junposha.com/book/b644006.html
『チョコレートを食べたことがないカカオ農園の子どもにきみはチョコレートをあげるか?』
「読むワークショップ」。ターゲットは中高生かな。貧困、多文化共生、エシカル消費などをテーマに、キャラクターが混ざり合わない複数の意見をあげる様子を描いた後、選択肢は二つじゃない・もっと細分化して見てみよう・立場によって意見は異なるよねと論を広げるつくりがよかった。どう考えてたら「正しい」のかと悩む時、一個の完璧な答を自分は注目しがちだから、でも現実の問題には一個の答じゃ足りないよと見せてくれた。特にワークショップとは別の、実際にその問題と向き合って活動する方達のインタビューがよかった。電子マネーでの賃金の支払いだと盗まれないし遠くからお金を受け取りに来させなくてもいいとか、そのチョコレートの問題はもう問題として古い実情はどんどん変化しているとか、ハッとする。

勉強はきっとウチらに平等だ! - 蚊帳りく [ tonarinoyj.jp/episode/25506897 ]
子ども達……。この物語は演出(地に伏せながら“一家の長”の足にしがみつくお母さんの指の荒れ方よ…)によって読者という他者に一見「貧乏」してるように見えない子ども達の困窮への理解を突っ込ませてくるけど、現実では他者に言いたくない・言っても伝わる感じがしないから言えない等の家庭事情がもっともっとあるだろう。お金はあるのに子どもに使わない無責任な親とかさあ。この子達の悔しさや怒りが結局諦めることで「消化」される社会にならないにしなくちゃならない。
偏見が出された時に偏見だよと即座に指摘できるのも、すぐに反省できるのもすごくコミュニケーションだった。すごい若者達だし、これを描ける著者もすごい。
勉強して、知識や技術を身につけることは確かに自分の新しい生活を築く基盤になるけれど、例えば氷河期世代のように就職先が少なかったり、本人にはどうしようもない属性をもって篩から落とされたり、そもそも勉強することを阻害されたりの現実がある。勉強すれば立身出世できるできないのはサボったお前のせいという偏見、打破されろ。
読んだ後に進学資金を親に使い込まれた子どもの場面から始まる『水車小屋のネネ』も思い出した。

honto.jp/ebook/pd_33398741.htm
今日知った『下足痕踏んじゃいました』を4巻まで読んだ。一巻無料キャンペーン中!
ハラスメントをハラスメントと言い切るところや、被害者との距離感、警官ひとりの情熱が組織を変えるわけじゃないけど「はみ出さない」ギリギリを攻める工藤と加藤のコンビが良い。セリフのテンポもよいのと、なんか絶妙に間が抜ける瞬間が度々あってそこも好き。ギリギリを攻めたために監察官に合理的に説明できますか?と詰められるコマの文字の詰め方、刺傷事件の現場でこんな欲望まみれの場所によく切れるナイフは置かない方がいいというアドバイスしたりとか。
熱く楽しく読める警察もので良。

honto.jp/ebook/pd_32677409.htm
『没落令嬢のためのレディ入門』読み。口論する仲の異性同士の恋愛もの。19世紀初頭のきらびやかで排他的な英国貴族の社交界に、父の遺したべらぼうな借金を返すため&家と妹達の暮らしを守るため、自分を高く買ってくれる結婚相手を探しに乗りこんだ「勇敢な生き物」(p.380)こと二十歳のキティ。まんまと獲物(弟)を釣り上げたと思いきや伯爵様(兄)に見つかり邪魔されて社交儀礼の丁々発止を繰り広げる。弟から手を引く代わりに借金を返済できそうな金持ちの内情を教えてと皮肉屋の兄をずかずか訪ねる押しの強さ、その行動のほぼ全てが家族のためであり、時には自分に不利になる行動も取ってしまう情の深さが素敵。お金目当ての結婚がなぜ悪い?金がなければ生活はできないのに特に女性は、という現実の仕組みへの視点が強調されており、ロマンス小説としてもちろんラブ&ハッピーは用意されているが、恋を期待することへの難しさで引っ張る力があった。また、では下級とはいえ貴族の血筋に連なる者より更に「下」の庶民はどうなのかにも意識が向けられてはいるし、戦争経験者のPTSDにも言及がある。しかし踏み込みきってはいないのを残念に思う。
ジャンル物としての面白さは確実で、後味もよいエンタメ。

灰谷健次郎『兎の眼』、名作だ……。読み継いできてくれた人々ありがとう。おかげで残って遅れて読む気になったやつも間に合いました。通勤電車で泣きながら、目が離せなくてずっと読んでた。また、この年齢になって読んだので、書かれたものの苦しさとその苦しみの灰が子どもたちの頭に降らぬようにするのだという決意に自分が気づけたと感じる。
ついさっき読んだ、1998年角川文庫版のp.323『いまの人はみんな人間の命を食べて生きている。戦争で死んだ人の命をたべて生きている。戦争に反対して殺された人の命をたべて生きている。平気で命をたべている人がいる。苦しそうに命をたべている人もいる』が今朝接した日本国首相の「戦争のできる一流国家になった」発言と呼応しまくった。ふざけんなよ。戦争の犠牲になった人の命を悼むこと、それに対してとれる国や国を作る人々の責任は、反省し続けることじゃないか。「戦争ができる」などと何処かの任意/架空の国を「敵」だと示すことでなく、戦争を繰り返さないことしかないじゃないか。

honto.jp/ebook/pd_33126604.htm
『水車小屋のネネ』優しさと実直さと誠実さで社会を包摂的に描くお話だった。2章からほぼ泣いて読んでいた。坦々とした文章で、例えば8歳の子が母親の婚約者から夜に家を追い出されること、外国から労働に来た人が「人間狩り」だと日本人中学生に追い立てられる場面(無事)、友人と栄えた都市に出て洋楽CDを買うこと、牛肉を食べれて喜ぶ若者など、危険なことも幸せなこともすべて日常として一本の道を作っていく。でも狭い道じゃなくて、みんなで広くして、でこぼこをなるべく平らにして、次来る人に残していく道である。生きている限り明日に行かなくていけなくて、そんなこと考えられないよという時でも「前向き」でなければならない時間の、切り離したい痛みを描きながら、絶対にそんな時間を行くひとを孤独にしない。「わたしがそうする」と宣言する物語だった。
蕎麦が食べたい! 血縁による継承も男女の恋愛の出番も極限に少なくしながら、それらを軽んじず、でもそうじゃなくたって大丈夫じゃないかと高らか。藤沢先生の大人として子どもを陰に日向に助ける教師らしさがよかったな。水車小屋に関わる各々の人間とネネとの関係がバリエーション豊かなのもよかったなあ。

挑戦することに不屈の物語『龍と苺』がWEBで180/181話を無料公開中。読んで!
sunday-webry.com/episode/32697
将棋が強いやつは暴力も強いので主人公の中学生・苺ちゃんをはじめ、王位・王座などの名立たる面子が対局前に一殴りする奇天烈さがフックにありつつ、ちゃんと将棋をする。将棋物語における奨励会という存在、天才の中の天才にならねばならないプロ達の葛藤と夢と不屈さが超いい。しかし何より主人公が素敵。将棋には何の知識も感慨もなかった苺ちゃん。イチゴぬいを作るのが趣味で、しかし命を懸けられる本物の闘いを欲していた。
「女は男より将棋に弱い」と決めつける風潮を何度も描きながら、それを打破してゆく苺ちゃんが爽快であるとともに、彼女が乗り込んだ将棋の世界ではいわゆる「女の子」扱いが引いてゆく。生一本の才能と努力による勝負の世界が見えてくる。うまいのがそこで「世間」との落差を出すところ。対局飯や美少女棋士呼びばかりが囃される。
そうした社会批判の視点が顕在であるのが好きだし、苺ちゃんの破天荒さが曲げられずに他者の人生への敬意を獲得していく様子がいいんだ…! それすらコメディに用いてくる。けれど決して成長することを馬鹿にしない群像劇。
181話はネタバレ無しで“体験”してほしい。

honto.jp/ebook/pd_33143237.htm
『両京十五日 凶兆』おもしろかった!! ザ・エンタメ。中国・明代。尊敬される父親の金で呑んだくれるも裏では事件を解決して父親の手柄にしていた捕吏、忠に篤く非義は行わぬと決めて貫く記憶力抜群の文官、才能あふれる医者の技を亡き親友の復讐に投じる女性の三人が、偶然に出会い、命を狙われる太子の仲間となって彼を即位させるため都に向かう旅に出る。
即位の期限まであと十五日。ちっとも寄り道できないのに一日に一度は危難に襲われて、つど旅路はご破算。ずっと危難→脱出の繰り返しで進むが、危難のパターンが豊富&徐々に明かされる人物たちの心情に引きこまれて濃密な時間を過ごせた。特にパーティーの結束が強くなる後半では各自の得意を互いに信じて任せられるようになるのがコレだよ!で良かった。
例えば文官は頭でっかちで市井に通じず騙されたり窮地を呼んでしまったりするのだが、絶対に曲私をせぬので、金がなければ協力しない捕吏が自分の真珠を預けもする。パーティーの中で一番の切れ者で胆力があるのは女性である医者だし、太子は史書に己がどう記されるか常に気を揉んでいるが身分を隠した旅で王家の政治が民を明るく照らしてはいない現実を知ってゆく。(続く)

hanmoto.com/bd/isbn/9784163917
『化学の授業をはじめます』一気読みした。とにかく面白く、犬がすばらしく、自分が自分でいるために闘うシス女性かつ化学者の話。1950年代のアメリカが舞台。「女」には結婚して名前を失い、子どもを生み出し、完璧な家事と美貌の才能が求められ、使命として認められていた時代をこれでもかとエピソードを重ねて描く。その大半は現在にも続くが、作中でそれは社会の構造のせいだと明言するし、あなた(主人公)が好きだとシス女性達が表明する勇気と勇気が行き交う盛り上がりがとても好き。妊娠したことでクビにされ生計を立てるべく始めた「お料理教室の番組」を閉める一言がもう超カッコよかった…! あとマジで犬が良良良。主人公の体の中で育つ新しいいきものに与えるべく路上からチョークをくすねるシーン超かわいい。
一方で懸念点もある。
・主人公が性的暴行に遭う描写が2ページほど記され、女性のエンパワメントとして売り出されている商品であるのに注意書きがない
・公民権運動には数行触れるのみで登場人物はおそらく総て白人
・トランスパーソンのことは念頭にもなさそうな印象を受ける
50年代が舞台だとしても、現在に書かれた作品として、面白く読みながらソワソワする感じが消えなかった。

honto.jp/ebook/pd_32334467.htm
『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』二人のお子さんと暮らす母親を務める方の日記。働いて、学校に間に合うように子どもたちを起こし、ご飯を食べさせ、質問に答えたり分からないことは分からないと告げたり、アイスは一日一本の秩序をみんなで守る、一つのおうちのたゆまぬ生活集。
特にぬいぐるみに声を当てて子どもさんと土俵入りする場面、愛してくれてる事を知ってるよと言われて届いていて嬉しいと著者が思う場面など、共に遊び、共に喜び、でも未成年と同じ目線になりすぎないように注意する、親子の感情の表出の豊かさが沁みた。
年少のお子さんが通う、馬に乗ったり散歩したり等のアクティビティが多めの「作文教室」が気になってしょうがない。僕も通ってみたかった。
原因不明の首の腫れ、原因不明の発熱と頭痛でモヤモヤしていた心身で、とても楽しく読めました。(2023年5月の感想の再投稿)

hanmoto.com/bd/isbn/9784910413
『おくれ毛で風を切れ』読み。『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』の著者の日記エッセイ第2弾。家族との家での暮らしの日記なので、お子さん達に許可を取って出版されていることに安心する。著者から年齢一桁台(本の中では時を重ねて中3になるが)への子どもたちへの愛情はもちろんのこと、尊敬の念が語られているのがとにかく心地よい。年齢による経験不足で知らないこと・できないことを読み手を笑わせる材料として提供していない(と自分は感じる)。何より驚くのが食事の様子で、日々に必須の食事は頻出事項なのだが、あまりに自分のテーブルと違っていて新鮮。食べる必要性は同じでも、それぞれの内容でいいし、これが出来ていないと悩まなくてもいいんだなあ。
p.250三年を経て職場の桜の名称を知り「わかったとたんにあれこれの文章にヨウコウザクラと書きまくった。(略)街路樹が、もう自分と無関係ではなくなった。これだ、これこそがきみの名前を知ることそのものだ」に唸らされた。名前を知ることは関係性が新たになることでもあるのだ。

『紫式部と清少納言 二大女房大決戦』読み。明らかに大河に合わせて刊行された作品で、十代からずっと好んで読んできた作家にこのお仕事が来たのが感慨深い。大河の3話で見たやつ!!と往年のチャレンジ漫画の展開を思い出す冒頭からの、清少納言が出てきてハチャメチャが始まる。著者特有のコミカルさは抑えめであったが、作中のオリジナルストーリーに歴史ネタを混ぜる手腕の上手さはそのまま。宮中に現れた幽鬼を調べるため式部の局に転がりこんで式部の集めた書籍を読み式部が運んでくれる膳を食いと清少納言が元気も元気でちょー良かったです。あと和泉式部もあれだけ大活躍なのだから後書きにあったように没案の三大女房大決戦がよかったな。
あの時代ならではのシスターフッドをやっていた。
著者のファンとして一番ウケたのは解説の人なんですけど…。あれは何。どういう企画?なんだ。

『成瀬は信じた道を行く』読み。成瀬第二作。一作目よりはインパクトが少ない。インパクトの少なさは成瀬の行動ではなく、お話の作りが「成瀬と会った誰かが前進する」ものばかりだからかな。いや後退して欲しいとかではないのだが。それぞれが短編なので余計に「出会いと前進」のテンプレートに感じてしまった。成瀬に奇抜なことをやらせて読者への見せ物にすることはない姿勢が貫かれているのは好感。あとやっぱり島崎あっての成瀬なので、お互いを思い合ってコミカルにすれ違う最後の大晦日のお話がめっちゃ好きだった。観光大使の相方、キャラクターは好きだけど、だからこそお話を『あの子は貴族』レベルに掘り下げて欲しかったところはあるよ。出版社が商売を急がせずじっくり書かせてほしいシリーズ。

『絵本のなかへ帰る 完全版』読み
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書店を経営する著者が自分の好きな絵本、自分を育ててくれた絵本を振り返るエッセイ。絵本を読んでもらった記憶を回想するお話が大半で「帰る」という言葉がぴったりだった。しかし喜びだけでなく、親しい人を亡くす悲哀や仕事の辛さもあり、石を齧りながらも子どもに絵本を届ける仕事への決意を語る場面もある。
自分は絵本をがぶがぶ読んだが、自力で読んだ時の記憶しかなく、読んでもらった光景の幸福が語られる度に覚えていられる人ってすげえなと思った。僕は本当に幼少の記憶を落として来た(忘れっぽい)ので、「子どもと本の記憶」という語りそのものが読んでいて良かった。
p.28『子どもが悲しい思いをした時、眠りはそれを薄めてくれる。眠れば、全てを忘れなくとも、悲しみは一夜また一夜と子どもたちから遠くなっていく。子どもたちよ、何の不安もなく、明日来る喜びのために深く眠れと願う』に涙ぐんだ。生きていくとは時が経つことだが、その時間は繰り返しではなく進行と変化で、「明日来る喜び」が必ず在るようにすることは、大人の責任だろう。

『法治の獣』読み(2022年5月。ツイッターからの転記)。
地球人類がお外に出て行ってファーストコンタクトする相手を生物学的に突き詰めたSFで、めっっっちゃ良かった…。生態学や生物行動学に興味ある向きにおすすめ。女性の口調が役割語強めなのは却って古い小説を読んでいる印象になってしまったが、女性と男性が出てきて一切の恋愛話が無かったのは個人的読みやすさに貢献している。「方舟は荒野を渡る」が特に好き。地球人類が地球外生物とコンタクトを取ろうとする時、それを相手が望んでいるかどうかは二の次の好奇心であり、相手の知性や生命を破壊する危険性を常に伴う「奪う」行為であると省みた後の、思考の着地が爽やかだった。

honto.jp/ebook/pd_32812335.htm
『文学キョーダイ‼』ロシア文学研究者の奈倉と「同志少女」の逢坂によるきょうだい対談。表紙のイメージから文学を仕事とする二人の過去の語りかと読み始めたが、ルーツへの言及もありつつ、本題は「文学で達成する平和」についてだった。各々本を愛しながら興味関心は重なるようでずれていて、しかし小説は戦争を否定し平和を達成する手段になり得るし、それをやっていくという決意がみちみちの内容で、勇気をもらえた。
何かしらの理由を押し立ててフィクションが見下されるとき、それは見下す側の偏狭さを表すと語る。例えば戦争小説は戦争を体験した人しか書いてはいけないわけはないと奈倉は言う。ここはすごくなるほどと思ったところで、体験した人が書いたものが本当にリアルならば読んだ人もまた一種の戦争体験者になり得ると。そうでなければその本はリアルを描けていないことになる。また戦争小説は実際の戦争を二度と起こさない意志を伝承させるものでもあると。
僕はフィクションを好み、色々なリアル体験の乏しさに後ろめたさがあるのだが、それでも現実を平和に持って行くことに関われることはあるのだ。
たまたまこの時期に繙いたため内容の多くが「今」と重なったが、著者たちの関心は常に平和から逸れないからこそ>

honto.jp/ebook/pd_29713637.htm
『フィフティ・ピープル』とても面白かった。タイトル通り50人の視点と、視点にはならないが時々顔を出す人々とで織られた物語。嫁姑の垣根を取っ払うチェ・エソン、自分は頭がいいのではなく効率的なのだと定義する名医ユ・チェウォン、時に不謹慎な笑い声を立てちゃうけれど笑い飛ばすことで人生を築いてきたチン・ソンミ、いつでもどこでも親切に努めるイ・ホ、司書という仕事が魂にあって一人身がとても楽なキム・ハンナ、己の恵まれた環境と才覚を女性保護にフル活用するイ・ソラ、イム・チャンボクが当たり前すぎた福祉に恩恵を受けていたと気づく瞬間、友人にカムアウトが成功したチ・ヨンジの喜び、チョン・ダウンの元にあった電話番号。数十人のひそやかに連なる日常の背景に現実社会での事件を敷衍し、見つめ直すことで、どうにもならない・できない事態もひとりで立ち向かわなくていいのだとしみじみと染み入ってくる。
p.311 イ・ソラの章『いちばん軽蔑すべきものも人間、いちばん愛すべきものも人間。その乖離の中で一生、生きていくだろう』

『みどりちゃん、あのね』第一話
michikusacomics.jp/wp-content/
べえべえ泣いた。『うみべのストーブ』の著者の新作。
「野球する女の子」「地元を出て働く女性」から始まった物語が、家に着くやいなや男女によってバッキリ“居場所”が分かれる様子に進む。男は居間でテレビ、女は台所で料理、というやつだ。その説明なしの自然な流れがさあ、自覚して描いてる著者だと分かるので安心できた(ジェンダー役割!!!と呻きはするが)。
じゃあ個人個人を見ずに、男と女に分けられて当て嵌められる旧い役割を、「伝統」と呼ばれるそれらをどうしたらいいか、「この家」に育ってただ親を怨むことに徹することもできないししたくない時にどうしたらいいか、鮮やかに解決のひとつを見せてくれて良かったよ〜〜〜。
連載なのでこれでハッピーエンドとならないのもよく分かるしね…。一度だけジェンダー押しつけ役割が逆転したところでね……。
読んでいて思い出したのが柚木麻子『オール・ノット』。真珠のこぼれない結び方。貧困と性被害と今の現実政治を止められずにどんどん縮小して塞がってしまった未来を、特に女性の日常に即して描いた小説。その中で「自分が同じ立場になったからわかる。下の世代が自分よりさらにひどい苦境に立たされているのを見ると、(続く)

honto.jp/ebook/pd_32519501.htm
『鋼鉄紅女』読んだ! なるほど良かったです。この表紙とあらすじと登場人物一覧を見て女性が男性より存在を低く見られるのは社会制度のせいである、だから復讐(解体)します、の物語だと思わんかったから、先に読まれた方々の感想があってよかった。三人カップルの成立もよかった。
何よりビックリしたのが匹偶が翻訳に採用されていたこと。フウフの意味合いも持つが「夫婦」では表せない陰陽和合っぷりに則していた。正直、陰陽に女性と男性を当てはめる古代の思想を援用されてもなあと冒頭からモヤついてはいたけど、この物語なのでそれをそのまま認める話にはならなくて靄は晴れた。
だいぶ削ったらしいが異性同士による性行為の描写(詳細さはない)があるのと、女性や「異民族」に対する暴力行為が顕著なので注意。本の最初に注意書きがちゃんとあります。
続いてもらわないと困っちゃうね。
共闘することに意味があると分かりつつ、現状匹偶パイロット達は=ロマンティックなカップル表象でもあるので、一人パイロットも欲しいな!の気持ち。

honto.jp/ebook/pd_29499744.htm
那洲雪絵の『八百夜』おもしろろ。飄々とした不老不死の語り部が冬支度に追われる国を訪れ、昔々に仕入れたお話を語りに語り、人々を元気づけていく話。
なんだけど、その国では前王の時代にその王によって女性たちが虐殺されている。やがて王は殺され4歳の病弱な子どもが跡を継ぐ。政治は一族の男たちが占有して鎖国状態。さらにはどうも世界は一度壊滅でもしたようで、日本の各県を思わせる各国の人口は各々数万人と極端に少ない。
「千夜一夜」のごとくお話を続けることで人が人を憎まないでいられる場を作り出す主人公の懸命さ。またその民話由来のお話たちの元ネタに気づく楽しみ。病弱な現王のゆくえ、前王に殺されまいと抗い隠れた女性たちのその後など、雪に覆われた小さな国の秘密に迫ることが世界の秘密もを繙くだろう広大な気配がとても良い。好き。
個人的には3巻からノッてきた。リカとバイカの姉妹の出番が増えたからだな。

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