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『テクノ新世 技術は神を越えるか』(日本経済新聞社)

円城塔と津村記久子の短編を目的に。それぞれ、テクノロジーそのもの中心とテクノロジーに翻弄される人間中心と、好対照だった。両者とも持ち味が活かされていて読めて良かった。本編はノーコメント。

『サイバースペースの地政学』(小宮山功一朗・小泉悠)

素直に興味深かった。タイトルには『サイバースペースの』とあるが、それを支えるのはフィジカルなケーブルとそこに接続されたフィジカルなサーバーであるということに尽きる。フィジカルな存在である以上は、容易に破壊工作が行われうる……。そのリスクを推し量るチャレンジが本書の読みどころである。サイバーをフィジカルな視点から解説した本は(少なくとも私は知らないが)貴重に思われるし、なによりデータセンターや海底ケーブルやエストニアまで足を運んで実地で取材しているのが気に入った。力の入ったルポである。一つのベンチマークとなる一冊だろう。
amazon.co.jp/サイバースペースの地政学-ハヤカワ

『半導体最強台湾』(李世暉)

ダメ。台湾を中心とする地政学を扱うのだが、すべてフンワリとしたオピニオンで、極めつけは論点出しに「ChatGPTに訊いてみたところ~」とか出てきて投げた。お前が考えんかい。しっかりした著者に見えて期待していたので残念至極。

『TUGUMI』(吉本ばなな)

ドライでありながら瑞々しい。情景描写と直接的な内面の描写とのバランスに秀でているように感じられた。淡々と情景が描写されたかと思えば、それに対する反応として独白がある。独白はあくまで情景に対する反応の体裁を取っているが、明らかにそれより深い洞察から生じたものである。
筋書きとしては(2024年にエンタメ小説を書こうと手に取った不誠実な読者にとっては)シンプルでイベントの数も少ないのだが、その間を埋める情景や内面の描写がまったく埋め草になっておらず、むしろその描写こそがページをめくる手を止めさせない。次に彼女たちは何を「思う」(≠「する」)のだろうと想像させては、毎回それを上回る複雑な描写を見せてくれた。
吉本ばななの長編を読むのは初めてだったが、何作かさらに読んでみよう。
amazon.co.jp/TUGUMI-つぐみ-中公文庫-吉

『オフ・ブロードウェイ奮闘記』(中谷美紀)

1人3役が求められる演劇『猟銃』をブロードウェイで演じた中谷美紀の手記。1ヶ月に及ぶ公演はトライアスロンのようだ、というのが印象的で、ひとつひとつの舞台への集中以上に、全公演に耐えるだけのメディケーションが重要とのこと。その完走のために完璧なプロフェッショナルが役者のみならずスタッフにも求められる様子が淡々と描かれていた。
直接の参考にはなりそうにないが、プロフェッショナルの態度を垣間見ることができた。演出家の「演劇という黄金の牢屋」という台詞はなにかで使いたい。

『2040年 半導体の未来』(小柴満信)

読むに値しない。ラピダスの中の人が何に賭けているかをアツく語るが、まだ始まっていないプロジェクトなのですべてフワフワと雲を掴むような話。

『半導体逆転戦略 日本復活に必要な経営を問う』(長内厚)

読みましたといった感。最先端技術での多品種展開を目指すラピダスへの期待が過大に膨らんでいると冷静に指摘し、むしろ枯れた技術のJASMが生み出すスケールメリットにこそ日本の活路があると説く。ラピダスの多品種展開、つまりスケールメリットを追わないビジネススキームは日本の製造業の必敗パターンであると解説する。二社の対比が面白かったが、半導体の歴史については類書のおかげで頭に入っており目新しい気付きはなかった。日米貿易摩擦を研究した韓国が残存者利益で勝てたところはなるほどね感はあった。

『青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない』(鴨志田一)

イベントの繋げ方(Yes, but...式)が巧み。イベントのためのイベント感、言い換えると「ダンドリ感」が薄い。それぞれのイベントが読者の感情を動かすことに寄与しているからだろう。

『演劇入門』(平田オリザ)

再読に次ぐ再読。今回はやや俯瞰して読んでみた。
本書はあくまで「演劇」その中でも「一幕もの」のための一冊。つまり、一つの場所や登場人物で繰り広げられる物語のための手引きだ。それゆえに当たり前なのだが、エンタメ小説やマンガといった複数のシーンから成る物語の作り方を教えるものではない。それを断った上で、やはりエンタメ小説にも適用できるノウハウが詰まっている。
一幕ものは一つの空間や登場人物しか使えないために、観客への情報の出し方が著しく限られる。本書の読みどころは、その情報の出し方のノウハウであり、最重要なのは「セミパブリック」という概念だ。プライベート(内部)とパブリック(外部)の中間に位置する。例えば、葬儀所のような。個人と親しかった親族(内部)ー仕事の関係者(中間)ー出入り業者(外部)が出入りする空間だ。三者の間の情報の濃度の違いこそが、情報を観客に与えるためのきっかけとなる。

amazon.co.jp/演劇入門-講談社現代新書-平田オリ

『777』(伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎はエンタメを書かせたらきっちり及第点を出してくれる。プロのエンタメ作家。
こわい男から逃げようとする記憶力抜群の女を、不運な殺し屋がなんやかんやあって助けるハメになってしまう密室エンタメ。伊坂は殺しのアクションを描けば軽快で、殺しのハウツーにはロジックもあり、読者が忘れた頃に姿を現すお手本のようなミステリも仕掛けられる。
映画にすると二時間に収まるし、映像としても見どころがあるだろう、こういう真っ直ぐなエンタメを読むとひたすら勉強になる。
最も勉強になったのは舞台選び。密室になったのは二十階建ての高級ホテルなのだが、高級ホテルだけあって空間にバリエーションがある。密室モノでも手札をシンプルにする必要は全くなくて、物語の要求に応じて増やしていいんだ。そういう発見があった。
数多いる登場人物の使い方も卓越している。同じ目的を有する複数の人物は要素が共通する一つのチームにまとめてしまって、読者の認知の負荷を減らしている。で、ミステリのタネはその認知の隙間に差し込んでおく。異なるチームはしっかり毛色を変えておく。重要な登場人物は一気に出し切ってしまう。重要じゃなくなったらとっとと退場頂く。見事。
amazon.co.jp/777-トリプルセブン-伊坂-幸太

『生成AI 真の勝者』(島津翔)

2024年春前後の生成AIを巡る状況を概観するには楽な一冊かしら。どの企業が誰と組んでいてどこに投資していて……という相関図を頭に描くのに使うイメージ。ラピダス社長の小池淳義氏と『半導体戦争』のクリス・ミラー氏のインタビューは必読。
ところで、フェイスブックのメタ社が開発中の生成AIであるMTIAについて「同社は、MTIAをフェイスブックやインスタグラムなどの既存アプリのコンテンツ・広告表示に利用するほか……」との記述があって、地球の限りある資源が詐欺まがいの広告へと消えていく様子が目に浮かんだ。
amazon.co.jp/生成AI-真の勝者-島津-翔/dp

『Think Fast, Talk Smart』(マット・エイブラハムズ)

会話を有意義にするための一冊。コミュニケーションのためには相手を「聴く」ことが大事だと聞かされてきた。だが、「聴く」ことが何を意味するか語られることは少なかった。本書はその「聴く」に紙幅を割いたことが特徴だ。
「聴く」とは何か。一言で言えば、相手のニーズを汲み取ることだ。この会話に何を求めているのか、どんな会話がされたら嬉しいのか。それを相手の様子から探すことである。
ただ、注意しなければならないのは、会話とは正解を探すゲームではないということだ。ニーズと正解の違いは何か? 前者は相手を思いやった言い方であり、後者は自分の満足のためのものである。会話は「聴く」行為であり、相手のためのものであり、その結果として返礼を得られる。
本書はさらに踏み込み、互いの「聴く」を導く構成まで説く。六のシチュエーションが例示されていたが、一つだけ覚えておきたい。
「何」ー「それが何」ー「それで何」の構成。まずトピックを提示し、続いて説明し、最後にそのトピックによってどんな変化が得られるか、を示す型だ。

ほら、この感想もそうなっているでしょう?
amazon.co.jp/Think-Fast-Talk-S

『音と脳 あなたの身体・思考・感情を動かす聴覚』(ニーナ・クラウス)

正直、思ってたんと違ったかな。脳のはたらきそのものに割かれる紙幅が多く、期待していた思考・感情(というより、音によって形成される「社会」)は少なかった。複数の被験者の間でリズムを揃えると被験者の間に絆が生まれるという実験結果が一番記憶に残った。そういうのをもっと読みたかったが。

『会社四季報プロ500』
眺めましたといった感。四季報本体はスルーでこっちだけ読めばいいかな。

『勉強の哲学 来るべきバカのために』(千葉雅也)

頭の体操的な読書。『センスの哲学』で千葉雅也にハマったので。文庫書き下ろしの補章で提示された「制作の哲学」は『センスの~』へと繋がる思想を感じた。
内容自体に新しい発見はあまりなかったというか、お勉強できた頭でっかちクンであるところの私は割とこういうこと無意識でやってたな~と感じた。しかし、本書の意義はその無意識を丁寧に腑分けしたところだろう。自分がなにをしていたのかを言葉にしてくれると気持ちいい。ノリが合った。
amzn.to/3KYA191

『青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない』(鴨志田一)

読みました。中盤から終盤に向かうに従ってしっかりスパートを掛けて登場人物らの心理を盛り上げていく。記念写真のくだりは流石。うまくいった!→かと思いきや~の流れが絶妙。個人的にはもっと書き込みたくなったのだが、これくらいの密度でええんかなあ。ただ、土地を毎回紹介してるのは温度感を出すのに上手いな。やろうと思った。
amzn.to/3RA0ZYb

『青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない』(鴨志田一)

再読。似たジャンルの小説を書いてる最中に読むと「こういう書き方すればいいのね~」的な読み方になるが、それでも十分に楽しい読書。私は登場人物の外見をさりげなく書き込むのが苦手(二次創作では必要がなくて育っていないスキルだから)なのだが、さりげなくてもいいというか、ジャンルの約束に則るならむしろ堂々と書いた方がいいっぽい。というのが今回の学び。
amazon.co.jp/青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を

『音楽は踊りの原動力! バレエ音楽がわかる本』(音楽の友・編)

動きと音楽との関係の語彙を蒐集するために読んだ。
以下、適当にまとめる。
・指揮とは手で踊ること。踊りとは身体で指揮すること。
・踊りを続けている人は音感、音楽性を有する。自分で無伴奏で歌って自分でテンポを作る。カウント自体には、メロディも物語も色もない。
・台詞=物語を語るように音楽を踊る。
・躍動する音楽から「鼓動」を感じる。

『ダンスの言語 動きを読む・書く・表現する』(アン・ハッチソン・ゲスト、ティナ・カラン)

ダンスを記号で表現するというコンセプトのための教科書……なのだが、動きの語彙を蒐集するために読んだ。
以下、適当にまとめる。
静止:休止(静止)は緊張感を生み出すためのものである。静止は、急な動きに対して「枠」を与えることで印象深い者にする。
ダイナミクス:動きはアクセントを付けることによって、より興味深いものとなる。アクセントは急なものであり、エネルギーの炸裂である。エネルギーの急激な高まりとスピードの僅かな上昇は、瞬く間に消え去るが、簡単に生み出すことができる。
連続的な動きのフレージング:始点から終点に向かう連続的な移動にダイナミックな要素が加わった場合には、そのダイナミックな動きにキネティックな論理を生じさせることができる。
空中でのステップ:ダンス全体を非日常的なものへと表現する。ドラマチックさを表現する。重力に逆らい、地上の存在である肉体を上昇させることでエネルギーを燃焼できる。
方向性のある動作における解釈と表現:「上」は重力や運命に逆らう方向であり、自身や自己主張を表現する→大きなよろこび、希望、願いを表す。「下」は逆に、重力に身を任せる→服従、あきらめ、落胆、絶望。

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