『僕を育ててくれたテンダーバー』観た
こんな伯父さん欲しすぎる!ベンアフがいい感じに力の抜けた演技で魅せる大人の男のかっこよさ!父親の不在、素晴らしいとは言えない生活環境でも、伯父や周囲の大人のそれぞれの愛を背に受け大人へ踏み出した青年の自伝的成長譚。アメリカンなノスタルジーも漂い、とっても心地がよかった。とても好きだ。
伯父さんが本当に良い。良すぎ。父親にはならない、でも道を踏み外さないように目を離さずに男の、大人の生き方へ導いてくれる、ほどほどに甘やかしてもくれる。子供にとって最高の距離にいてくれる大人。こんな大人になりたすぎる。
大学には行けず、独身、実家住み、仕事はバー経営と一見うろんな気配があるが、読書家で知性的で真面目さと愛情と穏やかな根性があって、自分で語る男の生き方を実践し続けているようだ。で、見た目はベンアフ。良すぎ。
バーの常連の子供を見守る距離感も素敵だし、大学の友人もユーモアと真摯さがあって良いのだ。
それでも実の父親の不在は巨大だし、母親との関係はどうしても重たくなるのだな(それでも二銃士の話は素敵だ)
ひとつひとつが積み重なり、経験に変え、主人公が自分の決心で自立へ踏み出す納得感が清々しい。ラストのはなむけが最高にいかしてる。
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『PIGGY ピギー』観た イケてない日常を過ごす私が事件に巻き込まれて…!勇気とロマンスの少女漫画、ただし血みどろハードボイルド。
体形と酷いいじめと母親の抑圧によって内向的で自己肯定感がずたずたになったんだろうな…と手に取るようにわかるサラ。まず彼女はそれはもう大きな大きな不安と恐怖を抱えていて。それが大前提にある中で、事件をきっかけに罪悪感や復讐心、保身、友情、性欲、家族とのもやもや、が混ざり合って葛藤の嵐。誰でも持つ「いい感じの思春期を送りたい…」という欲望、それに伴う行動が正面から描かれていて良いなぁ。
行動をなじられて「間違えるかもしれないから…」と告白したサラに、これまでずっと自分の行動と本心の齟齬に後悔し続けていたんだな…と切なくなってしまった。その気持ちわかるよ。
殺人鬼がサラに都合がいい奴すぎて最初は驚いたが(家から連れ出してくれまでする!)、あれこそ少女漫画にあるような、乙女たちの夢。酷い現状から解放してくれる夢なんだよな。ちょっとわかる。ただし変質者(下着あさってた…おおう…)。
全てに対する怒りが唸り声となって、なけなしの良心を振り絞る。己との闘いだ。スリラーの顔をした少女の情念を解放する、思春期版正しくない女の映画でとても面白かった。
『鞠子はすてきな役立たず』山崎ナオコーラ 読了
働き稼いで自立してこそ大人と教え込まれた小太郎と、必要であれば働くが趣味に生きて自己満足を大事にしたい鞠子が結婚し、生活の変化とともに小太郎の意識も…と、仕事と趣味とお金、自己満足と社会参加を考える話で面白かった。
鞠子により披露される趣味事に対する考え方が素敵。
鞠子も小太郎も結構極端な考えを持っている(小説の人物だからね)けれど、なんとも穏やかのんびり夫婦なのが心地よい。
鞠子の、趣味は好きで楽しいもの、実益を意識するのは邪道という考えは良いな。形から入って好きになるのも素敵だ。共感だ。どんどん趣味を広げていく意欲に、読んでいて笑みが浮かぶ。自己満足は良い言葉だ。その役立たない趣味でも「きっかけ」になることに辿り着くのが良かった。とてもわかる。
仕事と趣味、自立と他立の対立のなかでないがしろにされているものに目を向ける。のはわかるが、それでも小太郎が感じるように、働き稼がない事の罪悪感も理解するし、現実的にはお金と時間の余裕・不安がない事の影響が大きすぎて…という気持ちが湧いてくる。仕事まわりの話の展開も、そんなにうまくいくか?と気にはなる。
それらの引っかかりを越えて、自己満足を大切にする意識には圧倒的に同意したい作品だった。
『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』観た
面白かった!快作!
ヒーローものが一周回って戻ってきた感じだ。ティーンらしい承認欲求から素朴な善性へと進む感じが眩しい。ヴィランズやスプリンター先生の描き方に、疎外された者たち、素朴な私たちの想いも載せてる。連携プレーが熱くて泣きそうになった。
その部分に関わる人々を始めとして、NYの下町文化感がすごい。詳しくないけれど、音楽やデザインの細部も本気でそれっぽいはず。遠くから想像してきたNYがあった。
アニメーション、スパイダーバースとはまた少し変化して、整っていない手書きストリートアート感がすごい。ライティング?と所々ネオンカラーも入る色合いがとても見やすくて好きだな。
タートルズ達が何やってもかわいいなー!ティーン感が楽しくて、わちゃわちゃ仲良しで、いいよね!ひとりひとり本当に好き。バイブス、バイブス大事!
好きだけど詳しくないので、スプリンター先生があんなにパパ感があったか?と動揺した。ヴィランとの対比からの決意がとても真摯で良い。
コメディ感のバイブスもよくて、大変楽しかった!
『グランツーリスモ』2回目を観て感想箇条書き。
・平さんから始まってかっこいいな。ご本人と雰囲気が似てる。ご本人のカメオ出演確認できた。満面の笑みw
・EDがゲームのそれっぽくて良い~。車両がめちゃ綺麗。
・個人的に恋愛パート要らないので、GTアカデミーでの人間関係がもう少しあるといいのにと思うが、恋愛パートが真面目なのでそれ自体は好感持ってる。
・東京がリアル東京。トンチキじゃないことに感心した。日本語話者もリアリティある。好感。
・オーリーの企業や自己の利益を優先させたい面と、企画自体を純粋に成功させたい・応援したい面、嫌な奴といい奴具合が本当に絶妙!
・ブラック・サバスが流れるタイミングが最高すぎる。燃える。特に2回目。
・いわゆるイケている曲じゃなくても、ひとりひとりに好きな曲はあって、いじりながらもそれを肯定してるのが良い。
・話の整理と目的、レース展開の説明が上手い。本当にわかりやすくて心地よい。構成と編集が上手いのだろうな。
・ル・マンのパートめっちゃ興奮する。開始直前の高揚感最高。面白すぎる~
・FvFを見直してからだと、だいたい同じことやってる、ほぼ同じ要素。鉄板の面白さか。
『波止場』観た
波止場を仕切るやくざ者になるかならないか、それが問題だ。
犯罪の手先に使われた青年が、しがらみを捨て良心に従えるか、真に勇敢になれるかを語る作品。逡巡をじっくり描いていて面白かった。
人にもともとある良心を信じている話だったな。主人公テリー、最初から組織のやる事に不満たらたら、ボスへの恩もそれほど…な様子が、ボスの右腕の兄とのやりとりで、そもそも望まない生活なのだとはっきりする、あの場面でテリーが兄ちゃんに失望した様子が好きだった。仕方ないだろ、何ができたっていうんだと流されていた、その気持ちはわかる。
あくまでも、主人公テリー個人の心の変化に焦点があたっているけれど、その心の動きの結果が、恩義や保身という私的なところから、労働者たちの意志の象徴という公的なところに到達するのが面白かった。
やはり神父の役回りが大きいのが、信仰で道徳を支えてるアメリカらしさだと感じる。最後の行進とかイエスのようだ。
ゴッドファーザーとジョニデの映画に出てる(でも印象に残ってない)のしか見たことがなかったマーロン・ブランドの若い頃を初めて見た。正統派ではない格好良さかな、弱さと頑なさが同居してるような魅力があるんだな。あと腫れぼったいような目元が印象的なのかも。
『グランツーリスモ』観た
面白かったー!
シムレーサーが現実のレーサーになる。努力と挫折と勝利!の少年漫画的とも言えそうな王道成功物語の人間ドラマは深入りせず淡泊。でも丁寧に拾っているので面白くて燃える!親子や師弟関係もその淡泊さがちょうどよい温度になって楽しい~。
中盤のレースデビュー以降は、それこそギアを上げたような爆速展開。白眉はレース場面で、すっごく楽しくて手に汗握る興奮!
ドローン使い、路面すれすれの視点、ペダルやステアリング操作、内蔵機関の動作、レース展開なんかの編集のテンポが良くて興奮するし、わかりやすくもあった。ペダルとエンジン、タイヤの音が良かった、とても好き。
音楽の使い方も好きっていうか教科書的感じがあって上手くて楽しい。ブラック・サバスにエンヤ~
ゲーム的演出が所々入るのも良くて、ゲームとリアルのシームレス感、その楽しさ、車やレースの興奮を表現しようという気持ちが伝わる。
デヴィッド・ハーバーが絶対良いだろと思ってたけど、本当に良かった。ドラマの深みを一人で背負ってたんじゃないかなってくらい。反発から信頼、そして自身の諦めを次代に残さないよう支える師匠、好きー。この役まるごと脚色らしいのだが、入れて大正解です。やはり師弟は良い。
『夜の大捜査線』観た
見知らぬ街で、殺人事件の容疑者と間違えられ逮捕されたのは殺人課の敏腕刑事だった。嫌々ながら事件捜査に協力する…と定番のサスペンスなのだが、刑事は黒人、舞台は60年代の人種差別の根強い南部のミシシッピ州、と途端に人種差別の緊張感が張り詰める。ユーモラスさに緊張の陰影がつき、とても面白かった。
数々の差別に努めて知的にクールに振舞う刑事を体現するシドニー・ポワチエの抑制された演技。北部の洗練さをひとり貫く。その奥に煮えたぎる思いが見え素晴らしい。躍起に捜査する中で「すっかり白人だな」と掛けられる声に、こちらもはっとする。
彼と対立しつつもバディ関係に陥ってしまう強烈に横柄な白人警察署長、演じるロッド・スタイガーがまた素晴らしく。じわじわと黒人刑事の能力を認めざるを得なくなる感情の揺らぎが絶妙。可愛げすら感じる。しまいには疎外された者同士の心が交錯する一夜、友情でもない寄り添い、という大好物な場面まである。偏見が消えないのがリアリティあって良い。数日の捜査で変わるほど人の心は単純ではない。
それでも、ラストの素っ気なくも、一時的であっても心の通ったやり取りに、爽やかさを感じ笑顔になる。
『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』観た
ワインスタインの性暴行疑惑に迫る調査報道記者。報道ものにあるオーソドックスな作りで、真相を報道できるまでの道のりが遠いのだが、この作品(と記者達の関心の多く)は被害者の訴えが取り沙汰されないことの問題、構造にも焦点があるので、もどかしさを共有しやすいと感じた。
被害女性達の中で、勇敢に立ち向かったが理不尽な条件を飲まされ絶望した人、被害に遭遇後に静かに仕事から去ったが後悔している人が特に印象に残った。理不尽な判断を迫られた事自体に、その状況に屈してしまった事自体に、深く尊厳は傷つけられるのだとわかる。精神を蹂躙されてしまった重み。
記者が女性として仕事をし生活をこなす日常を送る場面が多いのも印象的。日々の中で向き合い続ける粘り強さ、それが一つの連帯の態度なのだと伝えている様に感じた。報道の価値があると信じて仕事をしているとは言え、記事を出しても世間の反応が薄かったらどうしようという不安も、この隠され続けた事案ならより強く感じるだろうことも理解。真剣なお仕事映画でもある。
『ランガスタラム』観た
仄かなサスペンスの香りを感じつつ、難聴の主人公・チッティのお気軽村民ライフを楽しく眺めていると、最後の最後に因果のめぐりとインドの身分階層の重みがドスンとのしかかる。何とも言えぬ余韻がすごい…!
階層が固定化された村の生活は"舞台"の様で村民は配役を演じるだけ、と皮肉に語るも、村民の生活には豊かなドラマも矜持もあるぞとも語る。チッティの難聴をユーモアのベースにしつつ、障害の扱いや差別心を匂わせ、ドラマやサスペンスの道具にもし、チッティ自身の打算的なところ・善悪入り混じる内面まで見せる、そんな複雑さがありとても面白かった。
ふらふらとして無邪気で活動的で一目惚れして兄好きで血の気の多いチッティを、チャランさんがそれはもうくるくると演じていて、良かったなぁ!ぽわわーんしてる時と真剣な時のギャップがたまらん。ルンギ姿も眩しい…!想像以上に踊りまくってたのも最高だ。踊りパートの構成がミュージカル的で映画内容とマッチしていて好き(一曲だけアイテムナンバー的なのがあったかな)。
チッティ裏切りの帰宅後に家族が次々と集まりカレーを食べるユーモラスな仲の良い(即終わるけど…)場面がいいな。ランガンマとの関係も面白い距離感。
『PATHAAN パターン』観た
だいたいM:Iなんだけど、あのなじみの安心感に、ところどころ期待の荒唐無稽さと全開肉体美が加わって、やっぱりインドの娯楽映画はパワーが感じられて楽しいな!踊りはほぼ無いけれど、音楽の当て方が上手いよねぇ。あれでがっつり高揚させてくれるし、それと共に展開するアクション、特に肉弾戦が盛りだくさんで、個人的に非常に楽しかった!速度と重さが好みだったな。
アクションはどれも楽しかったが、中盤の列車アクションがめちゃくちゃ楽しーい。ニコニコしちゃう。私は知らないけれど、あれはユニバース的なものなのだろうと察しがついたぞ!俳優はご存じの方だし。
シャー・ルク・カーンの魅力ってピンときてなかったんだけど、すみませんでした、凄かった、色気が。なんだあの完璧筋肉と長髪とやさぐれ+抜け感ファッションでセクシー全開!おわー!
ディーピカーたんはもう期待を裏切らない美をこれでもか!と見せつけてくれるんで、最高。顔が大好きなんだ…。拝みたい。この二人が登場してる間(だいたい9割)は、うわー!ほわー!って脳汁が出てたと思う。凄かった。エンディングもセクシーの競演ドリーム映像すぎてやばい。
『真夜中のカーボーイ』観た
テキサスからニューヨークへ、アメリカンドリームを手にするために来た青年、その手段は男娼。
正義・男らしさ・男性的魅力の象徴としての"カウボーイ"に頑なにこだわる青年が、自由が手に入る街であるはずの大都会の現実に絡めとられ、寂しく何者にもなれず、"カウボーイ"を脱ぎ捨てていく。物悲しさが漂っていて面白かった。
最初と最後のバスの違いよ…ジョーの厚顔で意欲ある表情と心細さと不安全開の表情との差。うう…。乗客の視線も全く違うものに見えているのだろうな。
底辺をうろつくしかできない孤独な二人の、共依存の様な友情が切なくて良かった。上流との圧倒的な差。出会う人々の隠された事情。これがアメリカの現実だという様に。
ジョーの過去が挿入されるけれど追及はされず。想像するに、ものすごいトラウマだよね…そこに親の不在も。それも覆い隠す強い男の"カウボーイ"なのだろう。
ブーツ等を捨てるのがすごいサラっと行われるのがとても良い。いかにも自然な選択の様子が良い。地道に生きようという選択。リコがいたから選んだもの。
映像がアバンギャルドと言ったらいいのかな、独特で面白かった。リコを追う早いカット。情事の際に切り替わるTV。フロリダの夢。
『エリザベート1878』あと
彼女が夫や子供や従兄弟や負傷兵にまで、横に寝そべるのが印象的だった。同じ立ち位置でふれあいたいような気持ちの表れかな、と思って見ていた。親密さを共有したい表れというか。
動画の話が出てきて、そこに映る彼女の自由さが面白かった。動画に事実が映る的な台詞には、つい『フェイブルマンズ』を思い出したね。
彼女の奔放なわがままさも描いていて、子供との関係も面白かったし、侍女達とのやりとりも。一番の侍女にそれは酷い仕打ち…とは思ったが、ラストで女たちの繋がりの様なものが見えたのが好きだった。
ヴィッキー・クリープスが苛立ちから喜びから様々で些細な心の襞を表現するのを見る作品でもあって、それも楽しかったな。
『エリザベート1878』観た
「象徴」で「美しく」「若く」あることの抑圧を脱ぎ捨てようとした、エリザベート40歳の1年間。原題はCorsage。「お飾り」ということかな。
ところどころ現代のものや音楽が入り込んできたり、創作が入ったりと、ポップと言ったらいいのか、軽やかさがありつつ、エリザベートがとにかくダルそうで疲れているのがとても良かった。中年の不機嫌さがいい。ずっとイラついて反抗し続けているけれど穏やかに見えるのは、この中年まで我慢し続けたダルさがあるからかも。ほんともう色々ダルいわ…というね。わかるわ。
でも、抵抗することや求めたいものを諦めない意欲、もしくは諦めきれなさも終始あって、それも良かった。
ラストの演出はおお…!と少し驚いたけれど、爽快感があって面白かった。
その歳になると、若く美しいですね、これからも若く美しくいてねという褒めも、そんな訳あるかよとウザくなるし、もう勘弁してくれ…となるんだなぁ、というのがよくわかる。彼女が美貌の価値をまだ内面化し続けもがいているのが苦しそうだった。
従兄弟との関係がひとつの幸福だと思うのだが、彼女はそこに満足を見いだせていない、女として見つめられることを望んでいるのも気の毒だった。
じいちゃんは本当に立派な人だっったのだなと、孫への触れあい方と父の語りから、時差でわかるのが良い。この後半の父親、苦しい立場で、じわりと弱さが出てきてしまう具合がいいんだよね…。高潔に生きるは難しい、でもだからこそ心がけなければならないんだよね。監督の心にも刻まれているのだろうな。
アンソニー・ホプキンスの、元気で愛嬌のある時と元気がない時の演技の差もすごかった。生々しさ。
ユダヤ系差別と黒人差別が重層的に語られているのが興味深かった。経済的格差も。私には知れない当事者の状況と感覚が垣間見える。黒人ジョニーの先の暗さ、耐えて浮かび上がって欲しいと願ってしまう。
エリート主義に向かう一因もあるのだろうと推測できる。トランプ姉(チャス姉!)のスピーチ「全て努力で掴んできた」も、客観的には妥当でないという監督の認識も見られる。
全体としては、少年なりの進もうとするけれど、しかし圧倒的に力も分別もなくてどうしようもなく社会の中にいる感じ、社会の中に組み込まれていく感じ、その苦い哀しさが撮り方などにも表れていると感じられて、いい作品だった。
『アルマゲドン・タイム』観た
大好きな祖父から受けた薫陶と、浅はかで苦い経験とを、おそらく一生胸に抱え社会を生きていこうとした、少年だったあの時間。ジェームズ・グレイ監督の自伝的作品ですけど、ノスタルジーではなく、子供の愚かさと大人の正しさと弱さを見つめるような苦みある作品で良かった。
学校になじめないとはいえかなりの悪ガキ(勝手に中華の注文をしたのだけは本気でイライラした)なユダヤ系のポールが、黒人のジョニーとだけは心を打ち解けられた。その過程は悪ガキ達ながら心地良いものだったけれど、さりげなく社会の差別意識が浮き彫りになり、遂に運命を分ける些細な悪事へ。子供の浅はかさが非常に哀しい。自分が不公平や差別を理解したのはいつだったかと思いをめぐらした。
大人達も、彼らなりに愛と正しさと弱さがあるのを真摯に見つめる視点でとても良かった。愛情あるユダヤ系白人の中流家庭から、迫害と移民、格差と教育とエリート主義、差別などのテーマがさらりと語られ面白かった。父親の心情が吐露されるのには泣いた。現実を高潔に生きる難しさよ。
理解ある祖父、アンソニー・ホプキンスの存在感!高く飛ぶロケットと孫を眺める姿と、語りかけが素晴らしかった。いや、本当に良かった。
『ヒトラーのための虐殺会議』観た
ユダヤ人問題の"最終解決"の合意形成のための高官会議。会議が始まり終わるのみ、淡々と穏やかに進むだけの映画なのだが、この穏やかさこそが恐ろしい歴史的事実を浮かび上がらせるようで、私はかなり真剣に見入った。音楽もなし。
事務方は"処理”に難色の及び腰、現場方は迅速即決の強硬姿勢と違いが見られるものの、その中身は権限配分の争いでしかなく、この倫理が欠如した議題、非道な行いも日常化して扱えてしまう人間の愚かさを改めて考えることに。
混血や外国籍ユダヤ人の扱いや"処理"方法の倫理を問題にする「反対意見」もみられるのだが、結局法や規則の安定と断種という"理がある"代案や「ドイツ人の」倫理が保たれる方法なら可という、ひどい合意に落ち着くのも見ていて苦い思いをした。
結局、優生思想と民族浄化の総統と集団の"正しい"思想ありきの会議なので、参加者はその前提から出るはずもないのが端々から見て取れる。中には殊更に思想を主張する者もいて「反対意見」がまともに感じられる程。正しさの元では人間は冷静に非道になれるのを見せつけられる。
そして、大小の異議があっても効率・功利を持ち出されると皆途端に引き下がる、「効率」の大正義が恐ろしかった。
『バービー』続き 面白いなと思ったところ
バービーの話をしようとする中で、添え物「ケン」の話にもなっていったところ。バービーの完璧世界・男女逆転世界を見せることで、現実の女性の扱いって「ケン」みたいだよねと。
さらに、ケンがバービーワールドに男社会を学んで持ち帰ることで、マチズモ批判をがっつり進んでいく。男ってこういうことあるよねの数々がすんごい細かくて、ああ~と苦笑してしまう。不安と序列の話にまで踏み込むんだよね。男もそこを認識して、実存の危機に向き合って踏みとどまろうよという語り掛けにもっていったのは良かったなぁ。男社会で出てくる問題は、男が解決すべきところがあるよね、という。
で、こう語るときに、ゴズりんがコミカルさだけでなく悲哀をも表現してくれているのが良かったよなぁと。私はこのケンの叫びに距離をもちつつ共感する部分もあって、ちょっと泣けました。実際披露されていものはミュージカルだし、男社会ムーブの一つ一つはやはり可笑しいながら気持ち悪いので、すごい奇抜なものを見ている…!という動揺や興奮もあった、とは思う。
『バービー』観た まずライアン・ゴズリングが最高に素晴らしくて愉快。
こんなにニヤニヤさせてくれるとは思っていなかったので、本当にゴズりん最高。キャスティングの勝利。マチズモ批判を背負って悲喜交々に踊り歌う、コミカルに魅せてくれたのはゴズりんの力が大きいと思う。このゴズりんをもっとよくよく見たい、何度も!
バービーは完璧。ハッピーでミラクルで何にでもなれる。でもそのバービーが一部牽引してきた現実はどうなんだろうね…と、現代の社会や文化の問題を、ポップでピンクの奇抜な空間に全部乗せしてみせてくれたのが痛快。ハイコンテクストかなと感じつつも、わかりやすく見せていたと思う。
フェミニズムに留まらず、バービーが受容される精神も尊重しつつ、実存的危機に向き合っていこうよ、君も私も、と背中を押すのが、ファンシーな娯楽で社会派にチャレンジしつつ、直球かつ穏当にたどり着いた感じで良かったですね。
ただ、ちょっと説明的すぎるかな…と個人的には感じた。もう少し、視覚も物語も映画的な余白やパンチを期待してたんだけどなぁという気持ち。
『バラ色の選択』観た
えっ、マイケル・J・フォックス格好いいな!!!が第一印象w だってなんかすごいブイブイ言わせてるよう(に撮ってる仕掛けなんだけど)に見えるし、シュッとしてるんだもん。格好いいな~
愛と夢どちらを選ぶか?が命題の基本的なラブコメだったのだが、単に恋愛を選ぶというのではなく、相手の為を思う行動をとるというのが気に入りました。
顧客の見えないニーズにも応える何でも屋・ホテルのコンシェルジュはつらいよ…な、お仕事映画でもあり、恋愛と仕事両方の物語にホスピタリティという軸があるんだな。90年代らしい?軽快で楽しい映画だ。
仕事に忙殺され私生活が空しく飛んでいく、暗転とつぶやきの仄かな悲しさがある構成をとってみたりしているのが好き。労働者の悲哀は欲しいところ、わかってる~。ホスピタリティの裏には苦労があってそれをユーモラスに見せているのだが、それ象徴するようなコンシェルジュ同士のチケット交換会がいい。そういう努力とコネが利いてくる安定の話運び。そして、気が利かない客の夫の人がこう活躍するとはね…!ああいうの楽しくていいよね。