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【二代目橘家文蔵二十三回忌追善興行】2023年9月27日(水)@鈴本演芸場

前座 枝平「饅頭こわい」
落語 一花「子ほめ」
太神楽 仙志郎・仙成
落語 歌武蔵 漫談
落語 きく麿「おもち」
漫才 米粒写経
落語 菊之丞「鍋草履」
落語 さん喬「そば清」
落語 一朝「芝居の喧嘩」
俗曲 小菊
落語 白酒「短命」
~仲入り~
ものまね 猫八(犬/海驢/縞馬/鶯/羊/山羊/アルパカ/赤筑紫鴨)
落語 玉の輔「財前五郎」
落語 喬太郎「親子酒」
紙切り 正楽(相合傘/閻魔大王/お月見)
落語 文蔵「転宅」

わたしは初落語が2006年なので先代の文蔵師の落語は聴いたことがないが、豪華な顔付けと、何かイベント的な趣向があるのかと期待して出かけた。登場する師匠が口々に思い出話を語るかと思いきや、そういうことはいっさいなく淡々と進み、ただ当代の文蔵師のみがマクラで師匠のことを語った。さん喬師もよく五代目小さん師匠の噺をするけれど、弟子が師匠について語るのを聴くのはいいものだな。

それにつけても、遠めの会場に2日つづけて夜出かけるのはつらいな。今朝は疲れで体が重くて、今の時間になってようやく元気が出てきた。今後は夜の会は厳選しよう。もう年じゃよ。。。

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さん喬「宮戸川(前半)」~「笠碁」
もうすっかり頭は「今日のテーマは怪異」と決めつけていたので、仲入り後に始まった「お花半七」に驚き、そうか、「宮戸川」を通しでやるのかとゾクゾクワクワク。あれは怪異でこそないけれど、終盤は陰惨な噺だから(喬太郎が通しでかけたのを二度ばかり聴いたことあり)。でも、予想は裏切られ、お花半七の色っぽい部分が終わったら場面が切り替わり、「お花と半七は駆け落ちしたらしいなあ」なんて世間話をしながら碁を打つふたり。こんなリレーはびっくりの「笠碁」が始まる。この噺は何度聞いても心温まるというか、細やかに移り変わる表情の一つ一つ、老夫婦が猫を可愛がるしぐさの一つ一つを見ているだけで、もう頬が緩みっぱなし。ニッカニッカしながら終わる。なんて優しく可愛らしい噺だろか。

じゃあ、これは昨日の何に符合するのかというと、ペケッターの方の分析では、半七が締め出し食らったのも「碁」に夢中で遅くなったからだし、笠碁はもちろん「碁」の噺。で、その「白と黒」の石が、前日の「鴻池の犬」の兄弟犬「シロとクロ」に対応しているんじゃないかと。えーーーーっ!!

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さん喬「お若伊之助」
調べてみたら、さん喬師匠で聴くのはなんと16年ぶり。喬太郎師がときどきかけているのは何度か聴いていて、その場合は必ずすでにお若が根岸に行っているところから始まるが、この日は一番初めからのほぼ通し(ただし狸の子を産むところはやらなかった)。前段はこうなっていたのかと興味深く思いつつ、母、お若、伊之助、頭領、根岸の隠居と、それぞれの人物像が際立っていて、さすがだと思った。ちょっと妖しいこういう話を一時間語り通して一瞬も飽きさせないってすごいなあ。

で、これは根岸に実際にあるらしい「因果塚(狸塚)」の由来なので、前日の回向院・猫塚の由来である「猫定」と対応する。符号その②。

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さん喬「応挙の幽霊」
これはどなたでも初聞きの噺だったが、めちゃくちゃ楽しい! 大好き、これ! しかもさん喬師匠によーく合っている。掛け軸の絵の美人幽霊、久々に巻物の状態を解かれて愛でてもらったお礼にと、絵から抜け出てきて古道具屋と酒を酌み交わす。その可愛らしさ、楽しさ。ご機嫌でヨーデルやら(ユ~レヒ、ユ~レヒ♪)自作の都都逸やらを披露する。幽霊が酔っていくさまは「棒鱈」の酔客のようでもあり、でも美人の女性だからしゃっくりもああいう「ヒック」ではなく可愛く「ヒッ」。それを織り交ぜながらの都都逸、なんて芸の細かい。だんだん目が据わってくだを巻くさまは「らくだ」の屑屋のようでもあり、実際はあまり酒を飲まないらしいさん喬師匠は酔っ払いが本当にうまいから不思議。あらすじで見るサゲのちょっと手前で終えたが、大満足。これ、絶対に寄席でかけたらいいと思う。ぜひともまた聴きたい!

で、この「絵から抜け出る」が前日の「抜け雀」と対応すると。符号その①。

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【さん喬あわせ鏡~月の巻~】2023年9月21日(木)18:45~21:35

市助「子ほめ」
さん喬「応挙の幽霊」
さん喬「お若伊之助」
~仲入り~
さん喬「宮戸川(前半)」~「笠碁」

きのうのテーマは「動物」。今日のテーマは何だろうというのは、後ろの列のお客さんもしきりに話題にしていたし、みんな気にしていたと思う。前半だけを見たらこれは「怪異」がテーマかと思いきや、後半の思いがけない展開。答えは何だろうと、たぶんみんなの頭に「?」が浮かんだときに、師匠が答え合わせ。今日のテーマは「秋の宵」を感じさせるものだったと。なるほど~! しかも、どなたかがペケッターで分析していらしたけど、昨日の三席ともぴたりと符合すると。それが本当なら、さすが師匠。さすが「あわせ鏡」。考え抜かれている。

昨日の花の巻はペケでフォローしている落語関係の方々がほぼ軒並み観に行っていて、それぞれ素晴らしい表現で簡潔にまとめているもんだから、なんだか自分のペケのレベルの低さが嫌になった。別に好きなことをつぶやけばいいんだし、そんなところで比べてもしょうがないけど、かりにもこんな仕事していてこの表現力のなさは致命的ではないか。あまりにも情けない。しょんぼり

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さん喬「抜け雀」
いつものように爽やかに。

さん喬「鴻池の犬」
ずっと聴きたかった話。最後に聴いたのは2010年らしい。お伊勢参りの犬ハチと、兄に会うため江戸から大阪に向かうシロの道中が本当にいい。2匹でお寺の縁の下に潜り込んで石に顎を載せているところとか、まるでロードムービーのように絵が見えてくる。今回は土地土地の風景に合った曲が三味線で入り、ロードムーピーの趣がさらに強まる。少し泣けてほのぼの。いい話だな、これ。最後、普段は入れないセリフをとっさに思いついてアドリブで加えたばっかりに、そのあとにセリフを間違えてしまうお茶目な一幕もあり(と、幕が閉まる前に師匠自ら説明していた)。帰りは雨がすっかりあがっていた。さて、今夜は「月の巻」。

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さん喬「猫定」
主人公の「定吉」という名と、猫が出てきたことから、これが(名前だけは知っている)
「猫定」というものだろうとはすぐにわかった。でも初聴きで粗筋も定かでなかったため、猫がひどい目に遭ったらどうしようと気が気ではなく、じっくり味わうどころではなかった。終盤はスプラッタな展開で見ておれず(本当に珍しく目を落として見ないようにした)、席を立とうかと思ったくらい。でも、帰りの電車で調べて、ラストはオリジナルとは変えてくれていたと知った。おかげで猫の最期が穏やかなものになった。あと、今日も撫でられている猫の姿が見えたのは凄かったなー。いま背中を撫でている、頭をなでている、首の下を撫でているっていうのがはっきりわかる。

考えてみたらこれが一席目ってすごい。もっとも、これを最後にやられていたら帰りの電車がどんよりの極みになっていただろうけれど。あとで記録を調べてみたら、「猫定」は2009年の落語研究会で一度聞いていた(しかもさん喬師匠で)。げに当てにならぬは人の記憶……じゃなくてわたしの記憶

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【さん喬あわせ鏡~花の巻~】2023年9月20日(水)18:45~21:30

小きち「松竹梅」
さん喬「猫定」
~仲入り~
さん喬「抜け雀」
さん喬「鴻池の犬」

土砂降りの中、「さん喬あわせ鏡・花の巻」へ。二夜連続独演会の初日。冒頭、今日の会に何らかのテーマがあることを匂わせて、終わってみればテーマは「動物」。猫・雀・犬の三席となった。チケット販売時、興行元の方が「ものすごい趣向がありますよ、当日のお楽しみ」などと言っていたが、そこまでではないにせよ、やはりトリネタ級を三席はすごい。毎度毎度これでもかと出てくるので、すごさに対して麻痺しかけていたよw

勝千代「壺坂霊験記」
浪花亭綾太郎という盲目の浪曲師が演じて一世を風靡した作品とのこと。「妻は夫をいたわりつ、夫は妻に慕いつつ~」というフレーズはわたしも聞いたことがあったが、その出典である話を聞くのは初めて。最後のほうを切り取ってぎゅっと短縮したのだけれど、はじめは盲目の夫の妻への想い、夫の自死を知ったあとの妻の想い、それぞれをもう「セツセツ」と音がするんじゃないかと思うほど切々と歌い上げて、ご本人曰く「関東節全開」だという(わたしにはまだよくわからないけど^^)節が複雑に細やかに千変万化する。こんなふうに歌えたらどんなに気持ちがいいだろうと、勝千代師匠を聞くたびに思う。最後は壺坂寺の観音様の力でハッピーエンド。互いの名前を呼び合って小躍りするさまが妙に可愛らしいのだが、大元の人形浄瑠璃でもそういうふうに可愛いのだそう。

最後は恒例の写真タイム。いろいろなポーズを次々にとって笑顔をふりまく勝千代師匠と、それを恥ずかしそうに見つめて笑う可憐な美舟さん。思わず十数枚もシャッター切っちゃったよw。

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トークwith杉江松恋
これがまた興味深かった。まず、勝千代師匠はどういうふうにして新作をつくるのか、という話。絵本や民話を題材にすることが多く、絵が浮かぶところ、心に訴えかけるところを節にするのだという。その超絶スゴイ節はどう練習を?の問いには、若い頃とにかく師匠にいわれたのは、「一曲全部セリフは『何が何して何とやら』だけで通す練習をせよ」というもの。言葉ではなく、節で感情を表現するためなのだそうだ。たとえば……といってやってみせた「泣き」の節がすごかった。言葉は何が何して何とやらなのに、胸がえぐられるくらいの悲しさが伝わってくる。鳥肌もの。

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勝千代「甲州街道桃太郎伝説」
出身地である上野原に伝わる桃太郎伝説を勝千代師匠自身が浪曲化した新作。まず客席に「鬼退治するのとしないの、どっちがいい?」と訊き、わたしもふくめ鬼退治をしない派が多かったので今日は退治しないバージョン。きび団子を上げる前に、まず上野原名物の酒まんじゅうを食べさせると、なぜか犬猿雉がそれぞれしゃべりだすという展開が楽しい。雉になりきった迷演技のときに、あまりに可笑しくて曲師の美舟さんが思わず笑ってしまったのをオレは見逃さなかったよ。鬼が孤独から悪事に走った心情を吐露するところではぐっときた。最後は桃太郎も一緒に大月の人々に詫びて回ってハッピーエンド。途中、一行の移動の際に近隣の土地の名前や名物をテンポよく言い立てるくだり(道中づけというらしい)が可愛くて楽しかった。

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【木村勝千代独演会】2023年9月27日(日)14:00~15:50@アートスペース兜座

勝千代「甲州街道桃太郎伝説」
トークwith杉江松恋
~仲入り~
勝千代「壺坂霊験記」
曲師:広沢美舟

昨日の大きなホールでの大がかりな舞台とは打って変わって、20人だけが聴けるこじんまりした超贅沢な会。前回に続いて二度目の参加だったけど、席が少し後ろで空調に近かったせいか、前回より聞こえが悪かったのがちょっとだけ残念。次回はもうちょっと早く行って前に座ろう。

でも内容はとてもよかった。勝千代師匠といえば、東京ドームでもきっとマイクいらないようなその声量と、得も言われぬ細やかな、どうしてそんなふうに歌えるのという節回しの見事さ、天真爛漫でチャーミングなお人柄。啖呵も素敵。そんな魅力いっぱいの二席。

奈々福さんは本当にエンターテイナーだし、天才だと思った。発想の凄さ。構成や演出も凝っていて、要所要所に入る(日本語の歌詞の)タンホイザー序曲、巡礼の僧侶の鈴の音。歌もラップあり、ゴスペルを思わせる響きもあり。ご本人は詰め込みすぎなほど詰めこんだといっていたけど。美舟さんの三味線がまた素敵だった。息ぴったり。照明もシーンごとに変化してカッコよかった。まったく浪曲なんだけど、浪曲の枠を超えて、まさにこれも「歌劇」なのではないかと思った。オペラという意味ではなく、歌と語りで綴る大スケールの物語。今年聴いたいろいろな生口演のなかで断トツ一位かもしれない。
帰りの電車でも興奮冷めやらず。行ってよかったー。そして、ちゃんとあらすじを頭に入れて「タンホイザー」の序曲を予習で聞いておいてよかった。

前読みの奈みほさん、初聴きだったけど、声がのびやかで、人柄がとても可愛らしい感じで、啖呵もとてもよかった。

奈々福さんのもう一席は、タヌキの恩返しと甚五郎ものが一緒になったような楽しい一席だった。

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隔絶した地で愛欲に溺れる→飽きて帰還→歌合戦→追放、ってあたりは原作を踏まえつつも、全般的にはコミカル路線。細かくあらすじを書くと大変なので割愛。ところが最後のところは原作と変えて、すさまじいラストが待っていた。エリの三味線だからこの歌が歌える、ホイザエモンの歌だからいつもは出ない音が三味線から鳴る。あれは浪曲愛を謳ったものだったのかな。と、今になって思う。諸国をめぐり、最後は江戸の浪曲師になり、のどをつぶして乞食となったホイザエモンとエリの再会。エリが死んだあと、エリの三味線が頭の中で鳴りやまず、その音を聞くと潰れたはずのホイザエモンののどから往年の歌が出る。三味線に駆り立てられるように、あるいは三味線によって狂わされて地獄にいざなわれるかのように、唄いながらホイザエモンは川に落ちて死ぬ。なんという最期だろうか。その最後の歌のシーンの恐ろしいこと美しいこと。力強さ凄まじさ。

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【奈々福なないろvol.6~すっとこどっこいフェス】2023年9月16日(土)

奈みほ・まみ「不破数衛門の芝居見物」
奈々福・美舟「狸と鵺と甚五郎」
~仲入り~
奈々福・美舟「丹野布衣左衛門行状記」

ワーグナーの「タンホイザー」を下敷きに、構想5年の創作浪曲「丹野布衣左衛門(たんのほいざえもん)行状記」。すっとこどっこいフェスという会の副題が示すように、本当にすっとこどっこいな男。空気が読めない、人の気持ちがわからない、でも自分の気持ちには妙に正直。そのまま滑稽路線で進むのかと思いきや、ラストが圧巻。圧倒された。なんてすごいんだろう。もう鳥肌が立って、女優さんじゃないけどいつのまにか涙がつーっと流れてマスクに染みていたよ。いやもうほんとにすごかった。どうしてくれよう。

まだPCがねっとにつながらないので、一時的にUSBテザリングしてアップロードした。

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トリの雲月師匠、美舟師匠と組むはずが、体調不良を昨夜10時に知らされ、急遽代演の博喜師匠とは一度も合わせることなくぶっつけ本番。衝立も取り払われたので、曲師さんが一心に浪曲師さんを見つめながら呼吸を合わせるさまがよくわかった。ちょっとスリリングな楽しみも加わった。でも、演目を進めながら雲月師匠は何度も「バッチリ」「バッチリ」と博喜師匠に向けて。事実、細かいことは初心者ゆえわからないが、リズミカルなところ、力強いところ、セリフの応酬の場面ではまるで三味線で語るがごとく、素晴らしいと思った。雲月師匠の声も節もすごくよかったなー。やっぱりさすが。友人も「さすが」といっていた。一席終わって、博喜師匠にも惜しみない拍手。

勝千代師匠と雲月師匠の素晴らしさを再確認した一日だった。

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でも、やっぱり勝千代師匠は段違いだった。もういっぺんに空気を変えた。まずその声量の素晴らしさ。たぶん、木馬亭くらいだったらマイクは全然いらないと思う。館内にとどろきわたり、しかも繊細で細やかな節回し。堂々とした明るい立ち居振る舞い。表情豊かな楽しい語り。やっぱり大好きを改めて確認。すごかった。友人も感激。美舟師匠の体調不良により、曲師はうら若い鈴(りん)さん。

福助師匠は浪曲会では珍しい女流のドジごしらえといおうか(失礼<(_ _)>)、粗忽な内容とニンがとても合っている気がしたが、たびたびセリフを忘れて止まったりして、うーん、だった。安久鯉先生はさすがの語り。ぐいぐい引き込まれ、場面がありありと目に浮かぶ。順子師匠、お上手だと思ったがあまり印象に残らず。

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