山白朝子 著『死者のための音楽』は、怪談専門誌に掲載された作品を集めた第一短篇集とのこと。
「山白朝子」とは乙一氏の別名義なので、最初の作品でこの完成度の高さも納得。
怪談と言っても怖さはなく、グロはあるがどちらかといえば不思議な、懐かしい日本の昔話のような空気が漂っている。
登場するのは人間だけではなく、幽霊や人喰い鬼、正体不明の大きな鳥なども物語に重要な役割を果たす。
直接的に神は出てこないものの、きっといるだろうなと何度か思った。
死者と生者や、あの世とこの世の境界を混ぜ合わせて、白黒つけないまま置いておくような話が多かった。それは遺された者が慰められるような、優しさのある話なのかもしれない。
そういう点ではこの世界に広がりが感じられて良かった。私たちが知らない存在や、狭間のような場所がどこかにあるかもしれないと想像するのは楽しい。
私は七篇のうち五篇が好みで、もうほとんど全部好みだった。
読んでいてどれも途中で悲しい予感がしてくるのが特徴で、その期待を裏切らず最後にしっかり切ない気持ちにさせてくる。余韻で胸が潰れそう。
この切なさは主に登場人物たちの愛情によるものだと思う。怪異譚だけれど愛の話なのだ。