『テスカトリポカ』佐藤究 読了
現代裏社会の物語にアステカ神話が絡みついた時、そこに広がっていたのは心臓と生贄のまぎれもない神話。
血腥い神話と現代の犯罪社会、一見遠く感じるのだが、そこにある暴力性の近さ、古代の精神と資本主義が結びつけられるさまを見ると、確かに人間はいつだって残酷なのだと思い知らされるよう。
メキシコ、インドネシア、日本をかけて流れるような物語の展開、密売組織のナルコと医師の再浮上への道は背景描写も緻密で面白い。冷徹さと執心の理由、そして崩壊への疵をはらんでいたことも納得感がある。終始かなりの残虐な描写が続くが、文章のためか不思議としつこさがない。アステカの神秘性のもとに収斂されていく展開も、興奮はあるが、どこか乾いた感じ。それこそ、黒い煙が広がるような、乾いた邪悪を感じた。
その煙にまかれてしまった者達の中で、ナイフメイカーのパブロの話がやり切れなくて…一度煙の中に入ったらもう目をつむるしかないだろう、苦しさ。
テスカトリポカとは何か?が判明する瞬間が劇的で、映像が目に浮かぶよう。ただその後の展開にあまり関わってなかった気がするが、読み間違いだろうか。
驚くほど血腥かったが、力強いストーリーテリングで面白かった…!
『さらば、わが愛 覇王別姫 4K』観た
10代の時に観て以降、初めて再鑑賞かつ初めてスクリーンで観た。こんなにも残酷で美しくて、深く深く悲しい話だったのかと…初めて観た時の感銘よりもずっと強い感情を抱くことができて、今回観に行ってとても良かった。
中国の激動の時代に京劇の虚構の中で翻弄され運命に惑い、「覇王別姫」に重ねられてゆく役者二人の人生。悲しいほどに深く深くなる愛憎。京劇の美しさ、レスリー・チャンの麗しさが、悲しみを際立たせるようで、美しいのにとても残酷。胸がつぶれそう。
日中戦争、文革、紅衛兵の活動…とその苛烈さを少しは理解している今、その中で芸術家が生きる厳しさを思うと大変苦しい。また、芸の虚構の中で生きざるを得なかった主人公の蝶衣の苦しさ哀しさ、時代の変遷で浮かび上がる業も、つらいものがある。
蝶衣、小楼、菊仙の三人が、縮まらない三角関係に見えそうなところ、激動の中で形を変えていくのが、人の面白さ、ままならなさで大変よかった。時には合わせ鏡のようでもあり。そして届かぬ愛のつらさ。本当に圧倒的に悲しく終わるのではあるが。ああ苦しい。
『アメリカン・ギャングスタ―』観た
黒人マフィアと麻薬取締官との興亡と攻防の実話。情を抱いて離さない悪事の男と、情を振り捨てながら進む正義の男、対立する二者が憎んだ対象は同じ…と好対照な、違えど同じ男達の骨太サスペンスで面白い。列に並べ。俺を殺したい奴はいくらでもいる…台詞!格好いい!
こういう男達の対比構図が好きなのもり、面白かったな。脚色部分なのだろうけど、対比と話の進め方を丁寧にやってくれている感じだ。
両者とも、仕事に対する姿勢がストイックで好印象。フランクはマフィアだし麻薬密売ではあるが、仕事ぶりは実直なんだよね。恩人や家族も大事にするが、やることは犯罪。リッキーは汚職に屈しない正義漢だが、家族や友情は二の次。人の中にある矛盾が見えて好きだ。各々迷わないが苦悩もちらと見えるのも良い。
リッチーが夜学に通いながら昇進試験かな?を受けていた姿にとても感心した。それだけでも立派な警察官だよ…。そして汚職警官の酷さが際立つ。ジョシュ・ブローリン憎々しかったなぁ。
当時の社会の、あの地域の、マフィアとしての、黒人の立ち位置が前提知識として進むのが若干もの足りず。色々観てきて察することはできているけれど。フランクの心情理解がより深まったと思うので。
『イノセンツ』観た
夏休み、子供らに超能力が宿り、共鳴し合う。善悪の程度が覚束ない様子に恐怖を感じるスリラー。子供ならではの残酷さ、嗜虐性。身に覚えがある様な、やり場のない感情。静かにエスカレートしていくのが良かった。所謂円満ではない家庭の子らが…というのが大変つらかった。
子供の心情を読み取る系の作品で、それは好みなのだが、本当に子供らしい反応、あの親の事情に左右されて不満や悲しみがあるのを言葉にできていない具合を見る感じになるのが、もどかしくて精神的にくる。親が問題を抱えている家庭なのを察する感じで…つらい…。夏休みの終わりに円満そうな家庭が戻り賑わうのも、コントラストがなかなか強い…
子供らしい残酷さもよく切り取って表現したなぁという感じ。細かいところでは蟻に、猫と母親への仕打ちには慄いたよ。容赦ない。見せ方がすごい不穏。そのあたりが静かだがしっかりしたスリラーな感じ。
子供なりに自力で進もうとすること、サイキックな対峙はやはり高揚した。子供だけが子供に気付く。姉と妹の関係が前進する様子も良かった。
いやー、北欧らしい静かな不穏に満ちている作品で面白かった。
#映画 #感想 #イノセンツ
『ブレイン・ゲーム』観た
A・ホプキンスが超能力で連続殺人の捜査協力。説明をさらりと済ませ、予知ビジョンを差し込みつつ犯人に迫り超能力対決!胡乱な表情のホプキンスで面白かったが、最後の最後で原題の"慰め"、苦痛と死のテーマがぼやけた気がする…失速残念。C・ファレルを出すのが遅い!
コリンが目的で観たから、なかなか登場しなくてやきもきしたー。犯人役、殺人の動機はわかるのだが、能力者としてやりたかった事がもやもやする。予知した通りの結末なのか謎。ここは自分が理解していないだけかもしれないが…
対するA・ホプキンスの役は結構複雑な面があって面白かったのだが、最後の実はこうでしたーで、一気に個人のスケールの小さい話だった様に思えて、個人的には残念。単なる善人でないのは良いのだが。こういう先が見える苦痛と死がテーマなら、友人刑事達とのドラマをより絡めるのが良かったんじゃないかと。あ、その刑事のジェフリー・ディーン・モーガンが渋めで良かったー。
『ご遺体』イーヴリン・ウォー 読んだ
1948年ハリウッド近郊の霊園で、ペット葬儀社の英国青年、遺体化粧係の女、遺体処理師の男がすったもんだ。死すら商業化する米国の大仰と空疎、追従せざるを得ない英国の愚かさなどを皮肉的ユーモアに。終盤の強烈ブラックな展開にうぉぉ…と唸った。英国人の全方位皮肉はさすがだ。
葬儀がコース制だったり、遺体を良い状態に見せたり、霊園にオブジェがあったりと、今の日本では普通になってる事が描かれているのが面白い。謎美術品などを置いてる霊園あるよね。もちろん作中では軽蔑の視線で書かれているのだけど。そこも含めて共感できるユーモア。
人物や場所のネーミングが面白い。囁きの園、ジョイボーイ、ミスター・スランプ。ミス・タナトジェノス…死の一族ね…運命が決まっていたのか…おぉ…
ラストシーンの辛辣さが本当に強烈。
霊園内の建物がいかに頑丈かの謳い文句で、「高性能爆弾にもびくともしない」のを「核爆弾」にまさに書き換え中である描写があって、この作品が書かれた当時の西洋社会の核の捉え方なんだろうなと、内容とは別に興味深かった。
『カッコーの巣の上で』観た
精神科病院、狂気を装った男が患者達へ活力を与える。当時の世相か、体制を象徴する病院側を批判的に捉え、個人の尊厳と自由の渇望が主体。だが自主的入院者がいる様に、当事者には病を癒せる場…が、正しいだけではないのが難しく、それは個人も同様。複雑で苦い後味だ。
マクマーフィ、婦長、患者、または別の視点、どこ寄りで観るかで感想が違ってきそうな複雑さがあるのが良いと思う。私は強いて言えば患者寄りで観ていたかな…。苦しかったり対処したくて病院に来ているはずなので、マクマーフィは楽しいが迷惑だし、婦長らの安定感は必要だがミーティングは確実に症状悪化しそうで、他に良い病院ないのか~と思っていた。
マクマーフィは分け隔てなく自由で善寄りに描かれているけれど、勝手で傲慢さもあり苦手だ。その面が出たのが最後の事件で、あれは婦長と彼、両者の責任。罪悪感が婦長に向かうのがまた、人間の弱さであり、つらかったな。
面白く見れたのは、患者達まで繊細に描かれていたから。マクマーフィに感化されるのが、やはり魅力的で楽しい。バスケの場面が好きだ。で、やはりJ・ニコルソンの引きのある表情や動きが魅力的で憎めない感じがあるんだよな。
#映画 #感想 #カッコーの巣の上で
『ヴァチカンのエクソシスト』観た
#映画 #感想 #ヴァチカンのエクソシスト
精神疾患と悪魔を見極め、原因と対策を探り悪魔祓いをする。ベテランと若手のバディもの感もある楽しいオカルト。対人間には安心感を、対悪魔には絶妙な力の拮抗をみせるラッセル・クロウがはまり役。キュート!もう少し外連味ある演出だとなお良しだが、楽しい!
まず、熊のようなラッセル・クロウにカソックとサングラスをつけてヴェスパに乗せた時点で強い!なんだか可愛いんだ。もうどこでもあの姿で乗り付けて欲しい。
見た目と対照的に喋り方が穏やかなのがとても良くて、この神父は出来そうという安心を覚えるし、女性達に人気そうな感じ、お茶目でちょっと色気があるくらい。良い役だ~
バディものだったのも楽しい。並んで詠唱とか好きだよ~。最後の対決も期待通り楽しかった。演出はもう少し派手なのが好みだったけど、しっかりエンタメはしていて楽しかった。
悪魔の正体、目的を探るところなどはオカルトミステリの感じもきちんとあって、そこも好きです。相棒は誕生したし、まだ199あるし、是非続編に期待したいところですね。アモルト神父とトマースの七転八倒わくわく悪魔祓いの旅、また見たいよ。
『フラワーショウ!』観た
自然の在り方を表現したい女子、金も経験も無く権威ある庭コンペに挑む!当然数々の困難がある…のに全く問題解決思考が見られない主人公、大会迫る中、男を追いエチオピアに飛ぶ!今?何故?と不思議な人を見る感じに。庭デザインは素敵だが、映画的にはふわふわで残念。
脚色がうまくなかった感じだろうか。どこまでどの程度が実話かわからないけれど、自己を発揮する機会に大問題が生じてるのに、男に振り回されてる感じがどうもね…結構ラブの面を押してたじゃん。やはり製作時にその方がうけが良いと判断したのだろうか。私的には良くないです!
その割に、主人公の立場や仕事、人間関係の説明が少ないので、共感も客観も難しく、テンションが迷子になって観ていた。やはり脚本のバランスが良くないと思われ。
チャールズ皇太子(当時)のそっくりさんが出たりする(実際、隣接エリアで出場していたよう)、チェルシーフラワーショウの様子は面白かった。いざ大会に参加できるぞとなると、イギリス社会の感じが(うっすら)見えてきて興味深い。アフターパーティをハブられるのは酷いな。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』読んだ うわー面白かった!!!そしてまさか泣くとは思わなかったよ、しかも何度も…。事前情報を入れずに読んだのも良かった。尻上がりに面白くなる!仮説と実験と惨事の繰り返しを、科学の心と臆病者の勇気で突破していく、アツい希望のSFだ。よい、よい、よい!
読み始めはSFミステリーな趣があったのが、宇宙規模の感染症の話になり、それがまさか知的生命体との邂逅になり、さらには激アツな友情の話になるとは思わず。本当に面白かったな~。いやー、良いね。
ロッキーとの関係を構築していくやりとりと問題への挑戦がワクワクで楽しいし、平行して描かれる過去の謎解きも面白かった。『火星の人』でも同様の、絶望的な状況なのに暗さがない、それは科学の心とユーモアがあるから。そしてその中にも、ふとした感情が描かれているから、共鳴して涙ぐんでしまうんだよね。気候学者が顔を覆って泣く描写が最初にとても印象に残った。主人公が教師なのも最後に効いている。将来への期待と責任感。そう、全員善人なのも良い。当然ロッキーもだ!
しあわせ!しあわせ!しあわせ!
#読了 #読書 #感想
『コン・エアー』観た
初見。囚人集団輸送機だなんてトラブル絶対不可避だよね。全体的に登場人物も映画としても、すごいテンションが高いw そんな中でニコラス・ケイジだけニヒル気味に落ち着いてるのでとても格好良く見えるぞ。孤高の大正義が力業で全てを解決するなんて楽しいに決まってた。
全て強引なんだけど、ここまでやれば面白く集中させてくれるものなんだなぁw 終盤なんかとにかく派手に爆破!派手に破壊!で時代の勢いも感じる。あと登場人物のバリエーションがなかなか豊富で、特に知能犯(の割に計画ガバガバ)ジョン・マルコヴィッチ、有能だけど不憫ジョン・キューザックがいい
無意味に不穏な連続殺人犯のブシェミが好きです。マロイ捜査官がうるさいわ過激だわで笑ったな。車が釣られて行くのが面白くて。鍵を返す時に冷静になってたのも笑える。理不尽ユーモア好きだよ。
掌底で死なせるほどなぜか強いニコケイ、マルコヴィッチが的確にぬいを人質にとるとか、地上の逃避行とかほんとに強引だけど、おかしみになってるんだよねw よく見かけていた、風を感じるニコケイを確認できたのも満足です。
#映画 #感想 #コンエアー