『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』読了
SNS等で飛び交う「ナチスの政策には良いものもあった」との意見に対し、専門家が真っ向から検証、積み重ねられた解釈をまとめた本書。ナチの権力基盤、経済、労働、家庭、環境、健康政策等、それぞれ政策の起源・目的・結果という視点で検証。論点は各々あっても、これではナチの残虐性は相対化して「良いこと」と評価できないよね?と、明確に反論する。
民衆がナチ政権を支持し権力を持たせた状況、各政策の全体主義的な面、包摂と排除などは、現在我々でも求めそうな危うさがありよくよく考えるべきだと思う。民族を「民族体」と人体になぞらえる考え、こう一見シンプルで容易な喩えに惹かれてはいけないこともあるのも理解。動物保護政策の項では、ナチの「理念」と実際の行為の落差に感情が高ぶり涙すら出た。改めて、色々と悪辣。
「良いこともある」意見の背景には、教科書的な権威に反抗してみせたい欲求があるだろうとの見解には納得。歴史的思考には、事実、解釈、意見の三層構造が前提として必要なところ、解釈をすっ飛ばして事実→意見を言う危うさの警鐘にも。
反発の欲求を満たすためだけに利用するには、ナチは悪影響がすぎるでしょう。少しでも気になった人は本書を読み、免疫をつけると良いよね。