アンジェラ・チェン『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』(羽生有希訳)、読みました。
様々な世代・人種のエース(アセクシュアル)当事者の体験と、その人たちが悩みや困難を経て自身の在り方を見つけていった過程がたくさん紹介されているので、今、同じように不安を抱えている人たちにとっての助けになると思う。
性的惹かれが無いエース(アセクシュアル)の解放は、全ての差別と相容れない社会の実現であり、その時こそ誰もがみんな「フツー」の性愛/恋愛から自由となり解放されることである、というメッセージを強く感じられた。
ただ、基本的人権の尊重すら瓦解してしまっているような今この国の状況を思うと、希望を持つことも難しくて辛い……。
木原善彦さんがご自身の訳書、ギャディスの『JR』に誤植があれば教えてほしいとツイートされているのを見たのだが、読んでいる新刊本の誤字/脱字/誤認に気づくたびに、どうするのが良いんだろう……といつも思っている。
翻訳書だと人名などの誤認は原文がそうなっているからという作者のミスの可能性のほうが高いと思うし、訳者の指摘は一切受けない作者もいると聞いたことがあるから直せなかったのかも……とか、漢字変換ミスや脱字は重版時に改めて校正が入るだろうし、そもそも読者の指摘は求められているの……?
などと考えて、結局は誤植箇所を控えないまま忘れてしまうのが常なのだけど。
でももしかして出版社に連絡する方々のおかげで次の版で修正が入っていたりするのだろうか。
早稲田のハラスメント被害者の方へ対する、大学関係者や文学者の人たちの二次加害がひどすぎて絶望してしまう……。
なぜ被害者へ向けてわざわざ直接、加害として作用する言葉を簡単に投げかけることができるんだろう。
大学という組織内で起こるハラスメントの構造についての視点を欠いた上に、自身と相手の権力の不均衡も考えないまま、SNSで安易に雑な発信をしてしまう(そして言い逃げする)こと自体が、ハラスメントが無くならない理由と問題を自分たちで証明しているようにしか見えない。
最後の章は「バリケードから投票箱へ」。
昨日の統一地方選のタイミングで読むにはピッタリだった。
ポピュリスト政治家が女性・非白人・移民を叩くのは、経済的不平等の本質から人々の目を逸らすためであり、そして若い世代の投票率を何としても下げようとする動きについても明確に語られていた。
「金権政治にとって最大の脅威は、人々が共通の利害のために連帯し、集団で動き出すこと。
資本主義が利己心と個人主義の上に栄えているのは偶然ではない。
資本主義の擁護者が、利他心や協力といった連帯の精神を笑い飛ばそうとするのも、けっして偶然ではない。」
クリステン・R・ゴドシー(高橋璃子さん訳)
共通の目標に向かいながらも、同時に各人の違いを尊重し、集団の中での権力構造には常に注意深くあるべき、とも。
クリステン・R・ゴドシー『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』(高橋璃子 訳)、とても面白かったです。
20世紀の社会主義国での政策の歴史と失敗における、女性の権利や生活の変遷を紐解くとともに、現在の自由市場がいかに女性の経済的自立を損なうか、という実情が見えてくる。
北欧の民主主義的社会主義の実践なども紹介しながら、あくまで民主主義の中で資本主義とは別の、より良いやり方を見つけて変えていこうという、とても前向きな本だった。
(ちなみに著者は、本書における「女性」という言葉や妊娠する人について論じる際には、トランス女性やその他の性自認を持つ人がいることを忘れているわけではない、と明記しています。)
鉄欠乏性貧血がぶり返したのか、一昨日から急激に体調がおしまいになった……。
「治療→回復して休薬→(一年後)再び悪化して治療」を繰り返しているのだけど、その度に紹介状無しの初診時負担金が上乗せされるのが億劫というか、けっこう辛い。
『女神の継承』鑑賞。
タイの小村で信仰されている、女神バヤンを身に宿すニムの姪ミンに起きる怪異を、モキュメンタリー形式で描く。
内容も描写もかなりキツい作品なのだが、女神の依代としての人生を受け入れているニムの在り方、しかし胸に秘めた信仰への揺らぎが垣間見えるところなどは、めちゃくちゃ好きだった。
この作品、(フェイク)ドキュメンタリーの構成と撮り方のクオリティが高くて、更にニム役の方の佇まい・演技が素晴らしいこともあって、特に最序盤の見せ方の上手さには感動した。
ドキュメンタリー撮影という設定によって、ケア・サポートを受けられない若い女性が追い詰められる姿や、田舎の保守的な構造が浮かび上がってくる。
それと同時に、カメラを向ける撮影クルーの無遠慮な視線への嫌悪感、彼らの倫理観に対する不信感が募りに募った果ての、ラストの阿鼻叫喚は凄まじい衝撃だった。
撮影クルーは自業自得とはいえ、あそこまで映し出したのはスゴイ。
赤ちゃんや動物がとても酷い目に遭うのが辛いのだけど、個人的に一番嫌だったのは、憑依されたミンが幼児を突き飛ばすシーン。
かなり本気で胴に手が入り倒れたように見えたし、子供たちの唖然とした顔とその後泣き出す感じは本当にやっているとしか思えず、嫌悪感がすごかった。今思い出しても辛い……
読んだ本のことなど。海外文学を中心に読んでいます。 地方で暮らすクィアです。(Aro/Ace)