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『ワーキング・ガール』観た

仕事と人生を頑張りたいのに、社会からは女だからと、女上司からは秘書だからと侮られ、頭にきたので勝負に出てやる…ってのは良いけど、組織に属していて取引相手もいる中での偽装と出たとこ勝負は、発覚した時のダメージを想像してしまい見ているのが無理…ストレス…他の話が楽しくても気になって駄目だ…!主人公、胃が痛くなるとか言ったけど、全然そんな風じゃないだろが、肝が据わりすぎだよ!

運と”実力"で乗り切るのが良かったね。「仕事」コメディで期待するところが見れて良かった。真面目に仕事熱心なのも描かれているし。あと、主人公がよく気が回るのを描いた上で、自分と同じ立場の者を慮れる場面があるのが素晴らしかった。一番好きな場面だ。

爆発したんかというくらいの髪型とメイク、肩パットがすごいのがとてつもなく80年代!という感じ。でもこんな感じで労働してたのなら、とても自由だなとも思う。それでも通勤風景は労働者で、ちょっと感慨深い。
ハリソン・フォードがオフィス(あのガラス張りの)で着替えて裸体が見えると女性陣の歓声が上がるってのも時代を感じる。そんな訳あるかい。ファンタジーだよねー

『テノール! 人生はハーモニー』観た

下町育ちのラッパーが偶然オペラに出会い、才能を見いだされ、オペラに惹かれ、歌手の道を駆け上がる。畑違い、社会階層の違いを乗り越える王道展開で安心の楽しさ。

この手の作品って主人公が挫折を乗り越える時に、階層の差を越えた共感とか、家族やメンターの助力など「孤独ではない」ことが取り上げられるのが多いかと思うけれど、この作品は自分の居場所がないと思う主人公に「自分で立て、その場所が居場所だ」と強気回答をするのがちょっと独特で面白かった。「自分の好きを信じて進むこと」に焦点がある作品なんだよね。下町の文化・生き方よりいわゆるハイソな文化に惹かれる、アイデンティティの葛藤。そのドラマが、悪く言えば浅い、良く言えば湿っぽくなく描かれた感じ。

でも、階層差を感じる描写が色々あり面白かった。嫌な男がいい奴で、優しい彼女が自己中パリピな意外性も楽しい。

オペラの歌唱に触れて感動する様子、先生が彼の表情を確かめる様子がしっかり表現されるのがとても良かった。先生の踏み込みすぎない距離感も心地よい。フランスっぽいなー。

お決まりの主人公の隠れた才能が発見される場面、あれが特に鮮やかでねー。観ていてしっかり「おお!」と感じる。冴えた出来だと思った。面白かった。

『ベネデッタ』観た

17世紀ペストの時代、信仰心というか"神がいる状態"を信じるというか、とにかく信じぬく人間の圧倒的強さを見よ!という感じで、ベネデッタのブレない自信と信心で権威を掴みのし上がっていく様に、周囲も観客も震える作品だった。己を生きる事にこうも真っ直ぐだと、そうか行くところまで行ってしまえ!と応援するような、楽しくなってしまうね。

彼女の奇跡は本物か自作自演か?と疑いながら観るわけですが、個人的には途中からキリストの幻視が無くなった辺りから距離が出てきて自作だろうと解釈したけれど(幻視している事すら疑いの余地ある)、ベネデッタの揺ぎなさ、欲すらも信心で包み込んでしまう力強さに、どちらでもいいや…!という気分になるので面白い(そういう作りになってたと思う)。
幻視のキリストがとても俗っぽくて。彼女の願望だよなあ。

教会のビジネス側面、信心なぞない修道院長をシャーロット・ランプリング様が締まった表情で魅せる。一瞥の冷ややかなこと。醒めながら最後にベネデッタの枠に押し込まれていくのが、いやー面白い。
女性の全裸がばばーんと堂々と登場するのも清々しくて良いね。

『レンフィールド』観た

ドラキュラってパワハラ・モラハラじゃね?と気づいた下僕が共依存から自由になるため闘う!その過程で人体も派手に粉砕!血飛沫とびちる!という感じのポップさと真面目さが良い塩梅の映画でした。

共依存からの脱却過程が結構しっかりしていて。自助グループに参加する。共依存関係と自己尊重の気づきからセルフケアへとか。甘言と脅しを使い、恐怖・恥・罪悪感を植え付けるドラキュラのモラハラバリエーションも豊か。

共依存関係の見せ方がやや物足りず、ホルト君の気の毒演技力でカバーしてる感じが惜しいかな…。下僕の能力ももう少し見れると楽しかったな。

・ホルト君の、屈しない警官かっこいい…ほわぁ…なってるのがいい。キュートだね。気の毒青年役が合うよねー
・ニコラス・ケイジの「自分は全能なる存在だ」の台詞中に「ウーッ」って地味に興奮する演技、いい。楽しい。ああいうケレン味本当に上手。もっとやって。
・マフィアの坊のチャラいチンピラ具合がいい。マーク・ゲイティスさんに似てる。
・マフィアの母ちゃんがハスキーで強そうなのがいい。
・冒頭の古い怪奇映画演出の質がいいし、エンドクレジットもこだわり。
・勢いよく人体破壊されていくアクションが軽快でいいね。人体爆発!
・腕ヌンチャクは笑う

『ナポレオン 最後の専制君主、最初の近代政治家』読了

12月の映画に向けて予習で読んだ。ナポレオンを含めてあの時代の欧州の歴史が本当によくわかっていないので…
研究者による研究書よりの伝記という感じでしょうか。各論ではなく、ナポレオンの生涯の一連の流れに沿って書かれているので、全然詳しくない自分にとっては予習に選んで正解だった。王政を革命で倒したはずなのに、帝政になるってどうしてよ?程度のざっくりした疑問(なんかこの辺りの所からわかってないんだよね…)に、おおよその回答をしながら進めてくれる感じが良い。
まさに時代の狭間に生きた人物の複雑さ、挫折した貴族青年から最高権力者、古さ(例えば身分への保守性)と新しさ(私有財産制の獲得・堅持)の二面性が特徴的だという論で、面白かった。

『ベティ・サイズモア』観た

夫の殺害目撃という強ストレスのために妄想の世界に逃避し旅に出た女、その女を妄想しつつ追う殺し屋のロードムービー?な人間ドラマ。ほんわかゆるコメディな空気を切り裂くように勢いのあるバイオレンスに絶句…!この独特の雰囲気がすごい。面白い。

妄想・虚構に逃げる姿がスリリングで痛々しい、のではあるが、妄想・虚構を愛し行動したのは立派な力でもあるからと肯定する素敵さがある。救って救われるのがモーガン・フリーマンだから故の説得力でねじ伏せる感はあったけど。
道中のバーの女性店員が一度きりのローマの旅を語るのがとてもとても良かった。共感とその後のかばいも最高。だから最後にベティが旅に出ているのが嬉しい。逃避の最中でも、人生での変化繋がっているのがね。

ドラマの俳優達との絡みは、病的な妄想だといつ判明するかハラハラして嫌な感じだったな。空気がおかしくなる予感というか。ねぇ…

お!アーロン・エッカートだ~と思ったら最低のどクズだしいきなりエグい暴力に遭うしで困惑w オセージ族の話が出てきて、花殺し月の殺人を観たところで予想外にタイムリー…と思ったらこれだよ。一応差別批判の文脈だったな。
ゆるゆるファニーなのにスリリングでどう纏めるか予想がつかず、不思議に面白かった。

『PIG ピッグ』観た

たしか宣伝では「俺の豚を返せ」「リベンジスリラー」とうたっていたはずだが、実際は愛するものに素直すぎる男の静かな悲哀のドラマじゃないですか。すごい好きだった。
終始ニコラス・ケイジが内に感情を抱えたまま表情硬くうろつくのが流石の演技力。そのロブの過去の事情がじわりと明かされるにつれ、愛する者・ものへのひたむきさとその結果の悲しみが見えてきてね。純粋さがすごいんだ…出会う人々がその姿勢に圧倒されていくので、まるで徘徊する薄汚い伝説の聖人の様で。説明しすぎない想像する余白があるのが、余計に謎めいた感じにもさせるんだよね。いやー悲哀だよ。
で、成り行きでロブの相棒になる軟弱青年アミールを演じるアレックス・ウルフ君が!とても良い!すごい好き。ロブを知るたびに呆然とする感じ、場の圧力や年長者に負けてしまう感じ、心の弱さと優しさが同居してる感じ、本当に良いなー。感化されて自ら料理に向かう、あの場面尊いよね…。
予想外に好きな作品で当たりだった。ほくほく。

『スーパー30』
あと、
・アーナンド先生の弟もものすごい立派だよな、めっちゃ兄ちゃんを助けるじゃん…理解ある親族ってすごい大事…。きちんと顔の傾向が兄ちゃんと似てる俳優さんいいね。

・これあの『バン!バン!』のリティク・ローシャン???ギラギラオーラが無い!リティクさん凄かったんだな。でもあの個性的な瞳の輝きは何をしていても魅力的過ぎる…やばい…。そして金が入って装備品が増えた途端あのギラつきが蘇ってくるのはやはりスター…!

・命を狙われたのも実話しかも最近まで何度も、というので、インド映画お馴染み(偏見)のギャングの襲撃って現実を反映しているんだなぁという認識がさらに深まった。

『スーパー30 アーナンド先生の教室』観た 感想続き

知は力なり、教育を受けることに身分・経済の障壁があるべきではないのはその通りだが現実は…というのは描かれていて、アーナンドは進学資格があるのにまさに金が無い事で断念したし、私塾の運営も金が足枷になっている。知を金に換えられることが実際必要なのも無視できない事で。
その点では、アーナンドを予備校教師にした人物は力を貸したとも言えると思えて、辞めるにしても一言説明するくらいの義理はあるんじゃね?とハラハラしたよアーナンド…。まあそんなの必要無いような相手側だったのだが。でも相手もジレンマあったよね…少し気の毒。

で、色々書いたが、この映画で一番心に刺さったのは、入塾しようとする子達の家庭の事情を描く場面の母と娘。「いいからあんたは行きな!」ってしている場面。あれはねー…一瞬で貧困で女で母で娘である哀しみ苦しみ諦めを感じ取ってしまって胸が潰れそうだった。エンタメなので身分・階層などには踏み込んでいないけれど、色々察することのできる描写はあって、良い作品だったと思う。

『スーパー30 アーナンド先生の教室』観た

「家の子供を教育すれば、家、家族、親、次の世代全ての人生が変わる」が至言。貧困階層の教育の為にまさに命を懸けて私塾を立ち上げた先生と生徒の実話。好きな話に決まってる、のは置いておいても社会派な内容をほど良いエンタメにした作品で面白かった。
主人公アーナンドがいかに信念を曲げずにいたかに焦点が当たっていて、挫折しそうな局面で常に父親の薫陶や自身の経験に奮い立たせられるのが良かった。それらの場面の演出も、リティクさんの演技もしみじみとした様子で好きだ。
その分、具体的な指導内容はエンタメ要素で見せる感じではあったかな。でも精神面の指導はやはり素晴らしくて。貧困階層という気後れが能力を発揮することを妨げる、その心に勇気を持てと言い支える大人がいる事、それが如何に大切か。しみじみ感じるよ。それを経ての突然のホーム・アローン感はとても楽しかった。知識ってのは使えると面白いよねー。知は全てを打倒する!的歌唱も荘厳で闘志が湧きたって良かった。笑
そして世界最難関の一つインド工科大学への受験結果が事実だって言うんだからすごい…。能力を支える精神を持たせてあげる事、本当に大切な教育の本質の一つだよね。よい作品だった。

『木曜殺人クラブ』読了

事件ってわくわくするよね、もちろん悲しく酷いことではあるけれど。趣味は未解決事件の検討、そんな高級高齢者施設に住む老人4人の身近で殺人事件が起きたんだから捜査に乗り出すしかない。
経験と自由な心と老人力を駆使してやりたい放題。でも、人生の黄昏時を生きる切なさも身に染みている。ユーモアとペーソスがいい塩梅で、イギリスらしさを感じる。
クラブの新メンバー(老人達の集まりの新メンバーというところで既に一つのドラマを感じるよね)ジョイスの語りと、その他の視点を行ったり来たりするので忙しいが、ドラマや映画の気分でとても面白く読めた。推理ものというより人々のドラマの重みに迫る事件もの。人物描写が巧みで、クラブのメンバーも個性的。警察コンビもいい感じ。それぞれが「この人たちといると楽しいな、好きだな」と思う場面があり、とても素敵だなと思う。
次回もこのメンバーと警察コンビに会いたい。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』感想続き 

原作のクロニクル3の内容、ヘイル達一部が邪悪なのではなく社会自体がそうだったこと、未解決のまま放置された事件が山ほどありオセージ族の苦しみも共に無いものとされたという指摘、映画では前半の方にそれを示す映像が入れられており、なるほど上手いな…と思いつつも、そこはやはり原作の肝だと思うので、映画でももう少しはっきり表現されても良かったかも…と思う。
206分には感じない濃厚な映画だった。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』観た 

原作を読んで臨んだので、話の内容を知った上での感想。

原作で、ヘイルやアーネスト、そして犯人達はどういう感覚なのか…とまず感じたが、映画はまさにそこに焦点を当てた内容だったので満足感がある。ヘイルの息をするように自然な正当化と二面性、アーネストの考えが浅いくせに欲だけはしっかり追う姿勢、それらがデ・ニーロとディカプリオによってこれでもかと表現されていた。己の邪悪さを受け止めない姿勢。
そしてこれは「未開な先住民より俺らの方が金を有意義に使える」という感覚からも来ている。ここで扱う犯罪はまさに先住民に対する後見制度を悪用したものだし、制度の考えそのものが搾取的なのだよね。原作の方が濃厚に描いているが、映画でもヘイルを筆頭に関係者の行動で見せていたのが良かった。
そういう社会であること、舞台の町の先住民と白人が混ざり生活している様、金に人が群がる町の猥雑さを映画的に見せているものも流石だなと思った。
映画のラストがとても皮肉的に締めているのが上手くて。ここは捜査局(というかフーヴァー)の思惑と白人社会の受け止めを表現し、我々の酷薄さまで指摘するようで。

『ウエスト・サイド物語』観た

ストーリーは知っていたけれど、想像以上に沈鬱な空気の中に現れるTHE END、とんでもない感情にさせられて終わるの…すごいな。
ミュージカルは嫌いではないのだが、怒り屈折した不良少年達が集団でキレキレに踊るか?という雑念が入ってどうもいけない。歌うのは気にならないのに。
対立や喧嘩を、張り詰めた空気と衝動・躍動を踊りで表現する、その踊り自体は見ていて楽しい。構図、見せ方、色彩等がしっかりキマっているのも楽しい。

あと恋愛の話自体にそれほど興味がないので、マリアとトニーの場面などはずっと、へーそうなんだーという距離感で見ているのもいけないですね。あ、でも恋に落ちる瞬間の二人だけの世界、愛の誓いの場面の演出はとても面白かった。それこそ舞台演出のような人力の加工が面白い。前半の演出は見栄えがして面白く、後半それが落ち着いたのが残念だが、話のテンション的に仕方ないか。

音楽はバーンスタイン。どれも素敵なのだが、踊りと内容的に「アメリカ」が一番好きだな。移民のないまぜな気持ち。
あとはもう、ドクの思いとマリアの叫びに尽きるよね。愚か。みんな愚か。疎外感を抱く事情があったとしても。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』読了

マーティン・スコセッシの映画公開の前に、めずらしく原作を読んでみようかと思い読んだ。

おそらく映画は本の内容の一部にフォーカスするのだろうと思う。公開前なので内容にはあまり触れないが、強烈な内容の事件だった。連続死のあらまし、捜査と司法の錯綜状態、著者の調査という三部構成。連続死は横溝正史の世界を荒涼とさせより深めた印象。あまりに難航する捜査と司法のスリリングさ。早いうちから、白人のネイティブ・アメリカンに対するレイシズム、「俺たちが手にするはずだったものをなんとしても手に入れよう」という意識が流れているのが分かるが、三部に至って当時の白人社会にいかに徹底的なレイシズムが蔓延していたかがわかる。おぞましい、虫唾が走るっていうのはこういう時に使う言葉だなと思う。人間はどこまでも卑しく残酷になれるんだなと。

ノンフィクションであるが、サスペンスとしても大変興味深く読めてページをめくる手が止まらないし、映画を観る前の当時の社会情勢・意識を知れて、読んで良かった。当時の写真が挿入されてるのが、また想像を掻き立てるんだよね…

『イコライザー THE FINAL』観た

さよなら、どうか安らかに過ごしてねマッコールさん、と自然に思う、予想していたよりもずっと静的で余計なものがそぎ落とされた最終章だった。
確かに、マッコールさんのイコりぶり(アクション)はかなり抑えられ、最終決戦はもう少し盛り上がりがあっても良いかなと思うものの、殺戮は以前にも増して猟奇的でホラーの様相すらある。これ、前作2での出来事と年齢を重ねてマッコールさんが先鋭的になったんだろうな…と納得できたんだよね。冒頭の襲撃でサラッと引き金を引いた所でもう、2の後のマッコールさんの苦悩が感じられて。描写で語るのが心にしみた。

シリーズ通じて、マッコールさんの市井での生活が好きなので、今回シチリアでそれを取り戻す様子が喜ばしかった。いたるところに信仰が見える街で、これまでを苦悩するのと同時に独善も発露するの、さすがその目に留まったら見過ごせない善の殺人鬼、期待を裏切らなくて素晴らしい。

最終決戦、人々の信仰の裏での殺戮がめっちゃゴッドファーザーだなぁと思ったし、マフィアがスパゲッティ食べてたりして、やはりシチリアが舞台だから意識したのかなと、面白かった。ダコタんを見れたのも嬉しい。そういう関係…!ちょっと感動した。

『僕を育ててくれたテンダーバー』観た

こんな伯父さん欲しすぎる!ベンアフがいい感じに力の抜けた演技で魅せる大人の男のかっこよさ!父親の不在、素晴らしいとは言えない生活環境でも、伯父や周囲の大人のそれぞれの愛を背に受け大人へ踏み出した青年の自伝的成長譚。アメリカンなノスタルジーも漂い、とっても心地がよかった。とても好きだ。

伯父さんが本当に良い。良すぎ。父親にはならない、でも道を踏み外さないように目を離さずに男の、大人の生き方へ導いてくれる、ほどほどに甘やかしてもくれる。子供にとって最高の距離にいてくれる大人。こんな大人になりたすぎる。
大学には行けず、独身、実家住み、仕事はバー経営と一見うろんな気配があるが、読書家で知性的で真面目さと愛情と穏やかな根性があって、自分で語る男の生き方を実践し続けているようだ。で、見た目はベンアフ。良すぎ。
バーの常連の子供を見守る距離感も素敵だし、大学の友人もユーモアと真摯さがあって良いのだ。
それでも実の父親の不在は巨大だし、母親との関係はどうしても重たくなるのだな(それでも二銃士の話は素敵だ)
ひとつひとつが積み重なり、経験に変え、主人公が自分の決心で自立へ踏み出す納得感が清々しい。ラストのはなむけが最高にいかしてる。
Amazon prime

『PIGGY ピギー』観た イケてない日常を過ごす私が事件に巻き込まれて…!勇気とロマンスの少女漫画、ただし血みどろハードボイルド。 

体形と酷いいじめと母親の抑圧によって内向的で自己肯定感がずたずたになったんだろうな…と手に取るようにわかるサラ。まず彼女はそれはもう大きな大きな不安と恐怖を抱えていて。それが大前提にある中で、事件をきっかけに罪悪感や復讐心、保身、友情、性欲、家族とのもやもや、が混ざり合って葛藤の嵐。誰でも持つ「いい感じの思春期を送りたい…」という欲望、それに伴う行動が正面から描かれていて良いなぁ。

行動をなじられて「間違えるかもしれないから…」と告白したサラに、これまでずっと自分の行動と本心の齟齬に後悔し続けていたんだな…と切なくなってしまった。その気持ちわかるよ。

殺人鬼がサラに都合がいい奴すぎて最初は驚いたが(家から連れ出してくれまでする!)、あれこそ少女漫画にあるような、乙女たちの夢。酷い現状から解放してくれる夢なんだよな。ちょっとわかる。ただし変質者(下着あさってた…おおう…)。

全てに対する怒りが唸り声となって、なけなしの良心を振り絞る。己との闘いだ。スリラーの顔をした少女の情念を解放する、思春期版正しくない女の映画でとても面白かった。

『鞠子はすてきな役立たず』山崎ナオコーラ 読了

働き稼いで自立してこそ大人と教え込まれた小太郎と、必要であれば働くが趣味に生きて自己満足を大事にしたい鞠子が結婚し、生活の変化とともに小太郎の意識も…と、仕事と趣味とお金、自己満足と社会参加を考える話で面白かった。
鞠子により披露される趣味事に対する考え方が素敵。
鞠子も小太郎も結構極端な考えを持っている(小説の人物だからね)けれど、なんとも穏やかのんびり夫婦なのが心地よい。
鞠子の、趣味は好きで楽しいもの、実益を意識するのは邪道という考えは良いな。形から入って好きになるのも素敵だ。共感だ。どんどん趣味を広げていく意欲に、読んでいて笑みが浮かぶ。自己満足は良い言葉だ。その役立たない趣味でも「きっかけ」になることに辿り着くのが良かった。とてもわかる。
仕事と趣味、自立と他立の対立のなかでないがしろにされているものに目を向ける。のはわかるが、それでも小太郎が感じるように、働き稼がない事の罪悪感も理解するし、現実的にはお金と時間の余裕・不安がない事の影響が大きすぎて…という気持ちが湧いてくる。仕事まわりの話の展開も、そんなにうまくいくか?と気にはなる。
それらの引っかかりを越えて、自己満足を大切にする意識には圧倒的に同意したい作品だった。

『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』観た

面白かった!快作!
ヒーローものが一周回って戻ってきた感じだ。ティーンらしい承認欲求から素朴な善性へと進む感じが眩しい。ヴィランズやスプリンター先生の描き方に、疎外された者たち、素朴な私たちの想いも載せてる。連携プレーが熱くて泣きそうになった。
その部分に関わる人々を始めとして、NYの下町文化感がすごい。詳しくないけれど、音楽やデザインの細部も本気でそれっぽいはず。遠くから想像してきたNYがあった。
アニメーション、スパイダーバースとはまた少し変化して、整っていない手書きストリートアート感がすごい。ライティング?と所々ネオンカラーも入る色合いがとても見やすくて好きだな。

タートルズ達が何やってもかわいいなー!ティーン感が楽しくて、わちゃわちゃ仲良しで、いいよね!ひとりひとり本当に好き。バイブス、バイブス大事!
好きだけど詳しくないので、スプリンター先生があんなにパパ感があったか?と動揺した。ヴィランとの対比からの決意がとても真摯で良い。
コメディ感のバイブスもよくて、大変楽しかった!

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