このいかにも文学的かつ荒唐無稽な表現に対して、
そうそう「Poor Things」小説の面白かった表現、
マキャンドルズの創作内で、ベラにマキャンドルズと結婚することを告げられたゴッドウィンがこの世のものとも思えない絶望の叫びをあげるという場面があるんだけど、そこの表現がすごくて、
「…それ(ゴッドウィンの口)はゆっくりと音もなく開き、やがて彼の頭より大きな丸い穴となって、とうとう頭は飲み込まれて見えなくなった。彼の首の上には黒い、拡がりつづける、歯に縁どられた穴がぽっかりと、背後の赤い夕焼け空に浮かんでいた。そこから叫び声がした時、それはまるで空全体が叫んだかのようだった」(適当拙訳)
マキャンドルズは社会に対してはそんなに有用な人間ではなかった(とビクトリアは言ってる)けど、こんな超現実的な表現とか書けるなら創作の才能ちょっとあったんではって気持ちになりました(ビクトリアにはそういうのまったく評価されてなかったっぽいけど)。 #本 #audible
映画がギルティだというのは、
つまり①の部分って結論としてはマキャンドルズのクソみたいな妄想(だということが小説を最後まで読むとわかる)なので、そのクソ部分のみ採用して物語化し、ビクトリア自身の声を消去すること自体が主旨としてはほぼほぼギルティではある。それって小説自体がサタイアの対象としている③の編集者と同じことしてるということになるし。
しかし脚本化した人は当然この小説を読み込んでいるのでそんなことは百も承知であり、でも映画化するなら①の部分だよねーというのもわかる。だって②のビクトリアの社会主義者&フェミニストとしての人生って①ほど物語的に面白くはないし。②の部分を含めて映画化するこって、まあ不可能ではないけど難しいし、その努力に結果が伴うかというのも微妙かと思う。
だから映画が①部分だけなのはすごいわかるし、②というフェミニズムの核心的な部分が消去されたかわりに①の中にその要素を組み込もうとしたのもわかるし、その結果映画は映画で面白くなったのだが、ふつーに小説の主旨を裏切ったというギルティはギルティなので小説のファンとか作者自身(ご存命じゃないけど)からの怒られが発生するリスクも全然ある。という所感です。#本 #audible
まあこの構成から考えると、
そもそも”夫と妻のどちらの語りが本当なのか(ベラは本当に人造人間なのか?)”という問題設定はあんまり意味ないと私は思っており、というのも②でビクトリア自身が自分の人生について「こうです」と言ってる以上そっちを信じるのが妥当であって、しかも内容を考えても①はふつーにあやしくね???というか胎児の脳を移植したとか言ってますよ!!???荒唐無稽なフィクション以外のなんなの????って話で、そんなにも信頼性に差がある2つの語りなのに、なぜか現代の男性の編集者(という設定のキャラクタ)はそれでも男性の語りのほうが信憑性が高いとし、女性の語りのほうは全力で矛盾を探しておとしめようとする…というのが面白ポイントというかサタイアなんだと思いました。
#本 #audible
「Poor Things」小説の構成は、
①マキャンドルズが書いた人造人間「ベラ・バクスター」の荒唐無稽な伝記(※映画化されたのはココ)
②「ビクトリア・マキャンドルズ」が”①は私のアホな夫のクソみたいな創作です”と現実的な自分の生い立ち&人生を語った手記
③上記2つの文書を発見して出版したという設定の編集者グレイ(作者)が「いやいや俺は①が真実だと思う!」ともっともらしい(がよく読むととんでもないこじつけなこと言ってる)註を加えた部分
という三部構成となっており、①でゴシックファンタジーみたいな物語を読んでほほ~面白~と思ったあと、②でまあそりゃあんなんデタラメよね~なるほどビクトリアの人生を聞くとあの時代の社会主義&フェミニズムについて勉強になるな…と真面目になったあと、③でいかにも学術っぽく事実っぽい註の嵐で①のクソみたいなファンタジーを支持するので「ワッツ…????」ってなるという、頭がぶっとぶローラーコースター読書体験となっています。
#本 #audible
最近読んでる(聞いてる)本は「Adverse Events: Race, Inequality, and the Testing of New Pharmaceuticals」ていうやつで、アメリカにおける新薬開発の治験第I相試験(健康な被験者で薬の安全性を確かめる段階)をいったいどんな人々が受けていてそこで何が起こってるのかをフィールドワークした社会学的研究なんだけど、めちゃおもろい。年中治験に参加してるプロ被験者の人々がいるんだけど、それがいかに社会的マイノリティに偏っているか、それによって治験結果自体がいかにあてにならないものになってるかといったことが詳しく論じてある。治験、闇深い(というか社会自体の闇を反映してるだけともいう)。 #本
Audibleで「The Marlow Murder Club(邦訳:マーロー殺人クラブ)」聴き終わり。イギリスの田舎町で起きる殺人事件ジャンル。好奇心も推理力も抜群の77歳ジュディスを主人公として、不愛想で身も蓋もないドッグウォーカーのスージー、絵に描いたような貞淑な妻のベックス、真面目で苦労性の刑事タニカ、という女性四人組で連続殺人事件に挑む。
タイプの違う四人のキャラクタと友情がすごく良いね!と思ってたらシリーズ化されたうえに来年にはドラマもリリースもされるみたい。原作はこれと続編一本だけみたいだけど、キャラクタがいいからドラマ化が上手くいけばオリジナルストーリーとかもできそう。
#本 #ラジオドラマ
スコルジーの「The Dispatcher」聴き終わり。中編で、朗読でも2時間くらい。
ある日突然、人為的に殺された人が99.99%生き返るようになった世界で、死に瀕した人々を「殺す(dispatchする)」ことで生き返らせる国家資格者ディスパッチャーが主人公。
故意に殺された人「だけ」が生き返る=事故死や病死や自殺だと本当に死ぬというのと、殺された瞬間に体が消失して自宅に瞬間移動する(すっ裸で)という謎メカニズムにより、社会で巻き起こるいろんな変化がおもしろい。殺人はもはや脅威ではない、じゃあ銀行強盗や組織犯罪はどうなる? 医療行為はどう変わる? 殺人をテレポートがわりに使うやつが出てくるんじゃない?(出てくる)とか。
三部作のうち第二作の「Murder by Other Means」もAudibleにあったから引き続き聞きます。
#本 #ラジオドラマ
あと今読みかけてるのは「Winter's Orbit」(Everina Maxwell著)。スペースオペラ系のMMで、帝国の王子が属星の伯爵と政略結婚することになったがお互いに嫌々だし帝国をめぐる陰謀が渦巻くしもう大変なやつ。"赤と白とロイヤルブルー"のスペースオペラ版!みたいに宣伝されていたがどうもロマンスより陰謀の話がメインなのでたぶんちがう(というかMMは赤と白と〜meets〇〇!と宣伝される確率が75%)。#本
最近出たばっかりの本で読みたいやつ。
Boyfriend Materialの著者Alexis Hallの新作「10 Things That Never Happened」。仕事でヘマをしてクビになりそう!そうだ頭を打って記憶喪失になったことにしよう!…というどう考えてもバッドアイデアな回避策をやらかした主人公のサムがそれをきっかけに嫌な上司のジョナサンと接近することになって…というMM。やらかし系の主人公書くのうまいし楽しそう。
あとSF作家ジョン・スコルジーの新作「Starter Villain」。猫と暮らす冴えない教師のチャーリーが亡くなった叔父さんから相続したのは、スーパーヴィラン稼業だった!というヴィランはじめました小説らしい。表紙から猫推しがすごいので読みたい。
#本
ひとりごと用アカウント(閲覧・フォローはご自由に)。映画見たりファンフィク書いたり猫と暮らしたり。在加のため日本公開前の映画の話してることもある。
現在トップガン:マーヴェリックのハングマンxルースターの話ばっかりしてる。
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