村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は先が読めない物語ばかりの短篇集だった。
魔法のコンパクトで変身して理不尽を乗り切る会社員の日常を描いた表題作ほか、初恋の人を監禁する話、性別禁止の学校の話、流行によって変容する人々の話、合計四篇が収録されている。
最も好みなのは表題作だった。
自分は魔法少女であるという設定を小学生の時から27年続けている主人公が、意外に現実的で冷静であるところはなんだか好感が持ててしまい、大人になったからといって別に心の中の純粋な部分を葬り去る必要はないと思った。
誰にも迷惑をかけずに日常を楽しくする妄想ならば問題などないのである。
何も分からなくて最高だったのはラストの『変容』という話。
流行や時代の空気は目まぐるしく変わっていくものだけれど、もし自分がそこについて行けなくなったら……と考える瞬間はある。柔軟になれたらもっと楽に生きられる場面というのは多々あるし、新しいものを受け入れられなくなるのは怖い。
『変容』はそんなことを考えさせられる物語で、人格とは何か、個性とは何か、確かなことが分からなくなる。
常識が崩されて拠り所がなくなるような感覚になるので、読後はむしろ解放感がある。
#名刺代わりの小説10選
門/夏目漱石
沈黙/遠藤周作
夏物語/川上未映子
ラピスラズリ/山尾悠子
鏡の国のアリス/ルイス・キャロル
アサイラム・ピース/アンナ・カヴァン
大きな鳥にさらわれないよう/川上弘美
カラマーゾフの兄弟/ドストエフスキー
レ・ミゼラブル/ヴィクトル・ユーゴー
掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン
#読書 #マストドン読書部
山白朝子 著『死者のための音楽』は、怪談専門誌に掲載された作品を集めた第一短篇集とのこと。
「山白朝子」とは乙一氏の別名義なので、最初の作品でこの完成度の高さも納得。
怪談と言っても怖さはなく、グロはあるがどちらかといえば不思議な、懐かしい日本の昔話のような空気が漂っている。
登場するのは人間だけではなく、幽霊や人喰い鬼、正体不明の大きな鳥なども物語に重要な役割を果たす。
直接的に神は出てこないものの、きっといるだろうなと何度か思った。
死者と生者や、あの世とこの世の境界を混ぜ合わせて、白黒つけないまま置いておくような話が多かった。それは遺された者が慰められるような、優しさのある話なのかもしれない。
そういう点ではこの世界に広がりが感じられて良かった。私たちが知らない存在や、狭間のような場所がどこかにあるかもしれないと想像するのは楽しい。
私は七篇のうち五篇が好みで、もうほとんど全部好みだった。
読んでいてどれも途中で悲しい予感がしてくるのが特徴で、その期待を裏切らず最後にしっかり切ない気持ちにさせてくる。余韻で胸が潰れそう。
この切なさは主に登場人物たちの愛情によるものだと思う。怪異譚だけれど愛の話なのだ。
"あらゆる酒好きの人間は、酒について書いた文章を好んで読む者とそれ以外の者とに分れる。"
(丸谷才一『酒のエッセイについて 二分法的に』より)
どうも私はお酒に関する文章を好むほうみたいで、『作家と酒』楽しく読んでいます。
やはりお酒の失敗談も出てきて、「この人どのエピソードも泥酔して他人に運ばれているな」とか。溝に転げ落ちた話とか。他人の別荘に入り込んでた話とか。
読んでいる分には笑っていられる。
私はお酒の失敗はたぶん無くて、上司に付き合ってビール・焼酎・日本酒と飲んでいたら適量を越えて気持ち悪くなったことがある、その一度だけで他は楽しいお酒しかない。酔うと陽気になってニコニコ
酒の肴が必要ないタイプの作家が多いですね。
私も美味しいお酒をただそれだけで飲みたい!人がいる時は周りに合わせるけれど、ビールもお料理が届く前に飲み干したい。お酒はお酒、ご飯はご飯で楽しみたい。
そうは言っても空きっ腹にアルコールは酔いすぎてしまうので、度数が高いとそうもいかないです。
読んでいると私もお酒を飲みたくなってきて仕方がないので、今日は飲みながら続きを読もうかな。
マーガレット・アトウッド著『侍女の物語』(斎藤英治 訳)は、司令官の邸宅に配属された侍女を主人公としたディストピアSF。
様々な環境汚染などの影響で出生率が低下した社会で、生殖機能を有する女性たちが監視・管理された生活を強いられ、権力者の子を産むことを求められる話である。
侍女が語る過去は、まるで私たちの未来の話を聞いているようにも思えてくる。
何故このような社会になったのか。持っていたものだけでなく、名前さえも奪われるとはどういう事か。物語のなかでそれらを知っていくと、これは現在の話でもあるという思いすらしてくるのだ。
これは性別に関わらず、幸福から最も遠い国での辛くて苦しい話だけれど、私は「面白い!」と思いながら読んでいた。
保護・監視・支配の厳しい規則は鉄壁だと思ったのに、やはり人間同士のことだから刻一刻と状況が変わるのが面白い。繊細に丁寧に書かれた感情や、人間関係の変化は非常に読み応えがあった。
特に女性同士で秘密を共有する時の雰囲気、これにグッときてしまう。
気付けばどの立場の女性たちにも「なんだか分かる」と親近感を覚えていた。友人のような、同僚のような、姉妹のような、そんな目で彼女たちを見ていた。
懐かしい『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ 著)を読んでいます。
私は同じ本を繰り返し読む子どもだったので、これは『ああ無情(レ・ミゼラブル)』の次くらいによく読んでいました。
リーダーのゴードン!意地悪なドニファン!見習い水夫のモコ!懐かしい!
みんなを引っ張っていく立場の、正義感の強いブリアンの名前は意外に覚えていなかった。いい人すぎると記憶に残りにくい説……。
読んでいると『ロビンソン・クルーソー』と少年たちを比べる描写が何度も出てくる。
こちらは去年読んだのだけれど、この人が難破した時は、持ち物がナイフ一丁とパイプ一本と僅かなたばこだけだったので、船の積荷の多くが無事だった少年たちはまだ望みが持てる。でも十五人も食べ盛りがいるのは相当厳しいかもしれない。
ロビンソン・クルーソーを読んだのは、その前に読んだ森見登美彦さんの『熱帯』によく名前が出てきたから。冒険小説にも色々あるけど、人間の知恵や忍耐力が試されている感じがして面白いですよね。
十五人の少年たちはこれまでに得ていた知識から、賢すぎるくらい慎重に日々を生きている。いつも年長者たちで集まって意見を出し合い、そのどれかを採用する形で無人島での生活方針を決めていくところが良い。
#読書 #マストドン読書部
『三体X 観想之宙』作者の宝樹は三体シリーズの大ファンで、三体ロスを癒すべく三体の登場人物を使ってこの物語を創作したという。
そのファンとしての目線はかなりオタク的で、私のような一般読者には到底追いつけないほどの熱意がこもっていた。
一応私も三体シリーズのファンだけれど、あの内容を隅々まで理解した上であちこちを繋げて発展させ、かつ上手く噛み合わせて丸くおさめるなんて力技、そう簡単にできることではないと思った。実際作者は現在SF作家として活動している。
オタク的ゆえに、詳しく書いてあるのにも関わらずややこしくて何を言っているのか全然分からない場面もある。でも当の主人公もよく理解できていなかったりして笑いを誘う。(少しホッとした)
かと思えば、これまでの三体シリーズで幾度となく植え付けられてきた絶望や恐怖の片鱗を、再びこの作品で感じたりもした。
あくまでも他者の手による三体のあり得た未来の話ではあるけれど、ひとつの可能性として興味深い物語だった。きっと無限に道がある。
シリーズを通してさまざまな危機を共に過ごした、懐かしい面々にまた会えたのも嬉しかった。三体ロスを癒すという目的に沿った、胸の熱くなるラストだった。
図書館の一覧で見つけて、ちょうどアニメを少し見ていたので借りてみた。
オリジナルアニメ『リコリス・リコイル』の原案者が書いたスピンオフ小説。
喫茶リコリコの看板娘たちと常連客のわちゃわちゃとかグルメレポとか、平和な日常がメインのお話。でもガンアクションもちょっとあって、人助けもする。喫茶リコリコはみんなの居場所。
アニメそのまんまな千束とたきなが可愛くて癒される
#マストドン読書部
今年読んだ中でのベスト本を決めようとしている。
振り返ってみると今年は読んだ冊数は少なめだったけれど、フォロワーさんのおすすめを順番に読んだり、そして好きな作家が増えたり、選びきれないくらい良い本にたくさん出会っていた!
古典の名作とかは除外して、比較的新しい小説とエッセイを選びました。オススメとかではなくて、単純に「好き!」と思った作品です
タイタン/野﨑まど
十二月の十日/ジョージ・ソーンダーズ
夏物語/川上未映子
ピエタとトランジ/藤野可織
夢見る帝国図書館/中島京子
九月と七月の姉妹/デイジー・ジョンソン
熱帯/森見登美彦
三体ゼロ/劉慈欣
砂上/桜木紫乃
死ぬまでに行きたい海/岸本佐知子
津村記久子 著『ウエストウイング』は、老朽化した雑居ビルを舞台にした物語。
設計事務所に勤めている事務員、絵を描くのが好きな小学生、土壌解析会社の若手社員の三名が主人公。彼らは真面目ではあるものの、ほどよくサボるところに親近感を持った。
私は特に小学生の彼がすごくいい味を出していると思う。まだ子どもだけれどどこか大人の部分があって、教えられることが多い。
けれどこういった情報から想像するような小説とは一味違っている。
なぜなら、盛り上がりそうな場面でも徹底的に平静さを失わないように書かれていて、湧き上がる興奮だとか感動で胸が熱くなるだとか、そういった感情を揺さぶるような出来事は一切起こらないから。
というとつまらなく思えてしまうかもしれないけれどそうではなくて、計算されて非常に高度なことが行われている気がするのだ。感想を書き留めていて言葉が止まらない小説はいい小説。
書かれている地味な毎日の中には、自分の地味な毎日がなんとなく重なる部分もあり、読後なんと言ったらいいか分からない気持ちになる。でも「こういう生き方もいいのかも」とぼんやり思うような、そういう話だった。生活が続くってきっとこういうことなんだと思った。
(時々TLを覗きにきてリアクションするのを楽しんでいます。普段は個人サーバーのほうにいます)