読了 須藤古都離/ゴリラ裁判の日
興味深い1冊だった。
2016年に実際に起きたハランべ事件が根底にある。
アメリカ式手話を操ることが出来て人間の文化を少しずつ学んだメスゴリラのローズ。
科学の力を借りて声も手に入れた彼女は故郷のカメルーンからアメリカへ渡る。
渡った先の動物園で新たな生活に馴染み始め、雄ゴリラとの関係も順調に築いていった矢先事件は起こる。
ゴリラのエリアに子供が柵を乗り越え落下してしまう。
その男の子を助けに行った雄ゴリラが射殺されてしまうことになり、ローズは理不尽さに動物園を相手取り裁判を起こす。
しかし結局ローズはゴリラ、動物であるとの見方から時間も掛からずに敗訴してしまう。
その後ローズはプロレス団体に所属しプロレスラーとして生活をするのだが、とあるきっかけからもう一度裁判を起こすことに。
その時の弁護士が有能だったのと彼女の意識の変化もあり裁判は勝訴、彼女は人間として認められることになる。
人間文化を学び言語を操るようになった動物は果たして人間なのか、動物なのか。
どこからが人間なのか。
最後に故郷のジャングルに戻ったローズがすべてを表しているように思えた。
かなり深いテーマと内容で非常に興味深く面白く読み進めることが出来た。
読了 津村記久子/水車小屋のネネ
ひたすらほんわかする1冊だった。
諸事情で18歳で8歳の妹を連れて、郊外で独立することにした少女。
その少女が働くことになる蕎麦屋の水車小屋にネネと言う名の話すヨウムがいる。
姉妹とヨウムを主軸に物語は進んでいくわけだが、1981年に始まりなんとエピローグでは2021年に。
8歳だった女の子は48歳に、18歳だった姉も58歳になっている。
いろいろな出会いと別れを経ながらの40年間が綴られていた。
途中途中でイラストが挟まれるのだが、そのイラストがいい味を出しており物語の世界に更に引き込まれる一因となっていた。
紙の書籍でゆっくりじっくり見てみたかった…。
読後感も良く、序盤を除けばのんびりほっこり読み進められる1冊だった。
私自身の田舎の風景と被せながら読んだが、端々からもしや本当にその地方のことなのかな?という描写があった。
そのこともより世界観に没頭出来るきっかけだった。
読了 逢坂冬馬/歌われなかった海賊へ
「同志少女よ〜」が好きだった為読んでみた。
前回はロシアが舞台でリュドミラ・パヴリチェンコが登場したり、舞台などがかなり史実に基づいて描かれていた。
今作はナチス政権下ドイツが舞台で「エーデルヴァイス海賊団」が主軸となっている。
このエーデルヴァイス海賊団も当時の反ナチ政権の不良少年たちの組織として実在した。
相変わらずマニアックなところを描いてくれる。
物語中盤からは怒涛の展開となり、一気読み必至。
題にもなった歌われなかった海賊、という意味が分かってくる。
そして物語最後では色々な意味で現実に引き戻される。
あ、そうだ。そもそもこの物語は現代ドイツで始まっているんだ!と。
ナチス政権下ドイツの複雑な市民感情がうまく表現されていたのが印象的だった。
エーデルヴァイス海賊団の面々が線路を冒険するシーンはS・キングの「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせるものがあった。
逢坂作品は「同志〜」と本作の影響でマニアックな軍事・ミリタリー・歴史小説として琴線に触れる。
果たして「エーデルヴァイス海賊団」を小説の題材にしようと考え実行する作家が何人いることか…。
読了 町田そのこ/52ヘルツのクジラたち
率直な感想としては、こういうことは世間では当たり前に起きていることで、現実ではその声はなかなか拾われることがないまま終わってしまうよね…。というもの。
ただ当然ながら物語なわけで、そことしてはとてもよく出来ていたと思う。
あまりにポンポンと進んでいくのでなかなか登場人物に感情移入できなかった。
唯一理解できたのは「52」の母親だ。
いい親でもなければいい人間でもなかったけど、こういう被害者もいるよなー!という感じ。
一番わかり易いヒール役であり、一番の被害者だったのでは?と思ってしまうほど。
実際の52Hzの鯨は、奇形の個体か、混血個体か、実は人間が考えていたより帯域が広かったのでは説があったりしつつも、未だにちゃんと解明出来ていなかったり特定も出来ていなくてロマンがある。
そんな「52」は昔から興味があって好きだった。
本書が出た時に「52」関連の書籍だと思ってときめいた思い出がある。
#読書 #読了
読了 多崎礼/レーエンデ国物語
レーエンデ3作読み終わった。
本格ファンタジーは少し苦手だったけど本作は気になったので読んでみた。
1冊でひとつの時代が終わり、次巻は前巻から100年後の世界になっているので追いつくのが少し大変だった。
架空の街や民族なので、争いや力関係などを覚えるのも大変だった。
内容はワクワクしたりドキドキしたりして面白い部分もあったけど、言い回しが大げさだったりご都合主義的に過ぎてあまり入り込むことが出来なかった。
ファンタジーだからといえばそれまでだが…。
3作目に関してはちょっと異色感があって、うーーん…という感じで読み終わってしまった。
あまりに世界観が違くて読みたかったのじゃない…となってしまった。
読了 ホリー・ジャクソン/自由研究には向かない殺人 3部作
いつぞやのKindleセールで安くなっていたので買ってみたシリーズ。
1作目 自由研究には向かない殺人と2作目 優等生は探偵に向かない までは面白かった。
3作目の卒業生には向かない真実も途中までは面白かった。
1、2作目の伏線がきれいに回収されていくまでは…。
中盤からは主人公の正義感が暴走しまくってしまい、結末までご都合主義に傾き過ぎてしまった気がする。
1作目は優等生で賢い女子高生ピップが自由研究の課題として、自分の街で起きた殺人事件に疑問を持ち、いちから掘り起こし真相を突き止めて行く。
2作目では友人のお兄さんが行方不明になり、追い掛けて行く内に過去の事件との繫がりや意外な人物の関わりなどが見えてきて…。
3作目では途中まではついにピップにも実害が出始め、色々ケリを付けるために最後の事件解決へと乗り出すが…。
4作目は1作目の前日譚となっており、友人宅で集まりマーダーゲームをする中で探偵の一端を見出したり、今までの作品の中のちょっとした物事がチラチラ出てくるもの。
正直1作目と2作目だけで良かったかな…と思ってしまった。
3作目は作風が変わったものとして受け止めればドキドキ感はあったかな?くらいの感じ。
#読了 #読書
読了 シャーリイ・ジャクスン/ずっとお城で暮らしてる
フォロワーさんにおすすめして頂いた作品。
平和な狂気ってあるんだね…。
2人の少女の年齢を考えるとその純粋さと幼さがとても怖い。
ある意味では村人たちが姉妹一家に向ける純粋な悪意の方が健全だと思ってしまうほど。
姉、優しいじゃん!て思ったのは最初だけで、姉もしっかり狂ってた。
真っ当に狂った(認知症的症状あり)おじさんだけがこの家の中では正常なのかな、と思った。
村人たちがとある出来事の後、この姉妹とおじさんが住む屋敷に行う行為が人として最低な行いだと認識出来つつも、2人の狂気性から考えるとまだしも真っ直ぐでとても真っ当な行いに見えてしまう。
そしてしょうもない従兄弟に関しては、器が小さくプライドは大きいけど唯一人間的でちょっと好きなキャラクターだった。
読了 アンナ・カヴァン/氷
フォロワーさんにおすすめして頂いて読んだ作品。
展開がジェットコースターみたいだった!
場面がシームレスに移り変わっていくので、翻弄されつつ物語にグイグイ引き込まれて行った。
「氷」という世界を浸潤していく不条理から逃げつつ強烈な美少女を追いかける主人公たち。
こんな世界で何やってんだよ!という気持ちと、こんな世界だからこそ追い求めるのかな?という気持ちがあった。
サディスティックな母親に虐待されて育った幼少期、今度は恐怖の権化のような長官と信頼の置ききれない「私」に追いかけられるアルビノの美少女。
これを浅い考えで「少女」=作者、男たち=薬物と考えると作者(少女)の薬物からの(男たちからの)自立、という一つのテーマが見えてくるけど、そんな浅いものではないんだろうな…。
深い、深いよアンナ・カヴァン!
カフカの作品には強い孤独を感じるけれども、アンナ・カヴァンにも凄まじい孤独と荒廃を感じる。
衝撃的な読書体験が出来た。
読了 森見登美彦/シャーロック・ホームズの凱旋
森見登美彦の新作。
ホームズの世界と京都の街がまさかのがっちゃんこ!
ベーカー街221Bは寺町通221Bに。
京都の街中に女王の宮殿やビッグ・ベンがある世界。
ワトソンやメアリ、ハドソンさん、レストレードなどお馴染みの面々から、モリアーティ教授、アイリーン・アドラーも登場する。
とくに後の2人は意外な役で…。
森見登美彦の世界で描かれるホームズ話かと思いきや段々と雲行きが怪しくなりはじめ、気付けば通常のホームズの世界になっており、更に京都に戻ってくるという入れ子構造は同著者の「熱帯」を少しだけ思い出した。
意外すぎる役を与えられたキャラクターたち、パラレルワールド的なSF感ある作風、京都とイギリス ロンドンがごちゃごちゃになった世界観、どれも面白くて好き。
体調が良いときにもう一度通して一気に読みたい作品。
SF要素で言えば、「四畳半タイムマシンブルース」に通ずるところもあるのかな?
でもあっちは時間移動のSFだから違うかな?
ドイルのホームズシリーズを読み返したくなった。
一番好きなのはやっぱり延原訳の新潮版。
表紙がエンボス加工されていておしゃれだし、読みやすい!
読了 横溝正史/本陣殺人事件
表題作も面白い内容だったけど、個人的に好きだったのは最後の「黒猫亭事件」。
所謂、顔のない殺人トリックをメインに据えているものの、予想してなかった結末でした。
追い詰められ、無慈悲になった女性の怖さがヒシヒシと迫ってきてゾワゾワとする感じがいい!
それでも好きな相手には………というのがまた!
このあたりの時代の推理小説は現代からじゃ考えられないトリックだったり(科学捜査が発達したりで使えないトリック故)探偵と警察の立場や癒着具合があってとても面白い。
時代背景や話し言葉、文体も味があって大好きです。
クリスティやカー、クイーン、ポーとか江戸川乱歩とか堪らないものがありますねえ…。
双極性障害(うつ型)とパニック障害、腰椎椎間板ヘルニアで闘病中の男です。
読書が趣味です。
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