『田舎から見つめる田舎』よこのなな(群像2023年6月号収録)
『シーリと氷の海の海賊たち』の翻訳をされているよこのさんのエッセイ。すごく読みたいと思って図書館で取り寄せてもらって読んだ。
スウェーデンでの暮らしを通して(都市部の/文化の)周縁にいるひとたちを見つめたエッセイ。
「国内外問わず、田舎の物語があまりないのはなぜだろうと常々思っている。単純に人が少なく語り手も少ないからだろうか。いやしでもなく、おみやげをたくさんくれる勝手なふるさとでもなく、リアルな生活の場としての田舎は、いまさら創生などといわれなくてもすでにしっかりとある。美しい心の原風景ではなくても、たとえ否応なしであったとしても、誰かにとっては大切な暮らしの場だ。」
という一文に、『シーリと氷の海の海賊たち』で描かれていたひとびとの暮らしが重なる。それらは決して「望んで」いる場所ではなくて、構造から抜け出したいと望みながらだれかやなにかを搾取するしかなかったり、「いい人」でいられなかったりする場所かもしれない。
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『新装版 レミは生きている』平野威馬雄(ちくま文庫)
籍は日本人、父はフランス人で籍はアメリカ、という平野威馬雄が、「日本の少年少女に、ほんとうのことをわかってもらいたいと思って、この本をかきました。/おなじ人間として生まれながら、顔かたちがかわっているというだけで、差別あつかいされ、毎日、悲しい思いで暮らしている「混血児」にかわって、ぼくは、この本をかいてみました。」と書き出される自伝。
日常的に、周囲や同世代の子供、学校の教師、軍人から受けるひどい排斥や嫌がらせ。戦時中はスパイ容疑までかけられて取り調べも受けていたのが、敗戦後は手のひらを返したように白米とかを持ってやってきた憲兵たちのこと。
「あとがき」で今なおそれらは残っていて、「もう70歳をこえたおじいさんなのだが、まだ、とび出していって、理由のない冷酷な差別と、真っ向から対決しなければならないばあいが、ときどき、やってくるのである。〜だから、まだまだ、この本の役割はつづくだろう。」と書いている。
娘の平野レミによる解説、下地ローレンス吉孝の新版解説に、平野威馬雄が取り組んできたこと(米兵と日本人女性の間に生まれた子供たちを養子にしたり認知していたこと)などが書かれている。
たくさん読まれて欲しい本。
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『小さな声の島』(アサノタカオ/サウダージ・ブックス)読み終えた。
「声/音」というのが振動である、ふるえである、ということを感じとる、耳で「聞く」のではなく、ふれたり、見つめたり、あらゆる感覚をしてそのふるえをとらえ、拾うような読書だった。例えば泣いている友達の顔を見ず背中同士をくっつけて、その嗚咽を感じている、ような。
自らのルーツを辿る台湾の旅、Mさんの深い悲しみと傷と悔恨。
「語る」こと「聞く」ことが善性を持って/希望を持ってとらえられることが多い世界で、語りにならないものや、語らせるべきでないもの、語らずに抱えておくほかないものが「ある」ということについて、こんなにしずかでかすかな、「聞こう/感じよう」と思って聞くことで感じられる文章があっただろうか、と思う。
「聴こえてくる声を待ちながら 永井宏」「蔵書返却の旅 塔和子」の章がとくに好き。
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聞いた~!
めちゃめちゃおもしろかった!
『私が諸島である カリブ海思想入門』の中村達さんに、サウダージ・ブックスのアサノタカオさんが話を聞く、というトークイベント。
植民地主義や、歴史の「ない(というか破壊されてしまって根絶させられた)」場所で、ひとびとが変容しつづけながら文化を創っているという話が聞けてすごくよかった。とくにシルヴィア・ウィンターについてのおはなしと、「ぼくらはヘーゲルを知っているが、それはどうしてなんでしょうね」という問いかけ(知の不均衡)、師匠のナディさんとの対話や、そこから受け継いだもののことなどが興味深くてよかった。本を読もうとしていた動機が帯のナディさんの言葉だったので…!
アサノさんが後半で、日本にもフェミニズムに関わるひとたちが、カリブ海の女性文学に取り組んでいたひとたちがいた、と紹介してくれていたのもよかったな~。
カリブでは文学/思想がとても大切にされていて、詩のイベントで何百人も集まったり、文学のフェスで夜通しイベントが行われたりしている、ということを知れたのもよかった。
ここからまたいろいろ読んでいけるといいな~と思ったし、『私が諸島である』もう一度読み返そうと思った。
#読書
QT: https://fedibird.com/@tutai_k/112016991492047843 [参照]
『読むことの風』アサノタカオ サウダージ・ブックス
鎌倉の出版社の編集人アサノタカオさんのエッセイ集と詩で編んだ一冊。
ブラジルでのフィールドワークの時の思い出とか、本/本屋さんとのつながりとか、いろいろなことが静かで、感覚を撫でていくような文章で書かれていてとても良かった。
日々を生きて、たくさんの本を読んで、その本を手放して離れて、…書物のない世界で見聞きしたことを書物の溢れる世界にむかって開くということの、信頼みたいなものを感じた。感じたことを言語化するのが難しいんだけど、この本にはたぶん詩とか一冊の本とか、そういう応答の形が適しているのだろうと思った。「ことば」にならないものを、ことばの溢れる世界へ伝えるという行い、というか。
文章がすごくきれいで、こういう世界への眼差しを持つ人が見ている世界を少しでも受け取れたのがよかった。
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『世界を翔ける翼 渡り鳥の壮大な旅』スコット・ワイデンソール著/樋口広芳監修/岩﨑晋也訳 化学同人
読み終えた!めちゃめちゃ面白かったー!専門書っぽくてかなり敬遠しており、発売(2023年8月)から職場のロッカーに突っ込んで置いてあったんだが、そろそろ観念して読むか….と読み始め「もっと早く読めばよかった!!!」ってめちゃめちゃ後悔した。
渡り鳥は世界で凄まじい勢いで減少しているんだけど、その原因や、保護についてをエッセイと論文のあいだくらいの書き方で、筆者自らの経験も合わせて書いてる。
鳥を追いかけて世界を駆け巡り、鳥たちが減っている原因が、アマゾンの森林現象に注目ばかりされるが、実は都市部のライトアップや、森が寸断されていることにある、という、認識からこぼれ落ちがちな部分を指摘しているかと思うと、本当はこの空を覆い尽くす渡り鳥の眺めに心を打たれていたいのに、カウンターを叩き続けて「数値」をちゃんととらないといけない…と苦悩したり、「木登りが得意なので手伝いに来てくれた医学生」を猛禽の巣に登らせてみたりとか、自然への感動と、研究者や保全に関わるたちの人間模様もしっかり描かれてる。密猟についても、収入源としての密猟が立たれた後のことまで考えているのがよかった。
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『蒼茫の大地、滅ぶ』西村寿行/荒蝦夷
読み終えた。めちゃめちゃ面白かったー!バッタの大群が押し寄せた東北、農作物を食い尽くされ、恐慌が起きた時、日本政府が取ったのは棄民、東北地方切り捨てだった…。
パニック小説の体裁ではあるんだけど、強烈な、地方蔑視へのカウンターストーリーで、東日本大震災や、能登の震災のことを思い出しながら読んだ。それでもまだこの物語の中には、政権の中枢に「国民」のことを気にかける人間もいて、今の日本との差を考えて暗澹とした気持ちになってしまうところも…。
この本を復刊したのが「荒蝦夷」という出版社であることとかも同時に考える。日本書紀の言葉を引いて、つねに平定の対象/搾取の対象とされた地方の怨嗟の声が強く響いている物語だった。
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【書評書きました】
日々詩編集室から2024年3月に出る「まちうた」2024年3月号に書評2本寄稿してます。
特集:詩なので、海老名絢さんが2023年に出された詩集『あかるい身体で』と、鳥羽志摩ゆかりの詩人伊良子清白の詩集『孔雀船』です〜。よろしくどうぞ〜。
#fedibird #読書 #zine
QT: https://fedibird.com/@azusa_inoue/111842074272674007 [参照]
『マリは素敵じゃない魔女』柚木麻子作/坂口友佳子絵 エトセトラブックス
読了。
めっっちゃ!!!めっっちゃおもしろかった!!!子供の時にこの本に出会っていたかったなあと思いながら読んでいたんだけど、大人になって読んでもほんとにすてきで、読みながらずっとうるうるしていた。
「すてき」であり続けなさいという声、に、いろんなパワーを削がれていってる現代の「魔女」や「魔女のこどもたち」に届くといいなあ。
マリ、レイ、スジ、3人の行動がすごくいいなと思ったし、だからといって「だれかがヒーローになる」わけではなくみんなで問題を解決していったり、なーんにもしなかったり。
「仲良し」が、単純になんでも許す/褒める関係でないところとかもすごくよかった。
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『シーリと氷の海の海賊たち』フリーダ・ニルソン作/よこのなな訳 読み終えた。
海賊に攫われた妹ミーキを取り戻すため、シーリは海賊を追う旅に出る。
かなり分量のある物語なんだけど、シーリのおしゃべりを聞いているような語り口で読みやすく、夢中になって読んだ!
荒れた氷の海を恐れないような海の男たちですらおそれるシロガシラを追うシーリは、旅の途中でオオカミを狩るひとや、鳥を使って魚を得ようとする少年などに出会う。動物たちはこき使われていて、シーリはそれっておかしいよ…って思うけど、動物たちをこき使「わねばならない」人たちは構造によってそうさせられてもいて。このあたりのことがとても心に残っていくのがよかった。
そして「いやなひと」が「いやなひと」のままでいることとか。誰もが善良でありたいが、よいひとで「あれない」構造もあり、たとえばハトは自由のために心を売ったという自覚があって、そんな自分は海賊をしていくしかない…とも思っている。それによりそう人もいる。
シーリがしたのはシーリ自身の冒険で、それがたとえば世界を善良に変えてしまわない。物語は静かに「物語」の定型から距離を取り、現実へ視線を向けるのをそっと、背中を押してくれるような。
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『イエルバブエナ』ニナ・ラクール著/吉田育未訳(オークラ出版)読み終えた!
めちゃくちゃおもしろかった!!!序盤は訳者のあとがきに書いてあるように、喪失やトラウマ描写が多くて、少しずつ息継ぎするように読んだ。サラとエミリー、ふたりの女性のラブストーリーでありつつ、2人の青春の物語でもあって、その青春の「喪失/離別」も抱きこんでいって、それらを否定的にではなく「あるもの」としてえがいているところがとてもよかった。サラと旅に出たグラントとのアパートをめぐるあたりがとくに、私はとても胸が苦しくなったんだけど、いちばん好きな場面だな…とも思う。
クレオール(この物語のばあいはルイジアナのクレオール)文化の世代間の差、生き方/生き抜き方が主軸になってるのも、クレオールの物語に触れたいと思っていたので読めてとてもよかった。
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鳥写などしながら静かに暮らしています。
『ゆけ、この広い広い大通りを』(日々詩編集室2023年9月)書きました。時々小説を書いて本を作って生きています。