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『アウトブレイク』観た

パンデミックを防げるか、ウイルスに負けないくらい人間もやっかいだよ映画。
同じくパンデミック映画の『コンテイジョン』を観ていたり、新型コロナの流行下で観ると、ウイルスの拡大の行方やその恐怖が大変わかりやすく、要所要所でうわーこれはまずい!まずいぞ!とノリノリで観ることができた。ウイルス拡散を止められるかどうかは、惨状が拡大しつつも整然と進んでゆくためストーリー的には若干の安心感が起きる…代わりに前面に出てくるのが人間がやっかいすぎる問題。パンデミック阻止の命運が、ウイルス特定よりもヘリチェイスにかかってくるとは!あんなに軍がやりたい放題していいのか。笑 モーガン・フリーマンの無表情で善悪の狭間にいる感じが面白かった。でも早く心を決めてくれ。イライラする!笑
しかし、このエンタメ具合こそがアメリカ映画であるなぁという感じだし、結局実際のパンデミックもウイルスだけの問題ではなく、人間の動向が非常に大きな要因になるのだよなぁとも思ったりする作品だった。
密輸は危険だよね。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』観た

マジックアワーがあるよと教えてもらったので鑑賞。複雑な空の色と光、気だるいフロリダの空気とあいまって、とても切なさを感じる映像になってた。

鮮やかな建物と青空と温暖な空気、だからこそそこに包まれて存在する貧困が余計に意識される様に感じて、なんとも悲しい映画だった。こんなにカラフルで活力が溢れているのにね。

私は態度の悪い子供も大人も嫌いなのだが、それはそれとして、なんとか頑張って生活を立て直して欲しいじゃない、人として。そういう気持ちが、モーテル管理人やらご近所の態度や接し方に見られて、でもそんな単純に物事は変わらなくて、という歯痒さがずっと画面にあるように感じた。

娘のムーニーが母親から愛され溌剌と楽しそうに暮らしているこの瞬間は良いものに見えるが、やはり生育環境はどう考えても悪くて、ムーニーへの愛の形がもっと変わればいいのに…とここにも歯痒さが。

一切泣かなかったムーニーが悟って最後に見せる表情が悲しいし、逃げ込んだ先の虚構感が、私がディズニーを良いものと思っていないせいもあり、現実の解決しなさを煽る様に感じられて、ちょっと唸りましたね。

『クワイエット・プレイス:DAY 1』観た

サムとフロドの生きるための旅路。今この絶望的状況にあってやりたい事とは何か、その切実な思いがシンプルに伝わる大変哀愁漂う話で、ああ確かに『PIG』の監督の喪失感と優しさがある…!という感じ。焦点を絞りすっきりまとまってるのが、味わい深くて良かった。
あの前日譚って何をやるんだろう…とあまり興味が湧いていなかったのだけど、前2作とはまた趣が異なる人間ドラマで、これはこれで好きだったよ。

サムの選択がぬるっと進んで行くのだけど、それが自然というか、納得できるなぁという具合で、好きでしたね。サムの思いをサポートする失敗と成功も、あの状況での人間のささやかな優しさの発露として良かったな。みなそれぞれ、できるだけを頑張ってたよね。
エリックの恐怖に耐えがたい具合が大変よい塩梅だったなと。なんだか新鮮。彼の優しい部分なのだな。猫を見てああ~となるの、とてもわかる気がする。しかしあの状況で猫は賢すぎないかね?癒しだけど。
緩急のつけ方が程良いし、前作を観てるとわかる絶対安全領域があるのも、サムの思いに集中できて個人的にはいい感じだったですね。

『天国の日々』観た

マジックアワーの美しさが捉えられている映画だと聞いて。

映像美。悠然と広がる自然の美(とはいえ農場だから人工ではあるが)があまりに神々しく、人間の過酷な生活も小ささも取り込んで、煌めきのように見せてしまうと同時に、人間のどうしようもない弱さ愚かさも際立たせているようで、とても悲しい映画だったな。

人間は半分が天使で半分は悪魔だから、元々この天国はかりそめのものだったのだろう。人間の愚かさと本当の自然の野蛮さが同時に襲う様子は、まさに天国の崩壊と言う感じだった。皆自分の愚かさをどこかわかっているから浮かない表情で、それでも変わることができずに進んでしまう哀しみ。やるせない。

しかし、夕暮れの小麦畑とはこんなにも惹きつけられるものなんですね。哀愁のある美しさ。とても良い。明るめから暗めまで、夕暮れの光、マジックアワーの自然光を捉えた映像の中でも、特に人々が活動する引きのショットが素晴らしくて、いつまでもその景色に浸っていたくなる。

『PS-2 大いなる船出』観た

前編に続き劇的大河絵巻!!という感じで面白かった!
登場人物全員の感情や思惑が複雑でちょっとずつ予想外の展開になり、どうなるの?そうなるの!という具合に揺さぶられて楽しい。そうなりつつも、最後は堂々とした国の栄光の黎明の話にまとめていくのだよね。すごいね。

台風の目であり続けたナンディニが、あまりにも悲運の女すぎて…酷くないですか…。親の因果が子に報い。アーディタも予想以上に激重感情で驚いた。この二人誠実に話し合えば変わるのでは?と思っていたが、そんな甘いもんじゃなかった。戻れない二人、おお…。好きですけどね。
そんな中、がんばれディーヴァン!お前が救いだ!ということで、登場するたびやはり楽しいディーヴァンでした。島にぽつんと置かれたの楽しかったで、やはり聡明クンダヴァイが好きですね。ディーヴァンを気に入っているところも良いね。
アルンモリの優等生さはキャラクターの立ち位置的なものからだとわかったが、それでも優秀すぎてみんな大好きアルンモリなのは面白くて、これもやはり好き。

『チャレンジャーズ』観た

わははー!変な?映画だったけど面白かったな!ラストの高揚感がすごい!!カモン!!!!はね、ちょっとわかるよ。
三角関係ってぐるぐる回転して高みに登っていくんだな!という新たな視点を得ることができました。ふふふ。
テニス選手、女一人と親友の男二人の三角関係、女がゲームを支配していると思いきやそうでもなくて、いややはり支配してる…と思った?いやいや、人間関係とはその枠を越えて行くのだよ!という恍惚。ゲーム支配者とその他という単純な構図ではないのが人間関係・恋愛関係なのだ、それが話の流れにしっかりとあるのが面白い。共感しない野心と性の話なのにハラハラさせられて乗せられるw
テニスはrelationshipとタシが言ったように、そこにあるのは関係性だし、それは欲望の対象でもあるのだよねw。滲みでまくっている官能性、当然クィアさも含まれていて、それがテクノ音楽と編集でガンガンと煽られて快楽が積み重なった最後の鮮やかさ。笑うわ。楽しかった。

ゼンデイヤはなんだかもうめちゃくちゃ存在がセクシー強くてやばいし、マイク・ファイストは可愛いし、ジョシュ・オコナーは笑顔の味がすごい良いし荒い色っぽい悪めの役も全然いけるのか!と俳優陣を見てるだけでも楽しい映画だった。

『ありふれた教室』観た

校内で起きている窃盗を契機に、どこまでも拡がり続ける対処、対処、対処…で教師の仕事はつらいよ映画。本当につらい。

教師、生徒、保護者と立場の異なる者らが関わる場・学校を現代社会の縮図と捉えて、問題が起きた時にどうなるだろうという作品と思いました。「対処」というより、全員ただ主張を繰り返すだけ、もちろん主張は一理あるのだが、それだけに見えて、これが私達の社会の失敗か…とげんなり。詰み状態への展開があれよあれよと進むので、スリリングで面白いのだけどね。

しかし、普通は認識の確認や問題の切り分け等するよね?と思うし、提示された情報は限定的だし、映画として意図的にされていることあるよな…とも少し思いましたね。本当「主張」があるだけで誰も「証明」していない。

教師、生徒、保護者間の関係で一気に空気が変わってしまう学校という繊細な場の様子はめちゃくちゃリアルだったと思う。少しも間違えられない、生徒への対応に直面し続ける教師の緊張感。信頼に入ったひび、指導の揺らぎがさらに信頼毀損となり生徒間に伝播する空気。家庭の様子が子供を通して教室に現れる感じ。自分が子供ながらに感じた環境が再現されていて戦慄だった。教師は本当に苦しい仕事、でも大切な仕事だ…。

『関心領域』観た

アウシュビッツ収容所にまさに隣接する家、そこに住む家族の平穏な生活を観察することで浮かび上がる、人間の無関心のありさま。

開けた良い環境で、穏やかで手入れされた暮らし、そこでの会話に、音に(収容所の稼働音が四六時中しているのが絶妙におぞましい…!)、日用品に、その生活環境すべてに明確には見えなくとも確実に感じ取れる迫害の気配。それでも、半径数メートルしか関心がないかのように穏やかに生きる人間を見て、寒々しいなと傍観している観客にその無関心の結果がグイっと迫ってくる演出。

想像力が働けば無関心ではいられないはず、といったことも耳にするが、それはちょっと正しくなくて、人間とは想像した上で無関心でいられるものだと思う。この映画では、妻たちがユダヤ人の服飾や家財を選ぶ場面や、夫が祝賀パーティーで考えていた事などに彼らが十分ユダヤ人の状況を想像できていたことがわかる。だからこそのおぞましさ。
ただ、我々はこのように想像を乗り越えて無関心でいられるからこそ、日々の不安に押しつぶされずに暮らしていける。これは人間に必要なことではあるが、しかし、無関心の力に甘んじてはいけないこともあると、今こそ、何度でも顧みるべきと訴えてくる映画に思えた。

『PS-1 黄金の河』観た

面白いー!!
王位をめぐって陰謀渦巻く、まさに豪華絢爛大河時代劇という趣!
現王統、先代の王統、滅ぼされた国と三つ巴の陰謀が縦糸に走るなかを、トリックスターのごとき陽気な兵士デーヴァンが横糸となり話を紡いでいく様子が面白い!

本当にね、カールティさん演じるデーヴァンがいいんだよ。カールティさんは囚人ディリの渋い顔しか知らないので、こんなにニコニコして美女によわよわで口達者なお調子者を演じているとは!自由に暴れるし、劇にも登場するし、タイマン勝負だって強いよ。陰謀のなかの清涼剤。観た人はみんなデーヴァンが好きになるよねー!

他の登場人物もキャラが立っていて好きです。こじらせやさぐれ長男皇太子、美麗な政治家タイプの長女、全方向に優等生っぽい次男、愛憎を秘めた傾国の美女っぽいナンディニもいいよいいよ!ちょっとずつ絡む脇役達もいい感じ。会話もウィットがある感じで面白いです。これは字幕翻訳も良いのかもしれない。
次男とデーヴァンのバディ感がいいな…と思ったら、すんごいいい場面で待て次回!になったので、続きももちろん楽しみですね。

『自由研究には向かない殺人』読了

イギリスの地方都市、女子高校生が学校の自由研究課題として、5年前に自分の住む街で起きた高校生失踪事件の真相を調査する。えげつない突破力!

YA小説らしい軽やかさもありながら、しっかり推理探偵ものとして面白かった。睨んだ通りやはりそうだよねと、そうきたか!があり、特に後半はグイグイ読んだ。

会話から事実と矛盾を洗い出し、仮説の検証は定番の方法から現代らしいものまで。小さな街の関係の狭さがいかにも推理小説らしい舞台であり、そこに学生らしい人間関係にまつわる心の機微と賢さと無鉄砲さもあってスリリング。

清々しいのは、解説にもあったように、主人公ピップの公正さと朗らかさ。自分のヒーローの無実を信じる思いと、容疑者達にすらできるだけ公正でいようとする心。できるだけ、というのに弱さと立派さがあって良いよね。そして、ピップ自身のことも、起きた事件にも、人間の弱さに向きあう姿勢がある。またピップのこの朗らかさによって、課題の相棒ができるのも楽しい。

研究ノート的な文章表記だったり、研究を終えて得たもののまとめスピーチがあったり、課題らしさも面白かった。この距離感の変化はそうなるかな?と思ったところも、そのとおりに納まって、いいね、かわいいね。

『無名』観た

繋がったように見えるパズルのピースをもう一度繋げなおしてみたら違う模様が見えてきた時の驚き、みたいな映画だった。そのピースひとつひとつに、名もなき工作員たちが空気を読み、空気を作り、その陰に感情を隠し続けている悲哀を見ることができて、面白かったですねー。しかも、それをスーツで決めた男達、美麗な装束の女達がやるんだから、もうね、好きですよこれは。映像の陰影とか構図も美しくて、ゆったり読ませる感じがノワール的雰囲気たっぷりで良かった。そんな中でトニー・レオンの微笑みが効いている…おお…
日本側の描き方が、私にはあまり見たことがない感じで興味深かった。なるほどそういう評価なんだ、みたいな。面白かった。いや、実際どうだったかは知らないんですけれども。あと最後はきちんと現代中国映画だなーというのも感じますね。私的にはもうちょっとしっとりとした余韻が欲しい。
映像で語るタイプの映画なので、最初はそれこそパズルの様に掴みにくいのと、日中戦争前後の両国関係と内情を知らないとわかりにくいところもあるなと思いつつ、でもこの語り口が映画!って感じで好きですね。面白かった。

『ブロンコ・ビリー』観た

西部劇ショーの一座と訳あり女性がすったもんだのドサ回り。時代遅れでも苦境にあってもあくまでも西部のヒーロー魂を貫こうとする男、これがイーストウッドの自己像とも重なるのかなと思うと、大変興味深いし哀愁が漂いまくる。この哀愁、人生再生のドラマとしてなかなか面白くて。好きなものになれるというのがいいじゃない。それは男でも女でも同じ…という話になる(というか、女から語られている)のに、その後はさらっと流されてしまうので残念。アントワネットがビリーに落ちる最後の一押しに関わる話なのに、なんか雑でもったいないよね。
ラストもなんだかんだと多幸感に溢れてていいよね、と思うと同時に、アメリカ国旗の下に輝かしい自己実現と愛と仲間!という図がばばーんと提示されている事におおぅ…ともなる。面白かった。

『マネーボール』観た

プロスポーツとしての野球において、この作品で注目されるのは契約金や統計という「数字」。資金力や試合の統計データで勝利は決まるのか?いや数字で人やものごとは測れない、という一方で、数字で測るからこそ見えてくる評価や長所もある。そして、数字で見えたものの先を越えるものに遭遇することがあるから、野球や人生は奥深いというところまで行く。数字を軸にして、勝利、球団運営、成功、さらには人生の悲喜交々についての考え方の揺らぎに乗せられる観る映画で、面白かったー。

しかし、プロで挫折した経験あるGMが弱小球団を立て直す話だからというのもあるけれど、もうずーっと、ずーっと空気が重いんだよね。やってやるぜ!ではなく、とにかく辛く苦しい雰囲気。成功に踏み出し輝く瞬間、喜びの時にすら不穏な空気がまとわりついている。これはプロスポーツが抱え続けている重圧の陰惨さを映しているんだろうな…と思ったら、これの後に監督は『フォックスキャッチャー』を撮っているのか。なるほど…。でもこういう闇深さを描こうという視点、雰囲気、好きなんだよね。

ジョナ・ヒル演じるピーターの、熱量低め(でも理由を説明するときのナードっぽさがいい)だが確実に色々感情があるんだよという具合がとても良かった。救い。

『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』読了

SNS等で飛び交う「ナチスの政策には良いものもあった」との意見に対し、専門家が真っ向から検証、積み重ねられた解釈をまとめた本書。ナチの権力基盤、経済、労働、家庭、環境、健康政策等、それぞれ政策の起源・目的・結果という視点で検証。論点は各々あっても、これではナチの残虐性は相対化して「良いこと」と評価できないよね?と、明確に反論する。

民衆がナチ政権を支持し権力を持たせた状況、各政策の全体主義的な面、包摂と排除などは、現在我々でも求めそうな危うさがありよくよく考えるべきだと思う。民族を「民族体」と人体になぞらえる考え、こう一見シンプルで容易な喩えに惹かれてはいけないこともあるのも理解。動物保護政策の項では、ナチの「理念」と実際の行為の落差に感情が高ぶり涙すら出た。改めて、色々と悪辣。

「良いこともある」意見の背景には、教科書的な権威に反抗してみせたい欲求があるだろうとの見解には納得。歴史的思考には、事実、解釈、意見の三層構造が前提として必要なところ、解釈をすっ飛ばして事実→意見を言う危うさの警鐘にも。

反発の欲求を満たすためだけに利用するには、ナチは悪影響がすぎるでしょう。少しでも気になった人は本書を読み、免疫をつけると良いよね。

『異人たち』観た

山田太一の原作小説だけ読んでいる状態で観た。
原作の切なさとはまた違った切なさを加えた、より切なさが広がっている大胆な翻案だと思うと同時に、しっかり原作のままでもある感じで、大変良かった。

詳しいことは避けるけれど(知らずに観る方が絶対いい作品!)、親とも恋人とも分かち合えない絶対的な孤独があって、それでもそれを抱きしめて欲しいし抱きしめる、ということを描いていて、切ないけれど強い優しさがある作品だなと感じて、後から後からじわりと心に沁みている。孤独は孤独としてそこにあり続ける状態を描いてくれるのが好きだし、やっぱりその点がとても信頼できる監督だなぁ。

主人公が、母親父親それぞれと会話する場面で際立つ絶対的な孤独にハッとするのだけど、その後にそれでも抱きしめ抱きしめられたいというあの想いに泣けるし、それがあってからの恋人に向かって言う、ここにいるじゃないか抱きしめるよという優しい切なさがたまらなかった。それぞれの世代の違いからも生まれる感覚の切なさ疎外感も描いているのも上手いし。

ひとつだけ同性愛、ゲイが社会的にどう扱われていたかは意識しておくと、より孤独感の深さを感じられてよさそうだと思いました。

『ゴッドランド GODLAND』観た

好きな映画だ。
19世紀、アイスランドの辺境の村にデンマーク人牧師が教会を立てに行く。神秘が表出したようなアイスランドの広大で荘厳な自然を前に、人間同士の溝が一向に埋まらず対立し続け、傲慢が行き着いた先にただ残る冷徹、この冷めた距離感がとても良かった。距離があるのにどんどん没入していく感じがあるのも面白い。

牧師のルーカスは傲慢で聖職者の信念を完全に見失っているし(言語という文化を学ぶ意識がないのがわかるのが鮮やか、もう上陸前から駄目)、案内人のラグナルには想像以上に深刻な悪意があるしで、こういう人間の小ささが露呈した先があれというのがね…。既に住人として生きているデンマーク人のとっても現実的なのも効いていてね…私はこういうブラックなものが好きなので、面白かった…

しかし後から思えば、ルーカスの支配的な距離感を表す描写が盛沢山だったなぁと。上辺を映すだけの写真趣味、聖職者として教えを広める気もなければ、教会が建たなければ仕事もしない、村への過酷な道程から何も受け取らず精神をを拗らせただけという…。聖職者なのに、心も身体も神の試練に全く立ち向かえていないのが、なんとももの悲しくブラックで面白い作品だった。

アイスランド、行ってみたいよね。

『プリシラ』観た

エルヴィスの隣にいた時間、少女から傷ついた大人へ。年上の男に惹かれた大切な記憶と、彼といることで変わっていく世界への不安と。彼女にとっては確かに大切な時間・記憶なのかもしれないけれど、そんなに孤独で、くつろいだ気持ちで側にいられないなら早くやめた方がいいんじゃないのかなー、早く気づきなよーと思い続けて観ていたよね。
好きになってしまったのだから仕方がないのかもしれない、そうならば人を好きになるってとても不自由なことだ。

憧れが抑圧に変わっていく過程、そして精神的自立へと向かうその心が繊細に描かれていたので面白かった。

エルヴィスの自分本位で支配的な部分と、優しく紳士的な部分がいい具合に描かれていて、ああこういう複雑さに惹かれると同時に抜け出せなくなるんだろうなーというのも大変わかりやすかった。

プリシラを演じたケイリー・スピーニーが非常にかわいかった。登場場面の孤独な少女の背中、表情がすばらしくて大好きだ。

所々で(『エルヴィス』で出演していた)トム・ハンクスの、大佐の顔がちらついて、いいんだか悪いんだかw

『RHEINGOLD ラインゴールド』観た

実在のクルド人ギャングスタ・ラッパーの成り上がり物語に着想を得て。いきなりイラン革命でのクルド難民の闘争から始まるのがもう壮絶。なのだが、その後は流れるようにジャンルを横断する感じが楽しい。なにせそこからめちゃ売れたラッパーになるので。

上流階級だったはずが、亡命、家族の軋轢、不良、ギャングへと凄いスピードで突き進んでいくのだが、主人公"カター"(危険なやつ)がどこか素直であっけらかんとして超絶行動力があるのと、ちょっと乾いたユーモアある描き方なのが面白い。ギャング生活は特にコミカル。でもこの流れるような楽しさの中で、難民の苦難や貧困、各国の社会情勢に生き方など読み取れるようになっていて。そういうのも面白さのひとつなんだよね。
音楽への熱は細々と持ち続けているよう(音楽を学びに行くのはマジで感心した)、いやでもちょっと流されすぎじゃね?いつラッパーになるのだ…と思いつつ、最後にはああこの人生だったからこの音楽なんだ!という地点にたどり着く、ちょっとした感動と高揚がある。CDを愛おしく持つカターの姿よ。

そんな下品なリリックを書く子に育ててない!ってイマジナリー母ちゃんに言われ書きなおすのが好きです。カター、本当に素直。

『アイアンクロー』観た

「家族」と「強くあること」と「成功」が父親の執念で固められた呪い。肉体は屈強でも心はボロボロ。「強さ」とは何なのだろうと考え込んでしまう。あまり連鎖的な不幸の数々に大変しんどくなるが、不穏で陰鬱な作品で好みだった。胃のあたりがぎゅっとなる痛々しさ…

冒頭、リングと父親の顔(ストンピング的なことをしている最中…)がオーバーラップする時点で、これは執念深くきつい内容になる…!とわかる仕様、良いですね。
父親の「プロレス=強くあること=成功」それで「家族が幸せでいられる」という図式をそのままに身に着けてしまった息子達。しかし、彼らは本心でその図式を望んだわけでなく苦しんでいるのだが、自分の感情をわかっていないというか、どう表現すべきかわからず困惑し次々と壊れていく様子を見つめるしかなく…という具合なので、なかなかえぐってくる作品。
主に男らしさの呪いなのだが、自分には母親の態度もかなりきびしいと感じた。信仰によって目の前の問題から逃げてしまっている。本当に仲の良い家族なのに中身がこんなにも脆い、アメリカの一面でもあるのだろうか…とも考えた。

恐らく一番優しいのだろう"長男"を演じたザック・エフロン、苦痛、嫉妬、混乱などの感情を繊細に演じていて素晴らしかった。

『死に方がわからない』読了
つづき

職業柄、死亡の前後の面倒くささは少しだけ垣間見れるので、書かれている内容もやっぱりそうかーと確認する感じのことがらが多かった。

それでも、緩和ケア病棟でも死ぬまで入院するのが難しい仕組みになっている(国の方針として変わっている)ことは、改めて事前に知っておくべきだなと思った。あとは、現在は検体への提供が余っているのは知らなかったので、少し驚いた。葬儀費用がかからない上に、利用後の遺体は丁寧に扱ってもらえるということで人気らしい。なかなか世知辛いことだなぁ。

とにかく死んでしまえばどうでもいいという人以外は、自分の意思を形にして、的確に伝わるようにするべしということですね。おいおい取り組みたいね。

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