メモ:10月1日のイランからイスラエルへのミサイル攻撃について、(1)国際法的な観点と、(2)極超音速ミサイル使用に関して。
(やや長めになります)
◎攻撃に至る経緯
7月31日、ハマスの政治指導者イスマーイール・ハニーヤが、イランの首都テヘランに滞在中にイスラエルにより爆弾で殺害された。
8月2日、イスラエルに対する自衛のための報復行動を実行する意図を、イランは国連に正式に通知した。根拠法は国連憲章第51条。これは上記のイラン領内でのハニーヤ暗殺を受けたもの。
https://x.com/midoriSW19/status/1819165216984223883
9月27日、イスラエルがレバノン首都ベイルート南郊の市街地に80発以上といわれる「バンカーバスター(地中貫通爆弾)」を投下し、地下で会議中だったヒズボラ指導者ナスララを殺害した。複数のビルが倒壊。レバノン保健省は、巻き添えで100人以上が死傷したと発表した。
◎10月1日のミサイル攻撃
10月1日の夕方、イランはイスラエルに向け約180発の弾道ミサイルを発射。
https://www.nytimes.com/live/2024/10/01/world/israel-lebanon-hezbollah/here-are-the-latest-developments?smid=url-share
イラン軍トップのモハマド・バゲリ氏は国営テレビで、ミサイルは3つの軍事基地とイスラエルの諜報機関モサドの本部を標的にしたと述べた。NYTが伝える被害状況は以下の通り。
◎極超音速ミサイルは使われたのか
イラン側は、今回の攻撃では極超音速ミサイルを使用したと述べている。
極超音速ミサイルは、気圏内で極超音速で飛翔するとともに空力を用いて機動し、複雑な飛行経路を取ることで(例えばいったん上昇してから再下降するなど)迎撃を困難にする狙いがある。なお一部に誤解があるようだが「極超音速」であることは弾道ミサイルとして普通のこと。その特徴は速度よりも機動性にある。複雑な飛行経路を取るため迎撃は困難になるが、現状の防空ミサイルで撃墜不可能とまではいえない。例えばロシアの極超音速ミサイルとされるものをウクライナのパトリオットが迎撃した事例がある。
(1) イランの声明
イスラム革命防衛隊は、極超音速ミサイルとされるFattahミサイルを10月1日の攻撃で初めて使用したと主張した。
(2) NYT報道
ベルリンを拠点とする国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies)のイラン製ミサイル専門家ファビアン・ヒンツ(Fabian Hinz)は、このミサイルの特徴的なフィンのパターンは、イランのKheibar ShekanとFattah-1ミサイルのものと一致すると述べた。
https://www.nytimes.com/live/2024/10/01/world/israel-lebanon-hezbollah/iran-appears-to-have-used-its-most-advanced-missiles-in-the-attack-on-israel?smid=url-share
(3) 独立した米国の研究機関のコメント
https://x.com/ArmsControlWonk/status/1841261830863544827
「CNS(James Martin Center for Nonproliferation Studies、核不拡散・国際安全保障分野全般に取り組む米国の研究機関)のOSINTチームの最初の反応では、4月よりも新型のFattah-1固体燃料ミサイルの破片が多くなっているようだ。これは攻撃が成功したように見える理由を説明できるかもしれない。ただし、現時点では判断が覆る可能性もあるため、さらなるデータが必要である」
◎使われたミサイルの候補について
(1) Kheibar Shekan(カイバル・シェカン)中距離弾道ミサイル。固体燃料ロケットで駆動、機動再突入体(MaRV)を備える。機動により運動エネルギーが減じるため、弾着時の速度はマッハ3程度とされている。2022年に発表。射程1450km。
https://en.wikipedia.org/wiki/Kheibar_Shekan
(2) Fattah-1ミサイル。イラン初の極超音速弾道ミサイル(定義は「マッハ5以上で大気圏内を飛翔」)と発表している。2023年に公開された。
https://en.wikipedia.org/wiki/Fattah-1_(missile)
(1)と(2)は、共通の固体燃料ロケットブースターで打ち上げられる。