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『コット、はじまりの夏』は原題どおりに本当に静かな女の子の話なんだけど、普通ならわかってくれる人に胸の中にあるものについて吐き出せてよかったね、となるところを最初から最後までずーっと「受け止めている」静かな子のままなのがすごくよいと思った。声どころか表情でも心の動きが伝わりづらいぶん、ほどけていくすべてが生活のアクションの中で示されていく。嘘のない身体の映画だ。

じっとしているようでこどもさんなので、自分だけを撫でてくれる手や役に立ってる実感が嬉しいし、走り出したら楽しい、のは伝わってくるんだよね。でもこどもさんなので(意外なほどよくわかっている一方で)誰もが気づきそうなことはわからない。通夜のあくび。ひとりでできるもん。

井戸から掬う水で木漏れ日を掬うようなショットだとか100回のブラッシングの窓辺とか、海の向こうの明かりとか、生活の風景の中の光がただただ美しい。

彼女は常に見ているし、聞いている、「本当のこと」を語ろうとしている。「本当のこと」をちゃんと受け止めるまでは言葉にしない。だからありがとうとかごめんなさいとかもそんなに言わない。「秘密」についてもしっかり距離を考えている。最後だって彼女は「本当のこと」しか言葉にしていない。でもそれが奇跡の瞬間になる。新鮮で、とても美しい作品だった。

『コット、はじまりの夏』見てこられました。夏休みの話なのに感覚が涼しい映画でとてもよかったのですが、映画館までの日差しがすごすぎて倒れそうに…

『13回の新月のある年に』見たよ。異様!鬼のようなフレーム内フレーム内フレーム!解体!2時間ひたすら投げつけられ続ける果てしなさを感じる長さの個別人物のモノローグ!突如始まるミュージカル!ワンショットでいけるとこまで!暗闇!語られることの歪さに対してすべてが真実でしかないという説得力!全部がとんでもない映画だということはわかる。好きかどうかと言われると、特に好きではない。けどこれだけ凄いとクラクラはする。

本当の惨めさを見せてあげる、みたいな映画なんだけど、絶望感以上にとんでもなさのほうに目がいくの仕方なくないか。いやそれでいて普遍的な生きるのがつらい話なんですけど。演出も台詞も構造もどこまでも精緻に目的を達成していて、冷静に全部異様なんですけど。怖いんですけど。みんながものすごい喋ってるんだけどほぼ「対話」が存在しなくて音声を聞き続けるだけになってることにあのフレーム地獄で息が詰まる…

噛み合わなかったら噛み合わない人としてしか生きられません、あなたは無です無、を体感させるような。熱心に好きな人がいるのもわかるが、しかし私は好きではない、かな…TVで流れるチリクーデターとか時代性も多分に影響してそうな。あとで調べてみよ

『銀座の猛者』も見たのだが、こんな姿三四郎が医者だったら×酔いどれ天使の真田先生がその先輩だったらの二次創作みたいなやつだったんかい(としか言いようがない)(どういう顔して見るのがいいんだか)。話はつまらないやつなのでどうということもないですが、1949年の映画として興味深くはあります。25の「オールドメス」ヒロインの扱いー!なんだけど親が「とはいえ好きな人と添わせてやりたい」の一心だったりするのは戦後の風もあるのであろうか。あろうな。

しかし市川崑の市川崑モードを感じられるのはやっぱ和田夏十ありきなんだよなーと(いや脚本入っててもつまんないときはつまんないけど)。形の人なので粋でタフな人がついてないと野暮な話も無理くり野暮じゃなくしようとする演出が入るからウーン?それ意味ある?むしろ野暮を丁寧にするほうが傷浅くない?となっちゃうんだ私は) ドイツ表現主義風の精神病院(でやるのはやっぱ柔道なんだけど…)のとことか浮きまくりで笑う。大真面目なんだけどね…暁の追跡とかもフィルムノワールごっこしてるだけではもってなかったもんな…

60分そこらの縮尺版でも、一生懸命軽やかに現代的にしようとした痕跡はあっても、なー。

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『盗まれた恋』を見てました。お金がなさすぎてお腹空いたあまりに結婚大作戦に打って出る踊り子が貧乏絵描きを巻き込んだら予想よりおおごとになってさあ大変!なお話。コメディ路線にも好きなほうの市川崑とピンとこない市川崑があるんだけど、これは前者で、すっとんきょうになりすぎてなくて割とよかった。演者が観客にアイラブユーを語りかけるオープニングからチャーミング。音声と画質は良くないが(特に音質はかなり聞き取りにくい)まあ雰囲気でわかるのでOKOK

前半のサッパリした豪快なスピードに比べて後半がドラマになってシリアスまではいかないけどモタモタしてしまうのがもったいない…その割に恋が生まれる描写はいまいち。これハリウッドロマコメでもときどき起きる現象なんだよなー。そこ飛ばさないでー!

私はこの種の話はおかしいだろというスピードで最後まで突き進んでナンボだと思っているので『穴』とか『足にさわった女』とかが好きなんですよね。ロマンティックにいくなら『恋人』くらいせつないのが好きだし。久慈あさみのチャキチャキしてるようで全然割り切れてなくてあっさり翻意する純情はとても似合いと思うので綺麗にまとまってはいたけど、近頃には与太者にも教養ってのが必要なんさ!カムイン!の姉御とかやたら楽しいとこをもっと見たかったわけよー。

割と好みがあってて倫理的にも言語感覚にも近しいとこは感じるアカウントなんだけど、向こうが決定的にあわないものが私は好きで、私が興味ないとこが向こうの呟きのいちばんのボリュームゾーンだから…みたいに思ってて、たぶん相互認識はしていて、お互いフォローしあわない関係性を保ってはや10年くらいは経ってる…みたいなのが割と嫌いじゃない

盛り上がってたの去年だっけかと検索したらさらに1年前のことで、時間の流れが年々早くなってるのを実感する中年

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フジロックの配信見てロックバンドっていいもんだなあとしみじみしたのち、なぜかBloodywoodを聴いて元気になっていたyoutube.com/watch?v=a65A626Ed2
これめちゃくちゃ好きなんよ

今日はホールドオーバーズ見てきたのです。すごく良くできてる。アレクサンダー・ペインは間違いなくうまい人だし「今」らしくもなっている(リアルに70年の映画だと絶対に存在してしまう種類の小骨を抜きまくっていながらも再現度の高さではかなりのもので、画面のざらつかせ方とか音使い以上にオープニングとエンディングの「つくり」と撮影におけるズームアウトのそれっぽさにうなった。あんなズームアウト久々に見たわ…)しかも嫌われ者の先生にポール・ジアマッティを置いてある時点で盤石ー!って感じだ。クリスマスストーリーで、先生と生徒と給食のおばちゃんによるブレックファストクラブでもある。名シーンには事欠かないし、台詞もよく練られている。

でもな、なんか私はこの映画にも密輸と同様の距離感があった。何なんだろう。感覚が鈍ってるのかな…

『密輸 1970』概ね楽しめたんだけど、私この監督の映画ってどうも「それ以上」にならないんだよな……そんな複雑にせんでも…100分で撮れる話に絞ってから120分にしようやーって思いがちで(全部見てるわけではないのだが)。筋を無駄にややこしくしなくても「勝つこと」が最初からわかってる話なんだから!という意味で今のところ『ベテラン』が「んな無茶な」の割り切り方が上手でいちばん好きなのは変わらず。筋を「実はこうでした」を繰り返してごちゃつかせるよりもひっくり返しを最終戦一発に絞って、主役たち以外を含めての事情のある女たちのキャラクター映画にしてあったほうが正直好みだったかな(ヨム・ジョンアつながりでいうと『明日へ』は本当にここがうまかった)。

とはいえこのびっくりするほど元気さと(私にはちょっと過剰に思えるけど)「楽しませます!」精神は嬉しいもので、あんな間髪入れないビンタ応酬とか久々に見られたし、韓国アクション映画おなじみ手近なものでドーン!が海中にも出てくるのに笑ったし、とにかくギターのチャカポコチャカポコが素晴らしく、あれが鳴るだけで話が暗くならないんだよな。そしてみんな声が大きい。

あとチュンジャという名前。74年に30代(だよね?)だと「子」がつけられてた時代に生まれた人たちの話になるんだよなー

シュミカゴ最高なので(ひどいドレミの歌レベルの最高パスティーシュソングがいっぱいでてきます!)完走楽しみにしてますー!

秋津温泉を見たのです。メロドラマ、なのかなー。男女の腐れ縁という感じはあまり受けなくて、死にかけの魂が入れ替わっていってしまう戦後の呪いの話なのかなーとか。恋愛なのかな…ってとこがあんまりピンとこなかったけど、恋愛映画だと思わなければ気に入らないところもない、という印象。「土地の人」ではない人たちの話、なんだよな…

闊達な娘さんらしく雪道を足袋で走ってくのとか、川辺で下駄を脱いでひょいひょい歩いてくのとか、その身体運動と横たわり静止する身体にそのあと必ず映り込むようになる煙草の煙、茉莉子さまは当然お美しいわけですが、衣装も手がけてらしたのか。徐々に「赤」が消えていくのがよかったですね、そのうえでのあの終盤の赤く染まるもの。赤い椿のような、紅色の大輪の牡丹のような、まばゆいばかりの娘さんがなんでこんな男に…という視点で見たらそれはそう。なんだが「あのとき」を一瞬でも経験してしまったらそうなるよねとも思う。生かしてしまったのが運の尽きなんだよなあ、愛は呪い、呪いは愛…

序盤の汽車のとこがすごいよかった。みんなが飛び降りる中ひとり空を見ている、あのどうなってもよさと甘美でさえある死の気配。あれは文学の映像。と比較すると鏡や格子の多用はやや意味が目立つか。全体にロングの画がよかった。

『ハハハ』を見たのですが(ホン・サンス2本め)くだらないともちがうな、どうでもよすぎて、かなりおかしかった。まだ飲むんかい!がひたすら続く2時間、男女6人恋物語withユン・ヨジョン先生!「男ふたりが飲んで喋ってる」形式を使ってこういう結構生々しくキモい夏の恋バナ(基本的に恋はキモいものだと思うので…)が「そういうことがあってもおかしくなさ」として立ち上がってくるのすごいね。観客だけが知っている、をフックにして引っ張ってないとマジでどうでもいい話になるところ、この形式をとることで「まあそんなもんさな」な着地にしてるのがお見事だと思いました。喋ってる人間は知るよしもないこと、という「外側」が映っているのが面白い。話している内容と一致しているわけではない、謎視点。

長回しが目的というよりただひたすらグダった人たちの「感じ」の醸成に貢献している感じなのおかしい。シグニチャの謎ズーム(なんだこれってとこで変なズームがくるの、あれは話を聞く時の身を乗り出す感覚だろうか)がマジで謎なのもおかしい。なるほど確かに「街の上で」だし、スワンバーグ。だらしない男たち(まともに働いている様子がなく、女の人にイイナア…とフラフラしまくっている)の話ではあるんだけど、女もたいがい変なので、これくらいみんなが妙ならOKOK

同居人氏の感染時は切り抜けたので気を抜いてたらついにコロナにやられてしまいましたよ?頭いてぇ

『人間の境界』もすごかったし、ポーランド映画気になってきたわよ

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『フィリップ』なかなかよかった。意外な展開で推進するのでなく、そもそも話の枠が一筋縄じゃいかないやつというか。
予告を見てなかったんだけどこれは事前になにも知らず見て正解だったかも。想像していたどぎつくてひねくれた感じ(チラシだとそう思うじゃないですか)の映画とだいぶ違ってすごいまっとうな反ファシズム映画だと思う。確かに奇妙な味付けもあるんだけど。いやこの映画にこんな冷え冷えしたデジタルなスコアがついてるとは思わなかったよ!音楽すごくよいです youtube.com/watch?v=4KJg8vV0NF

出自を隠してホテルでフランス人として働きながら復讐としてドイツの女たちを籠絡するフィリップ、という構造を作ることで国家主義とセクシズム/ミソジニーの切り離せなさを浮かび上がらせているのだがここはかなりトリッキー。その行動に嫌悪感を持たずにいることは難しいのでこの状況でロマンスを成立させちゃうの?というスリルのあたりはウーン?と思ってしまう。が、そこからの。

こどもたちの描写とか若者たちの地下ジャズパーティのとことか空襲シーンであまり見たことのない描写があったのとか(画面の向こうからただグワーッと煙が押し寄せる、あれ何かしら元ネタがあるんだろうか)色々良いシーンあったけどラストシークエンスがまあ見事だったわね。

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癖の強い風貌のハロルドさんの息子役の人、どっかで見た顔だよなあ…と思ったらクレジットであー!アール・ケイヴか!ってなった(それくらいは思い出そうね私…)

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今日は『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』と『フィリップ』を見てきました。

『ハロルド~』のほうはみんなに応援されながら長距離を歩くおじいちゃんということで『君を想ってバスに乗る』みたいな話かな?と思ってたら全然角度が違っていた。我々は過去からも現在からも予定された未来からも逃れられない、みたいな話で結構シビア。You will not die, You will not die.の歩みの言葉が消えていく。大事なのはそこではなくて。

「本能的なことって案外難しいものよね」とか台詞がいい感じ(原作者レイチェル・ジョイスの脚本)。光が綺麗な撮影は大好評だった『コット、はじまりの夏』のケイト・マッカラ。ノーマル・ピープルでへティ・マクドナルド監督と組んでたのね。

勢いで家を出て歩き出したら独りになる、考える、外の景色が見える、なにを見ても何かを思い出す、否応なく過去の傷と向き合うことになる、というのが思いの外厳しく描かれている。

こういう話には珍しくお金の話が結構ある(「予算内でやってるし」)。

とはいえ英国人情ものの伝統(だと思う)困ってる人には四の五の言わせず親切にすればいい感を外さないのが嬉しい。「人間は基本的には親切なものよ」

女の人が多少は自分を人間だと認識できるとこからまだ100年も過ぎてないわけで、こっからですよこっから。そりゃまあ日常的にはまだまだうんざりすることもたくさんあるけど、こういう映画がイタリアから出てくるわけで、めげずにいきたいものだ。しかしパオラさんの出てる映画はどれ見ても「イタリア、日本か…?」となるとこがあるな…どんなイタリア映画でもこの感じは味わったことがない

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