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hanmoto.com/bd/isbn/9784910413
『おくれ毛で風を切れ』読み。『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』の著者の日記エッセイ第2弾。家族との家での暮らしの日記なので、お子さん達に許可を取って出版されていることに安心する。著者から年齢一桁台(本の中では時を重ねて中3になるが)への子どもたちへの愛情はもちろんのこと、尊敬の念が語られているのがとにかく心地よい。年齢による経験不足で知らないこと・できないことを読み手を笑わせる材料として提供していない(と自分は感じる)。何より驚くのが食事の様子で、日々に必須の食事は頻出事項なのだが、あまりに自分のテーブルと違っていて新鮮。食べる必要性は同じでも、それぞれの内容でいいし、これが出来ていないと悩まなくてもいいんだなあ。
p.250三年を経て職場の桜の名称を知り「わかったとたんにあれこれの文章にヨウコウザクラと書きまくった。(略)街路樹が、もう自分と無関係ではなくなった。これだ、これこそがきみの名前を知ることそのものだ」に唸らされた。名前を知ることは関係性が新たになることでもあるのだ。

『紫式部と清少納言 二大女房大決戦』読み。明らかに大河に合わせて刊行された作品で、十代からずっと好んで読んできた作家にこのお仕事が来たのが感慨深い。大河の3話で見たやつ!!と往年のチャレンジ漫画の展開を思い出す冒頭からの、清少納言が出てきてハチャメチャが始まる。著者特有のコミカルさは抑えめであったが、作中のオリジナルストーリーに歴史ネタを混ぜる手腕の上手さはそのまま。宮中に現れた幽鬼を調べるため式部の局に転がりこんで式部の集めた書籍を読み式部が運んでくれる膳を食いと清少納言が元気も元気でちょー良かったです。あと和泉式部もあれだけ大活躍なのだから後書きにあったように没案の三大女房大決戦がよかったな。
あの時代ならではのシスターフッドをやっていた。
著者のファンとして一番ウケたのは解説の人なんですけど…。あれは何。どういう企画?なんだ。

『成瀬は信じた道を行く』読み。成瀬第二作。一作目よりはインパクトが少ない。インパクトの少なさは成瀬の行動ではなく、お話の作りが「成瀬と会った誰かが前進する」ものばかりだからかな。いや後退して欲しいとかではないのだが。それぞれが短編なので余計に「出会いと前進」のテンプレートに感じてしまった。成瀬に奇抜なことをやらせて読者への見せ物にすることはない姿勢が貫かれているのは好感。あとやっぱり島崎あっての成瀬なので、お互いを思い合ってコミカルにすれ違う最後の大晦日のお話がめっちゃ好きだった。観光大使の相方、キャラクターは好きだけど、だからこそお話を『あの子は貴族』レベルに掘り下げて欲しかったところはあるよ。出版社が商売を急がせずじっくり書かせてほしいシリーズ。

『絵本のなかへ帰る 完全版』読み
honto.jp/netstore/pd-book_3219
書店を経営する著者が自分の好きな絵本、自分を育ててくれた絵本を振り返るエッセイ。絵本を読んでもらった記憶を回想するお話が大半で「帰る」という言葉がぴったりだった。しかし喜びだけでなく、親しい人を亡くす悲哀や仕事の辛さもあり、石を齧りながらも子どもに絵本を届ける仕事への決意を語る場面もある。
自分は絵本をがぶがぶ読んだが、自力で読んだ時の記憶しかなく、読んでもらった光景の幸福が語られる度に覚えていられる人ってすげえなと思った。僕は本当に幼少の記憶を落として来た(忘れっぽい)ので、「子どもと本の記憶」という語りそのものが読んでいて良かった。
p.28『子どもが悲しい思いをした時、眠りはそれを薄めてくれる。眠れば、全てを忘れなくとも、悲しみは一夜また一夜と子どもたちから遠くなっていく。子どもたちよ、何の不安もなく、明日来る喜びのために深く眠れと願う』に涙ぐんだ。生きていくとは時が経つことだが、その時間は繰り返しではなく進行と変化で、「明日来る喜び」が必ず在るようにすることは、大人の責任だろう。

『法治の獣』読み(2022年5月。ツイッターからの転記)。
地球人類がお外に出て行ってファーストコンタクトする相手を生物学的に突き詰めたSFで、めっっっちゃ良かった…。生態学や生物行動学に興味ある向きにおすすめ。女性の口調が役割語強めなのは却って古い小説を読んでいる印象になってしまったが、女性と男性が出てきて一切の恋愛話が無かったのは個人的読みやすさに貢献している。「方舟は荒野を渡る」が特に好き。地球人類が地球外生物とコンタクトを取ろうとする時、それを相手が望んでいるかどうかは二の次の好奇心であり、相手の知性や生命を破壊する危険性を常に伴う「奪う」行為であると省みた後の、思考の着地が爽やかだった。

honto.jp/ebook/pd_32812335.htm
『文学キョーダイ‼』ロシア文学研究者の奈倉と「同志少女」の逢坂によるきょうだい対談。表紙のイメージから文学を仕事とする二人の過去の語りかと読み始めたが、ルーツへの言及もありつつ、本題は「文学で達成する平和」についてだった。各々本を愛しながら興味関心は重なるようでずれていて、しかし小説は戦争を否定し平和を達成する手段になり得るし、それをやっていくという決意がみちみちの内容で、勇気をもらえた。
何かしらの理由を押し立ててフィクションが見下されるとき、それは見下す側の偏狭さを表すと語る。例えば戦争小説は戦争を体験した人しか書いてはいけないわけはないと奈倉は言う。ここはすごくなるほどと思ったところで、体験した人が書いたものが本当にリアルならば読んだ人もまた一種の戦争体験者になり得ると。そうでなければその本はリアルを描けていないことになる。また戦争小説は実際の戦争を二度と起こさない意志を伝承させるものでもあると。
僕はフィクションを好み、色々なリアル体験の乏しさに後ろめたさがあるのだが、それでも現実を平和に持って行くことに関われることはあるのだ。
たまたまこの時期に繙いたため内容の多くが「今」と重なったが、著者たちの関心は常に平和から逸れないからこそ>

honto.jp/ebook/pd_29713637.htm
『フィフティ・ピープル』とても面白かった。タイトル通り50人の視点と、視点にはならないが時々顔を出す人々とで織られた物語。嫁姑の垣根を取っ払うチェ・エソン、自分は頭がいいのではなく効率的なのだと定義する名医ユ・チェウォン、時に不謹慎な笑い声を立てちゃうけれど笑い飛ばすことで人生を築いてきたチン・ソンミ、いつでもどこでも親切に努めるイ・ホ、司書という仕事が魂にあって一人身がとても楽なキム・ハンナ、己の恵まれた環境と才覚を女性保護にフル活用するイ・ソラ、イム・チャンボクが当たり前すぎた福祉に恩恵を受けていたと気づく瞬間、友人にカムアウトが成功したチ・ヨンジの喜び、チョン・ダウンの元にあった電話番号。数十人のひそやかに連なる日常の背景に現実社会での事件を敷衍し、見つめ直すことで、どうにもならない・できない事態もひとりで立ち向かわなくていいのだとしみじみと染み入ってくる。
p.311 イ・ソラの章『いちばん軽蔑すべきものも人間、いちばん愛すべきものも人間。その乖離の中で一生、生きていくだろう』

『みどりちゃん、あのね』第一話
michikusacomics.jp/wp-content/
べえべえ泣いた。『うみべのストーブ』の著者の新作。
「野球する女の子」「地元を出て働く女性」から始まった物語が、家に着くやいなや男女によってバッキリ“居場所”が分かれる様子に進む。男は居間でテレビ、女は台所で料理、というやつだ。その説明なしの自然な流れがさあ、自覚して描いてる著者だと分かるので安心できた(ジェンダー役割!!!と呻きはするが)。
じゃあ個人個人を見ずに、男と女に分けられて当て嵌められる旧い役割を、「伝統」と呼ばれるそれらをどうしたらいいか、「この家」に育ってただ親を怨むことに徹することもできないししたくない時にどうしたらいいか、鮮やかに解決のひとつを見せてくれて良かったよ〜〜〜。
連載なのでこれでハッピーエンドとならないのもよく分かるしね…。一度だけジェンダー押しつけ役割が逆転したところでね……。
読んでいて思い出したのが柚木麻子『オール・ノット』。真珠のこぼれない結び方。貧困と性被害と今の現実政治を止められずにどんどん縮小して塞がってしまった未来を、特に女性の日常に即して描いた小説。その中で「自分が同じ立場になったからわかる。下の世代が自分よりさらにひどい苦境に立たされているのを見ると、(続く)

honto.jp/ebook/pd_32519501.htm
『鋼鉄紅女』読んだ! なるほど良かったです。この表紙とあらすじと登場人物一覧を見て女性が男性より存在を低く見られるのは社会制度のせいである、だから復讐(解体)します、の物語だと思わんかったから、先に読まれた方々の感想があってよかった。三人カップルの成立もよかった。
何よりビックリしたのが匹偶が翻訳に採用されていたこと。フウフの意味合いも持つが「夫婦」では表せない陰陽和合っぷりに則していた。正直、陰陽に女性と男性を当てはめる古代の思想を援用されてもなあと冒頭からモヤついてはいたけど、この物語なのでそれをそのまま認める話にはならなくて靄は晴れた。
だいぶ削ったらしいが異性同士による性行為の描写(詳細さはない)があるのと、女性や「異民族」に対する暴力行為が顕著なので注意。本の最初に注意書きがちゃんとあります。
続いてもらわないと困っちゃうね。
共闘することに意味があると分かりつつ、現状匹偶パイロット達は=ロマンティックなカップル表象でもあるので、一人パイロットも欲しいな!の気持ち。

honto.jp/ebook/pd_29499744.htm
那洲雪絵の『八百夜』おもしろろ。飄々とした不老不死の語り部が冬支度に追われる国を訪れ、昔々に仕入れたお話を語りに語り、人々を元気づけていく話。
なんだけど、その国では前王の時代にその王によって女性たちが虐殺されている。やがて王は殺され4歳の病弱な子どもが跡を継ぐ。政治は一族の男たちが占有して鎖国状態。さらにはどうも世界は一度壊滅でもしたようで、日本の各県を思わせる各国の人口は各々数万人と極端に少ない。
「千夜一夜」のごとくお話を続けることで人が人を憎まないでいられる場を作り出す主人公の懸命さ。またその民話由来のお話たちの元ネタに気づく楽しみ。病弱な現王のゆくえ、前王に殺されまいと抗い隠れた女性たちのその後など、雪に覆われた小さな国の秘密に迫ることが世界の秘密もを繙くだろう広大な気配がとても良い。好き。
個人的には3巻からノッてきた。リカとバイカの姉妹の出番が増えたからだな。

honto.jp/ebook/pd_32622972.htm
『公孫龍』3巻、おもしろかったー。これから「完璧」の故事、始めます!ってところで次巻に続くになったのでゲラゲラ笑ってしまった。著者にここで笑わせる意図は絶対になかろうが。
『史記』などに記録された歴史は長大で、どうしても点と点、因と果の話になりがちなところを、史実のひとも創作のひとも混ぜこぜにして精緻なタペストリーを織りあげるのが宮城谷の真骨頂である。
ひとの潔さ、情の篤さ、天を見上げながら待つのではなく理想を手元に引き寄せるべく努めること、人と人との関わりで社会が動いていくこと。今シリーズは特に謀や自己の利益に奔る人物をメインから遠ざけて、徳という概念のカッコよさに筆が傾けられている。好漢たちの物語が読みたい人に。
古代中国ものなのでどうしても「人=man」である偏りは強い。ただ宮城谷の描く女性表象はどうも固定的だなあと長らく感じていたのだが、今回ほぼ唯一の女性キャラが武を究めていくので驚きと喜びがあった。このまま「妻」にならん女性になってほしいよ〜。時代的に難しいのは分かりつつ。
あと「男色」への揶揄が一箇所だけ入る。不要だったのでは?と思っています。

honto.jp/ebook/pd_32577642.htm
『蒸気駆動の男 朝鮮王朝スチームパンク年代記』読み。朝鮮王朝スチームパンク年代期!に惹かれたらもう堪能できます。王朝建国当時の数百年前から居ると噂される都老を年代記の各所に配しつつ、王朝政治に振り回される貴族や「賤民(階級上の呼称)」の人生を描く。特に好きなのは「君子の道」と「知申事の蒸気」。「賤民」は財物なので人間として扱われませんと延々描いた上での逆転劇と、血縁者も敵となる王宮にあって蒸気の人と無二の友人となり即位した後も厚遇した王とその彼から死を告げられる人間の感情はない蒸気の人との親交と(解説を読むに)恋愛。
歴史を振り返って書く今の物語としてどれも良かった。人間のようで人間でないと言われる蒸気の人や、階級社会によって人生のすべてを他者に奪われた「賤民」の姿を通して人間のありようにも踏み込んでいる。
もっと歴史を知っていればよかったな、となりました。背景への興味も湧く本。

honto.jp/netstore/pd-book_3247
『「若者の読書離れ」というウソ』読み。遺伝的に読書という行為に親しめる・ないがあるの本当か〜??とどうも懐疑的にはなりつつ、十代の読書傾向から若者がハマる「型」を見いだし、実際に読まれている作品を「型」に従い分析するところが面白かった。SLAの調査上において不読率は下がっている事実を示し、大人達が子どもは本を読んでいないと見る・語るのは昔の印象や(低い時代が確かにあった)、大人が思う「子どもに読ませたい本」が読まれないからだと指摘する。つまり「読書離れ」は大人達の「感覚」であるとのこと。引っかかりポイントも有るにはあるのだが、基本的には子ども達が好きな本を読むこと、何とか本を読んでもらいたいと頑張る大人達のことも応援する本だった。


msz.co.jp/book/detail/09596/
『招かれた天敵』エキサイティングでした。

msz.co.jp/news/topics/09596/
上記で公開されている「はじめに」だけでも読んでほしい。p2『自然と人間が調和していたとされる過去の日本は、もはや異国である。もしそんな異国に魅力を感じるのだとしたら、それはおそらくロマン主義のエキゾシティズムと同類のものだろう』とバチバチやってる。

食料のため、産業のため、景観を豊かにするため、国から国へと運ばれた植物たち。移された植物自体が土地を覆い尽くして百年の害となる所もあれば、植物にひっついていた・もしくは目的を持って移入された虫が定着して農業の大害虫となる所もあった。そこで招かれたのが「天敵」である。
この天敵(本来の呼び方は拮抗種)を使って害を食い止めようという方法は生物的防除と呼ばれる。防除を任された人々は原産国や類似の場所を訪れて調査し、実験も重ねて、これぞという天敵を野に放つのであったが、ついぞ大成功をおさめることはなかった。むしろ天敵たちは再び害虫へと“変貌”を遂げてしまう。 》

honto.jp/ebook/pd_32422382.htm
『墨のゆらめき』読み。良かった〜〜〜!
お話が面白いのはもちろん、ジェンダーバイアスを排除する姿勢(男性主人公が例え自分に彼女がいても料理は手の空いてる方がするものだと言う。女子が相撲をやって何が悪いとふと挟んでくる)、ヤクザに“なってしまう”のは本人のせいなのかと社会的な貧困を批判したり、男性の性被害を聞いて加害者に怒りを向けたりと、相当意識的に社会問題を表に出してきていてgoodでした。
ホテルの接客が天職の男性主人公が仕事をきっかけに態度がでかくて体もでかくて子どもに好かれている男性書道家に巻き込まれ、代筆屋を手伝うことになっちゃって、最初のお客さんは小学生、しかも報酬はうまい棒?! があらすじ。態度のでかい猫もいる。
三浦にはそろそろ男男がロマンスの決着を迎える作品書いてほしいなあ。今作、途中で主人公が書道家から口説かれてるのか?と思うくだりが入るのだが、「ギャグ」にすることも、嫌悪感に使うことも一切しない。実際もし口説かれたらこの主人公なら真面目に返事を考えるだろうなと思わせる雰囲気作りに成功している。好きな作家が「今」をきちんと見つめていると分かる作品で大変に心落ち着いた…。
将来は遠チカがいいです(願望)

 

honto.jp/netstore/pd-book_3211
『詐欺師はもう嘘をつかない』読み。バイセクシュアルの女の子が主人公。母親から詐欺の道具として子ども時代を支配され、彼女がターゲットに定めた男たちが気に入る「女の子」になるよう名前や性格を躾けられていた。現在は母親と彼女の最後の男をともに刑務所にぶち込んだ後で、妹の自由と安全のためなら何でもする姉と一緒に「ノーラ」として暮らしている。そのノーラが元カレと今カノの三人で訪れた銀行で、銃を持った強盗と遭遇。生還するために過去の女の子たちの仮面と技術を再びまとう話。
vs銀行強盗という非日常のサスペンスに、性的暴力や虐待の過去の日常が回想で重ねられ(なるべく直接的な場面描写は避けて)、自分であって自分でなかった、母親に使い捨てられてきたガールズを痛みから脱出させる物語だった。
「大人の男が望む女の子」の型とは対蹠的に、ノーラと彼女であるアイリスの口調には役割語がほぼ見当たらない。50年代のドレスを普段着にする少女の口調に過度に「女の子」らしさをまぶさなかったことが翻訳の方の判断なら、この方の翻訳は読む基準になるなと思った。 〉

Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。