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アンソロジーの異形コレクション『ヴァケーション』は、トリの王谷晶さんのお話『声の中の楽園』が好きでした。

踏み躙られ続けてきた者が最後の最後に選択した復讐の形、それが世界をひっくり返すスケールでの滅びが描かれており、すごく良かった!
誰もが見て見ぬふりをし続けた結果の、取り返しのつかなさ。
とはいえ自分はこの視点人物である「見ないよう考えないようにしてきた」男と同じだという強烈な後ろめたさが付きまとった。

罪なき者もいっしょくたに巻き添えとなってしまう酷い顛末なんだけど、こういう物語で救われる気持ちも確実にある。

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宮部みゆき『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』

今作はまるまる、富次郎が自らの来し方行く末について思い巡らせる一冊だった。

表題作は虐げられ居場所を失った女性たちが身を寄せ合い助け合って暮らす、江戸時代版DVシェルター!
ただシェルターの庵主となったお奈津が、父親と相容れなかったことを後悔して「父には父の苦しさがあったのだ」と自分を責めるのには、父親の仕打ちをそんなふうに許さなくてもいいのにな……とモヤモヤ。
そんなお奈津だからこそ彼女のもとに不動明王(うりんぼ様)が顕現したのだろうとは思うけども。

四篇目は、里の大人たちの行動に泣けて泣けて……。展開は分かっているのに、こういうのに本当に弱い。

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『戦前のこわい話』は怖い話ではなく実録犯罪“風”譚だったけれど、これがカストリ雑誌ってやつなんでしょうか……?
女を激しく見下しながらも、手前勝手なファンタジー満載の欲望を押し付けてくる超キモい話ばかりで辟易してしまった……

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この夏に読んだ、怪談やホラー小説。もうストックが無くなってしまったので寂しい……。
海外のホラーももっと色々読みたいのですが、古典以外を探そうと思うと、新刊情報や発売のタイミングを見逃すとなかなか見つけられず難しい😵

◆宮部みゆき『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』
◆三津田信三編著『七人怪談』
◆澤村伊智『一寸先の闇』
◆大島清昭『最恐の幽霊屋敷』
◆梨『かわいそ笑』
◆志村有弘編『戦前のこわい話〈増補版〉』
◆神沼三平太/蛙坂須美『実話怪談 虚ろ坂』
◆青柳碧人『怪談青柳屋敷』
◆井上雅彦編著『ヴァケーション』

というか待合室で座っているのもやっとの方や車椅子の上で崩れかけている方もいらして、最優先で診てあげて…!?と気が気でなかった。
こういう時、躊躇せず救急車を呼んだほうが良いと思う、呼んでほしい…

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昨日久しぶりに午前中に総合病院を受診したら、熱中症のような症状・状態でフラフラになったお年寄りがたくさん来ていらして、辛い気持ちになった…(待合室での看護師さんとの問診が聞こえてしまう)。

なんとか自分で来た方や、家族が付き添ってる方、それにご近所さん?が連れてきてくれた方など様々だったけれど、新聞では熱中症で搬送された数字しか出ていないから、本当はもっと多くの人が危険な状況にあるんだろうな…

『亡霊の地』、とんでもなく壮絶な悲喜劇で、悲壮で痛切でもあるけれどとても美しい瞬間や痛快さもあり、忘れがたいエピソードがたくさんあった。

激しいホモフォビアや暴力、DV、多岐にわたる抑圧が表現されているので注意は必要かもしれません。

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陳思宏『亡霊の地』(三須祐介訳)を読みました。

7人きょうだいの末っ子である陳天宏が、ベルリンで恋人“T”との間に起きたことを追想しながら、台湾に帰郷する。
視点は天宏から5人の姉たちや父母へと次々に移ってゆくのだが、誰も彼もがめちゃくちゃ辛い。

田舎の驚くほど狭く逃げ場のないコミュニティの中で、家族という一番近しく濃い関係性から生じる、容赦のない様々な形での抑圧が生々しく描かれており、ものすごく苦しい。

家族は体験を共有していながらも、立場も違うし見たこと知っていたことも自分ひとりだけのものであり、何を感じどうやって生き延びてきたのかもみんな違う。
多視点によって語られる、家族それぞれの痛みと苦悩にまみれた過去と現在とを追いながら、密接に絡み合って最後に立ち現れるものに胸がつまる圧巻の群像劇でした。

『フィリックス エヴァー アフター』は、トリガーワーニングがしっかり明記されていたのも良かった。
その記載方法も素晴らしい配慮の仕方だった。

冒頭に「精神的な負担となりうる描写が含まれます」という注意書きとともに、具体的な要素を記載した巻末のページを案内している。すごく上手い!

同じマグノリアブックス(オークラ出版)から出ているエマ・ドナヒューの『聖なる証』でも、注意書きが冒頭にちゃんとあって安心できたし、トリガーワーニングは本当に大事だと思う。

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『フィリックス エヴァー アフター』

それとフィリックスが行うインターネット上のある行為が、決して許されない行為であると、誤魔化さずにしっかり向き合っていることに心底安心した。

「キッカケはどうあれ、結果的に恋が芽生えてハッピーならOKでしょ!」というような物語が多くある中で、それはやはりダメなんだと、それでは健全な人間関係は望めないのだと示してくれた。

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ケイセン・カレンダー『フィリックス エヴァー アフター』(武居ちひろ訳)を読みました。

こんなに瑞々しくて、眩しいほどに真っ当な青春小説を初めて読みました!
家族や友人への複雑な感情と関係、将来への不安、そしてジェンダー・アイデンティティに葛藤しながら、答えを探すフィリックスに胸が熱くなる。

アウティングを受けたフィリックスの苦しみ、そして無知との衝突に心抉られるのだけど、「人は誰でも過ちから成長できるはずだから許すべきなのかもしれない、しかし差別者を許さない」ことを選ぶフィリックスの決断が描かれており、ここは本当に重要だと思う。
自分の尊厳を犠牲にするべきではないこと、自分を守る選択も、絶対に尊重されるべき。

主人公をはじめ、非白人のクィアの登場人物がこんなにも当たり前にたくさん出てくる物語が読めて、すごく嬉しい。

『グレイズ・アナトミー』シーズン19

こんな状況になってしまった今こそ、産婦人科外科医アディソンが主人公のスピンオフ、『プライベート・プラクティス』のようなドラマを作ってほしいです。

今ならもっと、男女二元論には縛られずに、様々なジェンダーやセクシュアリティの人々が直面するリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて描けるはずだし、描いてほしい。

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『グレイズ・アナトミー』シーズン19

カリフォルニアから中絶を規制する州に大学進学が決まっている18歳の子たちが、予防的な卵管結紮を希望するケースが増え続けている現状や、

子宮外妊娠など妊婦の命に関わる重篤な症状にもかかわらず、治療拒否するクリニック(治療を違法とみなされる危険を冒したくないため)が増えて危機にさらされる多くの患者たち、

不意の流産が起こってしまった後に感染症を防ぐため受ける場合がある子宮内膜掻爬術は、中絶の処置と同じ。
そのため今後、患者へ処置を行うことをリスクと捉える医師が出てくる事態や、医師たちが十分な訓練ができないような状況となることへの憂慮。

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『グレイズ・アナトミー』シーズン19、9話まで観ました。

今シーズンは、中絶の権利を最高裁が否定する判決を出したことによるリプロダクティブ・ヘルス/ライツへの影響を大きく取り上げているので、現実社会での脅威に対してドラマ内ですぐさま(S19は2022年放送)声を上げてくれることに、すごく力をもらえている。

産婦人科外科医アディソンたちの「全てを無にされたような」失望や、
「現場も知らず何の経験もない政治家が勝手に作った法律に縛られて、こんな状況で医師はどうやって患者を治せばいい!? 間違っている!!」と
はっきりと怒りの表明を描く物語があることが、この現状にあってどれだけ大事か。

『グレイズ・アナトミー』シーズン19で、新メンバーの黒人女性レジデントのグリフィスが前の病院で人種差別に対して上司に意見したことが原因で研修プログラムから追い出されたエピソードがあったのだけど、これはジェシカ・ノーデル『無意識のバイアスを克服する』の中で、医療現場における不透明な公平性に苦しむ非白人の医師らの現状と問題が詳しく紹介されていた。

非白人の医師が常にモデルマイノリティとしての振る舞いを求められ、僅かでも外れると職場で居場所を失い医学界から身を引かざるをえなくなる、その割合があまりに高いことに衝撃を受けた。

『Reservation Dogs』、もう2年近く待ってるのに日本では何故かいつまで経っても配信されない……!
毎月D+のスケジュール確認しては落胆してる😐

ハリー・ムリシュ『襲撃』(長山さき訳)読了。

解放間近の第二次世界大戦下のオランダ。
ナチス協力者の警視が殺害された報復で、全く無関係にもかかわらず家族を殺された少年アントンの半生を、その後けっして消えない複雑な葛藤の中で巡らせる善と悪についての思索を静かに見つめる傑作でした。

「襲撃」があった夜に、何が起きていたのか?
起こってしまったことは変えられない、事実は事実であり、自分はそれ以上のことを知りたくはないと考えるアントンが否応なしに過去を見つめざるをえない時、13歳の日に確かに交わした会話や体験への強い感情は記憶の底に沈みすでに遠く、掬い出したくとも伝えるすべがないことが哀しい。

デイジー・ジョンソン『九月と七月の姉妹』(市田泉訳)を読みました。

姉セプテンバーに支配される妹ジュライの視点で、10ヶ月違いの姉妹の歪な関係が紡がれてゆく。
もっとも身近な者から受ける支配が、被支配者の心身にどのような影響を及ぼし続けるのかが、もっとも惨い形で余す所なく描写されており、めちゃくちゃ辛い……。

高まり続ける不穏な切迫感と、心理描写が尋常ではない。
体調の悪い時に見る悪夢のように掴みどころがなくモヤがかかったようでいて、しかし迸る生命力に引き込まれる。

帯の裏側にある本文からの抜粋はこの物語の核心でもあるので、読む前に知らないほうがいいのでは……?と思った。
姉妹の歪さとこの本の雰囲気が瞬時に理解できるので魅力が伝わりやすいとは思うけれど、しかし2人の約束について事前知識を持って読んだのは少しもったいなかった気がします。

ヘレン・オイェイェミ『あなたのものじゃないものは、あなたのものじゃない』(上田麻由子訳)を読みました。

現実の無常さとともに摩訶不思議だったり幻想的な展開があり、どこまでも自由に飛んで広がってゆく物語に、頭がガチガチに固い私はビックリしながらも、人が持つ感情や関係性のあわいのダークさとユーモアが素晴らしく魅力的な短篇集でした。

数年前の『文藝』で「ケンブリッジ大学地味子団」だけは読んでいたのだけど、改めてこのお話やはり好きだなあ。

それとこの本全体で、意味付けなど何も無しに当たり前にクィアな登場人物たちがたっくさんいて、多彩に描かれているのもすごく良かった!

ジェシカ・ノーデル『無意識のバイアスを克服する』(高橋璃子訳)読了。

「自分には偏見など無い」と思っていても、人種や性別や年齢の違いに意図せず表れる「無意識のバイアス」について、様々な研究調査と、バイアスを軽減・変化させるための様々な取り組み実例が紹介される。とても面白かった。

バイアスを乗り越えようとする警察組織内での取り組みや、個人のバイアスに正面から立ち向かうのではなくデザインによって行動を変化させた、病院や教育現場での取り組み等が取り上げられる。
しかし効果が見られた取り組みでも予算削減でプログラムが続けられずに以前の水準に戻ってしまったり、デザインによって効果を上げても価値体系自体に変化が起こらなければ、現状維持の圧力には打ち勝てないことも示されている。

著者の、自身が受けてきたバイアスのことだけでなく、自分の中にもあったバイアスに気づいた際の衝撃、その恥の気持ちを見つめる経験についても真摯に語られていて、読み物としても素晴らしかった。

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