昨日『ゴーストワールド』見たときに宣伝してたベルギーのバス・ドゥヴォス監督の2作品、映像がきれいでものすごく良さそう。映画館で見ると、射程圏内になかった映画に興味が出てくるのが嬉しい。
特に『HERE』はアジア系のコケ類を研究する植物学者の女性と、移民労働者で友人たちに手作りのスープをふるまう男性の淡い恋愛ものだそうで、この設定、ちょっと『第七官界彷徨』を思わせるものがあって、これはぜひ見たい!

sunny-film.com/basdevos

元気な女の子が活躍する映画は楽しいよね、ということで『サイコ・ゴアマン』を見ました。元気が良すぎてキリストに喧嘩売って十字架ぶち割ったりしててびっくりしちゃった。

地球にひそかに埋められていた銀河の破壊者が、幼い兄妹によって掘り当てられて復活するが、彼の力をコントロールする宝石を残虐な妹ミミに奪われて大変なことになるけどミミは幸せです、という物語。人体が破裂したりするスプラッタ描写もあるけど、あえての作り物っぽいコミカルさがあり私でも耐えられました。ただフィクションでも子どもが悲惨な描写をされることに耐えられない人はやめたほうがいいと思います。2人ほど凄惨なことになります(うち一人は見ようによっては可愛い)。

このミミ役のニタ・ジョゼ=ハンナがとにかくすごい逸材で、人の話を聞かない、変なスポーツを生み出す(そしてそれが宇宙の運命を決定することになる)、破壊者にいうこと聞かす等の才能に溢れた少女像を見事に演じ切っています。特にサイコ・ゴアマンにドラム叩かせてバンド活動に勤しむ姿が最高でした。つうかミミが最高すぎてPGが霞むわ…。

私はへドリアン女王が大好きなので、宇宙から来た敵役が東映特撮の悪役っぽくて、女性の声で日本語でしゃべる生き物?がいたのが嬉しかったです。


BT、私は岡本喜八監督が物凄く好きですが『大誘拐』は未見で、とにかく全作品を見終えてしまったら寂しい、怖い、どうしようと思うくらいには好きなのですが、今年はおそらく新文芸坐で上映されると思うので、その時までに原作を読んでおきます。原作→映画なら未見で良かった!

岡本監督はご本人も小説を何作か書いてる位のミステリ好きで、今月から始まる新文芸坐の特集上映ではコーネル・ウールリッチ『万年筆』原作の『ああ爆弾』(佐藤勝の音楽と伊藤雄之助の音感リズム感の良さ、越路吹雪と砂塚秀夫の可愛さ、中谷一郎率いるヤクザのダンス、東宝の名バイプレイヤー沢村いき雄唯一のほぼ主演作!)、都筑道夫『飢えた遺産』原作の『殺人狂時代』(デロっと登場してビシッとスーツ姿に変身するナイスな仲代達矢とスタイリッシュな天本英世のスペイン式決闘!)を熱くオススメしたいです!どちらも大コケしたそうですが大傑作です。

2023年配信・旧作ベスト映画(順不同)

不動の一位 大脱走

以下は順不同で
・暴力脱獄
・冬の旅
・未成年
・ペイン・アンド・グローリー
・ユーリ・ノルシュテイン傑作集
・さらば、わが愛 覇王別記
・ニューヨーク ジャクソン・ハイツへようこそ
・ブラック・クランズマン
・マッチ工場の少女

映画館で再び大脱走を見ることが長年の夢だったので、昨年は2回見に行けて幸福でした。これホモソーシャルとは真逆の映画で、男性同士の対等な労りあいやサポートが描かれているし心身の弱さも映画内で否定されないんですよね。その空気を作り出しているのがリーダーを演じたリチャード・アッテンボローで、全編を貫く強靭な明るさはスティーブ・マックイーンが担っていて、バランスがものすごく良い。また見たい、何度でも。
『大脱走』は好きすぎてどれだけでも語りたい……!
『暴力脱獄』、ポール・ニューマンがやっぱり好きだ!
『ユーリ・ノルシュテイン傑作集』についてはなんで配信終わる直前に見たんだ、と後悔している。もっと早く、何度も見ればよかった。


2023年ベスト映画 

1 FIRST COW
2 NEXT SOHEE(あしたの少女)
3 HUNT
4 別れる決心
5 THE FIRST SLAMDUNK
6 ノベンバー
7 ベネデッタ
8 首
9 カンフースタントマン
10 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

見落とした映画も多いのですがこんな感じです。前も書いたがネクスト・ソヒの邦題はどうかと思う。『ユリョン』見たかったなぁ…!
5と6は去年の映画ですが、今年に入ってから見たので。6はアンドルス・キヴィラフク原作の美しいモノクロ映画で、原作もいつか出版されますように。


『FIRST COW』、年末に滑り込みでこんなに好きな映画に巡り合えるなんて、「おっ西部劇らしいな見とくか」くらいの軽いノリで見に行って本当に良かった…西部大開拓時代より少し前の1820年代のオレゴンの話で、メリーランド出身の男性と中国からの移民の男性が仲良くなり、一攫千金を目指して仲買商人の牛から牛乳を盗んでドーナツを作る…というあらすじから想像できる甘やかな成功物語とは真逆の、持たざる者の悲しさを静謐に描きだした作品です。二人とも持たざる者ではあるんだけど、互いを思いやり労り合う強固な友情の描写がとても美しい。
あー西部劇、そんなにすごくたくさん見てるわけじゃないんだけど好きでよかったホントに。古いジャンルが新たに作られる傑作によって次々に新しい側面を照らし出されてて、これもそういう一本です。ジャームッシュの『デッドマン』やピーター・フォンダの『さすらいのカウボーイ』(あれほど作りこまれた美しい映像ではないが、自然光を生かした青く濁った色合いが泥濘とシダに囲まれたオレゴンの自然を写してとても良い)好きな人におすすめです。
 

キム・ユンソクの初監督作『未成年』もアマプラ復帰してますね。男性が若い女性を主役に撮るときに、過剰な思い込みによってある種の気持ち悪さがにじみ出ることがありますが、そういう感情を一切抱かずに見られますし、思春期の女の子たちの喜びや苦しみを鮮やかに描いた大傑作なので、たくさんの人にみてほしい。

この映画でキム・ユンソクが演じる父親、社会的な地位は高いのにとんでもなく狡いうえにダメな人間で、映画内では主人公たちに見捨てられるばかりか今までしてきた行為の報復とばかりに行きずりの暴行まで受けるのですが、ユンソクの演技が心底情けなくて(キム・ユンソクなのに!)家父長制でもごまかせない普通の男性の狡さをここまで容赦なく描いて演じ切る誠実さは逆に感動するほどです。

最後に描かれる主人公二人の行動は、日本映画だとたいてい狂気の表現として描かれるのですが、この映画では二人が自分の記憶に悲しみの経験を刻み込み、痛みを分ちあうための儀式として描かれていて、その描写の軽やかさも含めてとても好き。
若い女性の葛藤を描いた映画として、同じ韓国映画だと『わたしたち』『はちどり』等、または『ゴースト・ワールド』なんかと並べておきたい傑作。

『プリースト 悪魔を葬る者』

キム・ユンソクとカン・ドンウォンのコンビによる、繁華街の路地裏、古いアパートの一部屋で繰り広げられる悪魔祓いの物語。韓国のエクソシストものに先鞭をつけた作品で、主演の二人も悪魔に憑かれた女子高生を演じるパク・ソダムも素晴らしい。
何回も見ているけれど、見るたびになぜか勇気が出る映画。路地裏でひっそりと行われる世界を救う闘いは、褒賞も名誉もなく、例え無事に生き残ったとしても、得られるものは夜ごとの悪夢のみ。それを理解したうえで、それでも他人を救おうとする二人の姿に胸が熱くなる。

カン・ドンウォン演じるアガトがグレゴリオ聖歌を歌い、ユンソクが低く唱和する場面は、信仰心のみを武器に戦う行為をこんなふうに美しく描けるのか、と何度見ても感心します。
路地裏のアパートの暗闇から一歩出るとにぎやかな夜の街が広がっているというシチュエーションがたまらないし、街の明るさに逃げたアガトが闇の中に過去を見出す姿は感動的で美しい(もう少し葛藤を詳しく描いてもよいのでは、と思うが)。
キム・ユンソク、無頼な態度に隠した優しさの表現がまじで世界一上手な人だと思う。


『アンネ・フランクと旅する日記』のことをしょっちゅう思い出している。

博物館に置かれた日記の中にいて、アンネの死を知らなかったキティーが、現代に顕現してアンネを探してアムステルダムの街を駆け回る。その過程でストリート・チルドレンや難民の子どもたちと知り合い、彼らの協力を得ながらアンネの生涯を辿る旅に出る。

空想の女の子には、いつまでも、どこか遠いところで幸せでいてほしい。けれどアンネ・フランクの一番の親友だった女の子が、現実を知って何もせずにいられるわけがない。
この映画はホロコーストから続く問題として現代の難民問題を扱っていて、キティーはほとんど命がけで彼らのために政府と交渉する。
物語は静かな終わりを迎えるけれど、その後の現実を、イスラエルとガザの現在を、キティーが今もし存在したら、どのように受け止めるだろうか。

せめて自分は、キティーに賛同の意を示して拍手を送ったモブの市民たちのようにありたい。
うまく言えずにもどかしいのだけれど。

イ・ジョンジェ監督・主演『ハント』見てきた。暴力描写に容赦がないが暴力の果てを見据えつつ乾いても絶望してもいない、全てにおいて物凄く真摯な映画でジョンジェさんありがとうございますという気持ちです。はーこの世界にイ・ジョンジェとチョン・ウソンが存在することの奇跡よ…!
歴史の知識が足りないとこあるのでこれからパンフレットじっくり読みます。東京支部メンバー豪華すぎてちょっと笑ってしまった(予想外の人が出演してて嬉しくて)
いやもう、いい映画でもっと感想練りたいけどまずこの感動を残しておきたい。初監督でこのスケール、本当に凄い。見てよかった!!
 

この苦しさって、ソヒの苦しみの追体験でもあり、その苦しみを知りながら無視する周囲の人の感覚の追体験でもあるからだと思うのです。映画を見たあとしばらく動揺してしまい、私はただ運がよかっただけなのだ、と自分の過去を思い出したりして眠れない日が続きました。
ただソヒを照らした光が、後半でユジンを真逆の意味を持って照らし出すのは本当に救いに思えます。ユジンがソヒの友人たちを訪ね、「私に話をして」と伝える場面の暖かさ。
彼女は社会構造自体を変えることは(この映画の中では)できなかったけれど、それでも次のソヒを生み出さない、という決意と行動に、勇気づけられる思いがするのです。

あと最後に、これ搾取構造の中で抑圧されて亡くなった一学生が、気が強くてダンスが好きで、組織に合わせて自分を矯めることができなかった、ただひとりの「ソヒ」であったって刻み込むような映画でしょ、だから『次のソヒ』というタイトルは私にとっては『私は、ダニエル・ブレイク』と近しい意味を持つんですがなんでこんなぼんやりした希望でごまかすような邦題をつけるんだ。と思うのでNEXT SOHEEを最初につけます。

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NEXT SOHEE あしたの少女 感想。
10月から上映されるところもあるので、ぜひ…と言いたいところですが、私は深く感動して心身がしばらくおかしくなったので、パワハラでつらい思いをした方等は体調とご相談の上でぜひ。個人的に体調を崩しても、見てよかった映画です。

ソヒを演じたキム・シウンも、彼女の死を捜査するうちに若い労働力を安価で搾取する社会構造に気づく刑事ユジンを演じたぺ・ドゥナも、素晴らしかった。
ぺ・ドゥナ、公権力の側から権力を糾弾する、理想が込められたキャラクターではあるのですが、それが不機嫌で不安定な中年の女性として描かれるのが本当に、本当に良いんです。寒空の下、黒いダウンとグレーのジーンズに身を包み眉を顰めて歩くぺ・ドゥナの不穏さ、なぜか『生きる』の伊藤雄之助を思い出しました。かっこよさの質が似ている、気がする。

ソヒがインターンの労働環境の中で追い詰められ、会いに行った友人のパワハラの現場を見てしまい背を向ける場面、友人たちも同じ被害を受けているため相談できない、家族は彼女を蔑ろにしているわけではないが、彼女にそれほど興味がなくて、という描写が上手くて苦しくて、決定的な場面で彼女を照らす光の不穏な美しさが本当に恐ろしい。

『ウィリーズワンダーランド』よかったです、という話。

ニコラス・ケイジが、迷い込んだ町の悪魔に取り憑かれた遊園地をお掃除する話。
80年代のスラッシャーのパロディだと思うのですが、ニコラス・ケイジとヒロインが、ニコラス・ケイジとウィリーがメンチ切りあう場面のカットバックとかなんか日本のヤンキー漫画の実写版ぽくもあり、段々ニコラス・ケイジがゴリラーマンに見えてきてすごいウケてしまった。寡黙でセリフ「破ァ!!」くらいだし、実直にお掃除して悪魔の動物ロボット(着ぐるみ)が襲ってきたら脊髄ブッこ抜きなどのフェイタリティを華麗に決めて、タイマーが鳴ったらジュース飲んで休憩する姿にわかばを吸うゴリラーマンが重なります。戦闘シーンのみをチラ見した息子によると、「昭和の特撮みたいだね~、ウルトラシリーズとかこれくらいのあるよ」とのことで、まあタイマー鳴ると休憩しにいっちゃうしな(ウルトラ兄弟は休憩してるわけではない)。
クライマックスからラストにかけては同じく80年代の変なハードロックのMVみたいで最高でした。ニコラス・ケイジの煌めきは1㎜も変わってなくて嬉しい。でもアメリカでは大コケしたようです。アマプラはもうすぐ配信終了なので、興味がある方はぜひ。


『THE FIRST SLAM DUNK』1月に2度見に行ってからずっとカオルさんとリョータのこと考えてて、ボタンを掛け違えたまま長い年月が経ってしまう親子関係の描写、カオルさんの気持ちにもリョータの気持ちにもしみじみ感じるところがあって大好きなんですけどそれはそれとしてあの映画、あの5人の魅力は言わずもがなとしてほかにも卓越した身体描写とか独特の時間の感覚とか見どころいっぱいあったよね、と思って昨日見てきたんですけど、リョータのアップがペン画に変わった瞬間から現在まで「あああもう一度見たいいいいい~!!」と身もだえしており31日までとは言わず年内いっぱいどっかでやってくれませんか。

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