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12月に買った本。
バーナディン・エヴァリスト『少女、女、ほか』の語りが素晴らしくて、最高の群像劇でした。今年の個人的ベスト本。

エリザベス・ストラウト『ああ、ウィリアム!』もとても良かった。
ストラウトが書く、時が経ち今となっては遠くて曖昧な、しかし確かな感触を伴って自分の裡に浮かび上がってくる記憶の断片を積み重ねてゆく語り方、やはりめちゃくちゃ好きです。

ニナ・ラクール『イエルバブエナ』は、年末年始休暇に読もうと取ってある。訳者の吉田育未さんがアナウンスしてくださった時から楽しみにしていました。

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◆バーナディン・エヴァリスト『少女、女、ほか』(渡辺佐智江 訳)
◆カン・ファギル『大仏ホテルの幽霊』(小山内園子 訳)
◆エリザベス・ストラウト『ああ、ウィリアム!』(小川高義 訳)
◆マイカ・ラジャノフ、スコット・ドウェイン『ノンバイナリー』(山本晶子 訳)
◆ニナ・ラクール『イエルバブエナ』(吉田育未 訳)
◆ピーター・スワンソン『だからダスティンは死んだ』(務台夏子 訳)
◆岸本佐知子『ひみつのしつもん』
◆小学館編集部編『超短編!大どんでん返しSpecial』
◆皆川博子『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』

森山至貴×能町みね子『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ 性と身体をめぐるクィアな対話』

ジェンダーやセクシュアリティのことで悩んだり、社会規範に対する居心地の悪さを感じているクィアの人たちへ、まず一番にこれを読むと良いよ!とお勧めできる本。
この本を読むと自分のラベルを発見できるとか確信を持つとか、そういうものではないのだけれど、お二人の対話を通して見え方が少し変わったり腹落ちできたり、気持ちが楽になったりするのではないかと思う。

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「紀伊國屋じんぶん大賞2023」、私が投票したのはこの3冊でした。

◆カイラ・シュラー『ホワイト・フェミニズムを解体する インターセクショナル・フェミニズムによる対抗史』(飯野由里子 監訳/川副智子 訳)

◆アミア・スリニヴァサン『セックスする権利』(山田文 訳)

◆森山至貴×能町みね子『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ 性と身体をめぐるクィアな対話』(←19位にランクイン)

『ホワイト・フェミニズムを解体する』は、マジョリティ女性の成功や特権の獲得のために周縁に置かれ、抑圧され犠牲となってきたマイノリティ女性による200年間の対抗史という、フェミニズムにおいて知るべき歴史と今考えるべき事柄が詰まりに詰まった濃密な、今年一番衝撃を受けた本でした。

『セックスする権利』は、著者が「必要に応じて不快と葛藤の中にとどまろうと試みた」と言う通り、分かりやすい形での明確な答えを示すものではなく、それどころかある意味でとても居心地の悪いこの一連のエッセイこそとても重要で、かつ面白く、素晴らしい語りだった。

トニ・モリスン『暗闇に戯れて 白さと文学的想像力』(都甲幸治 訳)

アメリカ文学史における「白人男性を中心とした思考」とその構造を分析する濃密な批評で、130ページほどだが一読では理解しきれず、ゆっくり読みかえしている。

トニ・モリスンは『タール・ベイビー』しか読んだことがなかったのだけど、少し前にサイディヤ・ハートマンの『母を失うこと 大西洋奴隷航路をたどる旅』を読んだことが歴史的背景を理解する助けになった。

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11月に買った本。
トニ・モリスンの『暗闇に戯れて 白さと文学的想像力』が素晴らしかった。
今年最初の読書がモアメド・ムブガル・サールの『純粋な人間たち』だったので、『人類の深奥に秘められた記憶』も年内に読みたいな。
今はフォロイーさんに教えてもらった、早尾貴紀さんの『ユダヤとイスラエルのあいだ 民族/国民のアポリア』を読んでいます。

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◆モアメド・ムブガル・サール『人類の深奥に秘められた記憶』
◆早尾貴紀『ユダヤとイスラエルのあいだ 民族/国民のアポリア』
◆マリーケ・ビッグ『性差別の医学史 医療はいかに女性たちを見捨ててきたか』
◆三木那由他『言葉の風景、哲学のレンズ』
◆波戸岡景太『スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想』
◆児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』
◆ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』
◆トニ・モリスン『暗闇に戯れて 白さと文学的想像力』
◆井上雅彦監修『乗物綺談』

マリーケ・ビッグ『性差別の医学史 医療はいかに女性たちを見捨ててきたか』(片桐恵理子 訳)を読みました。

常に男性を基準として発展してきた医学の領域について、様々な事例をもって論じながら「医学はジェンダーニュートラル」という欺瞞を暴いてゆくエッセイ。
ジェンダーバイアスによって周縁に追いやられ、医療が遅れ健康を害する「男性以外の身体」について、男女二元論から脱却しその先を目指さんとする、誠実でかつ面白く魅力的な語りがめちゃ良かったです!

三木那由他『言葉の風景、哲学のレンズ』を読みました。

日常で直面する、言葉やコミュニケーションに感じた違和感を「今、何が引っ掛かったんだろう?」とスルーせずに見つめ直すこと。
三木さんが哲学のレンズを通して行う丁寧な思索をこうして読んでいると、自分自身の日々の景色もクリアになっていくような興奮があり、めちゃくちゃ面白い。

昨年、母に三木さんの前作『言葉の展望台』を読んでもらって読後にたくさん話をしたのだが、それ以来、クィアな話題を何でも共有して話せるようになった。
元々母とは倫理観も社会問題の認識にも齟齬が無く、これまでもSNS上の差別言説への怒りを聞いてもらったり、一緒にドラマ『POSE』を観たりしていたけれど、それでもすごく変化があった。

自分が以前にもまして「安心できる食卓」と感じられているのは間違いなくこの本がキッカケだったことを、「一緒に生きていくために」の章を読んだ時に思い出した。

自死の幇助をめぐる討論を描いた戯曲、フェルディナント・フォン・シーラッハ『神』を夏に読んだすぐ後に、ちょうどこの児玉さんの『安楽死が合法の国で起こっていること』が出ることを知り、合わせて読みたいと思い発売を待っていた。

『神』では人間の自由意思と生き方が議論の中心にあったけれど、シーラッハが俎上に載せて交わされた意見や懸念(ドイツでは2020年に自死幇助禁止が裁判所により覆され、具体的な法整備の議論はこれからという状況)は、他の国々ではすでにそれらを遥かに通り越した実態が出来つつあり、更に加速しようとしていることが分かり恐ろしくなった。

『神』での、「あなたはこの自死の幇助に賛成か?反対か?」と読者が結論を下すコンセプトが、もはや問題に思える。

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児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』を読みました。

医師の幇助による自死が可能な国々で起きている、私が安楽死というものへのイメージとして持っていた「耐えがたい痛みに苦しむ終末期の人が救済策として望む選択」とはかけ離れた現状と、様々な実態についての懸念がまとめられています。

法的要件のルールがどんどん緩和され、社会的弱者への圧力とならないように設けられていたセーフガードが取り払われながら安楽死の対象者が拡大してゆく中、医療現場では安楽死容認の指標が「救命できるか否か」から「QOL(生活の質)の低さ」へと変化し始めている実情などが示されている。
そして安楽死対象者の拡大と指標の変質は、「障害がありQOLが低い生には尊厳が無い」という価値観が世の中に浸透していくことに繋がり、命の選別と切り捨てへ向かうという強い懸念も。

医療や福祉の支援があれば生きられる人たちへ、社会福祉が尽くされないまま自死を解決策として差し出す恐ろしい現実がすぐそこにある今、児玉さんの「安楽死は「賛成か反対か」という粗雑な問題設定で語れるものではない」という言葉が重く響きました。

ブルハン・ソンメズ『イスタンブル、イスタンブル』
(最所篤子 訳)

10代の学生から老人までを含めた政治囚たちが地下の牢獄で過酷な拷問を受けながら、互いに物語を語り合う。
人権を剥奪された彼らが苦痛の中で見せる他者への優しさや労り、人間の営みへの理想と矜持の語りが凄まじかった。

作中では具体的な時期も政治状況も明言されないけれど、クルド系トルコ人の著者が描くこの物語はトルコにおけるクルド人への弾圧と拷問の歴史であり、それは遠い過去の出来事ではなく現在も続いている。
そして読んでいる間、この日本にあっては、入管施設で起きていることを重ねて考えずにはいられなかった。

クルド人への激しい弾圧については、舟越美夏さんの本『その虐殺は皆で見なかったことにした』も、とても苦しいのですがぜひ。
2016年にトルコ南東部にあるクルド人の町ジズレで起きたクルド人虐殺についての取材記録で、自分たちとは異質な他者とみなした者の生命に対して、人間はこんなにも無関心で冷酷になれるということを突きつけられます。

今また全世界が目の当たりにしながらも国際社会で黙認されるイスラエルの暴虐の状況と重なりとても苦しい。いつまでこんなことが続くのか。

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ジェフリー・フォード『最後の三角形』
(谷垣暁美 訳)

小説を読もうとして開いてみては棚に戻して…を繰り返していたところ、この本はすっと入り込めました。
不思議で、少し恐ろしい短篇集。

素敵なカバー装画には14篇それぞれのエピソードにまつわる人物やアイテムが散りばめられていて、読後に見返すのも楽しかった。

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10月は気持ちがしんどすぎて小説が全然読めず、研究書やノンフィクションばかり読んでいた。
数年ぶりに岡真理さんの本を手に取りましたが、『ガザに地下鉄が走る日』は今の必読書でした。

◆サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学』
◆岡真理『ガザに地下鉄が走る日』
◆サイディヤ・ハートマン『母を失うこと 大西洋奴隷航路をたどる旅』
◆ジェフリー・フォード『最後の三角形』
◆ブルハン・ソンメズ『イスタンブル、イスタンブル』
◆クラウディア・ゴールディン『なぜ男女の賃金に格差があるのか』
◆牧野百恵『ジェンダー格差』
◆デイヴィッド・グラン『花殺し月の殺人』
◆アラスター・グレイ『哀れなるものたち』
◆ドニー・アイカー『死に山』
◆イーユン・リー『千年の祈り』
◆『シャーリイ・ジャクスン・トリビュート 穏やかな死者たち』

在日本韓国YMCA編『交差するパレスチナ 新たな連帯のために』、すごく良い内容でした。

2008年からパレスチナ映画の上映会「オリーブ映画祭」を開催してきた在日本韓国YMCAが2021年〜2022年にオンラインで実施したティーチインをまとめた本で、自分が断片的に知っていた出来事や情報が整理され、とても勉強になりました。

アメリカの黒人解放闘争とパレスチナの連帯の歴史や、ガザや西岸地区の流通と移動を徹底的に管理することで生から価値を略奪し続けるイスラエルの占領のあり方、イスラエルが自国をLGBTフレンドリーで先進的な国であると戦略的に宣伝するピンクウォッシングの問題(そして反対にイスラーム社会=同性愛嫌悪で後進的な社会と表象する意図)など、多様なテーマによる8人の論考が収録されています。

図書館で借りた3冊、読みました。
イラン・パペ氏の研究書2冊は、パレスチナ問題の過去から現在までを掴むなら、『イスラエルに関する十の神話』が分かりやすいと思いました。

◆『イスラエルに関する十の神話』は、
イスラエル側が公的な歴史として表明している、イスラエルとパレスチナの過去と現在に関して事実がねじ曲げられた「神話」を、実際の「歴史的事実」と並置して分析・否定しながら、イスラエルの嘘で固められたプロパガンダを解体してゆく本でした。
(例えば第一章のタイトルは、「パレスチナは無人の地であった」で、各章ごとに“神話”の虚偽を分かりやすく説明しています。)

◆『パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力』は、
1948年のイスラエル建国という出来事の前後に起きた、パレスチナ住民が虐殺・追放された「大災厄(ナクバ)」と呼ばれる民族浄化(イスラエルは決して認めない)について、そして1949年以降から近年に至るまでの、国連も含めた「和平プロセス」の失敗の歴史が非常に詳細に記されていました。

SNSでいろんな方が、信頼できる内容として挙げてくださっているパレスチナに関する文献、品切れで手に入らないものも多かったので図書館で何冊か借りてきました。

◆在日本韓国YMCA編『交差するパレスチナ 新たな連帯のために』2023年

◆イラン・パペ著
・『パレスチナの民族浄化 イスラエル建国の暴力』2017年
・『イスラエルに関する十の神話』2018年

キャサリン・レイシー『ピュウ』
(井上里 訳)

言葉を発さず、外見からは年齢も性別も人種も読み取れない人物が町に現れたことで住民たちが見せる、様々な反応。

人間とそのコミュニティの、自分が安心するために・自分にとって分かりやすい形で他者を理解しようと躍起になる姿、善意でコーティングされた暴力的なまでの理解の押し付けが滑稽でもあり、とてつもなく恐ろしい。

いかようにも解釈できるラストも含めて、私は全体に諦念を持ってかなり悲観的に読んでしまったが、しかしどこか晴れやかな気持ちにもなった。
めちゃくちゃ好きでした。

9月に買った・読んだ本。

キャサリン・レイシー『ピュウ』 は、今年のベスト本の一冊になるほど好きだった。
好きというか今の自分のムードにめちゃくちゃマッチしていて、どこまでも静かな語りに反して自分の感情のザワつきが圧倒的だった。

同じ意味で、斎藤真理子『本の栞にぶら下がる』 や、クリスティーナ・ハモンズ・リード『ザ・ブラック・キッズ』も今読んで本当に良かった。

◆斎藤真理子『本の栞にぶら下がる』
◆ザキヤ・ダリラ・ハリス『となりのブラックガール』
◆キャサリン・レイシー『ピュウ』
◆ベアトリーチェ・サルヴィオーニ『マルナータ 不幸を呼ぶ子』
◆クリスティーナ・ハモンズ・リード『ザ・ブラック・キッズ』
◆フェルディナント・フォン・シーラッハ『神』
◆夕木春央『十戒』
◆背筋『近畿地方のある場所について』
◆M・W・クレイヴン『グレイラットの殺人』
◆マーティン・エドワーズ『処刑台広場の女』
◆ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』
◆フランシス・ハーディング『影を呑んだ少女』
◆アンソニー・ホロヴィッツ『ナイフをひねれば』

山口智美/斉藤正美『宗教右派とフェミニズム』を読みました。

右派宗教団体と政治の癒着がもたらしてきた、政策や社会への様々な影響と実態が分かりやすくまとめられており、この数十年間のバックラッシュの流れを把握できます。

バックラッシュについて改めて振り返ると怒りで血管切れそう……と思って読むのを躊躇していたけれど、知らなかったことも多くあり驚愕しつつ、自分が生まれる前からのこんな妄言・トンデモ言説が、何十年も変わらず政治に影響を及ぼし続けているという異様な状況にゾッとしました……。

「右派宗教は連携を取っているのに、フェミニズム運動の多くはシングルイシューで闘っている」という問題提起も。

8月に買った・読んだ本。
『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』がめちゃくちゃ素晴らしい対話本で、読んでる間ずっとワクワクしていました。

ロビン・ディアンジェロの本が『ホワイト・フラジリティ』に続きベストセラーになったことや、フランスにおけるホロコーストとユダヤ人差別の過去と現在を描くノンフィクション小説である『ポストカード』が高校生たちに支持されていることには、希望を感じられる気がして嬉しくなりました。

◆アンヌ・ベレスト『ポストカード』
◆キム・ソンジュン『エディ、あるいはアシュリー』
◆蝉谷めぐ実『化け者手本』
◆宮部みゆき『青瓜不動』
◆小川公代『世界文学をケアで読み解く』
◆森山至貴×能町みね子『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ 性と身体をめぐるクィアな対話』
◆ロビン・ディアンジェロ『ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別するのか?』
◆周司あきら 高井ゆと里『トランスジェンダー入門』
◆ピーター・スワンソン『8つの完璧な殺人』

アンソロジーの異形コレクション『ヴァケーション』は、トリの王谷晶さんのお話『声の中の楽園』が好きでした。

踏み躙られ続けてきた者が最後の最後に選択した復讐の形、それが世界をひっくり返すスケールでの滅びが描かれており、すごく良かった!
誰もが見て見ぬふりをし続けた結果の、取り返しのつかなさ。
とはいえ自分はこの視点人物である「見ないよう考えないようにしてきた」男と同じだという強烈な後ろめたさが付きまとった。

罪なき者もいっしょくたに巻き添えとなってしまう酷い顛末なんだけど、こういう物語で救われる気持ちも確実にある。

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