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『流体力学超入門』(エリック・ラウガ)

大学での研究テーマが流体力学だったので手に取った一冊。よい復習&頭の体操になった。流体力学を概観するのにちょうど良く、学部生のときの、まさに流体の研究を始めるその時に読みたい(あってほしい)一冊だった。もとはオックスフォードの「Very Short Introductions」シリーズとのことで一気読みするのにちょうどいいサイズ感。
amazon.co.jp/流体力学超入門-岩波科学ライブラリ

『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法』(シーナ・アイエンガー)

私たちは何を求めて「最高の発想」のための本書を手に取るだろうか? 一言で言えば「課題を解決するため」だ。では「課題」とは? 本書はつまり「課題」を特定し、解決するための手法を教える本だ。
発想を生むためのプロセスは次のようなものだ。本書は課題を「サブ課題」へと分割せよと説く。サブ課題を解決することで叶えられる望み(私の望み、当事者の望み、第三者の望み)を比較する。この望みとは、困りごとと言い換えてもいい。そのための既存の解決手法(=選択肢)を、業界の内側と外側の両方から探す。既存の選択肢同士を掛け合わせ、新しい選択肢を生み出す。ゼロベースの発想ではない点がポイントだ。最後に、第三者からの目から見て「課題」を評価する。
ノウハウとしては、課題に対して具体化・抽象化を繰り返すことで「意味があるほどには大きいが、解決できるほどには小さい課題」に落とし込む、選択肢は5±2に絞る、アイデアは量より質(ただし、量を出した後に粘り強く考え続けることでしか質に辿り着けない)、等々。
本書のエッセンスは、究極的には添付の一枚の図だ(pp. 60-61より引用)。

『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略(柴田友厚)

読み物として面白かった。
ハードウェア(工作機械)とソフトウェア(半導体)とが融合し、新たな産業が立ち上がっていく様子が克明に描かれる。富士通からスピンアウトして誕生したファナックと当時ベンチャーだったインテルとの協業の産物がCNC工作機械なんですね。両社とも、CNC工作機械のコンセプトが商品化されるときには新興のメーカーだったが、著者によるとむしろそれが功を奏したと。
工作機械は、NC工作機械(真空管入り)からCNC工作機械(半導体入り)へと進化した。この際に、NC工作機械で勝っていたアメリカの工作機械メーカーは、当時の基準で高品質な工作精度を求める自動車産業・航空機産業の既存の顧客を優先していたためにいわゆる「イノベーションのジレンマ」に陥っていた。一方のファナックはある意味では身軽だったおかげで、新技術である半導体を貪欲に採用することができた。
ファナックの躍進が幸運の産物であり結果論も多い(著者自身も認めている)のだが、製品の機能のモジュール化、インターフェースの共通化、密接なフィールドエンジニアリングについてはいま読んでも学ぶ所はあるだろう。

amazon.co.jp/日本のものづくりを支えた-ファナッ

『小説集 Twitter終了』

Twitterは死に体で延命し、『小説集 Twitter終了』という商業で本が出たことで作者らはTwitterの外への可能性を感じさせている、というのは皮肉なシチュエーションなのかもしれない。そういうことを感じながら読みました。そして、何人かは実際にTwitterの外へ出ることに成功している。
私がTwitterでビッグリスペクトしていた何人かは表舞台に出ることに成功し、何人か失敗し、何人かはそういう「表舞台」を目指す価値観それ自体から離れた。
価値観が近くて味わい深かったのは、やはり今もつきあいのある青井タイル「オタクどもの聖霊降臨日」と根谷はやね「もう一人のあなたを作る方法」、それからTwitterってこうあってほしかったなと思わせる乙宮月子「近くて遠い二人の距離」。

『夜のピクニック』(恩田陸)

実は読了してなかったシリーズ。うーん、どうなんだろう。舞台も登場人物もその関係も魅力的なのだけれど、ぜんぶ喋りすぎだな。もっと口数少ない方が好みだ。完全に私の好みの問題です。
ただ、読む機を逸していた感があって、これは中高生のときに読まなきゃいけなかった本でもある気がするんだよな。大学生でも遅い。無理矢理に集められた「学級」の雑多さとか、無理矢理に参加しないといけない「学校行事」への期待の諦め切れなさとか。そういうのがアクチュアルな時に読まないといけなかった。
我が身を振り返ってみて、学校行事にも部活にもフルコミットした満足感はあれど後悔もある。高校3年生のクラス。仲の良いやつがいなくて(当時の私はガードを上げていたし、そうでなくてもグループができあがっていた)、そういう、誰とも連めない奴らと連んでいた。もう大半は名前も思い出せない。それが残念だ。
そういうことを思い出させてくれたから、いい小説だったのかもなー。ただ、おしゃべり過ぎな小説な気もするんだよなー。

amzn.to/3sUq3QL

『Google半導体とRISC-Vと世界の電子地政学』(田胡治之)

半導体はハードとソフトとが高度に融合した賜物である。ハードとしては、純度99.999999999%のシリコンを千に及ぶステップで加工して製品化されたものが「半導体」である。しかしながら、半導体はモノが出来ただけでは動作しない。ソフトとしての半導体が計算(その通り、単純な計算から、画像の表示から、機械学習まであらゆる用途)をするためには、適切な「命令セット」が組み込まれなければならない。
本書はその「命令セット」のうち、GoogleとアメリカのDARPAが開発したオープンソースな「RISC-V」を解説した一冊である。なお、「命令セット」の現在の覇者は、ソフトバンク傘下のArmである。
RISC-Vの利点とは、一言で言えば、オープンソースであることだ。これにより、半導体メーカーはライセンス料や特許料を支払う必要がなく、安価に容易に半導体を設計することができる。その手軽さは、他のメーカーの呼び水となる。別の言い方をすると、オープンソースであることによりRISC-Vのエコシステムが強化される。また、オープンソースであることにより、広いユーザーから改善を求めることができる。半導体の「民主化」に繋がるシステムである。

『よくわからないけど、あきらかにすごい人』(穂村弘)

THE BLUE HEARTSの甲本ヒロトと歌人・穂村弘との対談が掲載とのことで、それを目当てに読みました(あと詩人・谷川俊太郎と。他にも多くの創作者との対談があるのだが、彼らの創作物を知らないので読まなかった)。
大前提、私、甲本ヒロトと相方の真島昌利が大好きなんですよね。THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS、ザ・クロマニヨンズ、そしてソロ活動も。全部好き。いつも、どんな年齢のときもずっと格好いいんですよ。
本書の対談は、そんなファンが私だけじゃないんだって、甲本ヒロトの声はもちろんなんだけど、熱狂的なファンのひとりとしての穂村弘にも出会えて嬉しかった。甲本ヒロトの表現についての言説って、THE BLUE HEARTSで止まってることが少なくなくて。でも、穂村弘はザ・クロマニヨンズまで追ってて、それを甲本ヒロトにぶつけてる。過去ではなく現在の甲本ヒロトを尊重した対談で、そして甲本ヒロト自身もきちんと答えを返している。表現のキャッチボール。ちょっと泣いた。ファンは必読です。
amzn.to/47quQZ7

『なぜAppleは強いのか 製品分解からわかる真の技術力』(清水洋治)

Appleの各製品を分解し豊富な写真を用いて年代順に比較することで、それらがどのように進化したかを示す一冊。Appleが半導体の内製化を進めている話は知識としては持っていたが、内実としてはぜんぜん知らなかった。本書は、まさにその部分を埋めてくれる。
最も興味深かったのは、AppleがiPhone、iPad、MacBookおよびiMacの間で一つの種類のチップを共有しており、さらにチップ同士を足し合わせることで性能を向上させ各製品に求められるスペックに対応している点。同じ思想は、AirPodsの通信部にもあるとのこと。内製化の威力を感じた。
amzn.to/3SQAeQG

『ジャズの聴き方を見つける本』(富澤えいち)

実は本腰を入れて勉強してるんですよ、ジャズを。いわゆる「名盤」と呼ばれるディスクの各曲を、ディスクレビュー本を併読しながら聴き込んでいます。これが面白くて面白くて。これまで漠然と聞き流していたサウンドをどう聴けばいいかわかってきたのよね。そうして、自分の中にジャンルの体系が出来上がっていくのが気持ちいい。
そういう背景で読んだこの一冊。アメリカでのジャズの興りから現代に至るまでを概観する。Wikipediaを読むよりも確からしいが、サウンドの聴き方という意味ではやや弱かった。ただ、日本のジャズの現場への出方が書かれていたのはレアか。
amzn.to/3MJakdS

『命売ります』(三島由紀夫)

自殺に失敗して命を投げ出したヤレヤレ系の男が、惨めったらしく命に固執するようになるお話。軽い筆致で進みながらも次第に心情が重たくなっていくところに読み応えがあった。ある種のラノベっぽさも感じた。
amzn.to/3MFQoZw

『ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語』(ヴィトルト・リプチンスキ)

「このミレニアム(千年)で最高の道具についてエッセイを書いてくれ」
そう依頼された著者が、最高の道具として「ねじ」と「ねじ回し」を発見し、それらの歴史を紐解く一冊。こんにちの私たちが使っている「ねじ」が産業化されたのは明らかに産業革命のころだ。しかしながら、「ねじ」「ねじ回し」(そして付随する「ナット」)の概念が発明され、現実化され、組み合わされて用いられるようになったのかは不明であった。著者は、中世の歴史書や道具を丹念に調べ上げ、その歴史を明らかにした。その意味で本書は、まごうことなき歴史書である。
文庫150ページほどと短いが、ねじや工具の動きを想像しながら読むことになるため、なかなかに頭の体操になる本でもある。

amzn.to/3ua8kVL

『口訳 古事記』(町田康)

むっさ面白かったがな。
コテコテの大阪弁(河内弁)で繰り広げられるヤンキーな神々、ヤンキーな皇族の、ファンキーな治世が描かれる。はっきり言って、めっちゃ笑えるのである。 皇族は気まぐれであるが、神々は輪をかけて気まぐれである。臣民にはそのご意図は推し図ねる。
それはそれとして、イザナミ、イザナギやニニギノミコト等々、なんとなしに聞いたことあるけど何したかは知らん神々の行いを知ることができたのでお得感がある。

amazon.co.jp/口訳-古事記-町田-康/dp/40

『データ分析に必須の知識・考え方 認知バイアス入門』(山田典一)

私は「認知バイアス」と聞くと、いわゆる「統計的バイアス」(誤差、疑似相関、交絡等)を真っ先に思い出した。しかしながら、統計的バイアスは数多ある認知バイアスの一つに過ぎない。そんな多様な認知バイアスに、認知の働き――記憶/認識/判断の三つの機能からアプローチする。
記憶の側面からは、私たちの記憶の機能の不確かさが解説される。記憶は固定されたものではなく、思い出す度に再構成される。再構成のされ方も、思い出すシチュエーションによって一定ではない。
認識の側面からは、私たちは「正確さ」以外のファクターに左右されることが示される。いわゆるステレオタイプやナラティブが私たちの認知に介入する。
そして、判断の際には、概して「自分の考えに都合の良い情報を探す傾向」があると説く。
では、私たちはどのようにして認知バイアスを回避することができるのだろうか? 一言で言えば、「いちど立ち止まって考え直すこと」だ。上述のバイアスは、いずれも、認知に掛かる(心理的な)コストを減らすために生じるバイアスである。認知のためにコストを払うことを怠ってはいけない。

amzn.to/46YUwM5

『中国茶の教科書』(今間智子)

中国茶を自分でも淹れようと茶器を注文したので、これでお勉強。網羅的で助かる。これ一冊で茶葉の種類、歴史、産地、茶器の種類、使い方等々を網羅的に知ることができる。茶葉を買うときに参考にしよう。
amzn.to/471UO51

『リサーチのはじめかた』(トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア)
amzn.to/40oAvvZ

リサーチは「問い」から始めよ。問いは「問題」に洗練せよ。そして、問題を「プロジェクト」に起こし、また「問題集団」と共有せよ。そのために「自分中心の研究者」であれ――。
「自分中心の研究者」とは、自分の内側から湧き上がる声に耳を傾ける研究者である。自分がどんな対象に関心を持っているのか、自分がどんな対象に退屈を感じるのか、自分の興味を検分することで、問いに繋げる。
「問い」とは、一言で言えば、クエスチョンマークで終わるような、自分の関心である。注意されたいのは、ピリオドで終わる「テーマ」ではないということだ。問いはどれだけ多くても構わない(むしろ多い方が望ましい)が、それぞれの問いは狭く具体的であるべきだ。
問いを洗い出したら、わかりやすさ、反証可能性、無視、明確性を有しているかどうかをテストする。さらに、それらの問いに答えるならばどのような資料があらかじめ必要かを想像する。このように問いの具体化を進める。
ここまでのプロセスで重要なのは、問いの洗い出し、具体化はあくまで自分の内側から行う点だ。まだ資料の深掘りはしない。
(1/4)

『結局、仮説で決まる。』(柏木吉基)

仮説の立て方・深め方の how に関する一冊。仮説の出来の良さを決めるのは「網羅性」および「論理性」の二点。では、網羅性および論理性を高めるためには? まで踏み込む。
網羅性とは、言い換えるとアイデアをいかに「思いつき」から離陸させられるかということ。このためにはカテゴリーアプローチと呼ばれる手法が有効。ひとつのアイデアをきっかけとして、その上位概念・下位概念に広げる、その広げた概念をカテゴリー別に整える、整えた概念を反転させる(ある/なし、個人/組織、質/量等々)手法。いわゆるロジックツリーを充実させることで仮説を充実させる。
論理性とは、仮説(上記のロジックツリー)の妥当性をいかに高めるかということ。このためにはアイデア同士を「なぜ」で繋げていくことが重要。
ケーススタディも豊富で、読み物としても面白いか。
amzn.to/49hchYN

『書きたい人のためのミステリ入門』(新井久幸)

耳が痛い~~~~~。ベテランのミステリ編集者がミステリの書き方、ひいてはプロの小説家のなり方を説く一冊。クリティカルヒットで刺さったのは「下手でもまずは『自分一世』になれ。上手い『○○二世』ではなく」という下り。私は研究者型の書き方をするので、相当に意識しないと『○○二世』になってしまう。知り合いは「狂気」と読んでいたが、そういう、誰にも負けないエッセンスを注入できるようになりたい。

以下、読んでて参考になりそうだった点。
・伏線はダブルミーニングが望ましい。つまり、一見して常識的なことが書かれているが、再読するとその謎に特有の伏線となるシーンを書くこと。
・伏線はきれいなものを数少なく張るのではなく、とにかく数をバラして万遍なく張ることが望ましい。
・謎は、一本の補助線が引かれることで見え方が全く違うものに、明瞭さを帯びるように書くことが望ましい。
・出来事・心理描写は一から十まで説明するのではなく、敢えて「隙」を作ることが望ましい。その隙に、読者が感情移入する余地が生まれる。

amzn.to/3QdUh8P

『僕がコントや演劇のために考えていること』(小林賢太郎)

ラーメンズの小林賢太郎が、舞台をやっていく上で心がけている100の物事について。心構えの本であると同時に、セルフブランディングのやり方(あるいはマイセルフへのなり方)の本でもあった。芸を突き詰めた人が、ある意味では当たり前にしか思えないことを淡々と書いていくのは凄みがあった。普通が大事なのだ。
amzn.to/46M2pVn

『イノベーション四季報【2022年冬号】半導体ビジネスを生き抜く航海図』(発明塾)

キヤノンが発表した「ナノインプリント」および特許の統計に関する見せ方の勉強のために。
著者が元ナノインプリント技術者(希少な!)なのは思わぬラッキーだった。ナノインプリントについては技術の基礎から応用先まで広く深く、価値のある一冊。
特許の統計の見せ方については、IPCおよびCPC(単なる分類)の年次推移に留まる単純なもので、インサイトは少なかった。ただ、それでも一定の説得力を持たせることに成功していたように思われる。これはこれで学びになった。
他の技術的なパートは(最先端の特許技術を除き)大体知ってたが、「四季報」の通り、企業については網羅的な記述を目指しており、やはり勉強になった。
厚みは薄い一冊だが、持っておくと何かと便利か。

『半導体ビジネスの覇者』(王百禄)

TSMCがいかにして半導体業界において最強の覇者となったかを説く一冊。まず「ファウンドリー」がビジネス上の発明だった。ファウンドリーとは、半導体の設計は行わずに製造のみに携わるモデルである。言い換えると、顧客からもらった設計通りに部品は作るが、設計は行わず、もちろん完成品も作らないモデルだ(逆に、垂直統合型のインテルやサムスンは、半導体の設計から製造から完成品までを一貫して行う)。TSMCは、このモデルにより顧客と競合する必要がなくなった。つまり、顧客は自社の完成品に関する情報が流用されることを心配しなくてもよいということだ(インテルやサムスンに、誰が自社のパソコンやスマホに使われる半導体を製造させたいだろうか? 完成品に関する情報が漏れるかもしれないのに)。覇者となったTSMCは勝ち続けるだろう、と締めくくられる。
今年の傑作『半導体戦争』よりも半導体ビジネスにフォーカスを絞っており、企業研究には必須か。

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