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アンジェラ・チェン『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』(羽生有希訳)、読みました。

様々な世代・人種のエース(アセクシュアル)当事者の体験と、その人たちが悩みや困難を経て自身の在り方を見つけていった過程がたくさん紹介されているので、今、同じように不安を抱えている人たちにとっての助けになると思う。

性的惹かれが無いエース(アセクシュアル)の解放は、全ての差別と相容れない社会の実現であり、その時こそ誰もがみんな「フツー」の性愛/恋愛から自由となり解放されることである、というメッセージを強く感じられた。

ただ、基本的人権の尊重すら瓦解してしまっているような今この国の状況を思うと、希望を持つことも難しくて辛い……。

マリアーナ・エンリケス『寝煙草の危険』が読みたいのだけど、表紙の虫が超苦手で買えない😭

この国書刊行会の「スパニッシュ・ホラー文芸」シリーズは函入り金箔押しのとても美しい装幀だけど、この金の線画でもゾワゾワして無理だった。
文章で読むのは大丈夫なのに……。

でも第一弾のエルビラ・ナバロ『兎の島』も、兎が苦手な人にとっては同じように無理だったのかもしれない。

クリステン・R・ゴドシー『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』(高橋璃子 訳)、とても面白かったです。

20世紀の社会主義国での政策の歴史と失敗における、女性の権利や生活の変遷を紐解くとともに、現在の自由市場がいかに女性の経済的自立を損なうか、という実情が見えてくる。
北欧の民主主義的社会主義の実践なども紹介しながら、あくまで民主主義の中で資本主義とは別の、より良いやり方を見つけて変えていこうという、とても前向きな本だった。

(ちなみに著者は、本書における「女性」という言葉や妊娠する人について論じる際には、トランス女性やその他の性自認を持つ人がいることを忘れているわけではない、と明記しています。)

松村生活さんの『君のためなら生きてもいいかな ハムスターのうにさんと私』を読んだ。

うにさんに普段とは少しでも違う様子が見られた時に、瞬時にあらゆる可能性が頭を駆け巡って、不安と冷静さが混在するあの心情と行動は、家族を介護中の自分にも分かりすぎて辛くなった。

基本的に、今以上に良くなることは無いというか、今のコンディションを保てるように一緒に頑張りながらも、終わりに向かっているという意識はずっとあるので……。

それと病を患う松村さんの日々の暮らしから見えてくる、「合理的配慮」が一向に共有されない日本社会の現実も、改めて本当にしんどい。

ウラジーミル・ソローキンの新装版2冊、『愛』と『ロマン』を初めて読んだ。

真剣に筋を追っていると突然全てが崩壊する、強烈な読書体験だった。
読んで良かったかというと何とも言えないのだが、しかしこの衝撃は凄い。
とはいえモラルは皆無だし、汚いし、色々な意味でヤバいので、人には全然おすすめできない……。

『ロマン』は、チェーホフやドストエフスキーなどの王道ロシア文学を感じさせる壮大な「前フリ」である第一部と、その後の第二部の落差が本当に本当〜〜に凄まじかった。
あの第一部を作り上げたテクニカルさには、読後、改めて感動する。厭すぎるが。

先に短篇集の『愛』を読んだのだけど、情緒や思考が途中で完全にぶった斬られて行き場がなくなる作品のオンパレードで、このソローキンの作風・ヤバさを知らずに『ロマン』を読んでみたかったな。
たぶん人生で二度は無いような衝撃の読書体験になったと思うので、読んだ順を後悔している。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、昨日観てきた!

石のバースでの、エヴリンとジョブが思念(?)で行う会話のやり取りがめちゃくちゃ良くて、ボタボタ泣いてしまった。
小学生の時にずっと「生命とは?思考とは?宇宙とは?」とグルグル考えていた頃の切迫感や寄るべなさの感覚が甦り、今こんな画を劇場でバーーンと観られたことに感動。

エヴリンとジョイの母娘の最終的な選択と帰結について自分の咀嚼と納得は、これまで読んだアジア系移民/その子供による物語やエッセイやその人自身(イーユン・リー、ジェニー・ザン、オーシャン・ヴオン、ミシェル・ザウナーなどが)重なって観ていたから、それにだいぶ引っ張られているかもしれない。

それと私自身がジョイくらいの時分から家族の介護、ケアをしてきてるせいなのか、断ち切るのも簡単には出来なかったり、別の道も分かってはいるけれどあえて選択する状況や気持ちについてを、どうやら自分は肯定的に捉えているんだな…と気づいた。そういう意味で、個人的な感慨がものすごかった。
でも有害な関係性、去るべき状況があることももちろん分かる。

ちなみにパンフレット、この作品を何故この人にコラム&インタビューさせてしまうんだ…人選を考えて下さい…。

最近買った本。
すぐに売り切れて買い逃したリディア・デイヴィスの『話の終わり』を増刷でようやく読めたと思ったら、すでに2作目が出ており更に3作目も今月発売と。嬉しい!

今はカイラ・シュラーの『ホワイト・フェミニズムを解体する』を読んでいます。

◆山尾悠子『迷宮遊覧飛行』
◆フェルディナント・フォン・シーラッハ『珈琲と煙草』
◆シャーリー・アン・ウィリアムズ『デッサ・ローズ』
◆カイラ・シュラー『ホワイト・フェミニズムを解体する インターセクショナル・フェミニズムによる対抗史』
◆リディア・デイヴィス『話の終わり』
◆タラ・ウェストーバー『エデュケーション』
◆S・A・コスビー『頬に哀しみを刻め』
◆ハン・ガン『すべての、白いものたちの』

BT、吉田育未さんがシェアしてくれた、カナダで2月14日に行われる「ストロベリーセレモニー」。
私は恥ずかしながら、カナダで先住民女性・少女が失踪したり殺害されている事件が過去30年ほどの間で1200人にも上るという問題を知ったのは、ここ2、3年前でした…。

昨年読んだ、ジャーナリストのタニヤ・タラガ『私たちの進む道 植民地主義の影と先住民族のトラウマを乗る越えるために』(青土社)は、世界各地での先住民へ対する同化政策とトラウマの歴史、居留地で今も続く問題について、自分がいかに断片的な知識しか持っていないか分かる本だった。

ニュースや文学・映像作品から知った事実や問題を、しかしそれ以上に知らない、知らずにいられるのは何故なのか。あらゆる意味で自分が恥ずかしくなる。
本当に広く多くの人に読まれてほしい。

カトリオナ・ウォード『ニードレス通りの果ての家』、読了。

語り口がとても好きだった。「ホラー」の形を取っているけれど、苦痛と恐怖に直面した人への、はっきりと希望の物語と感じた。
普段はこうしたタイプの小説は敬遠する人にも読んでほしい…!帯やあらすじを読むと躊躇するかもですが、エゲツない系のホラーやスリラーではないので…。

テッド、オリヴィア、ローレンの秘密は序盤で察したが、それは作者があとがきで明かす、この物語に込めた「サバイバル」への想いが全編に渡って感じ取れるからだと思う。
だから読んでいる最中、一度も「気持ち悪い」と思わなかった。
私はミステリやスリラーの仕掛けとして「これ(ネタバレになるので伏せる)」を描くフィクションが嫌いなのだが、この作品はテーマに対してとても誠実な小説と感じた。

黒猫オリヴィアの勇気も、すごく良かった。
「尻尾が逆立ち、怒りの刃になる。先っぽに点いた火がわななく尻尾を炎に包み、わたしを燃えたたせる。(…)これはわたしの思いが生んだもの、わたしの火だ」

ルマーン・アラム『終わらない週末(原題:Leave the World Behind)』のNetflix映画化、ファーストルックがもう出てた〜!
ジュリア・ロバーツ主演とはすでに本の帯にも書いてあったが、共演にマハーシャラ・アリとイーサン・ホーク!
原作は昨年読んだ中で、ある意味では一番怖かった小説だった(ホラーではないです)。

『終わらない週末』は、どんな事態が起きているのか明かされないのに、ものすごく怖い。
終末が訪れたのかすらも分からない不安の中で、普段は取り繕ってキレイに隠しているつもりの無自覚な偏見や嘲りや自己愛がボロボロこぼれ出てゆく。
この他者への無理解や相入れなさの描きぶりがブラックユーモアのようでいて冷徹で、生々しさが強烈だった。

物語が動く序盤のあるシーンでの緊張感は只事ではないが、その恐ろしさの理由は現代でも無くならない人種差別と現実で日々起きている事件が頭を過ぎるためなので、暗澹たる気持ちになる。

『文藝』春季号の批評特集、すこぶる面白かった!

瀬戸夏子さんと水上文さんの対談では、2020年の『覚醒するシスターフッド』号の瀬戸さんの論考にあった「薄皮一枚の肯定」についての話もあり、読んだ当時ガツンときた表現だったので、お二人が改めて掘り下げて話すのを聞けてとても嬉しい。

水上さんの『シェイクスピアの妹など生まれはしない』も、本当に今読めて良かった。
自身の裡に深くわだかまる「文学」への信念と閉塞感を書き出す論考が、そうしたジレンマと迸る思考の心象までも視覚的に感じとれるレイアウトになっていることにも唸った。

校正者である牟田都子さんの『文にあたる』を読了。

作者はなぜそう書いたのかを「読む」こと。
その意図を「書かれていること以上に書かれていないことを読もうと意識」して想像をめぐらせ見極める姿勢と、しかし「書くことはもっと自由でいい」と作者を尊重する姿勢。
言葉と作品にここまで真摯な思いを持って誠実に臨んでいる人たちが関わって、「本」が形になっていることを知れる安心感といったら…!

ちょうどこの『文にあたる』を読み終えたすぐ後に、先週のNHK『プロフェッショナル』での校正者・大西寿男さんの回を観たので、大西さんの校正へのひたむきさには余計にこみ上げてきた。
この番組へのSNSでの反響や疑問・議論について牟田都子さんがブログを書いていて、そちらもすごく良かった。

他に2022年に読んだエッセイの中で良かった、ミシェル・ザウナーの『Hマートで泣きながら』。

ミックスルーツの娘と韓国人の母の間にわだかまる文化や言語や境遇の違いによる複雑な関係性の中で、母の闘病と看取りを経て、ザウナーが母の生き方を再認識していくまでの道のりを綴る、率直な言葉が素晴らしかった。

私も著者と同じく25歳で親の闘病と看護、そして看取り、葬式や整理の諸々を経験したので、ザウナーの体験や感情と私自身のそれとはもちろん全く違うし共感とは全然別の感覚なのだけど、ザウナーの忘れがたく強烈な記憶の断片が駆け巡るさまを読んでいると、自分の記憶がクッキリした感触を伴って反芻されて苦しく、読了までかなり時間がかかった。

本棚の整理をしがてら、2022年に読んだ中で、小説以外で良かった10冊を選んでみた。

◆白水社編集部編『「その他の外国文学」の翻訳者』
◆奈倉有里『夕暮れに夜明けの歌を』
◆キャロライン・クリアド=ペレス『存在しない女たち』
◆三木那由他『言葉の展望台』
◆高島鈴『布団の中から蜂起せよ』
◆松田青子『自分で名付ける』
◆柚木麻子『とりあえずお湯わかせ』
◆ロビン・ディアンジェロ『ホワイト・フラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?』
◆オルナ・ドーナト『母親になって後悔してる』
◆北村紗衣『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード』

『韓国文学の中心にあるもの』や『トランスジェンダー問題』、『優しい地獄』はまだ少しずつ読んでいます…

2023年最初の読書は、モハメド・ムブガル=サール『純粋な人間たち』平野暁人訳(英治出版)でした。

過剰なまでに修辞を凝らした濃密な文体による主人公の独白が、徐々に自己の二分する内面に引き裂かれ、危険なほどの激情に苛まれてゆく中盤以降のドライヴ感に圧倒されて、ラストまで一気に読んだ。

語り手が選択する最後の「決断」からは、このラストをあえて描いた著者の激情も感じて、この物語がフィクションではなく現実世界の写しであることを改めて突きつけられる。広く読まれてほしい小説。

2022年ベスト本に挙げた10冊は順不同だけど、今年一番好きな語りだったのは、ケヴィン・ウィルソン『リリアンと燃える双子の終わらない夏』。

諦観して無気力なようでいて、胸底には割り切れない感情が燻るリリアンの、辛辣で低温なユーモアに満ちた語りが本当に良かった。
世の中の「普通」から外されて傷つけられてきた人間たちの痛みと煌めきが迸ってる。

2022年のマイベスト本、10冊。

◇『リリアンと燃える双子の終わらない夏』ケヴィン・ウィルソン

◇『星のせいにして』エマ・ドナヒュー

◇『血を分けた子ども』オクテイヴィア・E・バトラー

◇『ひとりの双子』ブリット・ベネット

◇『その丘が黄金ならば』C・パム・ジャン

◇『すべての月、すべての年』ルシア・ベルリン

◇『フランキスシュタイン』ジャネット・ウィンターソン

◇『その昔、N市では』マリー・ルイーゼ・カシュニッツ

◇『秘密にしていたこと』セレステ・イング

◇『私の名前はルーシー・バートン』エリザベス・ストラウト

ジャネット・ウィンターソン『フランキスシュタイン ある愛の物語』

メアリー・シェリーが『フランケンシュタイン』を書いた1816年と現代、この2つの時代を基点にして様々な時間軸を行きつ戻りつしながら紡がれてゆく中で、そこへ徐々に創作上の存在が紛れ込んでくるという一見複雑な構成なのに、混乱せずグイグイ読める。

あらゆる二元論を超越していく物語で、その語りが本当に魅力的で大好きだった。
現代における登場人物たちが単なる過去の焼き直しに終わらず、新たな道を進んでいるのが良い。

それとこの『フランキスシュタイン』のように、登場人物の台詞に鉤括弧が付かない書き方の小説は、読みながら思考と発語が渾然一体となって届くような感覚が個人的にはとても好きで、なぜか集中して読める気がする。
今年出た海外文学にもこのスタイルの小説が何冊もあったのだけど、どれもすごく良かった。

エマ・ストーネクス『光を灯す男たち』も好きだった。

灯台から忽然と姿を消した3人の灯台守に、何が起きたのか。20年後、彼らの妻や恋人が当時のことを語り始める。
失われた歳月で胸に秘めていたものを、各人がほとんど独白に近い形でじっくりと語るさまが濃密で、人生の輪郭がはっきりと立ち上ってくるのがとても良かった。

残された女性たちには、昔も今も真相は分からぬまま。
ラストのヘレンの独白は悲痛だけれど、彼女たち3人がこれまでの歳月を経て、これまでとは違うお互いへの感情をもって並んで歩き出す兆しにじんわり熱くなる。

年末のミステリランキングの中に文芸作品が入っているのを見ると嬉しくなるのだけど、今年はエルヴェ・ル・テリエ『異常【アノマリー】』がランクインしていた!
エマ・ストーネクス『光を灯す男たち』やアンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を挙げている人もちらほらと。
この3冊は私もすごく好き。

過去にもマイケル・オンダーチェの『戦下の淡き光』や、ユーディト・W・タシュラーの『国語教師』や『誕生日パーティー』がランクインしていて、ミステリーというジャンルを広義的にみて文芸作品が入ってくると嬉しいし、もっと広く読まれてほしいな。

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