北野武監督の映画「首」(2023年)をネット配信で鑑賞。評価は割れているようだが、妻と2人でワーワー言いながら楽しんで見た。
感想は、黒澤明監督「乱」(1985年)へのアンサーソングのような映画だな——というもの。
劇中で描かれる裏切りなど非倫理的な行動、殺戮に次ぐ殺戮を見せられるうちに、観客はヒューマニズムを見失い虚無的な心情になる——そこに虚無的な「美」を見いだすのが「乱」、虚無的な「笑い」を見いだすのが「首」。
「なんでこんなひどい話と残虐な描写で笑えるんだ?」と鑑賞者が自らを振り返る作り。
「乱」と「首」の共通点は多い。「深紅と漆黒」など鮮やかな色彩のコントラストが強調される軍勢の描写。能楽へのこだわり。「三本の矢」の例え話の引用。
「乱」も「首」も、登場人物たちは記号化・戯画化されている。ただし「首」の登場人物たちはヤクザか暴走族かたけし軍団のような連中だ。
そして数々の合戦シーンには力が入っており、NHKの大河ドラマ1作分に匹敵する見所が詰まっている。大河との違いは違いはセックス(衆道の描写が生々しい)とバイオレンス(首が飛び血しぶきが散り、ハエがたかる)の描写に力が入っていること。
好き嫌いが分かれる映画ではあるだろうが、個人的には「SHOGUN」よりも面白かったですね。