キム・ユンソクの初監督作『未成年』もアマプラ復帰してますね。男性が若い女性を主役に撮るときに、過剰な思い込みによってある種の気持ち悪さがにじみ出ることがありますが、そういう感情を一切抱かずに見られますし、思春期の女の子たちの喜びや苦しみを鮮やかに描いた大傑作なので、たくさんの人にみてほしい。
この映画でキム・ユンソクが演じる父親、社会的な地位は高いのにとんでもなく狡いうえにダメな人間で、映画内では主人公たちに見捨てられるばかりか今までしてきた行為の報復とばかりに行きずりの暴行まで受けるのですが、ユンソクの演技が心底情けなくて(キム・ユンソクなのに!)家父長制でもごまかせない普通の男性の狡さをここまで容赦なく描いて演じ切る誠実さは逆に感動するほどです。
最後に描かれる主人公二人の行動は、日本映画だとたいてい狂気の表現として描かれるのですが、この映画では二人が自分の記憶に悲しみの経験を刻み込み、痛みを分ちあうための儀式として描かれていて、その描写の軽やかさも含めてとても好き。
若い女性の葛藤を描いた映画として、同じ韓国映画だと『わたしたち』『はちどり』等、または『ゴースト・ワールド』なんかと並べておきたい傑作。
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#マストドン映画部
『未成年』追記。主人公二人の関係、敵対心から始まって同じ痛みと悲しみを分ちあうけど、気軽に友情と呼べる関係ではないし、経済的な格差があることもほのめかされていて、二人とも別の道を歩んで二度と会わないかもしれない、それでもこの瞬間、同じ経験を同じ感情で確かめ合った記憶を決して忘れない、という決意が微笑みとともに描かれるラストがたまらなく好きです。微妙な距離感の少女二人の関係性が好きな人にぜひ見てほしい。
そしてそんな二人の姿を繊細に描き出したキム・ユンソクの手腕よ……この人映画内で暴れてるとマッコールさんとか連れてこないと太刀打ちできないのではというくらいおっかないのに…(『哀しき獣』『海にかかる霧』『1987 ある闘いの真実』、『タチャ』はポーカーに負けるとキム・ユンソクに鉈で腕切られるからギャンブルはやめようという啓蒙映画←嘘)。
『未成年』のラストの行動について、同じ行動をする描写がある日本映画
『仁義の墓場』では渡哲也が、『たそがれ清兵衛』では田中泯がやっていたのと同様の行為を女子高生二人が、って書くとなんかとんでもない感じがするけど『未成年』は本当に、笑顔で描かれる分痛みと覚悟が伝わって素晴らしいんです。