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『ダ・フォース』読了

 「いかにして人は一線を越えてしまうのか。一歩一歩越えるのだ。」

前に1/5ほど読んで挫折したが、今回は完走。タイミングというものも大きい。が、この作品自体が進むにつれ熱量が上がりカオスと悲哀が爆発する大変面白いノワール、警察小説であった。

主人公はNYPDで辣腕をふるう白人の汚職警官、その日常、秩序を維持する"王"の苛烈な自意識がずらずらと開陳される前半。その中で一つの行動があまりにさらりと描かれ、いやぁさすが汚職のレベルが違う…と辟易。

しかしこの軽く見える一件が、自業自得の転落の道を熾烈にする問題であり、かつなぜ主人公は「警官」であり続けようとするのか?を語るもの…というのが大変面白くて。堕落し腐った悪徳の姿にも一抹の憐れみ切なさを感じるのを止められない。

約束された破滅の中で主人公が必死に汚れた手札を切るたび流れる血、司法全体の腐敗、街の腐敗、人種の軋轢がうねり絡み爆発する終盤のカオスなドライブ感が読ませる。怒りと後悔と矜持、やるせなくて涙が浮かぶ。

社会の腐敗と正義の堕落を徹底的に描きながら、それでも最前線の「現場」に臨み続ける者への敬意がある作品だった。あの序盤にしては意外にも読後感が悪くないんだよね、熱量と苦しい解放に放心するけれど。

『真夏の夜の夢(1999)』観た

シェイクスピアの戯曲、名前と妖精のパックが出ててんやわんやするということだけしか知らなかった作品、複数のカップルが魔法ですったもんだする、なるほどこういう話なんだね。オベロンが自己中、さすが王!喜劇で微笑ましくて普通に楽しかった。

台詞は演劇的、セットや衣装のこじんまりとした感じがこの話のファンタジックさに合っていて良かったと思う。その中で自転車ってのも意外で面白い。安っぽい感じもなかったし。衣装が凝っていて楽しいよ。ミシェル・ファイファーの妖精女王タイターニアが艶々プリティでとても良い!

2組のカップル4人が泥まみれになる勢いがすごい。オベロンとパックが「人間とは愚かなものよ…」となるのが納得の醜態w
でも夜が明けた時のまるでニンフな姿態が神々しい絵画の様で良かった。

あんなグダグダな職人たちの演劇で、いきなりサム・ロックウェルが演技で泣かせにくるとは思わなかったので嬉しい驚き。おいしい役だー。
クリスチャン・ベールだけ魔法かけられたままなのも愉快でかわいい。スタンリー・トゥッチが最後までキュート。

『アメリカン・フィクション』観た

黒人のステレオタイプが詰まった"ゴミ作品"なんか誰でも書ける、と売れない黒人作家が当てつけで書いた小説が売れてしまうアイロニカルなコメディ。

仕事の停滞に家族の介護に…と中年の普通の問題に直面してる主人公が、世の中が求める黒人の物語に、ステレオタイプに俺を嵌めてくれるなという気持ちがよくわかると同時に、比較的裕福でエリートで高尚な意識をもつ人間の嫌味な見下しがあるのも面白くて。
彼は白人の意識を内面化して黒人嫌悪をしてたのだと思った。選考会の時に彼が目にした写真が表すのがそれなのかなと。自身のその内面化に気づいても、属性は、黒人であることは変わらない。"世の中の求める黒人"に自分を明け渡しながらも戦っていこうという姿が、嫌味は消え爽やかな哀愁ある中年の成長という感じで、面白かった。

大衆に受けなければ表現し続けていけない?とか、作者と表現されたものとは一体か?とか、興味深い事が盛り沢山。表現はステレオタイプを壊しもするが、強化もするのが難しいところだよね。映画を観てるお前もそうじゃないの?と刺してくるところも良いよ。

白人の言う多様性のお粗末さとか、結局差別への罪悪感を拭うためにまた黒人を使っている等はブラックなコメディとして面白かった。

『ザ・ファーム 法律事務所』観た

好待遇には気を付けて、やたらと"ファミリー"と言う奴らも危険だよ!映画。
司法業界のサスペンスながら、罠にはまった新卒弁護士の主人公が七転八倒し回避しようとする様は探偵アクションものの様なスリリングさ、しかし決め手は法の力を使うというのがきちんと面白い。主人公の人となりもドラマで見せるから、彼の心理と行動が理解できて面白い。弁護士という職業に抱いた希望と目の前の脅威との板挟み、ロースクールをまさに卒業する時、職へ踏み出す第一歩の選択になるのが効いてる。宣誓の瞬間の心のジレンマ、味わい深いねぇ。
この当時のトム・クルーズの美貌は無敵な感じがする。熱意も怠惰も強さも弱さも愚かさも賢さも、全て彼の守備範囲に思える。

怪しげな先輩弁護士のジーン・ハックマン。作品をいくつか見た印象は粗暴でギラギラしている感じなので、今回の役は最初から嫌な緊張感がありすぎるし、女遊びも激しいってのにはおわぁぁ…と思っていたが、終盤急に見せる哀しさがかえって強調されるようで驚いた。罠の先を進んでしまった先輩の虚無感。面白かったな。

『ジャーヘッド』観た

戦闘シーンがほぼ無い戦争映画。湾岸戦争での海兵隊員がすごす延々とした"臨戦態勢"の時間、世界から切り離され、余計なことは考えないように、駒として戦闘意欲を失わせないための時間、恐怖や退屈を見ないように兵士自らその異様な時間に馴染んでいくようでもある。差別意識すらもそのままコミュニケーションの道具になる、ホモソーシャルな空間。
ほんの数日で敵を殺すことなく終わった戦闘、それでも世界と隔絶された場で命を晒し、惨くあっけない死を感じた者達は、心に頭に戦争を植え付けられ、もう今までと同じ日常を感じることはできない。
帰国後のあのバスの場面の空虚さがたまらない。戦場を知らない者達から浴びせられる称賛と仲間意識の滑稽さ。
戦闘だけではない、戦争が兵士の精神に与える影響を描いた興味深い作品だった。
ジェイミーフォックスの三等曹長が、こんな最高な景色を見れるから軍にいる(意訳)と言っていたが、砂漠と燃える油田の画が幻想的で確かに美しいんだよな…と思ったら、撮影がロジャー・ディーキンスなんだね、それは曹長の意見に納得してしまうわ。

不真面目な感想。
ジェイクが猛烈なテンションで裸踊りをしていて、すごいもの見せてもらった感。クリスマス帽子の使い方〜。いやーはじけてる。おもしろ…

『コヴェナント 約束の救出』観た

政府も軍もよ、約束を守らないってのはやっちゃぁいけないことなんだよ!!とガイ・リッチー怒りの力作ミリタリーアクション。冷静に熱く、面白かった。
米兵の命を救ったアフガニスタン現地通訳が亡命もできずタリバンに狙われ危機にいるため救出に赴く話。この米兵と通訳の関係に焦点があるので、どうしても美談くさいのだが、湿度の高い熱い男の物語にはしないよう努めている姿勢も見られ、そこは好感を持った。特に通訳(ダール・サリム)が米兵を救う道程がとても良い…。作戦後に米兵に声をかけられない、峠で打ちのめされる姿、緊張感の中にこういう描写があるの本当に良いよね…
米兵の方も、友情ではなく人情、寝覚めが悪い、が主な動機なのがいいし、ジェイクのキマった目のキレ演技が見れて大変満足でした。好き。
現地協力者に対しビザの発行も満足にせず、放置、撤退し、さらに彼らの命を危険にさらしているアメリカ政府への批判精神があるのは確か。それでも批判精神がぬるいと言われても仕方がない面もあるにはある。タリバンもPMCも描写が一面的だし、節度を保った本編を壊す様なエンドロールの湿っぽさ。それでも、恩義を返さず約束を守らない国家への人としての素朴な怒りも大切なものだとも思うしね…。

『落下の解剖学』観た 

転落死した男の妻が殺害容疑で裁判となる。裁判は「妥当と思われる真実」を決めるものであり、このように人間の真実は「解釈」によるのだ…、という新鮮味があるわけではない話ではある。
が、面白いと思ったのは、予想以上に法廷劇で、特に「夫婦関係は第三者が完全に理解できるものではない」ということを粘り強く見せていたこと。また、尋問の中で、多国籍社会、性別役割が自由になってきた社会であってもまだ存在する難しさがあると描いていたところ。よくあることだが、観ている側の心証が揺らぐ、自身の偏見に気付く。個人的に法廷劇に求めるものの一つなので大変面白かった。
のと同時に、この尋問が息子の前で開かれていることに胸が締め付けられる思いがした。親のグレーな部分が露わになるのを知るなんて。しかし次第に鍵となるのはこの視覚障害の息子であると見えてくる。撮影の仕方でもそれがわかる。判断がつきにくい中で解釈を「決心」しなければならない。我々も本質的には他者を解釈しかできない以上、決心して生きている。そう考えると、息子は我々を表してもいたりするのかも、しれない?そしてこの作品自体も、皆さん「決心」してくださいという様な幕引きだなと感じた。

『異人たちとの夏』読了

映画の予習に。
手放しの愛情でも、含みのある感情であっても、「自分を大事にしなよ」と言ってくれたから、これからも生きようと思えた、孤独な男に訪れたひととき。"異人"との触れ合いであることに哀しみと寂しさがあり、でもこんなにも温もりを感じもする。疑い恐れながらも、心地よさに喜ぶ姿、その心にほろりとする。良い物語だった。
ファンタジックであっても、主人公の心理や心情が実感しやすく、情景も浮かぶようで、上手な脚本家の手による文章はこうなのだなと思う。ケイだけは安直ではないの?とどうしても思ってしまう。であっても、この切なさと温かさは良いものだ。
アンドリュー・ヘイがこの温かいセンチメンタルをどう翻案しているのか、とても楽しみですね。

『ボーはおそれている』観た
帰りたくない実家に帰るときの長い長い精神の旅路で、母親と息子という関係の呪い、相互加虐についての自虐セラピーの結果出来上がったものがこれです、という感じか。正直映画の内容自体より、というか内容を踏まえた上で、これを作る人間としての監督の方に興味が深まるよ。
面白くはあった。ストーリーは難しくないのだけど、とにかくボーがとことん直面する受難の状況の羅列という感じなので、一つ一つは悪夢的で面白いのだが、展開の連なりとしてどうも映画的緊張感が無いように思えて少し退屈だった、個人的には。興奮や楽しさが足りない感じ。観る前に、ユダヤ人としての暗喩的だという話を見たので、言われてみればそうかもなぁと思いながら観る部分もあった。
最後の実家パートで結構直接的にこういう話です!と切れ味鋭くなり面白かった。親子の関係に留まらず、人間観へと広がっていく感じがするのが良いよね。罪悪感とか、愛とか誠実さとか言ってもね、こんなもんですって感じ。ですよね。不快には感じず爽快感はある。でも、表現の程度がすごいので、監督こんなに深刻そうで…大丈夫か?とはちょっと思う。

『ウインドアイ』読了

25編の短編集。
この著者の話は、どれも冒頭からいきなりおかしな状態に放り込まれていたり、かたやいつの間にかおかしく恐ろしい世界に入っていいるのに気づいてぞわりとしたり、そしてもう戻れない事態へ一気に進んでいく感じがする。この世界なぞ全く覚束ない感覚になる、不安、独特の冷ややかな怖さがあって面白い。

『居心地の悪い部屋』所収の「べべはジャリを殺す」を読んだ時から好きで、前作『遁走状態』も楽しく読んだが、今作は25編読むのになんだか大変時間がかかった。どれも短いのに。精神的に重たい、消化するのに重たい感じがした。『遁走状態』の方が好きな話が多かったかもしれない。こちらのコンディションのせいもあるが。

特に好きなものは以下のとおり。
特に良かったのは、やはり「ウインドアイ」かな。本書の献辞が「失われた妹へ」というところから効いている。子供時代の覚束なさから続く不確かな感覚にぞわぞわする。
「過程」「ダップルグリム」「陰気な鏡」「モルダウ事件」「知」「トンネル」「不在の目」「タパデーラ」「酸素規約」など。並べてみると、物語性、事件性、すこしSF味があるものが好みだったな。

『ディヴァイン・フューリー/使者』観た

キリスト教思想と儒教的思想って、父なるものへの思慕敬愛のような部分で相性がいいのだろうか?興味深いなー、と思いながら見たエクソシスト・アクション。なかなか面白かった。
父親と神父さん、守り教え導いてくれる者と主人公の邂逅のドラマは暖かい感じで面白かったし、神を憎む者こそ神を信じている(信じない者はそもそも憎しみを抱かない)という理屈から聖痕パワーが解放されるってのが面白かったな。父なるものへの愛憎が軸なんだよね。
主人公が総合格闘技家で、手のひらの聖痕と聖水で肉体的にエクソシストするのが新鮮でとてもいい。アクティブ祓魔楽しい!
ホラー的描写、悪魔的ものの造形がなかなか気合が入っているのも良かったですね。ヨンフを夜な夜な襲う悪魔?とか、祭壇の水溜めに引き込む数多の手とか、禍々しくて良いよね。

話運び、編集?が丁寧ともいえるけど…とても普通なので若干退屈だなとは思いました。この内容ならもっと面白く見せてほしかったという感じ。
これ、ヨンフとチェ神父とが仲良くなって組んでも楽しいのになー、と思ったらチェ神父再臨するんですか?ありがとう。待ってる。

『Firebird ファイアバード』観た
1970年代後期、ソ連占領下のエストニアで。同性愛が厳罰に処される状況の中で、厳しくも愛することを確かめる話だった。愛や友情の中で関係を選んで生きていくという点では、つらいというか、ひどい話ではある。悲恋の上に三角関係…。セルゲイと特にロマンなどはもっと誠実であればこんな状況は避けられたのでは、とは思う。気持ちと行動は異なることがある、確かにそれは人間らしいことでもあるし。しかし、人としての誠実さが失われ状況が悪化した元凶は、同性愛を嫌悪する社会規範があり、規範が法となり、その法がある監視社会であるということがはっきり示される、理解できる、そういう作品だった。
最後のメッセージも、ラストカットも、観ている者に強く受け止めて欲しいという気持ちが伝わるものだった。

『ダム・マネー ウォール街を狙え!』観た

2021年米株式市場での「ゲームストップ株騒動」を描く作品。
想像以上にコロナ禍での庶民の気分を映す作品で面白かった。話を引っ張るのが、ごくごく庶民で趣味の投資の配信をするYoutuberなのが非常に今っぽい。正直で意志のある彼の行動が、株式市場における階級闘争、個人投資家対ヘッジファンドの対立の旗印となり、コロナ禍での庶民のシビアな生活、不安と孤独の感情がSNSを通じてひとつの所に高まり狂乱していく様が、ユーモラスながらウェットに描かれているんだよね。学生ローン、失業、そして人との別れ。停滞感と先の不安の中で、ぬくぬく生活している資本家達への対抗が希望か憂さ晴らしなのか、そこへ自然と集っていく感情。しかし当然人間らしい、それぞれの心の揺れがあって、株価の動向と共に人々の行動の危うさにもハラハラする。それでも全裸で走る心意気だよ!
また、ヘッジファンドを一発殴ってやった後の展開が、大変いやらしく生々しい。庶民の力がゲームを動かしても、結局資本家がゲームを握る構図は変わらないのではないかという皮肉。株式市場、金融市場の現在に向けたこの眼差し。これで世界の経済(の一部)が回っていると思うと恐ろしいよ。

『真実の行方』観た

そこそこ映画を観てきた今だと、初めの方でこの事件の犯人、動機、概要はおおよそ想像がついたりするのだけれど、それでも、軽薄な野心家に見える主人公弁護士の仕事と人間への信念を知り、審理の成り行きと彼の奮闘を見せる法廷劇の緊張を楽しんだ後に、前触れもなくこの結末をもってくる、この展開の鮮やかさは面白かった。沢山の報道陣が待ち構えるのを見る主人公を背後から写したシーンが良い。彼の胸にはどんな感情が広がっているのか、または何も感じられないでいるのか。痺れるね。

『緑の光線』観た

バカンスを一人で過ごせない女性、どんどん拗らせる。
人生にとって恋人ってそんなに必要だろうか?というのは置いておいて。周囲の人間が、今恋人が必要な自ら行動するのも必要じゃない?と助言するのも頷ける程、どうも状況に受動的な主人公デルフィーヌ。ついついそうも言いたくなる、彼女の不貞腐れた様子…。助言の中には、一人で過ごす旅もいいものだよというのもあるが、二言目には、旅先で出会いもあるかもだし、人生ずっと独り身ではないんだし…と続けられる息苦しさ!この欧州のシングル人生は駄目という価値観を目の当たりにして、主人公が段々気の毒に。
そう、主人公は不貞腐れてはいるが、規範や欲の中で自分の感情や意志を明確にできない、言語化できなくて苦しみながら拗らせていく心理は、とっても理解できて可哀そうになるんだよね。自分には人に与えられる価値が無いから孤独なのだというね…そんなことはないんだよと、声を掛けたくもなる。
それでも、何とか語りだして、偶然に乗っかって、緑の光線を見にいこうと踏みせた時、心が形になりはじめた時がなんとも愛おしい。

「自分自身と他人との触れ合いをとりもどそう」と作中で教えてくれるの、親切だな。

『ソルトバーン』観た

これ、上流階級・実家が太い人間が放つ屈託のない優しさで、しかし見えない境界線が引かれている悪意のない残酷さもあるやつなのだろうな、これは下流の者の愛憎を煽るよ…と思っていたらやはりそういうお話だったので納得。『太陽がいっぱい』の親戚の様な。その愛憎の苛烈さがバリー・コーガンによって湿度高めでねっとり増幅されてくるの、面白いね。

主人公オリヴァーの上流の同性の友人フェリックスに対する欲望が尋常じゃない、同一化したい域に達しているのが独特で大変面白かったのだけど、やや奇を衒っている印象を受けたのと、オリヴァーの"裏"が見えても、じゃあ彼の強烈な欲望の源泉は一体どこに?と疑問のまま最後まで話が走っていくのが、ふわっとしていたかなと感じた。オリヴァー側の心理スリラーというより、上流の人々はいまこれが怖いんだスリラーに見える気がして。

バリコを最大限堪能できる作品としては、本当に良いですね。今回は裏がある役だったので、彼の心理の動きの詳細は読ませない、でも今確実に情念が発酵している…な演技の上手さが効いているよね。歩き方でも全然違うんだよね。そして今回は何でもやってくれたなぁ。
最後のダンスはね、気持ちがわかる気がした。『帰らない日曜日』を思い出した。

『ある少年の告白』観た
ある出来事を契機に、キリスト教系LGBT矯正施設へ送られた青年の苦悩と告発。実話ベース。
主人公の動揺・苦悩と闘いを見つめながら、施設の実態と彼に何が起きていたかを知るミステリー的要素も。キリスト教の牧師家庭で、父親・母親・息子が各々の立場で教義と心情に苛まれ、関係が歪んでいく様は見応えがり。皆上手いし、視線など内心の表現・撮り方が安定していた。保守的信仰が篤い人には難しいとは理解するが、正しいとはとても言えない。
矯正を騙った虐待であることは明らかなのだが、ではなぜそれを行うのか?というと、単に信仰や金銭的利益目的だけでなく「正しい事をしている実感」の為では…と思うのですよね。そうでないと、ああも熱心に運営管理しないのでは。守秘義務を持ち出すあたり自覚もあるのだろう。本当に人間は厄介だと思う。
虐待や理不尽をされるのが問題なのは大前提で、決断し抵抗し闘う勇気を出さねばならない時はあること、それでも味方がいなければ貫けないこと、を重く感じた。施設でのその後を伝えられた彼は、主人公の別の未来だったのだろう。危険な気配の中を主人公が決断できず進んでいく様がつらかった。ルーカス・ヘッジズ君は、繊細で不安定でも内省し闘う強さがある性格を演じるの上手くて、本当に良いよね。

『シャクラ』観た

ドニーさんなので是非とも観る、ということで全く情報を入れずに観ましたが、武侠物時代劇ファンタジー演出ありという感じで楽しかった。武侠物結構好きなんだよね。
アクションは剣戟も体術もさすがで、満足感ありで楽しかったのだけど、いきなり拳から炎や波動が出たりする演出ともちろんワイヤーアクションなので人を選ぶのかな。私はこれも結構好きです。だってもう降龍十八掌!とかバチバチに決めるのワクワクすぎるよ。派手波動演出とドニーさんが若作りということで『かちこみ!タイガー・ドラゴン・ゲート』を思い出しながら観たり。あれ、なんだか忘れられなくて…
原作が人気の長大な小説ということらしく、それを映画にしたことから、情報量がかなり多いのにざっくりしているけれど、話に乗ってしまえば爆速展開も面白く見れる。恩讐とか悲願がね…なんかすごいのよ。誰に信じて貰えなくとも正道を貫くのが真の英雄という話とは言え、頼れるリーダーのはずなのにあまりに誰も彼を信じないし悪し様に言うので動揺…なぜそこまで…。しかし、武侠らしい義断の盃からの大乱闘とか爆上がりの展開などがあって楽しかったですね。喬峯というかドニーさんの強さが異常!という期待したものが確かに見れて楽しかったー

『源氏物語の結婚 - 平安朝の婚姻制度と恋愛譚』読了

大河ドラマの予習になるかもと読む。
これは面白かった。平安期は一夫多妻制と言われているが、本当は一夫一妻制多妾状態が正確だろうと述べる本書。ぼんやり理解されているものに、法令や立場の優劣の例を引いて検証し、法的関係の重さに注目している。婚姻制度を知ることで、当時の恋愛も幸せの形も見えてくるし、恋愛ものとしての源氏物語の奥深さもわかってくる。愛だって見えるものにすることで、強さも深さもわかるのだ。ただ愛があるだけでは正妻にも幸せにもなれない、女達のシビアで悲しい世界。
なるほど、嫡妻との間には恋愛は起こり得ず、翻って恋愛はその他の女性との間で起こると知ると、源氏物語も腑に落ちるところが増えてくる。当時の社会的立場を登場人物にリアルに落とし込むから読み継がれてきた側面もあるのかもと思う。「つま」達の立場の優劣を知ると、かなり強烈な恋愛物なのかもしれない源氏物語。そして、式部先生の冴えわたる構想力!といったところかな。
源氏物語の婚姻例を具体的に説明する部分もあり、サブテキストに最適に思われる。理解も、見え方読み方も変わる。
で、このように面白い社会通念の一端に触れても、源氏はやべえ奴だと思いますけれども。

『コカイン・ベア』観た
輸送事故により森に投棄されたコカインを熊が摂取してしまったら、ハイな熊が人を襲うんじゃね?ってことで、確かに熊のコカイン摂取への欲望により人が次々に襲われていく!飛ぶ血しぶき!なのだけど、意外とテンポがまったりしていて、期待した緊張感には足りなかったかな。中盤の救急隊が到着するあたりのテンポ、緊張感、惨劇のユーモアは良かった!聴診器を使ったアレは声出して笑った~。あれは面白すぎる!
東屋の攻防も、関係性が動く緊張感があって、なかなか面白い場面。それ以外が思ったよりおとなしくて惜しい。悪くないんだけど。
登場人物が多くて、それぞれの事情で次々と熊の森へ集結し、そして皆がどうやら人生を次に進ませていきたい気分である。さてそれなら誰が生き残るのか?という楽しみはあるし、最初の方で、おやこれは友情のドラマがあるっぽい?と思ったらやっぱりあるので、その辺は意外と良かったです。人生の打開も終了もクスリ欲しさの熊次第。まあ大変。
熊の凶悪さ、爪の破壊力などが一応描かれていたのは良かったよ。きちんと鋭かった。今年は熊の報道が多かったこともあり、噛み攻撃も強力だけど、熊はまず速さと爪の威力が特に怖いと思っていたので。

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