自分の能力の使いみちに目覚めたデュチユールは、手はじめに大銀行の金庫に忍び込み、ポケットに紙幣を詰め込んで立ち去る。現場の壁に赤いチョークで残された「狼男」の署名。
銀行、宝石店、富豪邸で繰り返される盗み。わざと捕らえられて入った刑務所からの脱出。有名なダイヤモンドが盗まれたり、中央銀行が破られたため、内務大臣が解任され、巻き添えで登記庁の長官も馘首。
女性運も訪れる。
嫉妬深い夫に監視されている美女との出会い。夜が更けるの忘れて愛し合う二人。
繰り返されるランデブー。そしてある朝の帰り道、壁を抜けようとしてふと感じる抵抗感。壁は急速に粘りを増し、彼は壁に閉じ込められてしまう。アスピリンと思い込んで飲んだ薬が、以前に医師から処方された薬だったことにデュチユールは思い当たる。その薬が過労に効いて、壁を通り抜ける能力が消えてしまったのだった。
デュチユールは生きている。彼の消えた現場を夜更けて通りかかるなら、人は吹きすさぶ風音のようなものを聞くことがあるだろう。それは輝かしい人生の終わりを嘆き、短かすぎた恋を悔しがる狼男デュチユールの泣き声なのである。
[粗筋おわり]