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『Google半導体とRISC-Vと世界の電子地政学』(田胡治之)

半導体はハードとソフトとが高度に融合した賜物である。ハードとしては、純度99.999999999%のシリコンを千に及ぶステップで加工して製品化されたものが「半導体」である。しかしながら、半導体はモノが出来ただけでは動作しない。ソフトとしての半導体が計算(その通り、単純な計算から、画像の表示から、機械学習まであらゆる用途)をするためには、適切な「命令セット」が組み込まれなければならない。
本書はその「命令セット」のうち、GoogleとアメリカのDARPAが開発したオープンソースな「RISC-V」を解説した一冊である。なお、「命令セット」の現在の覇者は、ソフトバンク傘下のArmである。
RISC-Vの利点とは、一言で言えば、オープンソースであることだ。これにより、半導体メーカーはライセンス料や特許料を支払う必要がなく、安価に容易に半導体を設計することができる。その手軽さは、他のメーカーの呼び水となる。別の言い方をすると、オープンソースであることによりRISC-Vのエコシステムが強化される。また、オープンソースであることにより、広いユーザーから改善を求めることができる。半導体の「民主化」に繋がるシステムである。

『よくわからないけど、あきらかにすごい人』(穂村弘)

THE BLUE HEARTSの甲本ヒロトと歌人・穂村弘との対談が掲載とのことで、それを目当てに読みました(あと詩人・谷川俊太郎と。他にも多くの創作者との対談があるのだが、彼らの創作物を知らないので読まなかった)。
大前提、私、甲本ヒロトと相方の真島昌利が大好きなんですよね。THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS、ザ・クロマニヨンズ、そしてソロ活動も。全部好き。いつも、どんな年齢のときもずっと格好いいんですよ。
本書の対談は、そんなファンが私だけじゃないんだって、甲本ヒロトの声はもちろんなんだけど、熱狂的なファンのひとりとしての穂村弘にも出会えて嬉しかった。甲本ヒロトの表現についての言説って、THE BLUE HEARTSで止まってることが少なくなくて。でも、穂村弘はザ・クロマニヨンズまで追ってて、それを甲本ヒロトにぶつけてる。過去ではなく現在の甲本ヒロトを尊重した対談で、そして甲本ヒロト自身もきちんと答えを返している。表現のキャッチボール。ちょっと泣いた。ファンは必読です。
amzn.to/47quQZ7

『なぜAppleは強いのか 製品分解からわかる真の技術力』(清水洋治)

Appleの各製品を分解し豊富な写真を用いて年代順に比較することで、それらがどのように進化したかを示す一冊。Appleが半導体の内製化を進めている話は知識としては持っていたが、内実としてはぜんぜん知らなかった。本書は、まさにその部分を埋めてくれる。
最も興味深かったのは、AppleがiPhone、iPad、MacBookおよびiMacの間で一つの種類のチップを共有しており、さらにチップ同士を足し合わせることで性能を向上させ各製品に求められるスペックに対応している点。同じ思想は、AirPodsの通信部にもあるとのこと。内製化の威力を感じた。
amzn.to/3SQAeQG

『ジャズの聴き方を見つける本』(富澤えいち)

実は本腰を入れて勉強してるんですよ、ジャズを。いわゆる「名盤」と呼ばれるディスクの各曲を、ディスクレビュー本を併読しながら聴き込んでいます。これが面白くて面白くて。これまで漠然と聞き流していたサウンドをどう聴けばいいかわかってきたのよね。そうして、自分の中にジャンルの体系が出来上がっていくのが気持ちいい。
そういう背景で読んだこの一冊。アメリカでのジャズの興りから現代に至るまでを概観する。Wikipediaを読むよりも確からしいが、サウンドの聴き方という意味ではやや弱かった。ただ、日本のジャズの現場への出方が書かれていたのはレアか。
amzn.to/3MJakdS

『命売ります』(三島由紀夫)

自殺に失敗して命を投げ出したヤレヤレ系の男が、惨めったらしく命に固執するようになるお話。軽い筆致で進みながらも次第に心情が重たくなっていくところに読み応えがあった。ある種のラノベっぽさも感じた。
amzn.to/3MFQoZw

『ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語』(ヴィトルト・リプチンスキ)

「このミレニアム(千年)で最高の道具についてエッセイを書いてくれ」
そう依頼された著者が、最高の道具として「ねじ」と「ねじ回し」を発見し、それらの歴史を紐解く一冊。こんにちの私たちが使っている「ねじ」が産業化されたのは明らかに産業革命のころだ。しかしながら、「ねじ」「ねじ回し」(そして付随する「ナット」)の概念が発明され、現実化され、組み合わされて用いられるようになったのかは不明であった。著者は、中世の歴史書や道具を丹念に調べ上げ、その歴史を明らかにした。その意味で本書は、まごうことなき歴史書である。
文庫150ページほどと短いが、ねじや工具の動きを想像しながら読むことになるため、なかなかに頭の体操になる本でもある。

amzn.to/3ua8kVL

『口訳 古事記』(町田康)

むっさ面白かったがな。
コテコテの大阪弁(河内弁)で繰り広げられるヤンキーな神々、ヤンキーな皇族の、ファンキーな治世が描かれる。はっきり言って、めっちゃ笑えるのである。 皇族は気まぐれであるが、神々は輪をかけて気まぐれである。臣民にはそのご意図は推し図ねる。
それはそれとして、イザナミ、イザナギやニニギノミコト等々、なんとなしに聞いたことあるけど何したかは知らん神々の行いを知ることができたのでお得感がある。

amazon.co.jp/口訳-古事記-町田-康/dp/40

『データ分析に必須の知識・考え方 認知バイアス入門』(山田典一)

私は「認知バイアス」と聞くと、いわゆる「統計的バイアス」(誤差、疑似相関、交絡等)を真っ先に思い出した。しかしながら、統計的バイアスは数多ある認知バイアスの一つに過ぎない。そんな多様な認知バイアスに、認知の働き――記憶/認識/判断の三つの機能からアプローチする。
記憶の側面からは、私たちの記憶の機能の不確かさが解説される。記憶は固定されたものではなく、思い出す度に再構成される。再構成のされ方も、思い出すシチュエーションによって一定ではない。
認識の側面からは、私たちは「正確さ」以外のファクターに左右されることが示される。いわゆるステレオタイプやナラティブが私たちの認知に介入する。
そして、判断の際には、概して「自分の考えに都合の良い情報を探す傾向」があると説く。
では、私たちはどのようにして認知バイアスを回避することができるのだろうか? 一言で言えば、「いちど立ち止まって考え直すこと」だ。上述のバイアスは、いずれも、認知に掛かる(心理的な)コストを減らすために生じるバイアスである。認知のためにコストを払うことを怠ってはいけない。

amzn.to/46YUwM5

『中国茶の教科書』(今間智子)

中国茶を自分でも淹れようと茶器を注文したので、これでお勉強。網羅的で助かる。これ一冊で茶葉の種類、歴史、産地、茶器の種類、使い方等々を網羅的に知ることができる。茶葉を買うときに参考にしよう。
amzn.to/471UO51

『リサーチのはじめかた』(トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア)
amzn.to/40oAvvZ

リサーチは「問い」から始めよ。問いは「問題」に洗練せよ。そして、問題を「プロジェクト」に起こし、また「問題集団」と共有せよ。そのために「自分中心の研究者」であれ――。
「自分中心の研究者」とは、自分の内側から湧き上がる声に耳を傾ける研究者である。自分がどんな対象に関心を持っているのか、自分がどんな対象に退屈を感じるのか、自分の興味を検分することで、問いに繋げる。
「問い」とは、一言で言えば、クエスチョンマークで終わるような、自分の関心である。注意されたいのは、ピリオドで終わる「テーマ」ではないということだ。問いはどれだけ多くても構わない(むしろ多い方が望ましい)が、それぞれの問いは狭く具体的であるべきだ。
問いを洗い出したら、わかりやすさ、反証可能性、無視、明確性を有しているかどうかをテストする。さらに、それらの問いに答えるならばどのような資料があらかじめ必要かを想像する。このように問いの具体化を進める。
ここまでのプロセスで重要なのは、問いの洗い出し、具体化はあくまで自分の内側から行う点だ。まだ資料の深掘りはしない。
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『結局、仮説で決まる。』(柏木吉基)

仮説の立て方・深め方の how に関する一冊。仮説の出来の良さを決めるのは「網羅性」および「論理性」の二点。では、網羅性および論理性を高めるためには? まで踏み込む。
網羅性とは、言い換えるとアイデアをいかに「思いつき」から離陸させられるかということ。このためにはカテゴリーアプローチと呼ばれる手法が有効。ひとつのアイデアをきっかけとして、その上位概念・下位概念に広げる、その広げた概念をカテゴリー別に整える、整えた概念を反転させる(ある/なし、個人/組織、質/量等々)手法。いわゆるロジックツリーを充実させることで仮説を充実させる。
論理性とは、仮説(上記のロジックツリー)の妥当性をいかに高めるかということ。このためにはアイデア同士を「なぜ」で繋げていくことが重要。
ケーススタディも豊富で、読み物としても面白いか。
amzn.to/49hchYN

『書きたい人のためのミステリ入門』(新井久幸)

耳が痛い~~~~~。ベテランのミステリ編集者がミステリの書き方、ひいてはプロの小説家のなり方を説く一冊。クリティカルヒットで刺さったのは「下手でもまずは『自分一世』になれ。上手い『○○二世』ではなく」という下り。私は研究者型の書き方をするので、相当に意識しないと『○○二世』になってしまう。知り合いは「狂気」と読んでいたが、そういう、誰にも負けないエッセンスを注入できるようになりたい。

以下、読んでて参考になりそうだった点。
・伏線はダブルミーニングが望ましい。つまり、一見して常識的なことが書かれているが、再読するとその謎に特有の伏線となるシーンを書くこと。
・伏線はきれいなものを数少なく張るのではなく、とにかく数をバラして万遍なく張ることが望ましい。
・謎は、一本の補助線が引かれることで見え方が全く違うものに、明瞭さを帯びるように書くことが望ましい。
・出来事・心理描写は一から十まで説明するのではなく、敢えて「隙」を作ることが望ましい。その隙に、読者が感情移入する余地が生まれる。

amzn.to/3QdUh8P

『僕がコントや演劇のために考えていること』(小林賢太郎)

ラーメンズの小林賢太郎が、舞台をやっていく上で心がけている100の物事について。心構えの本であると同時に、セルフブランディングのやり方(あるいはマイセルフへのなり方)の本でもあった。芸を突き詰めた人が、ある意味では当たり前にしか思えないことを淡々と書いていくのは凄みがあった。普通が大事なのだ。
amzn.to/46M2pVn

『イノベーション四季報【2022年冬号】半導体ビジネスを生き抜く航海図』(発明塾)

キヤノンが発表した「ナノインプリント」および特許の統計に関する見せ方の勉強のために。
著者が元ナノインプリント技術者(希少な!)なのは思わぬラッキーだった。ナノインプリントについては技術の基礎から応用先まで広く深く、価値のある一冊。
特許の統計の見せ方については、IPCおよびCPC(単なる分類)の年次推移に留まる単純なもので、インサイトは少なかった。ただ、それでも一定の説得力を持たせることに成功していたように思われる。これはこれで学びになった。
他の技術的なパートは(最先端の特許技術を除き)大体知ってたが、「四季報」の通り、企業については網羅的な記述を目指しており、やはり勉強になった。
厚みは薄い一冊だが、持っておくと何かと便利か。

『半導体ビジネスの覇者』(王百禄)

TSMCがいかにして半導体業界において最強の覇者となったかを説く一冊。まず「ファウンドリー」がビジネス上の発明だった。ファウンドリーとは、半導体の設計は行わずに製造のみに携わるモデルである。言い換えると、顧客からもらった設計通りに部品は作るが、設計は行わず、もちろん完成品も作らないモデルだ(逆に、垂直統合型のインテルやサムスンは、半導体の設計から製造から完成品までを一貫して行う)。TSMCは、このモデルにより顧客と競合する必要がなくなった。つまり、顧客は自社の完成品に関する情報が流用されることを心配しなくてもよいということだ(インテルやサムスンに、誰が自社のパソコンやスマホに使われる半導体を製造させたいだろうか? 完成品に関する情報が漏れるかもしれないのに)。覇者となったTSMCは勝ち続けるだろう、と締めくくられる。
今年の傑作『半導体戦争』よりも半導体ビジネスにフォーカスを絞っており、企業研究には必須か。

『ザ・スタッフ 舞台監督の仕事』(伊藤弘成)
〈自分の小説〉の資料のために。大学時代の舞台系サークルのときに読み継がれていた「聖典」だった一冊(マジでボロボロで、あちこちに書き込みと付箋がされていた)。先日、本屋で不意に見かけて手に取った。卒業してからスコンと記憶から抜けていたのだが、現物を目にして様々な記憶が蘇った。
基本的に、イチから舞台を作る学生さん向けの本である。内容についてはここで紹介しても仕方ないので省く。
自分用メモ: 第IV章は特に使える。

honto.jp/netstore/pd-book_0108

(公開範囲を間違えてたので再投稿)

「竜と沈黙する銀河」(阿部登龍)

竜のレースの騎手として生を受け、やがて紛争で分かたれた姉妹が25年の時を経て再会する──。
読みどころはやはり、竜が当然のように存在する地球か。私たちの知っている地球に竜がいるのだが、設定の辻褄を合わせるような無理が一切なく、我が物顔で暮らしている。本編で語られたストーリーの背後に、竜のいる地球の歴史を感じた。
最後に開かれたレースが好きですね。語りは内省的なモノローグが多めながらアクションは全体を通してテンションを上げ続けている。レースが描かれることは読者の誰もが予感するところで、「まだかまだか」と焦らされ続けて最後の最後に疾走感のある乗った筆でやってくる。
散りばめられたガジェットやこの世界に特有の新種も味があり、ホタルリクガメの下りは相当秀逸。シリーズで読みたいと思わされました。

『聞く技術 聞いてもらう技術』(東畑開人)

カウンセリングに20年近く携わってきた著者による、素人の私たちでも「聞く」ことができるようになるための一冊。本書の特筆すべき点は、類書にあるような「聞く」だけに焦点を絞ったものではなく「聞いてもらう」にまでアプローチした点。「聞く」と「聞いてもらう」とはセットであって、循環しながら補完するものであるというのが本書の趣旨。
また、私はここを興味深く読んだのだが(やはり類書にあるような)小手先のテクニックを紹介しつつもさらにその背景……つまり、「聞く」/「聞いてもらう」が機能不全に陥っているときには「孤立」が原因となっているのだ。孤立を一朝一夕に解決することはできないが、小手先でも「聞く」/「聞いてもらう」を徐々に機能させていくことは不可能ではない。本質的に時間を必要とする営みであるが、そのための手がかりは誰にでも手の届くところにある……そう説く本書に救われた気がした。

amzn.to/3LUk5pb

『マナーはいらない 小説の書き方講座』(三浦しをん)

途中でギブ。
小説の書き方を24+αの章から説く一冊。想定読者は、①ウェブ系を中心に活動しており、②短編をより良く書きたい書き手か。自分が想定読者から外れていたのと、1章当たりの情報量が少なく読み応えに欠けていたのとで、私のための本ではなかった。また、筆者の体験がいい具合に一般化されていなかったのも個人的にはマイナスポイントでした。

『大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた知能』(岡野原大輔)

ChatGPTを初めとする大規模言語モデルの仕組みを、基礎技術から新たな萌芽技術まで幅広く紹介しながら、数式抜きで解説する。
知り合いに情報系の方々が多いのだが、彼らの話す言葉が年々わからなくなっていた(「逆誤差伝播法」とかね。「汎化」とかでさえ正確にはよくわかってないし、そもそも超重要らしい「シャノンの定理」からしてふんわりもわかってなかった)。大規模言語モデルの前身のディープラーニングからその前身のニューラルネットワークまでキーワードを丁寧に紐解いて通史的に書いた本書は、全体像を見通すのにうってつけの一冊だった。
ところで、本書を含む「岩波科学ライブラリー」は、私のデッキになかったが、ブルーバックスよりほどほどに高度っぽく、私はちょうどいい読者なのかもしれないと思った。
amzn.to/45hS6Xu

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