『もなかと羊羹』
仲俣暁生著 破船房 2024年10月7日発行
軽出版。zineより少し本気で、一人出版社ほど本格的ではない、即興的でカジュアルな本の出し方。巨大な装置産業である出版産業から離れて、執筆から販売まですべて一人で、気楽にサクサクと出版していく。そんな「軽出版」という言葉の生みの親である中俣さんによる軽出版エッセイ。同人誌の経験がある私も、ちょっと趣向を変えて挑戦してみようか、という気分にさせられた。コンテンツの作成だけではなく、デザインから印刷発注、そして1冊1冊を販売するところまで手がけるの、本当に楽しいんですよね。商業出版の見本誌が届くのも嬉しいけど、印刷所から自分の同人誌が届いた時の方が嬉しさは大きい。後者は利益にはならないのにね。
『ヘンリー・ライクロフトの私記』
ギッシング著、平井正穂訳、岩波文庫 1961年1月発行
ハードカバーや古典新訳文庫版ほど岩波文庫版は読み返していなかったかもしれない。いつか自分でも訳してみたかったけど、原文はけっこう言い回しが難しかった気がするのと、既存の翻訳ほど巧みに訳せないなと早々に諦めたのだった。ギッシング最晩年の著作。読み返すたびに、つまり歳をとるごとに、心に迫る部分が増えていく。
"だが、私は再びこれらの書物を手にすることはなかろう。年月はあまりに早くすぎてゆくし、しかもあまりに残り少ないのだ。"
"明らかになにかが初めから私には欠けていた。なんらかの程度に、たいていの人にそなわっているある平衡感覚が私には欠けていたのだ。"
『人工知能 人類最悪にして最後の発明』
ジェイムズ・バラット著、水谷淳訳、ダイヤモンド社 2015年6月発行
当時の著名なAI研究者や技術者の取材を通じてAIの脅威を描き出す。これ、原著が出たのが2013年と10年以上も前。生成AIなど影も形もなく、おもちゃにも満たないような性能のAIが最先端だった時代。最新の技術が半年もすれば時代遅れになってしまうAIの世界で10年前は石器時代みたいなもの。それでも当時から人類の存続がかかるAI脅威論の本質は変わっていないと思わせられる。ただ、著者は専門家ではなくテレビプロデューサーであるせいか、本書も仮定の話が多く、今ひとつ説得力に欠けるように感じた。一方、10年たって超知能が本当に目の前に迫ってきた切迫感があるせいか、最近慌てて政府や国際機関がAIの脅威に対応しようとしてるように見えるけど、もう引き返せるポイントはとうに過ぎてしまったんじゃないかな。いずれにしろ大変興味深い時代だと思う。
『ガメ・オベールの日本語練習帳』
ジェームズ・フィッツロイ著、青土社 2021年2月発行
半月ほど前、たまたま有料のnote記事2本を読んで、なんとすごい書き手がいるのだと驚いて著書を買った。著者はニュージーランド人。もともとブログに掲載されていた記事をセレクトしたのが本書。たしかに文体はブログっぽい。そしてむちゃくちゃ面白い。こういうのは決してAIには書けない。テーマは、日本、日本語、東京、友人、文学、戦争、貧困、音楽など多岐にわたる。
今のブログはここで読めます。
ガメ・オベールの日本語練習帳 ver.8
https://james1983.com/
本書のあとがき:
日本語の本を出すということ – ガメ・オベールの日本語練習帳 ver.8
https://james1983.com/2020/12/03/nihongo_rennshuuchou/
『生き仏になった落ちこぼれ』
長尾三郎著、講談社文庫 1992年1月発行
40km以上の山道を1000日歩き続ける比叡山延暦寺の千日回峰行。何があろうと中断は許されない。そのため自害用の短刀を携え、死に装束を着て歩き続ける。終盤は1日80kmにもなる。睡眠時間は1日2~3時間。さらに中盤の堂入りでは、9日間にわたる断食・断水・不眠・不臥。比叡山1200年の歴史で千日回峰行を達成したのは50人にも満たない。その千日回峰を二度も成し遂げた酒井雄哉は、戦争で心に傷を負い、事業に失敗し、妻を自殺で亡くすという人生に、39歳で出家。史上最高齢で千日回峰を達成する。壮絶なドキュメンタリー。
『食卓歓談集』
プルタルコス著、柳沼重剛編訳、岩波文庫 1987年10月発行
プルタルコス(プルターク)はローマ時代のギリシア人著述家。この本では「酒席で哲学議論をしてもよいか」に始まり「宴会の幹事はどういう人物であるべきか」「なぜ秋には空腹を感じやすいか」「宴会の料理はめいめいに盛り分けるのと大皿からめいめいが取り分けるのとどちらがよいか」といった親しみやすいテーマが並ぶ。「鶏と卵ではどちらが先か」というお馴染みのテーマもある。「なぜギリシアやローマでは宴会の時に寝そべって食べるのか」を一番知りたいのだけど、それが書かれてないのはあまりにそれが当たり前だったからだろうね。
読書が捗らない本好き。フリーランスと無職の狭間。オカメインコとセキセイインコのお世話係。好きなもの:本、web小説、生成AI
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