北野武監督の映画「首」(2023年)をネット配信で鑑賞。評価は割れているようだが、妻と2人でワーワー言いながら楽しんで見た。
感想は、黒澤明監督「乱」(1985年)へのアンサーソングのような映画だな——というもの。
劇中で描かれる裏切りなど非倫理的な行動、殺戮に次ぐ殺戮を見せられるうちに、観客はヒューマニズムを見失い虚無的な心情になる——そこに虚無的な「美」を見いだすのが「乱」、虚無的な「笑い」を見いだすのが「首」。
「なんでこんなひどい話と残虐な描写で笑えるんだ?」と鑑賞者が自らを振り返る作り。
「乱」と「首」の共通点は多い。「深紅と漆黒」など鮮やかな色彩のコントラストが強調される軍勢の描写。能楽へのこだわり。「三本の矢」の例え話の引用。
「乱」も「首」も、登場人物たちは記号化・戯画化されている。ただし「首」の登場人物たちはヤクザか暴走族かたけし軍団のような連中だ。
そして数々の合戦シーンには力が入っており、NHKの大河ドラマ1作分に匹敵する見所が詰まっている。大河との違いは違いはセックス(衆道の描写が生々しい)とバイオレンス(首が飛び血しぶきが散り、ハエがたかる)の描写に力が入っていること。
好き嫌いが分かれる映画ではあるだろうが、個人的には「SHOGUN」よりも面白かったですね。
お題:「対話を取り戻すこと」
原子力に関する問題では、言論の硬直化が大きな問題だ。
先の安東量子さんの指摘のように、(A)「原発反対派を論破すること」「原発デマを退治すること」に特化した言説か、(B)「原子力ムラ」をあらゆる点で非難する言説かに2極化している。対話が成立しない。
言論が硬直化しているため、民主主義の基本である「議論して社会的合意を取る」ことが非常に困難になっている。そこで「反対派など無視して勝手に推進しよう」という結論になりやすい。
この状況を改善しようという議論はなくはない。311の後に、原子力のような社会的影響が大きな分野では、科学技術の専門家だけでなく社会科学、人文学の専門家らも知恵を出し合うべきだと唱える「トランスサイエンス」への関心が高まった。だが、この取り組みが進展して成果を挙げたという話は聞こえてこない。
私も「壊れた対話を取り戻す」というタイトルで記事を書いたのだけど(『世界』2024年2月号)、残念ながら世の中を動かすには至っていない。
「対話を取り戻す」ことは、私たちが「人らしく生きること」を取り戻すことでもある(民主主義への参加は人権の不可分な一部なので)。少しでも前進するよう、あがき続けたい。
https://docs.google.com/document/u/0/d/1-_qQyQRXU64jdZdgHT5idBfBz2xjf0fZQITbmmXWFOo/mobilebasic
【植民地主義に抗い民衆と連帯するアクションリスト】
———
https://x.com/umikasumi01/status/1842408290447462661
疋田香澄(ひきたかすみ)さんのXから、
「今週末と週明けはイベントが沢山あるので、ぜひ参加してください!」と。
「基本方針」から抜粋:
日々、全国各地でたくさんのアクションが行われています。
しかし、「こんな問題を知った。いま何かしたい」と思った人が参加可能なアクションを探すのは、必ずしも簡単ではありません。
…
社会運動参加のハードルの高さや情報にアクセスすることの難しさ…
このリストだけで問題が解消されるとは思いませんが、「アクションに参加したい」と思う人の助けになればと思いながら、有志の手でこのリストを更新しています。
リストには、各アクションの基本的な情報を簡潔にまとめているので、そのままコピーアンドペーストして、それぞれのSNSでの発信に使うのもおすすめです。
ぜひ自由にご活用ください。
客観的な事実として、10/1のイランによる攻撃は(1) 2カ月前から自衛権の行使を予告。(2) 軍事施設のみを攻撃対象とし、イスラエルの民間人の死傷者は報告されていない。以上により、軍事行動ではあるものの、国際法違反とは考えにくい。
一方、イスラエルの活動は、(1) 予告なしにイラン領内で要人を殺害、(2)レバノン空爆では要人暗殺のため民間人を含む巻き添えが多数、(3)ガザとレバノンでは市街地を爆撃、民間人の死傷者多数、(4) レバノン同時多発爆弾テロで民間人の死傷者多数など。「国際法を遵守している」とはとうてい言えない。
ミサイル攻撃をしかけ軍事的緊張を高めたイランを非難するのなら、国際法違反の戦争を遂行中のイスラエルをより強く非難しなければ公平を欠くと言わざるを得ない。グテレス国連事務総長はそれを避けただけだろう。
メモ:イスラエルは国連事務総長を入国禁止に
https://nordot.app/1214175275116069119
イスラエルは「イランの攻撃を明確に非難できない人物はイスラエルに来るに値しない」などと主張し、グテーレス国連事務総長を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」とした。
問題のグテーレス国連事務総長の発言は以下の通り。
「中東地域の紛争が、激化に次ぐ激化で拡大していることを非難します。
これを止めなければなりません。
私たちには、停戦が絶対に必要なのです」
https://x.com/UNIC_Tokyo/status/1841304152221143095
雑感:
グテーレス国連事務総長は、イランとイスラエルの名指しを避けてコメントを出した。しかし、イスラエルは「イランを名指ししなかった」ことが気に入らなかったようだ。これは正当といえるだろうか?(続く
(3) 独立した米国の研究機関のコメント
https://x.com/ArmsControlWonk/status/1841261830863544827
「CNS(James Martin Center for Nonproliferation Studies、核不拡散・国際安全保障分野全般に取り組む米国の研究機関)のOSINTチームの最初の反応では、4月よりも新型のFattah-1固体燃料ミサイルの破片が多くなっているようだ。これは攻撃が成功したように見える理由を説明できるかもしれない。ただし、現時点では判断が覆る可能性もあるため、さらなるデータが必要である」
◎使われたミサイルの候補について
(1) Kheibar Shekan(カイバル・シェカン)中距離弾道ミサイル。固体燃料ロケットで駆動、機動再突入体(MaRV)を備える。機動により運動エネルギーが減じるため、弾着時の速度はマッハ3程度とされている。2022年に発表。射程1450km。
https://en.wikipedia.org/wiki/Kheibar_Shekan
(2) Fattah-1ミサイル。イラン初の極超音速弾道ミサイル(定義は「マッハ5以上で大気圏内を飛翔」)と発表している。2023年に公開された。
https://en.wikipedia.org/wiki/Fattah-1_(missile)
(1)と(2)は、共通の固体燃料ロケットブースターで打ち上げられる。
◎極超音速ミサイルは使われたのか
イラン側は、今回の攻撃では極超音速ミサイルを使用したと述べている。
極超音速ミサイルは、気圏内で極超音速で飛翔するとともに空力を用いて機動し、複雑な飛行経路を取ることで(例えばいったん上昇してから再下降するなど)迎撃を困難にする狙いがある。なお一部に誤解があるようだが「極超音速」であることは弾道ミサイルとして普通のこと。その特徴は速度よりも機動性にある。複雑な飛行経路を取るため迎撃は困難になるが、現状の防空ミサイルで撃墜不可能とまではいえない。例えばロシアの極超音速ミサイルとされるものをウクライナのパトリオットが迎撃した事例がある。
(1) イランの声明
イスラム革命防衛隊は、極超音速ミサイルとされるFattahミサイルを10月1日の攻撃で初めて使用したと主張した。
(2) NYT報道
ベルリンを拠点とする国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies)のイラン製ミサイル専門家ファビアン・ヒンツ(Fabian Hinz)は、このミサイルの特徴的なフィンのパターンは、イランのKheibar ShekanとFattah-1ミサイルのものと一致すると述べた。
https://www.nytimes.com/live/2024/10/01/world/israel-lebanon-hezbollah/iran-appears-to-have-used-its-most-advanced-missiles-in-the-attack-on-israel?smid=url-share
(a) イスラエルでは死傷者の報告はない
(b) ヨルダン川西岸ではパレスチナ人男性1人が破片の落下により死亡
(c) イスラエル軍は、イスラエル中部の町ゲデラ(Gedera)で被弾した学校の映像を公開
(d) NYTによって検証されたビデオ映像には、イスラエル南部のネゲブ砂漠にあるネバティム(Nevatim)のイスラエル空軍基地にイランのミサイルが撃ち込まれた様子が映っていた。
https://www.nytimes.com/2024/10/01/world/middleeast/iran-attack-israel-video.html?smid=url-share
雑感(国際法の観点):
イランは8月2日に自衛権の行使を通告し、2カ月待ったうえで、9月27日のレバノン空爆を受けて10月1日にミサイル攻撃を実施した。攻撃目標は軍事施設に限られていた。イスラエルの民間人の被害は報告されていない。以上により、今のところイランは国際法を守った戦争をしているといえる。
一方、イスラエルは報復を言明。また米バイデン大統領はイスラエルへの「全面的な」支持を表明。軍事的エスカレーションは避けられない見通し。
メモ:10月1日のイランからイスラエルへのミサイル攻撃について、(1)国際法的な観点と、(2)極超音速ミサイル使用に関して。
(やや長めになります)
◎攻撃に至る経緯
7月31日、ハマスの政治指導者イスマーイール・ハニーヤが、イランの首都テヘランに滞在中にイスラエルにより爆弾で殺害された。
8月2日、イスラエルに対する自衛のための報復行動を実行する意図を、イランは国連に正式に通知した。根拠法は国連憲章第51条。これは上記のイラン領内でのハニーヤ暗殺を受けたもの。
https://x.com/midoriSW19/status/1819165216984223883
9月27日、イスラエルがレバノン首都ベイルート南郊の市街地に80発以上といわれる「バンカーバスター(地中貫通爆弾)」を投下し、地下で会議中だったヒズボラ指導者ナスララを殺害した。複数のビルが倒壊。レバノン保健省は、巻き添えで100人以上が死傷したと発表した。
◎10月1日のミサイル攻撃
10月1日の夕方、イランはイスラエルに向け約180発の弾道ミサイルを発射。
https://www.nytimes.com/live/2024/10/01/world/israel-lebanon-hezbollah/here-are-the-latest-developments?smid=url-share
イラン軍トップのモハマド・バゲリ氏は国営テレビで、ミサイルは3つの軍事基地とイスラエルの諜報機関モサドの本部を標的にしたと述べた。NYTが伝える被害状況は以下の通り。
メモ:ファクトチェック団体は圧力を受け米大統領選から撤退。
米大統領選、ファクトチェックは検閲か 保守派が圧力 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2516R0V20C24A8000000/
2020年の米大統領選の前後、SNS大手はトランプ元大統領の発言にファクトチェックを加え、暴力扇動を受けアカウントを凍結したりの対応を取った。
だが2024年の大統領選では、ファクトチェックを行ってきた研究機関(注)が保守強硬派からの政治的圧力、訴訟、嫌がらせにより弱体化、選挙調査活動から手を引いた。Meta(FacebookやInstagramなどを運営)やX/Twitterもトランプ氏のアカウントは放置の構え。
アメリカ合衆国は少しずつ壊れているのではないかという懸念を持ちます。
注:スタンフォード大インターネット観測所(SIO)は2020年7月、研究連合「選挙インテグリティー・パートナーシップ(EIP)」を設立、偽情報の情報をSNS各社と共有。共和党の保守強硬派は、これを「検閲」と非難しSIOに圧力。SIOは2024年の大統領選では活動から手を引いた。
イーロン・マスクは、X/Twitterにおいて「トランプが勝たなければアメリカの民主主義は死ぬ。民主党が勝てば、不法移民が投票して選挙結果が操作され続け、米国は一党独裁になる」「バイデンらは、不法移民をスウィング・ステートに送り込んでいる」と異様な陰謀論を吹聴している。
https://x.com/elonmusk/status/1840409051357696324
笑えるのは、イーロンが作らせたAIのGrokが、イーロン発言を「事実に基づいた分析ではなく、誇張された主張と憶測的な恐怖に基づく」と述べたこと。
イーロン・マスクのXアカウントは世界を不安定にする言説をまき散らしているため、アカウント凍結が妥当であると考えます。
雑感:
イスラエルは、いまの期間——バイデン米大統領が大統領選候補から降りてレームダック状態となり、米国の次期大統領が登場するまでの間——を「好き勝手に振る舞える時間」とみなし、戦線拡大に勤しんでいるようにすら見える。
米国は、イスラエルの「自衛権」なるものの全面支持を改める考えはない。つまりイスラエルの好き勝手を止める圧力は存在しない。
ローマ教皇の発言は、イスラエルや米国を動かす政治力はないかもしれないが、正当性がある言葉として記録したい。
グテレス国連事務総長はガザ情勢に関して「戦争にもルールはある」と述べたが、これと共通する考え方だ。国際法を含む法律分野では「比例原則」は重要な考え方だ。
雑感続き:
ローマ教皇フランシスコは、信徒に向けた宗教的な発言ではカトリックの教理に基づき聖書を引用して発言するが、今回のような非宗教的・政治的な発言では、宗教色を排し、国際法や倫理学に基づいて全地球的に通用する普遍的な言葉を組み立てている。その結論は、国連のステートメントとおおむね一致する(同じ証拠と同じロジックに基づいているからだ)。
お題:レバノン空爆における米国の姿勢と、国際法の理念には、深刻な乖離がある
◎事実
9月27日、イスラエルがレバノン首都ベイルート南郊の市街地に80発以上といわれる「バンカーバスター(地中貫通爆弾)」を投下し、地下で会議中だったヒズボラ指導者ナスララを殺害した。複数のビルが倒壊。レバノン保健省は、巻き添えで100人以上が死傷したと発表した。
https://www.asahi.com/articles/ASS9Y3RWMS9YUHBI010M.html
https://mainichi.jp/articles/20240929/k00/00m/030/028000c
https://www.cnn.co.jp/world/35224386-2.html
◎米国の姿勢
9月28日、米バイデン大統領はヒズボラ指導者ナスララの殺害を「裁き」と呼び正当化。「イスラエルの自衛権を全面的に支持する」と言明した。その後「ガザとレバノンで続く紛争を外交手段で沈静化させることが最終目標」とも述べた。
◎ローマ教皇の発言
ローマ教皇フランシスコは29日、レバノン空爆を「道徳の範囲を超えている」と批判した。「戦争は不道徳だが、ルールにより一定の道徳性が実現する」「防衛は常に攻撃に比例していなければならない。不均衡が生じると、道徳を超える支配傾向が生まれる」と述べた。
https://jp.reuters.com/economy/ZHNS7EWLXNN2FN7BL6DC27ZSMY-2024-09-30/
(続く
イスラエルは、レバノン市民の電話を鳴らし、攻撃前に避難するよう録音メッセージで警告した。
Netflixドラマ「地面師」で、電話で予告してから暴力を振るう場面を思い出した(怖いよ〜)。
この電話は「レバノン市民の電話番号リストを把握しているぞ」(あるいは「電話網をハックできるぞ」)という警告の意味も含まれるだろう。サディスティックだよね。
https://www.afpbb.com/articles/-/3539946
9月24日、中国がレバノン支持を表明。
"中国の王毅外交部長はレバノンへの支持を表明し「市民に対する無差別攻撃」を非難した。"
"王は月曜日にイスラエルの攻撃を認め、中国は「国際関係を支配する基本的な規範に対するいかなる違反も強く非難する」と述べた。「状況がどのように変化しようとも、我々は常に正義の側に立ち、レバノンを含むアラブの兄弟の側に立つ」と王はアブダッラー・ブー・ハビブ外相に語った。"
https://www.middleeasteye.net/live-blog/live-blog-update/china-fm-expressed-support-lebanon-and-slams-indiscriminate-attacks
雑感:
レバノンに関する中国の意見は正当だ。
レバノンを攻撃するイスラエルに正当性はないが、米国は支持し続けるだろう。
結果、世界の緊張は増す一方だ。
この1週間でイスラエルがレバノンに仕掛けた戦争は既定事実に。
9月17日、18日に同時多発爆弾テロ(ポケベル爆弾、トランシーバー爆弾)。少なくとも37名が死亡。犠牲者には子どもも含まれる。
9月19日、レバノン南部の軍事拠点を爆撃。20日にはベイルート南郊の住宅街を爆撃、12人が死亡。ヒズボラ司令官が死亡、子どもの犠牲者も出た。
その後、連日イスラエルの爆撃は激化。
9月23日には、イスラエルによる空爆で少なくとも492人が死亡したとレバノン保健省は発表した。35人の子供と58人の女性が死亡し、さらに1,645人が負傷した。
https://www.middleeasteye.net/live-blog/live-blog-update/death-toll-israels-strikes-lebanon-rises-492
大日本帝国に例えれば、イスラエルはなし崩しに戦争を仕掛けた関東軍、黙認する米国は大本営に相当する。
追記:
文書はAction(行動)のリストの形式で書かれているのですが、特に気になった2つをメモ。
カッコ内は私の意見です。
(世界的な軍事費増加への懸念)
Action13 (c) 軍事支出が持続可能な開発と持続可能な平和の構築への投資を損なうことのないよう保つため、事務総長に対し、第79会期末までに世界的な軍事支出の増加が持続可能な開発目標の達成に与える影響に関する分析を提供するよう要請する。
(安保理常任理事国の拒否権の見直し)
Action 39 (g) 拒否権の問題は安全保障理事会改革の重要な要素である。私たちは拒否権の範囲と行使の制限に関する議論を含め、拒否権の将来について合意に達するための努力を強化する。
雑感:
当たり前の話ですが、軍事費が増えれば社会保障やインフラ整備は後回しになり、持続的な開発目標(SDGs)の達成にマイナスの影響があります。国連はこれを懸念して分析を始めました。
例えば日本は米国の要請で軍事費(防衛費と呼んでいる)の倍増を予定しています。悪影響がないわけがありません。
国連安保理はロシアと米国の拒否権発動で機能不全です(ウクライナとガザは、ほんらい安保理が取り組むべき課題でしたが動けていません)。国際社会の声をより反映させる取り組みが期待されます。
ITジャーナリストです。
仕事リスト:https://note.com/akiohoshi/n/nebac412b6c12