https://www.iwanami.co.jp/book/b649632.html
『あいだのわたし』読み。
内紛状態の故郷(ルビが一貫して「くに」)から逃れてきた難民家族の長女マディーナが主人公。ドイツ語を覚え、親友が出来て、新しい生活になじんでいく少女と対蹠的に”伝統的”な家父長制を強いるように変節してしまった父親。
ここでは爆弾は落ちてこない。怪我人を助けたって捕まらない。連れ去られることは殺されることを意味しない。けれど仕事はなく親友の誕生日にプレゼントも買えず自分の過去を話そうとすれば目立ちがり屋と嘲笑される学校生活、そして強制送還の可能性が常に在る。
15歳の少女の視点から安心な暮らしを得ることの困難さを描き、しかし潰されそうになってもしがみつき、愛する父親と対立してでも自分と家族を守る決断の物語だった。
マディーナの不屈さは彼女が書き続ける日記に「物語」が混じり出したあたりからとても強くなる。心を守るための逃避先だった空想が「物語」として確固たる形を得たとき、現実の彼女の強さとなる。家族のために急いで大人にならざるを得なかったマディーナ。子ども時代に終止符を打たれ、けれど己を生きることの自由が始まると感じられた。
特にラストの「闘い」付近は『ノマディアが残された』の光の帯を想起した。
そこには人間がいるのだ。