ゲゲゲの鬼太郎、その生誕の謎に迫る物語。
ヒト型だった頃の目玉親父がイケメン過ぎたのと、水木しげるの話ではなく『ゲゲゲの鬼太郎』作中世界での鬼太郎誕生秘話を描くと聞いて、「おいおいおたく受け狙いかよぉ」と鼻白みアウトオブ眼中だったんですが、SNSの評判を聞いているうちに、もしかして傑作なのではないかという予感がして観に行きました。私は心が弱いおたく……。
結論。名作なので何らかの賞を得てほしい。映画の街調布賞は最低限必須で。
閉鎖的な村と謎多き一族を巡る物語も面白かったですが、すさまじかったのが「昭和三十年」の描写力。執念を感じるほどに作りこまれた風景は後半への伏線がいくつも貼ってあり、こりゃ入村したまま戻れなくなる気持ちがわかるわぁ~とおもいました。村人一人ずつにちゃんと設定がありそうなところもよかった。
会社員として村に訪れた戦争帰りの男・水木と、妻を探す幽霊族の末裔=目玉親父のかつての姿・ゲゲ郎のコンビが嫌いなおたくはいねえわ……同室で寝たり飯食ったり着替えたり風呂入ったりアイス舐めたり酒呑んだりするシーンが多く地味に色気がありおたくは狙い撃ちされていた。やめろよ。いや嘘ですもっとください。
以下、ネタバレ全開で書きます。
ゲゲゲの謎ネタバレ感想・1
光と影、煙の演出が凄く見事で見ごたえがあった。あとは、「子供がせき込む中でも平気で煙草を吸う」「畳のへりに座布団を敷く」「ポイ捨てする」といったキャラクターたちの仕草が昭和三十年代のそれで、普通に観ていると見過ごしてしまう情報がたくさんあった。一画面から得られる情報量が多くて脳みそフル回転で見られてとてもたのしかった。何回も見たくなる気持ちが分かるしそういう風に作られているなとおもった。
アニメは制作者が書きたいと思ったものを全部書き込める表現で、実写みたいな「たまたま写っちゃいました」的なものは存在しない。つまり「妖怪的なもの」は存在しようがない世界だけど、カット割りとか視点とかから『こちらからは視認できない存在に見られている』感覚がつきまとうよう演出されていて、特に不気味さが際立つ前半がとてもよかった。
もっとも幼く、もっとも弱く、本来もっと目をかけられて慈しまれるべき者=こどもたちが誰にも顧みられず犠牲となり、呪いを抱いてラスボスになり、自分たちを苦しめた村=制度をぶち壊す。見えるもの、見えないもの、見ないふりをしていたもの、作品全体を貫く「見る」という演出がゲゲ郎のセリフで「未来を夢見ること」につながって、あぁ〜〜〜うめぇ〜〜〜〜〜〜と唸った。
ゲゲゲの謎ネタバレ感想・3
戦争中の水木は上官の命令に従うほかなく理不尽に殴られ殺されかけた『弱者』だった。戦後は会社でのし上がり力を持ちたいと願うようになるが、素直な幽霊族に嘘をつき、都会に憧れる女の子の切実な気持ちを利用する点で既に彼は『強者』でもある。水木というキャラクターの二面性、複雑さがとても魅力的だった。(霊幻新隆と評した人がいて「そ、それだーーーーー!」ってなった)
彼と行動を共にするゲゲ郎の得体の知れなさ、人知を超越した力を持っているのにこどもに優しく人間よりも妙に倫理的なところが絶妙だった。