酉島伝法『るん(笑)』読了。
滅茶苦茶嫌な話で面白かった。
スピリチュアルと科学が逆転した世界。人は病気になると、月の光に照らして純度を高めた阿迦水(アクア)にハーブを入れて一晩中祈りを込めてかき混ぜた愈水(ゆすい)を飲んで対処したりしてます。造語塗れでそれっぽくてゾクゾクします。
描写が精緻で生々しい。30cmぐらいの距離感のものはくっきり明瞭なのに、少し引くととりとめなくぐちゃぐちゃしていて、何がなんだか分からない。高熱の時に見る悪夢みたい。
ヤミでクスリを売ってるヤクザイシが登場したりと、昔は科学が優勢っぽかった片鱗はあるのですが、そこらへんは語られない。
わたしは医療を信じているのですが、理屈を理解して信じているわけではないので、スピリチュアルを信じて行に励んでいる登場人物たちとスタンスがそんなに違うわけではないなあ、と思ったりも。
ただし、作中のスピリチュアル行為が作中において実際に効力のあるものなのか、判然としてない。『るん(笑)』の世界は疲弊していくばかりで、何かが改善したという描写がない。「好転反応」はありますが。
エレベーターは故障して修理は来ないし、熱は下がらないし、「るん(笑)」は治らないしで。
#読書
作中、平熱の定義が38℃に変更されるくだりがありまして、そうやって解釈をズラして解決したことにしてきた世界なんだな、と窺わせてきます。
そこが、科学とスピリチュアルを分ける一線なんじゃないのかと、わたしは信じていたいです。
「三十八度通り」は、生活が壊れていく一方の男の人の話。熱に浮かされてシュルレアリスム的な展開。身体的にしんどい。
「千羽びらき」は奪われてばかりの一生だった女の人の話。わたしは母から奪ってばかりでいないだろうかと、読むのつらかった。
「猫の舌と宇宙耳」は小学生たちが冒険する話。終末のジュブナイルって感じで好きだった。最後にうっすら提示される出口っぽいものも、無茶苦茶信用ならない感じがしました。
“「ごめんね。おかあさん、こんな病気になってしまって」
話についていけなくなると、とりあえず謝りたくなってしまう。
「だめじゃない、そんな波長の悪い言葉を使っちゃ。疒なんか取って、丙気って言わないと。そうすれば平気になってくるでしょう?」”
(第2話「千羽びらき」より)