『会話を哲学する:コミュニケーションとマニピュレーション』(三木那由他) #読了 #よしざき読んだよ
会話がどのようにして成り立つのかを分析する一冊。会話を「コミュニケーション」および「マニピュレーション」の側面に分解し、前者は互いに約束事を形成すること、後者は聞き手の心理に影響を与えようとすること、と定義する。日本の(比較的)新しい漫画・文芸から様々な会話をサンプルとして取り上げ、それらが有する「コミュニケーション」および「マニピュレーション」の側面を実作と照らし合わせながら説明する。
個人的に興味深かったのは、「コミュニケーション」が備える約束=責任の側面を成立させるため/あるいは成立させないために高度な心理戦が仕掛けられるということ。『同級生』の分析が面白く、お互いに(内心では)了解している事柄だけれど口に出してしまうと約束=責任が生じてしまう……、責任を負いたい側(責任を負わせたい側ではなく)からのアプローチという考え方は、私の抽斗にはなかった。勉強になる。
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「教養としてのエントロピーの法則」(平山令明) #読了 #よしざき読んだよ
本書は構成に特徴がある。エントロピーのさわり、情報エントロピー、物質のエントロピー、筆者の考える未来論の4章構成となっている。私は物理工学科を出た読者なので、情報エントロピーが物質のエントロピーより先に置かれていることに面白味を感じた。読み進めると納得で、平易で抽象的なコイン/サイコロを使った思考実験(情報エントロピー)から、複雑で具体的な気体/熱の挙動の解説(物質のエントロピー、自由エネルギーなど)へと、平易な抽象から複雑な具体へと発展していく。
エントロピーを数式で表現することを恐れなかった点は見事である。いい意味で学部時代の講義を思い出しながら読めた。また、情報と物理の「乱雑さ」がどのように似ているかを、高々150ページの1冊で例示できたのはむしろ編集の腕が光ったか。総じて「なんかわかった気にさせてくれる」1冊である。
ただ、想定読者が割と謎で、対象は理系高校生~理系学部1年生向けか(文系課程の読者でも読めるようにと書かれているが、正直に言うとかなり困難だと思う)。もう少し専門向けか一般向けかにしても良かった感はある。
また、未来論は特に読むに値しない。
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『アウトラインから書く小説再入門』(K. M. ワイランド) #読了 #よしざき読んだよ
たぶん4回目くらいの再読。
小説を書くときに「プレミス」(=一文で小説を示す文章)を作れって言われるじゃないですか、で、「アウトライン」(=プロットのようなもの)を作れって言われるじゃないですか。その作り方の本ですね。
『ストラクチャーから書く~』はプロットの構造(1:2:1で分けましょう、とか、行動-反応を書きましょう、とか)だったのに対して、『アウトラインから書く~』はプロットのあり方について論じています。つまり、プロットを広げ、深めていくにはどのように自己(=キャラクター)と対話をしていくべきか、と。
プロットをどう書けばいいか悩んでいる人向けの一冊。
『ストラクチャーから書く小説再入門』(K. M. ワイランド、シカ・マッケンジー) #読了 #よしざき読んだよ
小説を書くときのバイブル。たぶん5回目くらいの再読。
大枠としての三幕構成の基本的な考え方から、さらに踏み込んで、各幕を形成するシーン、シーンをさらに「シーン(アクション)」と「シークエル(リアクション)」に分解し、最後は「シーン」と「シークエル」とを最小単位まで説明し尽くす。
プロットを立てるときの手順を様々提示してくれて、長編を書くことが怖くなくなる。そう、手順が分かれば怖くなくなるのだ。
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再読に次ぐ再読。バイブル。
『演劇』と銘打って戯曲の書き方を説くように見せる一冊なのであるが、その実は、著者・平田オリザの人間観に関する一冊なのである。したがって氏の人間観を受け入れられるか否かで評価の割れる一冊でもあろう。私は、氏の人間観をいったん受け入れることとしている(いったん、というところに機微を感じてほしい)。
戯曲の書き方のテクニカルな一面を取り上げると「セミパブリック」という概念が本書の幹だろう。パブリックとプライベートとを接続する場。パブリックな場の一方通行な演説とも、プライベートな場の閉じた会話とも異なる、他者との対話が可能となる場である。そこでは、人々がそれぞれ知っている情報に濃淡があるがゆえに、情報の混ざり合いが起きる。セミパブリックこそが観客に驚きを与える場、触媒として作用する。
演技論では上述の「情報の濃淡」をコンテクストの違いと呼び、その違いを身体表現から自在に演じ分けられる役者が優れた役者であると説く。
これだけ読み倒すと新しい発見があるわけではないのだが、小説を考えるときのチェックポイントとして機能してくれる。バイブルです。
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『スクリプトドクターの脚本教室・中級篇』(三宅隆太) #読了 #よしざき読んだよ
「「日常的な出来事を扱った良質な短編脚本」を書くのがとても得意」なアマチュア物書きのひと向けの一冊。短編書きの自認を持つ私はターゲット読者なので読みましたという次第です。
細かい話は本書を読んでもらうとして、全然ネガティブな意味ではなく、脚本術の本を読み漁っていた私の知っていること(そして、忘れているとか出来ていないとかしていること)が「お前、これ忘れてるし、出来てないよな」と突きつけられてウググ……苦しい……となりました。そしてやはり全然ネガティブな意味ではなく、これまで拠り所にしていた脚本術の本に立ち返り、何を忘れていて何を出来ないままだったのかを確認したくなりました。
オススメです。
『ファシリテーションの教科書』(グロービズ、吉田素文) #読了 #よしざき読んだよ
タイトルに偽りアリ!
『ファシリテーション』と銘打っているものの、論点はそれより広く深く、より良いファシリテーションを実行するための背景に踏み込む。いわゆる「仮説思考」「論点思考」「クリティカルシンキング」と呼ばれるスキルがファシリテーションのために必要であると説き、その上で、それらのスキルを会議の場でどのように発揮するべきかをイロハから解説する。
仮説とか論点とかクリティカルシンキングとか、いつどうやって使うのかわかんね~~~って人にも、使い方のひとつのケースを提供してくれる意味でオススメです。
私のバイブルとなりうる一冊でした。
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『ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法』(野田俊也) #読了 #よしざき読んだよ
面白かった! けど想定読者が謎すぎる!
ボードゲームを用いてゲーム理論を、入門よりさらに易しく、紹介する一冊。いわゆるゲームをインタラクション=駆け引きのない「パズル」および駆け引きのある「ゲーム」とに分解し、そのトータルとしてのいわゆるゲームの最適戦略をゲーム理論から紐解く。本書はいわゆるゲームの中でも特にボードゲームに焦点を絞る。
ナッシュ均衡や囚人のジレンマといったゲーム理論の入門で頻出するものの現実にはどのように適用されているかイマイチ掴みきれない問題を、実際のボードゲームを用いて解説する点で特筆に値する。
さて、ボドゲからゲーム理論を解説するかと思いきや、ゲーム理論からボドゲを解説する側面が強かった。私はボドゲのレビューを読むのが趣味の一つだったためにゲラゲラ笑いながら読むことができたのだが、そういう素地のない読者がどのように本書を受容するのかが謎。いや、面白かったのだけれど、謎ではある。
『外資系コンサルのリサーチ技法 事象を観察し本質を見抜くスキル[第2版]』(上原優) #読了 #よしざき読んだよ
リサーチについて漠然と知られているハウツーを精緻に整理し、抽象化し、その上で具体例を紹介する一冊。リサーチの究極的な目的とは、調査した個別具体的なデータをインフォメーションへと統合し、解釈することでナレッジとし、法則へと昇華しウィズダムを得ることである。(「DIKWピラミッド」として知られる)。このための、調査、統合、解釈および昇華のための紹介する。
まず、リサーチの目的を三つの視点に分解する(リサーチの目的を定めることは当然であり、本書はその先へ進むための一冊である)。
①「答えるべき問い」(≠知りたいファクト)
②「企画のステージ」(①検討に着手するためか、②仮説を立案するためか、③仮説を検証するためか)
③「成果のレベルとまとめるイメージ」(リサーチを誰にどんなレベル感でどれくらいの速さで見せるか)
これら三つの視点に基づいて、リサーチを設計し、実行し、洞察としてアウトプットする。
『半導体産業のすべて』(菊地正典) #読了 #よしざき読んだよ
仕事の自己研鑽のために目を通しました、といった感。半導体の初学者向けの一冊。技術書として特筆すべき点はないが、日本メーカーを学ぶには優れているか。
日本メーカーが数多く列挙されているので、同業界に投資したい人は本書で関係図を頭に入れるといいかも。一方、海外メーカー(特に中韓)にはやや弱く、私の知っている限りでもおやおや感はあった。
ところで、筆者は日本電気(現・NEC)から日本半導体製造装置協会という経歴で、日本の半導体の王道を歩んできたはずである。しかしながら、日本の半導体の凋落について、ミクロな観点(曰く、工場の事務的な手続きが煩雑化していた(大意))に留まっており、日米貿易摩擦や為替レートの変化といったマクロな観点が全く欠けていたのが気になった。業界でそれなりの地位に就いた人物の観点がこれなら、そりゃ負けるな、と感じた。
『パリのエトワール パトリック・デュポン自伝』 #読了 #よしざき読んだよ
バレエという全く知らない世界の、パトリック・デュポンという全く知らない人物の(いや、バレエ界で知らない人はいないのだろうが、私は知らなかったのだ)自伝で、ほんの参考文献の一冊として読んだつもりだったのに、彼にみるみる魅了されてしまった。
〈アンファン・テリーブル=異端児〉と呼ばれた彼のなんと型破りで情熱的なのか! ダンサーとしてキャリアを積みながら(もちろん、それが彼の最優先で生きる理由の一つだが)、そこに留まらず、芸術監督、俳優、クリエイターとしてマルチに活躍する。そのエネルギッシュな生き方に私まで勇気付けられたら気持ちになれた。
自分の人生を謳歌するってことなんだよな。
『習得への情熱―チェスから武術へ』(ジョッシュ・ウェイツキン) #読了 #マストドン読書部 #よしざき読んだよ
チェスで全米チャンプになった後に推手(太極拳)の世界大会で優勝したという異色の経歴を持つ著者による「上達」に関するエッセイ風味の一冊。
上達とは、基礎段階、推移段階および応用段階に分かれる。上達の基礎段階を決定づけるのは、習得する物事に関するアプローチだ。アプローチには「得意だから達成できた」と「頑張ったから達成できた」との二種類が存在する。このうち後者の方が、物事に対する見方が理論的になり、能力は漸次的に増大し、ついに熟達する。前者は、能力が実体として固定されたものだと思い込んで、熟達への道が閉ざされている。
推移段階では、あえて複雑さを取り払ったシンプルな状態で物事に取り組む。これにより、物事の本質をよりクリアに習得することができる。
応用段階では、本質同士を組み合わせ、それらを無意識に取り出せる一つの「チャンク」へと昇華させる。当初は意識的にしか組み合わせることのできなかった複数の本質だが、やがて一連の手続き=チャンクとして無意識に扱うことができるようになる。本質を細かく刻み、組み合わせ、無意識に扱えるようにする。これこそが「上達」だ。
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『名場面でわかる 刺さる小説の技術』(三宅香帆) #読了 #よしざき読んだよ
「刺さる」小説を書こうとハウツー本を読む程度にはマメである一方でそのための参考資料を収集する手間は省きたい程度に面倒くさがり屋な(つまりほとんどの皆さんです!)方向けの本。
本書は「名場面を作れ!」に尽きます。全体としてイイカンジな小説よりむしろ引っかかり=名場面のある小説が提案されます。
名場面のために不可欠な要素は二つ。①予定調和ではないあらすじと②気分を盛り上げる演出。そうして完成された「語りたくなる」場面こそが名場面となります。
本書は、そんな「語りたくなる」名場面を日本の小説から集め、なぜ語りたくなるのか、どのようにしてそのシーンが作り上げられたのかを二十五の実例をもとに分析します。
分析は例えば、「二人の関係が変わるタイミング」は重要なことが起きていると読者にも認識させやすいので名場面となりやすい、ゆえにそのタイミングを狙えといったもの。そのタイミングは「出会い」「片思い」等々。それら全てが実例付きで解説されます。
本書は優れた分析者による分析集であると同時に、優れた読み手の頭の中を垣間見ることで読み手に「刺さる」小説を逆算できるようになるための一冊でもあります。
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『アウトプット思考』(内田和成) #読了 #よしざき読んだよ
本書はコンサルタント必読の『仮説思考』『論点思考』の著者の最新作。本書が説くアウトプットのポイントは三つある。
一つ目のポイントは「仮説を立ててからインプット/アウトプットする」。インプットの際に情報に溺れないようにすることが重要だ。本来、インプットとはアウトプットのためである。アウトプットにリソースを割くためにはインプットをできるだけ省き、前者に注力するべきなのだ。出来る限り少ない手札で勝負せよと述べる。
二点目は「自分が期待される役割」に沿ってアウトプットの表現を変え、他のプレイヤーとの差別化を図る」こと。情報量が爆発的に増えた現代において、インプット量や仮説=目的のないアウトプットは既に価値を持たない。真の価値とは、アウトプット先の相手に「刺さる」ものを提供することだ。相手が自分に求める役割を把握し、その役割に応じなければアウトプットは刺さらない。
最後のポイントは「関心へのアンテナの感度を高く持ち続ける」こと。そのために、まずは関心のある領域を実際に書き出してみて、自分の頭の中を棚卸しすることだ。関心を客体化することで、自ずとアンテナの感度は高くなる。
勝負はアウトプットである。そのためにはインプットを減らしつつ質を上げることだ。
『緊張しない・あがらない方法』(鴻上尚史) #読了 #よしざき読んだよ
俳優の演技のためのメソッドに「スタニスラフスキー・メソッド」というものがあります。本書はそのメソッドを噛み砕き、平易な言葉で、俳優以外の私たち普通の人が日常でも使えるようにするための本です。「日常で演技?」と思われるかもしれませんが、それこそがタイトルの『緊張しない・あがらない方法』に直結しているのです。
私たちは人前に立つときに、つまり緊張しがちな場面では、人からよく見られたいという自意識に囚われているのだと、著者は説きます。緊張から解放されるためには、その自意識から解放されることが必須なのです。では、どうやって? その方法こそがまさに「演技」すること。演技に集中し、五感をフル稼働させることで、自意識を後ろ側へと押しやることができます。
とは言え、演技、普通は意識してすることってないですよね?
本書はそのような普通の人向けの一冊です。演技するため、すなわち五感をフル稼働させるためには「与えられた状況」を事細かに具体的にイメージし、分析し、自らをその状況へと没入させることが重要です。状況を味方に付け、自らを自意識から解放し、緊張から自由になるための方法を本書は詳細に明かします。
『説明組み立て図鑑』(犬塚壮志) #読了 #よしざき読んだよ
あなたは「結論ファースト」一本槍で説明していませんか? 本書は一般的に説明に有効と言われている「結論ファースト」で上手くいかない大人のために書かれています。「結論ファースト」が上手くいかない理由は、二つあります。
一つ目は、人は「結論=ファクト」だけで動くようにできていないからです。むしろ、ファクトが先に出されることで反感を覚えることすらあります。説明を本当に届けるためには、相手の「感情」にフォーカスする必要があります。本書は、長年にわたって駿台予備校で「説明」してきた筆者が認知科学に基づいて相手の「感情」を動かすための型を解説します。計80の型が収録されていますが、本当に大切なのは、相手の「感情」に焦点を当てることともう一つだけです。
そのもう一つとは、相手を「知る」ことです。「結論ファースト」が上手くいかない理由と重なりますが、客観的なファクトは客観的であるがゆえに動かしようがなく、相手の「感情」に合わせてチューニングできないのです。そして、相手の「感情」に訴えるためには、相手を「知る」必要があります。つまり、相手を「知る」ための事前準備をどれだけ深く行えるかが説明の成否を決めるのです。
説明の究極的なコツとはこの二つだけなのです。
『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』(武田綾乃) #よしざき読んだよ
ギブ
小説/ジャズ/中国茶。🌍は、読書・音楽・茶の記録について。🔒は、それに加えて日常について。