『テスカトリポカ』佐藤究 読了

現代裏社会の物語にアステカ神話が絡みついた時、そこに広がっていたのは心臓と生贄のまぎれもない神話。
血腥い神話と現代の犯罪社会、一見遠く感じるのだが、そこにある暴力性の近さ、古代の精神と資本主義が結びつけられるさまを見ると、確かに人間はいつだって残酷なのだと思い知らされるよう。

メキシコ、インドネシア、日本をかけて流れるような物語の展開、密売組織のナルコと医師の再浮上への道は背景描写も緻密で面白い。冷徹さと執心の理由、そして崩壊への疵をはらんでいたことも納得感がある。終始かなりの残虐な描写が続くが、文章のためか不思議としつこさがない。アステカの神秘性のもとに収斂されていく展開も、興奮はあるが、どこか乾いた感じ。それこそ、黒い煙が広がるような、乾いた邪悪を感じた。

その煙にまかれてしまった者達の中で、ナイフメイカーのパブロの話がやり切れなくて…一度煙の中に入ったらもう目をつむるしかないだろう、苦しさ。

テスカトリポカとは何か?が判明する瞬間が劇的で、映像が目に浮かぶよう。ただその後の展開にあまり関わってなかった気がするが、読み間違いだろうか。

驚くほど血腥かったが、力強いストーリーテリングで面白かった…!

『ご遺体』イーヴリン・ウォー 読んだ

1948年ハリウッド近郊の霊園で、ペット葬儀社の英国青年、遺体化粧係の女、遺体処理師の男がすったもんだ。死すら商業化する米国の大仰と空疎、追従せざるを得ない英国の愚かさなどを皮肉的ユーモアに。終盤の強烈ブラックな展開にうぉぉ…と唸った。英国人の全方位皮肉はさすがだ。

葬儀がコース制だったり、遺体を良い状態に見せたり、霊園にオブジェがあったりと、今の日本では普通になってる事が描かれているのが面白い。謎美術品などを置いてる霊園あるよね。もちろん作中では軽蔑の視線で書かれているのだけど。そこも含めて共感できるユーモア。

人物や場所のネーミングが面白い。囁きの園、ジョイボーイ、ミスター・スランプ。ミス・タナトジェノス…死の一族ね…運命が決まっていたのか…おぉ…
ラストシーンの辛辣さが本当に強烈。

霊園内の建物がいかに頑丈かの謳い文句で、「高性能爆弾にもびくともしない」のを「核爆弾」にまさに書き換え中である描写があって、この作品が書かれた当時の西洋社会の核の捉え方なんだろうなと、内容とは別に興味深かった。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』読んだ うわー面白かった!!!そしてまさか泣くとは思わなかったよ、しかも何度も…。事前情報を入れずに読んだのも良かった。尻上がりに面白くなる!仮説と実験と惨事の繰り返しを、科学の心と臆病者の勇気で突破していく、アツい希望のSFだ。よい、よい、よい! 

読み始めはSFミステリーな趣があったのが、宇宙規模の感染症の話になり、それがまさか知的生命体との邂逅になり、さらには激アツな友情の話になるとは思わず。本当に面白かったな~。いやー、良いね。

ロッキーとの関係を構築していくやりとりと問題への挑戦がワクワクで楽しいし、平行して描かれる過去の謎解きも面白かった。『火星の人』でも同様の、絶望的な状況なのに暗さがない、それは科学の心とユーモアがあるから。そしてその中にも、ふとした感情が描かれているから、共鳴して涙ぐんでしまうんだよね。気候学者が顔を覆って泣く描写が最初にとても印象に残った。主人公が教師なのも最後に効いている。将来への期待と責任感。そう、全員善人なのも良い。当然ロッキーもだ!
しあわせ!しあわせ!しあわせ!

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