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『BRUTUS』のSF特集も面白かった。294作品を紹介する「現代SFキーワード辞典」がすごいボリューム。
それと「海外SFの現在地」で橋本輝幸さんが紹介していた、アフリカ各国や南アジアの作品がどんどん日本で訳されてほしいな。挙げられていた未訳作品の中では特に、32人のアフリカ系作家のアンソロジー『Africa Risen』が気になる。
世界各国のアンソロジーをもっと読みたいよ。

『文藝』秋号の世界文学特集でも、粟飯原文子さんが「様々なアフリカ人作家によって様々な場所、様々な言語で書かれるアフリカ文学作品が翻訳されてほしい」と書いていたけれど、ほんとうに、同時代を生きる現代作家による「今」の作品をもっと読みたいし、広く出してほしいな。

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7月に買った本。『星の時』が忘れがたくて発売を心待ちにしていたクラリッセ・リスペクトル『ソフィアの災難』、最高な短篇集でした。
どんな本なのか何も知らずに開いた柴崎友香『百年と一日』は読みながら様々な感情が去来して、いてもたってもいられなくなった。

◆『歩き娘 シリア・2013年』サマル・ヤズベク/柳谷あゆみ 訳
◆『約束』デイモン・ガルガット/宇佐川晶子 訳
◆『ソフィアの災難』クラリッセ・リスペクトル/福嶋伸洋、武田千香 訳
◆『感情のアーカイヴ』アン・ツヴェッコヴィッチ
◆『お砂糖ひとさじで』松田青子
◆『バトラー入門』藤高和輝
◆『戦争ミュージアム ──記憶の回路をつなぐ』梯久美子
◆『なぜ難民を受け入れるのか ──人道と国益の交差点』橋本直子
◆『強迫症を治す』亀井士郎、松永寿人
◆『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス/鼓直 訳
◆『生贄の門』マネル・ロウレイロ/宮崎真紀 訳
◆『モルグ館の客人』マーティン・エドワーズ/加賀山卓朗 訳
◆『風に散る煙(上・下巻)』ピーター・トレメイン/田村美佐子 訳
◆『フェミニズム』竹村和子
◆『百年と一日』柴崎友香
◆『double 彼岸荘の殺人』彩坂美月
◆『映画とポスターのお話』ヒグチユウコ、大島依提亜

橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』

◆日本の向き合い方

2021年タリバンがアフガニスタン全土を制圧した際、各国がアフガニスタン現地職員とその家族を大規模に自国へと退避させる中で、日本は差別的で非人道的な対応を取り、長年日本に協力した多くのアフガニスタン人を見捨てた。

2022年、ロシアのウクライナ侵攻から一週間も経たずに日本政府は避難民受け入れを発表。
来日希望のウクライナ人は身元保証人無しでパスポートが無くとも無条件に短期滞在査証が発給された。
入国後は就労可能な在留資格、住民登録、国民健康保険への加入、滞在場所、食事、生活費、カウンセリング、日本語教育、保育、学校教育、職業相談、通訳・翻訳機が提供された。

「日本との繋がりの無いウクライナ人に対しては簡単にできたことを、長年日本のために働いたアフガニスタン人には拒んだ。」

ウクライナ避難民への対応は日本が「やろうと思えばここまでできる」ことを実証したものであり、著者は「今後の庇護政策は全てウクライナ避難民を最低基準としなければならない」と。

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橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』

◆世界での難民の受け入れ方
① 「待ち受け方式」
難民受け入れ国へ自力でたどり着いた人が庇護申請を行う方法。

難民条約の批准国は、自国で庇護申請を行った人を難民認定審査を経るまで迫害を受けるおそれのある出身国に絶対に送り返してはならない「ノン・ルフールマン原則」を遵守せねばならない。
そのため多くの国で、庇護申請の責任を負わずにすむように難民が自国にたどり着かないよう必死で策を講じている。(地中海でボートピープルをたらい回しにするなど)

②「連れて来る方式」
最初に一時庇護された国から別の第三国へ難民として受け入れられ定住する「第三国定住」が、UNHCRの支援で行われている。

第三国定住は、難民の選定から定住プロセスまでを受け入れ国が主導権を握り秩序だって実施できるため、「先進国」政府に好まれている。「都合が良く、かつ人道的」だから。
この「連れて来る方式」を拡充する代わりに、「待ち受け方式」での受け入れを厳しくする傾向がある。
ボートピープルの拒否などで非人道的との謗りを免れるために、厳格な国境管理という国益と、脆弱な難民の受け入れという人道が複雑にねじれた政策。

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橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』

以下は、読みながらメモした自分の簡単な覚え書きの一部です。

◆「難民」の定義について

国連の難民条約における「難民」の定義の肝は、戦時か平時かを問わず、あくまでも「差別に基づく迫害のおそれがあること」であり、戦争や内戦による無差別暴力から逃れる場合は難民の対象からは外れる。

しかしアフリカと中南米では、国の歴史と政治を反映し、戦争や内戦での武力紛争を逃れた人々を保護するために、難民条約の定義に加えて広い(避)難民の定義を採用している。

またEU諸国では難民条約の定義を維持しつつ、「補完的保護の対象者」として、難民に準ずる別の地位を作り実質的に保護対象の範囲を広めている。

EUでは短期間に大量の避難民が流入した場合の「一時的保護」制度があるが、策定から20年間以上一度も、シリア難民危機ですら使われたことがなかった。
にもかかわらず2022年ロシアのウクライナ侵攻の際は驚異的な速さで発動。しかしウクライナ国籍を持たない人は庇護対象から外されるという、非ヨーロッパ系避難民の排除の上に成り立つ、ウクライナ人限定での寛容さだった。

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橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』

そもそも国連の難民条約において「難民」がどう定義されているのか、世界では難民をどのような方法で受け入れているのか等、これまで正確には知らなかった様々なことが整理され理解できた。
SNSで拡散される、フェイクで溢れかえった「難民受け入れ」の「是非を論じる大前提として、必須の事実と論理の提供を目指す」と冒頭にある。

サブタイトルにある通り、難民受け入れとはその時々での外交政策の利害関係が如実に反映される、人道と国益が複雑に交差する営みであることが明らかになる本であり、諸外国の、そして日本での現在の状況や懸念点についても詳細に説明されていて、めちゃくちゃオススメです。
(冊子の印税は日本のアフガニスタン現地職員の女児の教育資金のために全額寄付)

今年は春以降、『文學界』や『MONKEY』、『文藝』、『ダ・ヴィンチ』でもホラーの特集が組まれていてすごく楽しい。夏本番に向けてまだまだ続いてほしい〜!

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発売時にスルーしてしまったマネル・ロウレイロ『生贄の門』(宮崎真紀 訳)と彩坂美月『double 彼岸荘の殺人』も、『このホラーがすごい!』の影響で読みました。

『double 彼岸荘の殺人』はしっかり謎解きがあるタイプのホラーミステリだったけれど、ものすごく積極的に物理的&精神攻撃をガンガン繰り出してくる「幽霊屋敷」「怪物屋敷」っぷりが凄かった。
そして幼馴染の女性2人の物語でもあって、ラストの選択と結末は別に悪いわけではないが2024年の新作で見たいのはコレじゃないんですよーーー!!
「異能」を持つ人間の選択と生き方と関係性に対して、どうであれ2人がこの世界を共に歩んでいくような物語が必要なんですよ!!とどうしても思ってしまう。

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宮部みゆきの三島屋百物語シリーズも、人間の営為と民俗と怪異が真っ当に描かれていると信頼できるから好き。
最新作の『青瓜不動』が『このホラーがすごい!』ではあまり選ばれていなくて、ちょっと悲しい。巻数の長いシリーズ物はランクインしにくいのかな。三島屋シリーズは江戸時代版の怪物屋敷やゾンビパニックのお話なども必見だから読んでほしい〜。
ただ語られるお話にグッとくる一方で、「まあ江戸時代が舞台だし……」と諦めつつも階級や性別における規範の前提が苦しくなる時も正直ある。

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『このホラーがすごい!』、今だと国内編のランキングは特定のジャンルホラーが席巻しているのかな?と思っていたら、1位は小田雅久仁『禍』で斜線堂有紀 『本の背骨が最後に残る』もかなり上位、貴志祐介『梅雨物語』や高原英理『祝福』などもランクインしていて、自分の勝手な想像とはかなり違っていた。

私は3位に入っていた北沢陶『をんごく』が最近読んだ国内ホラーの中では一番好きだった。
物語も登場人物もその心情もすごく端正な描きぶりで、ゾワッと恐いシーンもグッと気持ちが高まるシーンも良くて。
何より、人の営みと祈りや妄執が生む怪異と民俗が、ちゃんと真っ当に描かれているホラーが読めて嬉しかったんですよ。
ところで『をんごく』は作中に出てくる「ある存在」のことを、あらすじ紹介でネタバレしているけど、良いのだろうか……。そこに惹かれて読みたくなる側面もあるだろうけれど、私はできれば知らずに読んで驚きたいな。

NHKの開票速報特番、19:58から放送スタートして20:00に向けて「都民の選択は果たして!!」とか言いながら「3、2、1」エフェクトでカウントダウン→「当選確実の速報流す」、の見せ方が腹立ちすぎて……

『女ふたり、暮らしています。』

誰かと同じ空間で暮らす効能について、キム・ハナが「情緒的体温の維持」と表現していたのが何だか良かった。
「ひとりでも十分楽しく暮らせるけれど、他の原子と結合して分子になることができる」
「多様な形の“分子家族”」

猫ちゃん4匹それぞれの性格や暮らしぶりも、カラー写真とともにボリュームたっぷりに紹介されてます!

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キム・ハナとファン・ソヌ『女ふたり、暮らしています。』(2021年/清水知佐子 訳)がTwitterで急に話題になっていましたが、この本は本当におすすめです!

血縁でもなく結婚でもなく恋愛関係でもない40代女性2人が、共同名義でマンションを購入しお互いの飼い猫4匹との生活を綴ったエッセイです。
世間が当たり前に思っている「普通」の家族関係とは違う生き方を実践している人たちの個々の体験を知れることが嬉しい。

元々「ひとり力」マックスの才能でもってシングル生活を1000%楽しみ、人生を謳歌していたキム・ハナとファン・ソヌが、どうして「誰かとの生活」を望むようになったのかや、一人暮らしならば起こらない共同生活における面倒事に窮屈さを感じたり、でもその不自由を上回る安心感を覚えたり、喧嘩して衝突を繰り返しながらも譲り合って暮らす日々を丁寧に語っています。

同時に2人の生活には、女性が社会から受ける圧力や恐怖、固定観念の押し付け等が立ちはだかってくる。こうした現実に対して、この本で2人が語りかける言葉に救われる人が沢山いると思う。

今更なんですが創元推理文庫のトラヴィス・バルドリー『伝説とカフェラテ』って、以前はしもとさんが紹介して下さっていた、原書の表紙にオーク女性とサキュバス女性が描かれているあの本なの!?
めっちゃ読みたいと思ってた本だけど、同じ作品だとは全く繋がらなかったよ。創元は女性たちのクィアロマンスをもっと訴求して売るべきでは!?

というかそれ以前に私は書店で『伝説とカフェラテ』訳書を見た時、帯に大きく書かれた「傭兵、珈琲店主に転職!」を普通に「現実世界の元傭兵」の設定だと思い込んで買うのをスルーしてしまっており、ファンタジー作品とすら認識していなかったよ(これは自分が悪いが)。
「転職」のルビが「ジョブチェンジ」になってること等は全然見てもなくて、今気づいた。

安田菜津紀・金井真紀『それはわたしが外国人だから? 日本の入管で起こっていること』

「日本で働いて貢献してくれている人たちだから人権を守ってあげよう」というような、「役に立つ人だから大切にする」という考えが何故いけないのか、そしてそれは裏を返せば「役に立たない人は国に帰れ」であることを丁寧に説明し、テーマ毎に言葉を変えながら繰り返し伝えてくれている。

それと技能実習生制度の問題や、関東大震災での虐殺にも触れ、「外国人は危険なことをするに違いない」という日常の中の差別が暴力に繋がってゆくこともしっかり書かれていた。
子供たちに何をどのようにして伝えるのか、本当に考え抜いて形にしてくれたのだなと感じる。

最後には金井真紀さんによる、「難民・移民フェス」のエッセイも収録されていた。金井さんは難民・移民フェスを始めた実行委員のお一人で、フェスの成り立ちやその経緯、第1回開催の当日の様子などを素敵な絵とともに知ることができた。
第5回難民・移民フェスは、7月20日(土)に練馬区の平成つつじ公園で開催とのこと。

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安田菜津紀・金井真紀『それはわたしが外国人だから? 日本の入管で起こっていること』

日本に住む外国ルーツや外国籍である4人の方がそれぞれ直面した、日本での「壁」の体験を通して、入管施設のこと、難民のこと、差別・偏見とはどういうことであるのかが整理され、包括的に示されていた。

子供へ向けて分かりやすいように漢字には全てルビが振られ、文章にも構成にも工夫が随所に見られる、すごく良い本だった。
世間からの刷り込などで陥ってしまっている思い込みや思考の罠を、丁寧に解きほぐすように進むのがとても良かった。
この本を読むと「どんな立場の人にも人権は有る」という大事なことが自然にハッキリと分かるので、この本をそのまま教材にしてぜひ小学校などで教えてほしい……!

『ガザ日記』(収益は全額ガザ支援団体へ寄付される)を出している地平社による月刊誌、『地平』創刊号。

読みごたえのある論考やルポが詰まっていた。ジャーナリズムと真剣に誠実に向き合う『地平』のような雑誌が新しく創刊されたことがとても嬉しい。
毎日酷いことが目に入り惓むばかりだけれど、まだ希望は持てるように感じられて。

◆創刊特集「コトバの復興」
◆緊急特集「パレスチナとともに」
◆特別鼎談/岸本聡子×南彰×内田聖子「地域・メディア・市民 」

他にも沖縄、ウクライナ、イエメン、桐生市の生活保護問題、PFAS問題など様々なテーマの論考や連載、能登地震や原発訴訟のルポなども。

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6月に買った本。
近藤銀河『フェミニスト、ゲームやってる』が本当に良い本だった。上半期ベストの一冊。柴崎友香『あらゆることは今起こる』も。

◆『エブリデイ・ユートピア』クリステン・R・ゴドシー/高橋璃子 訳
◆『韓国の今を映す、12人の輝く瞬間』イ・ジンスン/伊東順子 訳
◆『白い拷問 自由のために闘うイラン女性の記録』ナルゲス・モハンマディ/星薫子 訳
◆『不完全な社会をめぐる映画対話』河野真太郎、西口想
◆『フェミニスト、ゲームやってる』近藤銀河
◆『それはわたしが外国人だから? 日本の入管で起こっていること』安田菜津紀、金井真紀
◆『アートとフェミニズムは誰のもの?』村上由鶴
◆『異形コレクション 屍者の凱旋』井上雅彦 編著
◆『女彫刻家』ミネット・ウォルターズ/成川裕子 訳
◆『あらゆることは今起こる』柴崎友香
◆『地平』創刊号
◆『このホラーがすごい!』2024年版
◆『吟醸掌篇』vol.5、vol.4
◆『MONKEY』vol. 33/ニュー・アメリカン・ホラー特集

『私の身体を生きる』

そんな中で書き手の一人である柴崎友香さんが、編集者に企画趣旨を確かめ「なぜ書き手の性別を限っているのか」など疑問をぶつけた上で仕事を受けたことを書いていたのが良かった。
柴崎さんがエッセイのはじめに書いていたこと(下記引用)を、出版社自ら表明してほしかった。

「女性が自ら身体や性について自分の言葉で語ることは長らく抑圧されてきたが、一方で、身体や性について説明や理由を求められるのも、女性や性的マイノリティの側である。語らされないのも、語らされるのも、同じ構造のもとにある」
「中心にいる側の人の言葉で中心にいる側の人にわかるように語れ、「わかる」かどうかは中心にいる側の人が決めてきたということ」(p180/柴崎友香)

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『私の身体を生きる』

作家17人による、「身体」にまつわるエッセイ。自らにも内面化された強固な規範意識とその圧力への葛藤、わだかまり、怒りなどが作家それぞれの体験や思索を通して語られる。
性別を理由に受ける蔑視や暴力、様々な形で表れる人権軽視があまりに蔓延っている日本社会のリアルを改めて突きつけられるので、通して読むのがものすごく辛かった。

ただ、この本は『文學界』の連載をまとめたものだけど、企画趣旨の説明などが無い(まえがきもあとがきも無い)のは残念に感じた。なぜ今このテーマを取り上げたのか、編集部の姿勢を示してほしかった。
企画趣旨を表明するページは蛇足なんかではなく、必要だと思う。

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