窓際のトットちゃん・続き
更にもうひとつ。教会から飛び出したトットちゃんが街を走り抜けるシーンでは、大通りにずらりとヒノマルを振る人が並び、続いて万歳三唱されて送られる若い兵隊さん、ガスマスク着けて遊ぶこども、片足のない軍服姿の男性と黒い眼鏡の老人、喪服で遺骨を抱えて泣く女性が次々と描かれる。このあと起こる死の連鎖を一連のカットだけで表現していて心臓がぎゅううううっとなった。
『この世界の片隅に』登場以降、戦争描写のハードルがはちゃめちゃに上がった気がする。ジャンプ漫画のアニメ化で2クール放送だった『サマータイムレンダ』ですら、空襲時実際に流されたラジオ音声を使っていたほど。トットちゃんも考証が凄く丁寧にされていた印象だった。
一個だけ苦言というか、これは私の受け取り方の問題だけれども。
今の日本でも、「トモエ学園」のような教育を受けたこどもはほとんどいないだろう。特性に合わせた環境・教育はお金持ちの特権であり、ほとんどのこどもたちは享受できない。トットちゃんがトモエ学園に通えたのは電車通学できるだけの財力があったからだ。それを思うと、戦前も戦後も何も変わっちゃいねえんだなあ、という気持ちになった。
『窓際のトットちゃん』(2023)
監督/八鍬新之介
#映画 #感想
黒柳徹子の自伝をアニメ化。小学校を退学になったトットちゃんが新しい学校に入学してからの日々が描かれる。
本当によかった…泣いた…。
周りもかなりしくしくしていた…。
泣いたからいいというわけではなく、トットちゃんが感じる世界の色鮮やかさ、わくわくどきどき、不可思議さが伝わる映像と、トモエ学園の校長・小林先生の主義思想が相まって、映画の中盤過ぎまでは本当にしあわせな時間だった。
SNSでは日常が戦争にじわじわと浸食されていく恐怖が評判だった。たしかに、冒頭で聞き逃されるラジオの音声や、黒板の板書の文字列には、ほんの少しだけ不穏な空気が漂っている。太平洋戦争前夜の昭和15年には「じわじわ」どころか、既に日本はどっぷりと足を突っ込んでいる。それを台詞での説明や暴力描写をなしに丁寧に少しずつ表現していて、なんというのだろう、品が良いなと思った。嫌味ではなく。
品のよさというと、この映画には子どもの裸体がしっかりでてくる。お風呂やプールに入るシーンで素っ裸になり股間も映る。当然ながら全然性的じゃない。まったく嫌な感じがない。パトラッシュを連れて行く天使の裸を見ているイメージ。作品全体にこういう『品の良さ』が行き届いていた気がする。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)
監督/ダニエルズ(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)
#映画 #感想
コインランドリーを営む冴えない主人公が多元宇宙で異なる人生を生きる自分の能力を呼び出しながら強大な悪と戦う話。
120分もある本編のうち8割位の時間でなんか良く分からん事が常に起こり続けるカオスな映画だった。最後までなんか良く分からんのにハチャメチャに面白いのは何なんだろうか。観終わったあとは荒野の石がいとおしくなり、指がソーセージの宇宙に暮らす人たちのしあわせを願うようになっていた。だからなんなんだこれは。良く分からないけどすっごい面白かったです。いろんな作品へのオマージュがごった煮になっているのも楽しい。娘ちゃんの衣装がコロコロ変わって可愛くて良かった。ケラケラ笑いながら観ていたのになぜか感動していた。不思議だなぁ……。
結末に思うところは無きにしも非ずで、現実は映画のようにはいかないので優しさも話し合いも役立たずかもだけど、映画の中でくらいこういう奇跡が起きてもいいよねえ、ミシェル・ヨーがんばったもんねぇ、って思いました。にしても、これがアカデミー獲ったの凄いな……。
6期鬼太郎おすすめ回の続き。
50話 一族の恨みを晴らそうと妖怪を狩る鬼道衆の末裔(cv.神谷氏)が登場。鬼の手を召喚したり「オンッ!」て言ってくれたりするので胸の奥に眠る中二が騒ぎ出す。名無しに続き鬼太郎のIFのような存在。
57話 キタロー不在のなか、ちゃんちゃんこが頑張る回。一人で頑張るちゃんちゃんこが健気でかわいい。
68話 生きたまま地獄に送られた男の再起の話。父と息子の物語なので映画の後だと余計感じるものがある。
83話 人間と妖怪、両方の気持ちを理解できるからこそ苦しむキタローの話。つらい。
93話 猫姐さんが時を駆けて世界を救う。キタローとの関係が少し進展した姿が見られて眼福。
最終回 水木が回想で再登場。これまでずっと人間と妖怪の中間に立って苦しみながらも理想のために頑張ってきた鬼太郎を抱きしめる回。ねずみ男の演説がとてもよかったな。
ゲ謎にハマり改めて6期鬼太郎を全話観たので、個人的おすすめ回をまとめます。
6話 おばあちゃんとともに暮らす妖怪の話。水木と鬼太郎の関係に通じるところがあると思う。
7話 幽霊電車。個人的には6期最恐エピソード。
11話 シンゴジのパロディが豊富。この回以外にも戦闘機と船と巨人が出てくる回にはシンゴジパロディが時々出てくるので探すと楽しい。ジブリパロも多い。ちなみに、首相が「責任は誰がとるの?!」と連呼するのは当時首相だった人の「責任は私がとります」という発言に対応していると思われるが、キャラクターが女性になっていることもあり分かりにくいのが残念。
14話 ヒト型親父さん初出。この話にはもう一人お父さんがいるんだけど(※not水木)「お父さん」への変身シーンが見ものです。
20話 南方の島で「見えないもの=過去」の歴史を見る話。マナの「ありがとう」は記憶を守り続けた妖怪に向けられていることに注目。映画を見て「総員玉砕せよ!」を読んだあとにぜひ。
23話 人間と妖怪が暮らすアパートの話。何十年も容姿が変わらないキタローと猫姐さんのバブリーなファッションを拝める。
33話 人間と妖怪が結婚式を挙げる話。千と千尋みたいな味わい。ゲストキャラクターの少女がちょっとサヨチャンに似ている気がする。
ゲゲゲの謎ネタバレ感想・2
ラスボスの「子どもの身体をした老人」の造形がキモくて最高だった。現代への風刺としてもよかった。若くても老人みたいな思考の大人は多いし、いまの老人は老いても元気だし。
この映画は一部で「因習村だ~!」といわれているけれど、別に村に伝わる謎の因習があるわけではない。あの村は、幼く弱く非力なものを虐げ続けて発展してきた、それって戦前から続く日本社会そのものじゃねえかって話で、ちゃんとストーリー内でそれが明示されていたとおもう。
神作画によるゲゲ郎本気の肉弾戦を中盤にもってくるセンスもよかった。戦うゲゲ郎が観られて眼福。あのシーン何度でも観たい、かっこよすぎるので。終盤は元気玉的な解決でそこは子供向けに回帰したかんじがして好きだったし、元気玉を作るキッカケとなるのが赤ちゃん=鬼太郎の産声というのもよかった。
序盤、時麿が父親を思って(?)慟哭したシーンではみんなぎょっとなったのは、あの時代の男性が声を上げて泣くって相当異常事態だったから。終盤で水木も泣いてたけど、ゲゲ郎は泣き止むのを待ってたのかな(それもひっくるめて水木は「待たせたな」と言ったのかな)とおもってギュンときた。
あとは、ゲゲ妻のお顔が6期猫娘風のツリ目で、ちょ、ちょっとやめてよそういうの!!!
好き!!!
ゲゲゲの謎ネタバレ感想・1
光と影、煙の演出が凄く見事で見ごたえがあった。あとは、「子供がせき込む中でも平気で煙草を吸う」「畳のへりに座布団を敷く」「ポイ捨てする」といったキャラクターたちの仕草が昭和三十年代のそれで、普通に観ていると見過ごしてしまう情報がたくさんあった。一画面から得られる情報量が多くて脳みそフル回転で見られてとてもたのしかった。何回も見たくなる気持ちが分かるしそういう風に作られているなとおもった。
アニメは制作者が書きたいと思ったものを全部書き込める表現で、実写みたいな「たまたま写っちゃいました」的なものは存在しない。つまり「妖怪的なもの」は存在しようがない世界だけど、カット割りとか視点とかから『こちらからは視認できない存在に見られている』感覚がつきまとうよう演出されていて、特に不気味さが際立つ前半がとてもよかった。
もっとも幼く、もっとも弱く、本来もっと目をかけられて慈しまれるべき者=こどもたちが誰にも顧みられず犠牲となり、呪いを抱いてラスボスになり、自分たちを苦しめた村=制度をぶち壊す。見えるもの、見えないもの、見ないふりをしていたもの、作品全体を貫く「見る」という演出がゲゲ郎のセリフで「未来を夢見ること」につながって、あぁ〜〜〜うめぇ〜〜〜〜〜〜と唸った。
ゲゲゲの鬼太郎、その生誕の謎に迫る物語。
ヒト型だった頃の目玉親父がイケメン過ぎたのと、水木しげるの話ではなく『ゲゲゲの鬼太郎』作中世界での鬼太郎誕生秘話を描くと聞いて、「おいおいおたく受け狙いかよぉ」と鼻白みアウトオブ眼中だったんですが、SNSの評判を聞いているうちに、もしかして傑作なのではないかという予感がして観に行きました。私は心が弱いおたく……。
結論。名作なので何らかの賞を得てほしい。映画の街調布賞は最低限必須で。
閉鎖的な村と謎多き一族を巡る物語も面白かったですが、すさまじかったのが「昭和三十年」の描写力。執念を感じるほどに作りこまれた風景は後半への伏線がいくつも貼ってあり、こりゃ入村したまま戻れなくなる気持ちがわかるわぁ~とおもいました。村人一人ずつにちゃんと設定がありそうなところもよかった。
会社員として村に訪れた戦争帰りの男・水木と、妻を探す幽霊族の末裔=目玉親父のかつての姿・ゲゲ郎のコンビが嫌いなおたくはいねえわ……同室で寝たり飯食ったり着替えたり風呂入ったりアイス舐めたり酒呑んだりするシーンが多く地味に色気がありおたくは狙い撃ちされていた。やめろよ。いや嘘ですもっとください。
以下、ネタバレ全開で書きます。
ーー近年、創作界における「ボーイズラブ」や「百合」と呼ばれる作品が、ストーリー面で現実のセクシュアリティの多様性と当事者における葛藤を取り込む動きが見られます。私は、これは娯楽作品が非当事者によるフェティシズムを越えて様々なセクシュアリティを持つ人々の連帯へとつながることを期待しています。
一方でエンタメ作品が現実における社会問題を取り扱うことには、その当事者が置かれた社会的問題構造自体を娯楽として消費しかねない危うさも常に感じています。
そこで問われるものこそ、「志」に他なりません。
「『零合』創刊に寄せて」逢坂冬馬
百合総合文芸誌「零合」創刊号を読み始めたら、逢坂さんが巻頭言的な文章で問題提起されていた。
ザ・クリエイター感想続き
まぁその「キターーーーーー!!!」で今回は圧倒的弱者が蹂躙されて泣き叫ぶので、ゴジラ映画的な破壊の爽快感は皆無で私は始終ため息つきながら見てたんですけども。
細部のアジア趣味が成功しているようには見えなかったけど(むしろノイズだった)逆に、映画全体の雰囲気は嫌いじゃなかった。
というのも、アジア色が押し出されているのは、西側諸国が続ける攻撃の欺瞞や、AIを道具として利用することへの倫理観を揺さぶるためでもあるんだな、と感じたので。
現在進行中の「対象地域に住まうものを全員敵と見做し圧倒的な軍事力をもって無差別攻撃をおこなう行為」=虐殺をとめられないなかで見ると、「西側」に近い人ほどずんと胸が苦しくなるような映画だったとおもう……でも西側の啓蒙のためにアジアが利用されるのをヨシとも思えないので悩ましい点ではある。私はそんなに気にならなかったな~という話でした。
この映画、どうやら興行成績は芳しく無さそうなんだけど、そりゃそうやで。SF映画的なものに通常求められる爽快感が皆無だもん。こんなんよく撮ったなあ……。
『ザ・クリエイター/創造者』(2023)
監督/ギャレス・エドワーズ
#映画 #感想
圧倒的な映像と寓話的なストーリーを展開する完全新作SF。AIと人間が戦争をしている世界…という「それ知ってる」「またかよ」「何度目だ」な設定でだいぶ損している気がする。正直、脚本はご都合主義っぽいところが多かったんだけど、映像が本当に凄すぎてねじ伏せられた。こういう映画こそ劇場で観るべきだよ~と心から思える映画だった。うちの近所の劇場では公開一か月で上映終了になってしまったので気になっている人は駆け込んでください、ぜひに。
AIを「人類の敵」として圧倒的な軍事力で殲滅しようとする西側諸国に対し、不思議な均衡を築きながら共生するニューアジア、という設定に監督のオリエンタル趣味を感じて多少う~んとは思った。あえて謎翻訳した日本語とかが出てくるとことか、全角半角ごちゃまぜフォントとか、サブタイトルが毛筆なところとか…。
あっでも時代劇風のコテコテ演出は好きでした。あとゴジラのセルフオマージュも。ギャレス作品はどれも「くるぞ…くるぞ…キターーーーーー!!!」が凄いんですけど今回も凄かったです。
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