マルク・レビンソン『コンテナ物語』読了。
とても面白かった。
この本によると、1956年、アメリカのトラック運送業者によってコンテナの海上輸送がなされ、これがコンテナ輸送の始まりなのだそうです。ずいぶん最近だ。ということは、二次大戦の時は人の手で荷物の積み下ろしをしてたのか。
コンテナ自体はただの箱なので特に技術革新があるわけではないのですが、コンテナ輸送というシステムは世界を作り変えてしまったわけで、その経緯がありありと描き出されています。統一規格を決めるのも大変。
世界の仕組みのパラダイムシフト。
もうとにかく、この本では、産業保護のための規制と、労働組合の抵抗がすごかったです。
“コンテナ輸送は新しい経済を作ったが、古い経済を破壊した”わけです。
#読書
石弘之『砂戦争』読了。
砂は資源であり、大量消費され、枯渇しつつあるという現状を紹介する新書。
コンクリートの材料は砂なので、砂が無くなると建物が建てらんなくなるからヤバいなあ、と思いました。砂漠の砂は建材には使えないんだって。あとは、大量に乱掘することによる自然破壊とか。違法採掘をする砂マフィアとか。
卑近な話題や個別の話題を散りばめて解説されており、とても分かりやすく、良くも悪くも新書っぽい文体の本でした。(つまり書き方はあんまり好みじゃなかった)
#読書
佐藤究『テスカトリポカ』読了。
メキシコの麻薬密売人とアジアの臓器密売人が手を組み、新たに臓器ビジネスを始める、という犯罪小説に、アステカ神話の彩りを加えたもの。
とても面白かった。端役にも人生があり、それをいちいち語るのですが、それぞれがそれで一本の小説のようで飽きない。
描写がいちいち詳細で分厚いので、あらすじのエピソードが始まるまでに頁の半分ほどを費やすのですが、そこまで辿り着くとあらすじは結構どうでも良くなっています。エピソードを語るための土台としてストーリーがある感じ。
題材が題材なので、人体を破損する場面がとても多いのですが、文体が乾いているので、あまり想像せずに読むことができます。想像しちゃうと、ちょっとダメですね。
んで、アステカ神話の語り口は魔術がかっていて、感じに呑まれそうになります。現代にアステカの神を降ろす試みなんだと思う。
現在的視点だと、アステカの神は邪教やんなという思いは拭えず。
アステカの神をへのカウンターとして登場するのがキリスト教で、そこでそれをそう取り出すのかと、びっくりしました。どう捉えたらいいか分からん。
起承は「そうなってしまう」という事実の積み重ねが厚いのですが、転結は「そうあって欲しい」という願いなので、ちょっとふわっとしてました。
#読書
湊かなえ『告白』読了。
フォロイーさんの推薦。
なんかこのお話の舞台の学校、90年代後半から00年代の少年漫画とかドラマとかのちょっと荒れてる学校みたいだな。
冒頭の牛乳の話題からして、悪意が停めどなく滲み出していて芬々としているわけなのですが。
登場人物たちは、自分では賢明だったり無垢だったりしているつもりで、実は愚かで醜悪で。その愚かさを嘲笑しているのが、このお話ですね。
んでまあ、その愚かさの在り方が発言小町的というか、あるあるな感じで、最大公約数的なんですよね。
なんかどっかで見たもので構成されている。
まあ、テンプレというやつですね。
最大公約数的なものをガツっと掴んで形にする、作者の手腕は鮮やかです。
最大公約数的なので、あるあるだったりざまあだったりといった愉悦もあるにはあるのですが、テンプレなんで逐一浅薄で。
#読書
アガサ・クリスティ『春にして君を離れ』読了。
最終盤でいきなり話題にされる、ヒトラーおじさん、あれってどういう意味を持ってるんですか?1945年後の世界で読むと、ちょっとした世間話で扱うには、強すぎる名前なんですけど。
(主人公の思考停止とか現実逃避とか、なんかそういう演出っぽい)
旅先で立ち往生した主人公が手持ち無沙汰になり、やむなく己の人生を回顧すると、そこにいたのは独善的な自分だった、というお話。
主人公はよかれと思って生きてきたけど、その「よかれ」が主人公一人だけの「よかれ」だったというお話ですね。
主人公が人生の中でしてきた選択は、世間的には正しい選択なわけですよ。何も間違っていない。でも、一個の人間にとっては、世間的に正しいことが正解だとは限らないですよね。
でもさ、主人公が相手にとって正しい選択、つまり世間的に愚かしい選択を取れる可能性って、あるんですかね?
だって主人公は「正しい」わけでしょう?世間話に、皮相的に。
主人公の正しさは一択しかなく、相手の正しさを認めない。
思い込んで、相手を見ない、相手の言葉を聞かない、相手の選択を認めない。
そういう生き方は怠惰だと、そう指摘しているお話ですね。
#読書
津本英利『ヒッタイト帝国』読了。
日本では「鉄の王国」として知られるヒッタイト。この本では、そんなこと言ってるのは日本だけだし、ヒッタイトが他の国と比べて製鉄に優れていた形跡はない、と書かれています。
この時代の鉄は主に隕鉄で、「天から降ってきた金属」と認識されていた、と。浪漫だ!
「ヒッタイトとは、文化が混在している国だな」といった印象を持ちました。
ええと、まず、「ヒッタイト」というのは現在の英語での呼び方で、正確には「ハッティ国」で、「ハッティの人々」が住むアナトリアに、インド=ヨーロッパ語族の「ネシャ語」を話す人々がやってきて、「ハッティの人々」を支配して、これが「ハッティ国」と呼ばれる国だと。で、「ハッティ国」にセム語系のアッシリア商人がやってきて交易し、「ネシャ語(ヒッタイト語)」とは違うインド=ヨーロッパ語族の「ルウィ語」、北東の「パラー語」、敵対するミタンニ国の「フリ語」を話す人が、ヒッタイトにはいた、と。これが初期のヒッタイトで、ここから帝国に発展していったそうです。頭がこんがらがる。
王位の継承もすんなりいってなくて、簒奪に次ぐ簒奪を繰り返しているのですが、系図を細かく載せてくださっているので、だいぶ助かります。
#読書
堀田善衛『定家明月記私抄』『定家明月記私抄続篇』読了。
フォロイーさんのご紹介。美文を書こうという力みがなくて、文章が涼やか。冷たい水のよう。
藤原定家は平安末期・鎌倉初期の中流貴族、宮廷歌人で、新古今和歌集や小倉百人一首を編纂した人。「明月記」は定家の日記で、『定家明月記私抄』は、堀田善衛が「明月記」をどう読んだかの随筆。
戦時中の青年だった筆者が明月記の一文と出逢うところから始まっており、およそ800年前の動乱の時代が20世紀までぐっと引き寄せられてて、導入が上手いです。
同時代の他の日記も引き合いに出しながら、当時の中流貴族の生活や和歌というものの“感じ”が、立体的に分かる気がきます。
とにかく定家は金策に四苦八苦してます。また、明月記から伝わる後鳥羽帝は元気が有り余っており、定家は苦虫を噛み潰しています。
著者は、当時の宮廷貴族を、“生活者集団としては一種のフィクシオン的存在である”としており、和歌というものも、実情から切り離されたフィクシオンで人工の極であり超現実である、としています。
そういう解説を踏まえて定家の歌を見ると、時代の動乱も、定家の生活苦も、定家の性格の険も、なるほど歌には表れていないなあと思ったりするのでした。
#読書
小川哲『ユートロニカのこちら側』読了。
作者のデビュー作。キャラクターも文体もクセがなくて、読みやすいです。
個人情報が資本主義的な価値を持ち、私企業によって点数化される社会。情報を企業に提供するかわりに生活全般が保障された実験都市を巡る連作短編集です。
「こちら側」なので、都市に適応できない、いわば時代に乗り遅れた人たちの物語が主体です。
「ユートロニカ」については最終章手前に説明があって、まるっと要約すると涅槃です。
これを読んでわたしが思ったのは、「いいなあ」というものです。実験都市では生活費や医療費がただで、労働しなくていい。人生の100%を余暇として過ごせる。羨ましい。
安心安全が保証されて、何かを選択するストレスも機械がサポートしてくれて、生の苦しみがなくなった人たちがどうなるかというと、それについては仮説が提唱されているのですが、「向こう側」のことなので、あまり描写されていません。
#読書
イーフー・トゥアン『空間の経験』読了。
わたし達が空間をどのように捉えているか、その「感じ」を古今東西の例を羅列して言葉に置き換えた本。
普段感じていることを書いているので新しい驚きはなく、言葉が持って回った言い回しなので痛快さもなく、「そう言われれば、そうかもなあ」ともやもやな読み心地。
だって、出だしがこんな感じですよ。
“「空間(スペース)」と「場所(プレイス)」は、ごくありふれた普通の経験を表示する、誰でも知っている言葉である。〈略〉場所すなわち安全性であり、空間すなわち自由性である。つまり、われわれは場所に対しては愛着を持ち、空間に対しては憧れを抱いているのである。”
でも、まあ、広い・狭い、大きい・小さい、高い・低い、密集・虚ろ、遠い・近い、言語化してこなかったその「感じ」が言葉になったので、読んでよかったのかな。あんまり理解できてないけれど。
#読書
藤井一至『土 地球最後のナゾ』読了。副題は「100億人を養う土壌を求めて」。
とても面白かった。土って大別して12種類ある、ということも知らない初学者に向けて書かれていて、分かりやすかった。
副題の示すように、耕作が可能かどうかを軸に見ていっており、人を養える土地は驚くほど少なかった。
サハラ砂漠の砂は鉄分でコーティングされているので、タイ東北部の土に比べればまだ栄養があるみたいなことも書かれていて、びっくりした。
冒頭の地図で、土のない地域があることにもびっくりした。
日本の土は酸性だということは聞いていたのですが、今回、その仕組みが分かって良かったです。
#読書
小林照幸『死の貝―日本住血吸虫症との闘い―』読了。
ノンフィクション。とても面白かった。
謎の風土病の謎が徐々に解き明かされ、その対策が徐々に打ち出されと、人知のリレーに高揚感を覚える。
日本での収束の兆しが見えてから、中国揚子江流域の広々とした沃土が立ち塞がる絶望感が堪らんです。
徐々に徐々に謎が解き明かされる展開に興奮するのですが、この本は最後にひとつ大きな謎を残して終わります。
明治14年(1881年)に山梨県令に嘆願書を出してから、平成8年(1996年)に終息宣言が出るまで115年がかかっています。人間の間尺ではとても長いのですが、1世紀余あればひとつの病を根絶させられるんだなと、近現代医学の発展に打ち震えます。
風土病の感染経路を確認するために(治療法はまだ見つかっていない段階で)実際に自分の身で感染してみた医者さまもいて、人間というものは使命感を持てばここまで献身できるのかと、おののきました。
#読書
清水俊史『ブッダという男』読了。
面白かったし、とても分かりやすかった。説明が親切で明朗!
これを読んでもブッダという人がどういう人だったのかは分からないのですが、どういう考えを持っていたんだろうかというのは分かります。
はじめにに“これまでの専門書や一般書の多くが、歴史のブッダを探索しているはすが、彼が二五〇〇年前に生きたインド人であったという事実を疎かにして、現代を生きる理想的人格として復元してしまうという過ちを犯してしまっている”とありまして、本文に“ブッダは、無から仏教を発明したわけではない。当時のインドの諸宗教の前提を受け継ぎ、それを批判し乗り越えるかたちで仏教は生まれた”とあります。
前半では、ブッダは古代インドの価値観の中に身を置いた存在だったと解き、後半で、仏教と諸宗教を分かつもの、ブッダの独自性を紐解いていきます。
諸宗教と比較しながら論が進むので、古代のインドの考え方のさわりに触れられるのも、楽しかったです。
わたし達の理想を投影した「神話のブッダ」について決して否定的ではないのが、良かった。長い歴史の中で、求められていたのは「神話のブッダ」なのだから、と。
んで、経典は解釈で左右されるの例で出てきた、戦中・戦後の浄土宗の偉い人は、言ってることがデタラメやった。
#読書
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『砂の本』読了。
集英社文庫版には「砂の本」「汚辱の世界史」と短編集が2編収録。「砂の本」は淡白で、「汚辱の世界史」は脂ぎった感じなのですが、どちらもわたしには味わう舌がありませんでした。文字の表面を撫でるだけで、分かんなかった。
終わりもなければ、始まりもなく、霧のように茫洋としていて、砂を噛むような読み心地。
作者の中のものを紙に写していて、説明をしてるんだから読めば分かるだろ、分かんなかったらそれでいいよ、って感じだった。
“詩人は頌歌を奉呈した。それを彼は、荘重に、確信をこめて、草稿に一瞥もくれずに朗誦した。王は、うなずきつつ嘉納を示した。一同は、戸口につめかけた者にいたるまで、一語も解せぬにもかかわらず、王の身ぶりに倣った”
(『砂の本』「鏡と仮面」より)
#読書
酉島伝法『るん(笑)』読了。
滅茶苦茶嫌な話で面白かった。
スピリチュアルと科学が逆転した世界。人は病気になると、月の光に照らして純度を高めた阿迦水(アクア)にハーブを入れて一晩中祈りを込めてかき混ぜた愈水(ゆすい)を飲んで対処したりしてます。造語塗れでそれっぽくてゾクゾクします。
描写が精緻で生々しい。30cmぐらいの距離感のものはくっきり明瞭なのに、少し引くととりとめなくぐちゃぐちゃしていて、何がなんだか分からない。高熱の時に見る悪夢みたい。
ヤミでクスリを売ってるヤクザイシが登場したりと、昔は科学が優勢っぽかった片鱗はあるのですが、そこらへんは語られない。
わたしは医療を信じているのですが、理屈を理解して信じているわけではないので、スピリチュアルを信じて行に励んでいる登場人物たちとスタンスがそんなに違うわけではないなあ、と思ったりも。
ただし、作中のスピリチュアル行為が作中において実際に効力のあるものなのか、判然としてない。『るん(笑)』の世界は疲弊していくばかりで、何かが改善したという描写がない。「好転反応」はありますが。
エレベーターは故障して修理は来ないし、熱は下がらないし、「るん(笑)」は治らないしで。
#読書
ついったーの永久凍結が解除されました。
おたくらしいですよ。基本的にやる気がないです。フツーにダメ人間です。今特に腰を据えてるジャンルはありませんが、ときどき何かをぽつぽつ書いてます。オススメ本とかは常に募集中です。
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