読了 長谷川博一/殺人者はいかに誕生したか「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く
感想を書くのを迷ったが書くことにしてみた。
某Twitterでは事件系の感想を書くと、結構荒れたイメージがどうしても拭えない。
一章から宅間守との手紙や接見が始まる。
更に宮崎勤、畠山鈴香、加藤智大、小林薫と続く。
他にもいたものの自分は覚えていない事件だったり、匿名だったりした。
個人的にはやはり宅間守、宮崎勤、畠山鈴香、加藤智大に関してはかなり興味深いものだった。
著者自身が直接面会時にいわゆる心理テストを行ったりするのだが、その結果が本当に興味深いもので、更に比較するとその傾向と彼らの内面が浮き彫りになり面白かった。
重大な犯罪を犯す人は子供時代の環境が…、というのが定説になりつつあるが、登場した彼らはまさにその典型例。
もっと早い段階で然るべき機関に受診したりしていたら、もしかしたら違う未来があったのかもしれない。
中には自分の性衝動を抑えることが出来ず、通院やカウンセリングを受けていたり果には去勢手術をするために闇医者を探すことまでした被告人もいた。
実際に彼らと会った人のルポはとても貴重なものだと思う
。
読了 南綾子/俺はこのままひとりぼっちで、いつかおかしくなってしまうんだろうか
「死にたいって誰かに話したかった」がすごくよかったので読んでみた。
こちらは4人の登場人物たちの年齢層が高めでみんな40代。
それぞれに悩みがあり、それぞれの物語が語られる。
春来の人生にはとても共感するものがあり、自分も将来こういうことで悩むことがあるのだろうか…と不安になった。
独りで50歳は迎えたくない、と言っていた春来も物語の中では独りで50歳を迎えてしまう。
4人ともなにかと問題を抱えつつ50代に突入し、折り合いをつけたり、別の方向に切り替えたりして成長していく姿が描かれていた。
「死にたいって誰かに話したかった」の方が個人的には刺さって共感できる部分も多かった。
2冊とも考えさせられる内容ではあった。
読了 南綾子/死にたいって誰かに話したかった
これは良書だった。
一気読みしてしまった。
生き難さを抱えるひとたちが、不思議な共同生活を送りつつ月に数回生き難さについての話し合いの会を行なう。
物語終盤にはそれぞれに良い変化が起きている。
彼らが語る生き難さというものがガシガシ突き刺さってくるようなリアルなものだった。
社会からの"こうあるべし"という同調圧力に馴染めなかったり、どこか人とずれているが故に生き難さを感じたり。
それでも会を開くまでの彼らはそんな社会に溶け込もうと努力する。
その努力がまた空回りしっぱなしで読んでいてしんどさすら感じるほどだった。
それくらいリアルな空気感を感じ取れるような筆致で描かれている。
続編的な作品もあるようなのでそちらも読んでみようと思う。
読了 須藤古都離/ゴリラ裁判の日
興味深い1冊だった。
2016年に実際に起きたハランべ事件が根底にある。
アメリカ式手話を操ることが出来て人間の文化を少しずつ学んだメスゴリラのローズ。
科学の力を借りて声も手に入れた彼女は故郷のカメルーンからアメリカへ渡る。
渡った先の動物園で新たな生活に馴染み始め、雄ゴリラとの関係も順調に築いていった矢先事件は起こる。
ゴリラのエリアに子供が柵を乗り越え落下してしまう。
その男の子を助けに行った雄ゴリラが射殺されてしまうことになり、ローズは理不尽さに動物園を相手取り裁判を起こす。
しかし結局ローズはゴリラ、動物であるとの見方から時間も掛からずに敗訴してしまう。
その後ローズはプロレス団体に所属しプロレスラーとして生活をするのだが、とあるきっかけからもう一度裁判を起こすことに。
その時の弁護士が有能だったのと彼女の意識の変化もあり裁判は勝訴、彼女は人間として認められることになる。
人間文化を学び言語を操るようになった動物は果たして人間なのか、動物なのか。
どこからが人間なのか。
最後に故郷のジャングルに戻ったローズがすべてを表しているように思えた。
かなり深いテーマと内容で非常に興味深く面白く読み進めることが出来た。
読了 津村記久子/水車小屋のネネ
ひたすらほんわかする1冊だった。
諸事情で18歳で8歳の妹を連れて、郊外で独立することにした少女。
その少女が働くことになる蕎麦屋の水車小屋にネネと言う名の話すヨウムがいる。
姉妹とヨウムを主軸に物語は進んでいくわけだが、1981年に始まりなんとエピローグでは2021年に。
8歳だった女の子は48歳に、18歳だった姉も58歳になっている。
いろいろな出会いと別れを経ながらの40年間が綴られていた。
途中途中でイラストが挟まれるのだが、そのイラストがいい味を出しており物語の世界に更に引き込まれる一因となっていた。
紙の書籍でゆっくりじっくり見てみたかった…。
読後感も良く、序盤を除けばのんびりほっこり読み進められる1冊だった。
私自身の田舎の風景と被せながら読んだが、端々からもしや本当にその地方のことなのかな?という描写があった。
そのこともより世界観に没頭出来るきっかけだった。
読了 逢坂冬馬/歌われなかった海賊へ
「同志少女よ〜」が好きだった為読んでみた。
前回はロシアが舞台でリュドミラ・パヴリチェンコが登場したり、舞台などがかなり史実に基づいて描かれていた。
今作はナチス政権下ドイツが舞台で「エーデルヴァイス海賊団」が主軸となっている。
このエーデルヴァイス海賊団も当時の反ナチ政権の不良少年たちの組織として実在した。
相変わらずマニアックなところを描いてくれる。
物語中盤からは怒涛の展開となり、一気読み必至。
題にもなった歌われなかった海賊、という意味が分かってくる。
そして物語最後では色々な意味で現実に引き戻される。
あ、そうだ。そもそもこの物語は現代ドイツで始まっているんだ!と。
ナチス政権下ドイツの複雑な市民感情がうまく表現されていたのが印象的だった。
エーデルヴァイス海賊団の面々が線路を冒険するシーンはS・キングの「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせるものがあった。
逢坂作品は「同志〜」と本作の影響でマニアックな軍事・ミリタリー・歴史小説として琴線に触れる。
果たして「エーデルヴァイス海賊団」を小説の題材にしようと考え実行する作家が何人いることか…。
双極性障害(うつ型)とパニック障害、腰椎椎間板ヘルニアで闘病中の男です。
読書が趣味です。
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