2013年の続編では「こどもには母親が必要」等ツッコミたい点はあるものの、グルーが過去のトラウマから恋に興味を持た(て)ない⇒行動を共にした相手への気持ちを自覚して結婚って展開はいいなと思った。ただのビジネスパートナーだったはずの博士が三姉妹を「わしの家族」と宣言して助けに行ってる展開もよかった。グルーと実の母親はわだかまりを残すものの関係を否定しきらず、かといって血縁至上主義にもなってない塩梅、娯楽作品としてのポジション取りがうめぇ~な~とおもった。

思っていた以上に「悪人・グルー」のキャラクターが複雑で魅力的だった。5歳サンはおなら爆弾に夢中だったし最近ミニオン語で喋ってます。だよね。

『窓際のトットちゃん』(2023)
監督/八鍬新之介

黒柳徹子の自伝をアニメ化。小学校を退学になったトットちゃんが新しい学校に入学してからの日々が描かれる。

本当によかった…泣いた…。
周りもかなりしくしくしていた…。

泣いたからいいというわけではなく、トットちゃんが感じる世界の色鮮やかさ、わくわくどきどき、不可思議さが伝わる映像と、トモエ学園の校長・小林先生の主義思想が相まって、映画の中盤過ぎまでは本当にしあわせな時間だった。

SNSでは日常が戦争にじわじわと浸食されていく恐怖が評判だった。たしかに、冒頭で聞き逃されるラジオの音声や、黒板の板書の文字列には、ほんの少しだけ不穏な空気が漂っている。太平洋戦争前夜の昭和15年には「じわじわ」どころか、既に日本はどっぷりと足を突っ込んでいる。それを台詞での説明や暴力描写をなしに丁寧に少しずつ表現していて、なんというのだろう、品が良いなと思った。嫌味ではなく。

品のよさというと、この映画には子どもの裸体がしっかりでてくる。お風呂やプールに入るシーンで素っ裸になり股間も映る。当然ながら全然性的じゃない。まったく嫌な感じがない。パトラッシュを連れて行く天使の裸を見ているイメージ。作品全体にこういう『品の良さ』が行き届いていた気がする。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)
監督/ダニエルズ(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)

コインランドリーを営む冴えない主人公が多元宇宙で異なる人生を生きる自分の能力を呼び出しながら強大な悪と戦う話。

120分もある本編のうち8割位の時間でなんか良く分からん事が常に起こり続けるカオスな映画だった。最後までなんか良く分からんのにハチャメチャに面白いのは何なんだろうか。観終わったあとは荒野の石がいとおしくなり、指がソーセージの宇宙に暮らす人たちのしあわせを願うようになっていた。だからなんなんだこれは。良く分からないけどすっごい面白かったです。いろんな作品へのオマージュがごった煮になっているのも楽しい。娘ちゃんの衣装がコロコロ変わって可愛くて良かった。ケラケラ笑いながら観ていたのになぜか感動していた。不思議だなぁ……。

結末に思うところは無きにしも非ずで、現実は映画のようにはいかないので優しさも話し合いも役立たずかもだけど、映画の中でくらいこういう奇跡が起きてもいいよねえ、ミシェル・ヨーがんばったもんねぇ、って思いました。にしても、これがアカデミー獲ったの凄いな……。

『ヴァチカンのエクソシスト』(2023)
監督/ジュリアス・エイヴァリー

朽ちた修道院に眠る強力な悪魔を対峙するふたりの神父の物語。事前情報は「神父のおじちゃんがヴェスパに乗ってる」ことしか知らなかったんですが、老いが若いに仕事の流儀を伝授するタイプのバディムービーでした。内容の大筋は誰も死なない『コンスタンティン』だった。面白かったです。

名前を知ること、悪魔の発言、自らの過去の出来事と向き合う事、等々が悪魔への攻撃となるのが不思議だった。どういう理屈なんだろう。

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
監督/古賀豪

ゲゲゲの鬼太郎、その生誕の謎に迫る物語。

ヒト型だった頃の目玉親父がイケメン過ぎたのと、水木しげるの話ではなく『ゲゲゲの鬼太郎』作中世界での鬼太郎誕生秘話を描くと聞いて、「おいおいおたく受け狙いかよぉ」と鼻白みアウトオブ眼中だったんですが、SNSの評判を聞いているうちに、もしかして傑作なのではないかという予感がして観に行きました。私は心が弱いおたく……。

結論。名作なので何らかの賞を得てほしい。映画の街調布賞は最低限必須で。

閉鎖的な村と謎多き一族を巡る物語も面白かったですが、すさまじかったのが「昭和三十年」の描写力。執念を感じるほどに作りこまれた風景は後半への伏線がいくつも貼ってあり、こりゃ入村したまま戻れなくなる気持ちがわかるわぁ~とおもいました。村人一人ずつにちゃんと設定がありそうなところもよかった。

会社員として村に訪れた戦争帰りの男・水木と、妻を探す幽霊族の末裔=目玉親父のかつての姿・ゲゲ郎のコンビが嫌いなおたくはいねえわ……同室で寝たり飯食ったり着替えたり風呂入ったりアイス舐めたり酒呑んだりするシーンが多く地味に色気がありおたくは狙い撃ちされていた。やめろよ。いや嘘ですもっとください。

以下、ネタバレ全開で書きます。

『ザ・クリエイター/創造者』(2023)
監督/ギャレス・エドワーズ

圧倒的な映像と寓話的なストーリーを展開する完全新作SF。AIと人間が戦争をしている世界…という「それ知ってる」「またかよ」「何度目だ」な設定でだいぶ損している気がする。正直、脚本はご都合主義っぽいところが多かったんだけど、映像が本当に凄すぎてねじ伏せられた。こういう映画こそ劇場で観るべきだよ~と心から思える映画だった。うちの近所の劇場では公開一か月で上映終了になってしまったので気になっている人は駆け込んでください、ぜひに。

AIを「人類の敵」として圧倒的な軍事力で殲滅しようとする西側諸国に対し、不思議な均衡を築きながら共生するニューアジア、という設定に監督のオリエンタル趣味を感じて多少う~んとは思った。あえて謎翻訳した日本語とかが出てくるとことか、全角半角ごちゃまぜフォントとか、サブタイトルが毛筆なところとか…。

あっでも時代劇風のコテコテ演出は好きでした。あとゴジラのセルフオマージュも。ギャレス作品はどれも「くるぞ…くるぞ…キターーーーーー!!!」が凄いんですけど今回も凄かったです。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2022)
監督/アーロン・ホーバス、マイケル・イェレニック

双子の配管工がブルックリンの地下で謎の土管に吸い込まれて異世界転生する超おもしれ~~~映画。謎の恋愛描写やジョークで雑音を感じさせないスカッとしたエンタメでした。そういう意味では前に見た『ダンジョンズ&ドラゴズ』と同系統。

離れ離れになった双子の弟ルイージを探す為に兄マリオが頑張る、そのためにピーチやドンキーコングと協力する、という展開がよかった。ピーチがメチャクチャタフで強くてかっこよかったです。クッパの「ピーチピチピーチ♪」ソング最高に好き。アナ雪2のクリストフとデュエットしてほしい。

私はゲームとしてのマリオはスーファミのやつとヨッシーアイランドとオリガミキングダムのプレイ動画位しか知らないんだけど、ファンが見たら涙ちょちょぎれる演出がされてるんやろうなあ…というのは伝わった。ただ、これはこの映画に限らず最近の風潮だし元ネタが有名なぶん仕方ないんだろうけど、超盛り上がるエピソードのパッチ―ワークでずっとサビをお出しされている感があり、個人的にはもうちょっと侘びとか寂びとかはほしかった。でもまあ5歳サンが観てもほぼ飽きなかった点はよかった。

『マイ・エレメント』(2023)
監督/ピーター・ソーン

飛行機の機内で鑑賞。水、木、風、火、4つの元素が暮らす都市で、相容れないはずの炎と水の若者が出会い、恋におち、触れ合う物語。

それってあれやん『ズートピア』やん、って思いますやん。確かに冒頭シーンはどうしてもズートピアと比較しながら見てしまった。でも全然ちがう話なのでズートピアが刺さった人ほど見てください。父の跡を継ぎファミリー(コミュニティ)の炎を守るかどうするかって話なのでどちらかというと『ゴッドファーザー』です。

ズートピアでは「種族」の違いを全面に押し出すかたちで格差は造形としては大きくでてこなかった印象だけど、マイ・エレメントでは格差がはっきり描かれていた。水風木(街を形作る3つの要素として冒頭で提示される)の暮らす街と火(移民として街に来たことが示唆&街を燃やす厄介者扱い)の住む場所の経済格差や、互いの差別意識といったものが、劇中なんどもリフレインされる。

印象的だったのが、分かりやすい差別発言ではなく、相手を楽しませようとしたジョークやもっと知りたいという好奇心だったりが、相手を深く傷つけてしまう、という描写がされていたこと。悪気がなくても差別の当事者になるということを親しみやすく描いていて凄いと思った。

『劇場版すみっコぐらし つぎはぎ工場のふしぎなコ』
監督/作田ハズム

森の奥で見つけたおもちゃ工場で働きはじめたすみっコたち。最初はできなかった作業が少しずつできるようになり、労働の楽しみと喜びを知り、街の人々の笑顔のためにおもちゃをたくさん作り続けるが、どこまでも利益追求を続ける工場経営はやがて破綻を迎えることになり…まってこれ本当に「すみっコぐらし」の映画の話してる???なんか別の映画の話じゃなくて???

劇場版すみっコぐらし、1作目では子供向けとは思えない複雑構成と衝撃の結末で落涙必死のハートフルストーリーを展開し、2作目では「夢って何?夢を持つってどういうこと?」をテーマにこれまたヘビーな内容で涙を誘い、3作目では資本主義的な成長主義に懐疑を投げかけるというまさかの展開になっていました。すげえわ……。

NHKで放送してもおかしくないキャラクター造形ながら、もちもちした質感が感じられる作画や効果音が楽しかったです。序盤でしっかり張られた伏線を丁寧に回収していく脚本もよかった。しかも今回はアクション映画のお約束(ダクトを通って基地に潜入!変装して脱出!車&飛行機の脱出劇!)も登場してとても見ごたえがありました。5歳サンが90分飽きずビビらず見続けられたのが何よりよかったです。

『ダンジョン&ドラゴンズ』(2023)
監督/ジョナサン・ゴールドスタイン

人生ちょっとダメな感じのスットコ4人組が一発逆転を狙って裏切者から財宝を強奪しようとなんやかんやするうちに街ひとつ救う話。前評判どおりちゃんと面白かった。RPGやファンタジーのあるあるを茶化す小ネタもたくさん入っていて、ゲーム好きな人は楽しめそう。おデブすぎて飛べずコロコロ転がって攻撃してくるドラゴンが可愛かったです。

司令塔の主人公に戦闘面での特技がなくて何じゃこいつと思ってたんだけど、口達者で歌って敵をリュートで殴り倒してたので吟遊詩人だわ。あとは斧使い&黒魔導士&青魔導士とキャラも立っててよかった。聖騎士は立ってるだけでセクシーだった。

元旦那のことが忘れられない斧使いが元旦那の家を訪ねて今嫁と会うシーンが好き。従来の映画とは性別を逆転させたシーンだった。今までだと「あんな奴よりオレの方がいいのに!」って台詞があったと思う。この映画では無言で元旦那のしあわせを称えて別れていて令和を感じた。配役にも人種の配慮があってよかったし、血縁関係のない親子もでてきて色々よかった。

予備知識ゼロでご飯食べつつCM挟みながら観ても楽しめる映画だと思うので、金ローでヘビロテして令和のこどもたちの魂に刻まれてほしい。

『ロミオ+ジュリエット』(1996)
監督/バズ・ラーマン

ロミオが車をかっ飛ばしてメキシコの荒野を走りぬけ、ジュリエットは仮装の天使の羽根を背負い、キャピュレット家とモンタギュー家の郎党は銃で決闘している映画。遥か昔に一度観て「???」だった映画を改めて観たらめちゃくちゃ面白かった。舞台は現代都市に置き換わっている一方で台詞がわりと原作通りなのにそれほど違和感がなくて驚いた。

序盤のレオ様が可愛くて天使で最高だったしジュリエットも天使だった…終盤の顔つきの変化にぞくっとした。あとマキューシオが凄く良かった。ドラァグクイーンみたいな衣装かっこよかった。

それにしても、このふたりは馬鹿だ。たった数日の恋に命をかけるし、夜のうちに去れと言われているのに朝まで寝てるし、不在通知に気づかないし、早とちりして勝手に死ぬし。
でもこの馬鹿なふたりの物語が400年生きた。様々に解釈されて語りなおされながら。

この映画での恋は水槽越しに始まって、プールの中でキスをして、雨の夜に契りを結び…と、常にふたりは濡れている。周囲には怒りの炎が燃えさかる中で彼等だけは冷めて、一目ぼれから始まる真実の恋をしている。狂っているのは、憎しみにとりつかれた世界のほうだ。

『べいびーわるきゅーれ』(2021)
監督/阪元裕吾

高校卒業と同時に同棲をはじめた殺し屋のおんなのこが、バイト探しつつゲームしつつ時々ヒトを殺してるガールズムービー。は?(は?)

ながら見するつもりでかけたのにおもしろかったので最後までわりとちゃんと見ちゃった。なんだこれ。

常にテキトーな雰囲気を醸しつつも、実はばりばりに演技できる人たちが本気の悪乗りとアドリブで繰り広げる、ネットミームと鉄板演出を逆手に取った悪乗りと社会人あるあるとおたくムーヴと関西しゃべくり漫才的な会話のテンポと時々さしはさまれる日常パートのゆるさで展開される怒涛の90分だった。は???(は???)

リコリコってこんな感じだったのかな。2話位までしか見てないんだけど。最近は女子高生が学校帰りに殺し屋やるのが流行ってるのだろうか。いや別にそんなもん今に始まったアレではないが。

特徴であり魅力のひとつのインターネットミームの多用は、一歩道を誤ればクソつまんない映画まっしぐらだったともおもうので、この映画では本当に上手な演出が為されていたとおもう。面白かったしクセになるタイプの映画なのでロングランした理由もわかる。他の監督作品も見てみたいな。

『SHE SAID/シーセッド・その名を暴け』
監督/マリア・シュラーダー

ハリウッドの大物プロデューサーの長年に渡る性暴力を告発し、「」運動の契機となった、ニューヨーク・タイムズの新聞記事が公開されるまでの話。

構成は『スポットライト/世紀のスクープ』とまったくおなじで、物語や映像に目新しさは全然ない。けれど、暴力を受けたあとの女性たちがどれだけの傷を負い、孤立し孤独を感じ、人生を損なわれたのか、そして彼女たちの声を届け連帯することがどれだけ大切で難しいのかを、いろいろな角度から丁寧に描いていたとおもう。

日本ではこういう話は作れないのかな…『新聞記者』も『エルピス』も現実の事件をモチーフにはしていたけれど、一番大事なところが特大のフィクションになっていた。観た直後にそれでいいのか?とおもったし、この映画を見て改めてそうおもった。

誰かの尊厳を損なった者が適切に告発され、その不正義や理不尽に対しする怒りや悲しみに連帯を表明しても咎められず、共に声を上げてくれるひとがいる。そんな『当たり前』が、今までこの社会にあったかどうかわからない。でも、少なくとも海外ではそれを当たり前にしようとしているとおもう。

翻って日本はどうだ。なんか、だんだん悲しくなってしまった。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』
監督/ナヴォット・パプシャド

夫を亡くした女殺し屋、恨みの炎に身を焼かれ、会稽遂げた雨のダイナーで哀れ親子は生き別れ。消えた母親の背中を追って、あの日の少女も殺し屋に。
こどもを助けた女殺し屋は組織に反旗を翻し、武器を求めて図書館へ。追っ手の死体を踏み越えて、血染めのジャンパーの背中にゃ今日も子虎が牙をむく。

……という感じの映画でした(どんな?)

タランティーノ作品が好きだったら絶対に楽しめる系。色々なものへのオマージュがタイトルの通り「シェイク」されていた。ボウリング場の闘いがまんま『キル・ビルvol.1』で喝采しちゃった。

最強の図書館員たちが本のから武器を渡してくれるんだけど、ラインナップがジェイン・オースティンとエミリー・ブロンテとヴァージニア・ウルフ(一瞬だったけど『自分だけの部屋』だった?)という強すぎる布陣で、それだけで勝利が約束されていた。

監督インタビューによると、女性暗殺者が出てくる先行作品をくまなくチェックして作られた、とのことで、どこかで見たことがあるシーンやモチーフが多く、一方でごちゃまぜ感が「どこでもなさ」でもあって面白かった。

フェミニズムへの目配せもあったけど個人的にはもっとやってくれてええんやで、と思った。

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2023)
監督/サラ・ポーリー

閉鎖的な村で発覚した集団強姦事件。村中の男たちが不在となる2日間に、残された女性たちは投票をおこなった。ほぼ同数の得票となったのが「闘う」あるいは「去る」――どちらを選ぶか、代表者が話し合うことになる。

現代(2010年)が舞台だけどまるで時間が止まってしまったような村には「メノナイト」というキリスト教の宗派の人々が暮らしていて、ガスや電気を使わない生活をしている。聖書の教えは知っていても人権の概念はない。男性と女性が平等である『べき』だという前提すらもない。それでも、自分たちがこんな扱いをうけていいはずはない、という静かな怒りと悲しみが漂う。まだ4歳の子が「痛いの」と涙を流す。
こんなことが起きていいはずがない。

村の女性たちは教育の機会を奪われており、読み書きもできず地図を見たこともないけれど、「同じ体験」を共有している。血に濡れて目覚める朝のイメージだ。それでも意見や態度はまったく異なるし、受けた傷の形も現れ方も、何もかもが違っている。フェミニズムにまつわる有名なことば『一人一派』のように。

続く→

『メタモルフォーゼの縁側』(2022)
監督/

書店で偶然手に取ったBL漫画にハマった75歳のおばあちゃんが、書店員の17歳と仲良くなる話。「良い」とは聞いていたけれどとてもよかった本当に良かった、何年かに1本現れる繰り返し観たい邦画だった…。

「BL」が好きな主人公は、自分が好きな物を人前で「好き」と言うことができない。好き、を人前に出すのは怖い。拒否されるのも、変にチヤホヤされるのも、嫌だ。自分の好きをどうやって大事にしたらいいかも分からないのに、17歳には「進路」という難題が付きつけられる。何をすればいいか、どこへ行けばいいのか、自分に何ができるのか。進路を決めろ、目標を言えと言われても、自分には何もないと感じる気持ち、痛いほどに良く分かる。
一方75歳の行く末はある程度決まっている。人生の終焉が目前にあるからだ。腰は痛むし物も忘れる。でも、書店での偶然の出会いによって、大冒険が始まることだってある。自分の形が分からず、まだ何者でもない17歳と、自分の核も殻も形も持っている75歳が、それぞれほんの少しだけ「メタモルフォーゼ」する。

続く→

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