昨日はつらい選挙結果が出たけれど、週末に読んでいたクリステン・R・ゴドシー『エブリデイ・ユートピア』に、「社会を覆う冷笑と無力感を、私たちは断固拒まなくてはいけません」という著者のメッセージがあり、私もちゃんと踏ん張ろうと思えました。

楽観論や自己啓発的なポジティブ思考としての「ユートピア」ではなく、未来を変えるためのラディカルな希望と実践を論じる本で、訳者の高橋璃子さんのあとがきも良かった。

「むしろ絶望的な状況のなかで要請され、閉塞を突き破る力となるのがユートピア思想であり実践です。
絶望の可能性に満ちた場所においてこそ、自分たちだけでなく未来の若い世代のために、私たちには希望を選び取る責任があるのだと思います。」

フォロワーさんがトゥートされていた、ノンバイナリーを自認する方たちの中でもジェンダー・アイデンティティは個々に異なるため、その概念を理解されづらいことは、マイカ・ラジャノフ&スコット・ドウェイン『ノンバイナリー 30人が語るジェンダーとアイデンティティ』でも、それゆえの困難の体験をほとんどの人が語っていました。

この本を今年の始めに読んで、私が理解していたつもりの「ノンバイナリー」の概念は、実存するノンバイナリーの人々の生を表していなかったんだな……と思い知ったことを思い出しました。

そしてノンバイナリーの人々の中でも、人種や生まれた時の性別や自己表現のスタイルによる差異を理由に、世間からも当事者間においても差別や格差が存在していることを指摘する書き手もいました。
都会の、白人の、「中性的」な外見を持つ人でなければ、「ノンバイナリー」のラベルから排除されてしまう。あなただってノンバイナリーと聞いて「ティルダ・スウィントンみたいな人」を想像してはいないか?と。

ジンジャークッキーが大好きなので、たくさん商品が並ぶクリスマス期間はワクワクします。
ただ、しっかりスパイスが効いたものを食べたいけれど好きなタイプかどうかは毎回賭け。
この可愛いジンジャーブレッドマンは、ちょっと許容範囲を超える甘さでした……🍪

作家や書評家など12人への「積ん読」インタビューを集めた、石井千湖『積ん読の本』が面白かったです。「積ん読」を煽るような内容ではなく、「本を読むこと」についての真剣な話が収められていたので安心した。
それぞれの個性的な本棚や思い出深い本など、たくさんの写真を見ながら読む、オールカラーの楽しい本でした。

「あなたにとっての積ん読とは?」
「なぜ人は積ん読してしまうのか?」
という問いかけを切り口として見えてくる、それぞれの本の読み方、本棚の構築や分類方法、本を読む上でその人が何を大切にしているのか、本を読んでいる時の自分に何が起こっているのか?等々、皆さん全く違う考え方やスタイルが分かる様々なお話を読めてすごく面白かった。

10月に買った本。
ルシア・ベルリンの短篇集3冊目『楽園の夕べ』、読み終わってしまった……。これで最後なのかな、まだ未発表作があるなら今後読めると嬉しいな。

三木那由他さんのエッセイ3作目の『言葉の道具箱』、群像での連載が終わって寂しい。三木さんのエッセイまだまだ読みたい。
日常で直面する言葉やコミュニケーションに感じた違和感をスルーせずに、哲学のレンズを使って丁寧に思索を重ねる「言葉の展望台」シリーズ、めちゃ良い本です。

『破墓/パミョ』、観に行くタイミングが合わないのでパンフレットだけ購入。
崔盛旭さんが韓国の民間信仰である巫俗(ムソク)の用語解説や、都市伝説となった「鉄杭問題」など歴史的背景を読み解くコラムを書いていて、読みどころがたくさんあるパンフでした。

崔盛旭さんの映画コラムは『韓国映画から見る、激動の韓国近現代史 歴史のダイナミズム、その光と影』を今年読んだ。
『破墓/パミョ』のチャン・ジェヒョン監督の過去作『サバハ』も取り上げられていて、韓国に乱立するエセ宗教団体の深刻な問題についての解説があったはず。

作品が何を語り、何を語っていないのか、44作品の歴史や社会的背景を丁寧に解説する本で、韓国映画ファンの方にめちゃくちゃオススメです!

ハン・ガンの本や韓国文学に興味を持った方は、翻訳者であり素晴らしい文筆家でもある斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』が、読書案内としてものすごくオススメです。

2010年代から1945年までを遡りながら、韓国文学史とともに歴史を見つめ直してゆくエッセイで読書案内。
「(日本の読者が)韓国文学を通して自らの悩みを投影しシンパシーを覚える一方、辿ってきた歴史は大きく違う」との言葉にドキリとする。歴史を知ることで同時に、日本社会を見つめ直すことにも繋がる。

韓国文学には「社会を善きものにするために文学がある」という思いが根底にあること、その分厚さに圧倒されました。

イランで出会った様々な人たちを絵と文で紹介する、金井真紀さんの『テヘランのすてきな女』もとても良い本だった。

この本を読んだからにはと、辛くて積んでしまっていた、ノーベル平和賞受賞者で今も収監中のナルゲス・モハンマディさんが獄中の実態を女性たちの証言で紡ぐ『白い拷問 自由のために闘うイラン女性の記録』を読みとおすことができました。

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ロビン・ディアンジェロ『ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別するのか?』がめちゃくちゃ良い本でした。

人種差別に反対しているはずの「進歩的」な人々の内にある無自覚なレイシズムについて、とことん深掘りしている本なのだけど、「これは白人リベラル層の話だ」などと距離を置いて読むことは全くできなかった。
日本において「日本人」である自分の特権と振る舞いに改めて気付かされ向き合うことになる、本当に他人事ではない本だった。

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9月に読んだ本。9月は人文書を読む月間にしました。

◆『ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別するのか?』ロビン・ディアンジェロ/甘糟智子 訳
◆『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす 正義の反対は別の正義か』朱喜哲
◆『誰のためのアクセシビリティ? 障害のある人の経験と文化から考える』田中みゆき
◆『韓国の今を映す、12人の輝く瞬間』イ・ジンスン/伊東順子 訳
◆『目の眩んだ者たちの国家』キム・エラン他/矢島暁子 訳
◆『隣の国の人々と出会う ──韓国語と日本語のあいだ』斎藤真理子
◆『テヘランのすてきな女』金井真紀
◆『白い拷問 自由のために闘うイラン女性の記録』ナルゲス・モハンマディ/星薫子 訳
◆『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』ナージャ・トロコンニコワ/野中モモ 訳
◆『男はクズと言ったら性差別になるのか』アリアン・シャフヴィシ/井上廣美 訳

9月に買った本。
積んでしまっていた『韓国の今を映す、12人の輝く瞬間』が素晴らしかったので、その勢いでいつか読まねばと思っていたセウォル号沈没に対する作家たちのエッセイ集『目の眩んだ者たちの国家』と、発売を楽しみにしていた斎藤真理子さんの『隣の国の人々と出会う』を読んだ。
この順番で読んで良かったです。

◆『誰のためのアクセシビリティ? 障害のある人の経験と文化から考える』田中みゆき
◆『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす 正義の反対は別の正義か』朱喜哲
◆『隣の国の人々と出会う ──韓国語と日本語のあいだ』斎藤真理子
◆『目の眩んだ者たちの国家』キム・エラン他/矢島暁子 訳
◆『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』ナージャ・トロコンニコワ/野中モモ 訳
◆『男はクズと言ったら性差別になるのか』アリアン・シャフヴィシ/井上廣美 訳
◆『死体と話す NY死体調査官が見た5000の死』バーバラ・ブッチャー/福井久美子 訳
◆『死はすぐそばに』アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭 訳
◆『穢れた聖地巡礼について』背筋

『韓国の今を映す、12人の輝く瞬間』イ・ジンスン/伊東順子 訳

ハンギョレ新聞で5年間連載されていた、イ・ジンスンによる122人へのインタビューのうちの12人。

美しい輝石が配置された表紙や、タイトルから感じていた読む前の印象とは全く違う本でした。
韓国社会の中でそれぞれの想いから行動する各人の、偉大な成功ではなく生々しい痛みの声、これまでの日々と続いてゆく人生についてを聴き取った凄まじく濃い内容で、本当に読んで良かった。

「挫折と傷と恥辱にまみれた日常の中で最善を尽くし、自分だけの光を放つ平凡な人々の特別な瞬間を記録したかった」と、著者がまえがきに書いていました。

セウォル号の犠牲者を海から引き揚げ続けた後に亡くなった、ボランディアダイバーの妻。
癒着に目をつぶらなかったために、朴槿恵に更迭され職を追われた公務員。
障害者施設で18年間離れて暮らしていた妹と、同居を始めた姉。
ベトナム戦争における韓国軍の加害を暴き、ベトナムで被害者の聴き取りを続けた女性。
クィアの若者を支える「父母の集い」で活動する、レズビアンの娘さんを持つ母親など、12人の方が紹介されています。

朱喜哲『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす 正義の反対は別の正義か』を読みました。

「正義」や「公正」といった「正しいことば」に対して冷笑的な態度が向けられている現状のなか、そうした言葉の使われ方を丁寧に解きほぐしながら言葉の意義をとらえ直してゆく本で、すごく良かった。

少し前の朝日新聞の「リベラルは正義に依存している」の記事にモヤつき、その後の波及にも暗い気持ちになっていた時に、記事を受けてこの本をオススメしてくれた方たちのおかげで手に取ったが、読んで本当に良かったです。

そしてあの記事では、組織やグループにおける同質性や硬直化によって対話ができなくなっている実感について話しているはずなのに、その問題意識を「正義」という言葉を持ち出して語ることで、その言論が結局、周縁に置かれている人や苦しみながらも行動している人への害になってしまっていると改めて感じる。

そのほかの8月に買った本。

『喉に棲むあるひとりの幽霊』(デーリン・ニグリオファ/吉田育未訳)は、250年前の詩人の姿を捉えようとしてもがく著者の、痛みと切迫感に満ちた破滅的とさえ感じる語りが凄かった。
奈倉有里さんの『文化の脱走兵』も素晴らしいエッセイ。『群像』の連載を読んでいたけれど改めて通して読むと、タイトルに込められた言葉に胸が詰まる。

◆『ナイルの聖母』スコラスティック・ムカソンガ/大西愛子 訳
◆『喉に棲むあるひとりの幽霊』デーリン・ニグリオファ/吉田育未 訳
◆『スイマーズ』ジュリー・オオツカ/小竹由美子 訳
◆『万両役者の扇』蝉谷めぐ実
◆『テヘランのすてきな女』金井真紀
◆『文化の脱走兵』奈倉有里
◆『マザリング 性別を超えて〈他者〉をケアする』中村佑子

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8月に読んだ本。ミステリとホラーばかり読んでいるうちに夏が過ぎてしまった。

◆フランス革命前後のヨーロッパの小国が舞台の、潮谷験『伯爵と三つの棺』が面白かった。最初はすごくくだけた調子に驚いたが、時間と時代の移ろいによって明かされていく真相の描き方が最後まで良かった。

◆オーストラリアミステリの『ぼくの家族はみんな誰かを殺してる』(ベンジャミン・スティーヴンソン/富永和子訳)は、それまでの章立て手法がにわかに活きる最終盤の構成が好きだった。

◆話題のホラー、上條一輝『深淵のテレパス』は、重要なことから些細なことまで全ての会話やシーンにさり気なく仄めかしが盛り込まれていたと分かり、デビュー作なのに上手いなあと。
それと日本の会社員たちが毎朝作り出す葬列、暗澹たる日常の書きっぷりがスゴイ。辛い。

◆松原タニシさんの本を初めて読んだのだが、私がこれまで想像していた「賃貸物件としての事故物件」の様子とは違いすぎたし、相当にエグかった。「怖い話」の意味が違う、妙に迫力のある話もバンバン出てきて、唖然としてしまう。

梯久美子『戦争ミュージアム ──記憶の回路をつなぐ』

戦争の災禍の記録、その時代を生きた人々の記憶、戦争の被害と加害を伝え継承する資料館や記念館など、著者が足を運び取材した日本各地の博物館が紹介されています。

国内各所で起きた様々なことを端的に学べるので、子供たちにも分かりやすくてオススメだと思う。特攻隊をはじめ戦争について歴史認識が歪んでいっているのが恐ろしいが、子供たちには事実を事実のまま知ってほしい。
などと言っている私も沖縄の戦争マラリアの甚大な被害など、知らなかったことも多くあり恥ずかしくなった。

◆沖縄県石垣島「八重島平和祈念館」
マラリアの有病地を避け長年暮らしていた八重島諸島の住民が、軍令により有病地へ強制移住させられ、総人口の53%が罹患し多くの犠牲者が出た

◆広島県大久野島「大久野島毒ガス資料館」
日本軍の毒ガス製造に、学徒動員された子供1,100人を含む 6,700人が従事し、事故や健康被害で多数の死傷者が出た

◆茨城県「予科練平和記念館」
予科練出身者が特攻任務に就くことが多く、戦地へ赴いた8割が戦死

◆山口県大津島「周南市回天記念館」
人間魚雷として製造された特攻兵器「回天」の基地があった

他にも各地に建つ14ヶ所の「戦争ミュージアム」が載っています。

アンソロジーと言えば、『MONKEY』の「ニュー・アメリカン・ホラー」特集で柴田元幸さんが書いていたが、ホラー・アンソロジーが次々に出たり文芸誌でもホラー特集が組まれるなど、ホラーはいま「旬」とのこと。
ジョーダン・ピール監督が編者の一人の黒人ホラーアンソロジーや、先住民族作家たちによるホラーアンソロジーとか、絶対読みたい!邦訳が出てほしいなあ。
今号での掲載作品も、ネイティブ・アメリカンやアフリカン・アメリカンである作家のエスニシティから生まれた「ホラーと政治が溶けあったような」物語で、すごく良かった。

ところで今回の『MONKEY』、うちの最寄りの大型書店ではかなり早く売り切れていた。普段はもっとジワジワと減っていくのに。
海外ホラー特集の需要が実はめちゃくちゃあるのか、みんなブライアン・エヴンソンが大好きなのか(私も『ウインドアイ』が好き)、ヒグチユウコさんの表紙に惹かれた人も多くいたのか。

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『BRUTUS』のSF特集も面白かった。294作品を紹介する「現代SFキーワード辞典」がすごいボリューム。
それと「海外SFの現在地」で橋本輝幸さんが紹介していた、アフリカ各国や南アジアの作品がどんどん日本で訳されてほしいな。挙げられていた未訳作品の中では特に、32人のアフリカ系作家のアンソロジー『Africa Risen』が気になる。
世界各国のアンソロジーをもっと読みたいよ。

『文藝』秋号の世界文学特集でも、粟飯原文子さんが「様々なアフリカ人作家によって様々な場所、様々な言語で書かれるアフリカ文学作品が翻訳されてほしい」と書いていたけれど、ほんとうに、同時代を生きる現代作家による「今」の作品をもっと読みたいし、広く出してほしいな。

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7月に買った本。『星の時』が忘れがたくて発売を心待ちにしていたクラリッセ・リスペクトル『ソフィアの災難』、最高な短篇集でした。
どんな本なのか何も知らずに開いた柴崎友香『百年と一日』は読みながら様々な感情が去来して、いてもたってもいられなくなった。

◆『歩き娘 シリア・2013年』サマル・ヤズベク/柳谷あゆみ 訳
◆『約束』デイモン・ガルガット/宇佐川晶子 訳
◆『ソフィアの災難』クラリッセ・リスペクトル/福嶋伸洋、武田千香 訳
◆『感情のアーカイヴ』アン・ツヴェッコヴィッチ
◆『お砂糖ひとさじで』松田青子
◆『バトラー入門』藤高和輝
◆『戦争ミュージアム ──記憶の回路をつなぐ』梯久美子
◆『なぜ難民を受け入れるのか ──人道と国益の交差点』橋本直子
◆『強迫症を治す』亀井士郎、松永寿人
◆『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス/鼓直 訳
◆『生贄の門』マネル・ロウレイロ/宮崎真紀 訳
◆『モルグ館の客人』マーティン・エドワーズ/加賀山卓朗 訳
◆『風に散る煙(上・下巻)』ピーター・トレメイン/田村美佐子 訳
◆『フェミニズム』竹村和子
◆『百年と一日』柴崎友香
◆『double 彼岸荘の殺人』彩坂美月
◆『映画とポスターのお話』ヒグチユウコ、大島依提亜

橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』

そもそも国連の難民条約において「難民」がどう定義されているのか、世界では難民をどのような方法で受け入れているのか等、これまで正確には知らなかった様々なことが整理され理解できた。
SNSで拡散される、フェイクで溢れかえった「難民受け入れ」の「是非を論じる大前提として、必須の事実と論理の提供を目指す」と冒頭にある。

サブタイトルにある通り、難民受け入れとはその時々での外交政策の利害関係が如実に反映される、人道と国益が複雑に交差する営みであることが明らかになる本であり、諸外国の、そして日本での現在の状況や懸念点についても詳細に説明されていて、めちゃくちゃオススメです。
(冊子の印税は日本のアフガニスタン現地職員の女児の教育資金のために全額寄付)

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