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NHK番組テキスト「NHK 100分 de 名著 ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』 2024年 2月」が自分の問題意識にちょうど刺さって非常に面白く、一気読み。特に、人権批判のくだりは居住まいを正して読む。
nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/

ローティの議論(大意):
ローティは、哲学の役割は、本質や真理を追究するのではなく(なぜなら、それは「会話を終わらせてしまう」からだ)、終わりなき会話を成り立たせ、異なる人々を「連帯」できるようにするための再記述のやり方を提供し、"文化政治"をすることだ——と提案する。これは、本質や真理を追究する伝統的な哲学に対するアンチ哲学といえる。

言葉は私たちを創造している。人や社会は、形になった(受肉した)「言葉」である。言葉は常に異議申し立てや「再記述(語り直し)」に開かれている。

だが、「再記述」の可能性とは、他者を非-人間化して虐殺する言葉を作り出す可能性にも開かれているということでもある。ルワンダのジェノサイドでは、「言葉」の使い方が大きな役割を果たした。だから、言葉の使い方=文化政治に対して私たちは注意深くある必要がある。
(続き

資料:記事の要旨

- 2020年代はデジタル中世、暗黒時代の始まり
- 根拠のない作り話しが台頭。これは啓蒙主義の正反対、危険な道だ
- "Woke"(政治的に"正しすぎる"文化)への反発と、経済的不平等への反発が周縁のアイデアを勢いづかせている。反フェミニズム、反LGBT、反ワクチンなど。
- 右派は政治的に正しくないジョークをミームとして使いこなす。だが、左派が人権を守った洗練されたジョークを作り広めることは、より難しい
- Telegramは、いまや誤った情報や陰謀論、過激主義者のコンテンツを広めるための信じられないほど強力な手段
- 大手SNSには大きな責任がある。陰謀論やフェイクニュースをアルゴリズムで拡散しない工夫が必要
- 戦争や病気に加え、こんにち起こっているのは、ハイテクノロジーによる混乱。こうした複合的な要因の組み合わせは、これまでに私たちが経験したことがないもの

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ユリア・エブナー「現代は“デジタル中世”、このままでは非常に危険だ」
courrier.jp/news/archives/3344

感想:
反フェミニズム、反トランスジェンダー、反ワクチン、Qアノン……(日本だと「暇アノン」も)。これらの陰謀論や偏った思想は、Woke(政治的に正しすぎる文化)への反発だけでなく、経済的不平等の不満のはけ口にもなっている。

陰謀論など「周縁」のアイデアの拡散を、大手SNSやTelegramも支援してしまっている。テクノロジーが作り出す暗黒時代、それが「デジタル中世」の意味だ。

何回か書いた話だが、人には「理解する苦痛を避ける」傾向がある。「政治的正しさ」とは、つまり脱家父長制、脱植民地主義、脱差別を認めること。多くの男性にとって、白人にとって、富豪にとって、これは「自分が搾取する側、差別する側にいる」と理解する苦痛を伴う。これが「Wokeへの反発」の正体だ。

私は、「苦痛は必要だ」と思っている。それは注射の針の痛みのようなもので、必要な痛みだ。みんなで注射を打ちましょう。
(続く

なぜ理解できないかというと、理解することには苦痛が伴うからだ——ボールドウィンは、そのように喝破する(なお、これは映画ではなく、本の中の言葉)。

もっと近い時代の別のお話。

トマ・ピケティは『21世紀の資本』で、膨大なデータに基づき「純粋で完全な競争は不等式r>gを変えられない」と立証した(意味は「民間資本収益率rが所得と産出の成長率gを長期的に上回る」「つまり資本家は常に労働者に勝つ」)。

その後に出たスティーブン・ピンカーの『21世紀の啓蒙』は、「経済全体は大きくなっている。不平等は問題ではない」「クズネッツ曲線に従い格差も解消される(これはまさにピケティが大著を費やして否定した学説)」と、ピケティをまったく理解しないままに批判する。そして「楽観的に、理性的になろう」とさとす。

テック富豪ビル・ゲイツは同書を絶賛する。

この絶望感。彼らはピケティを理解することを意図的に拒絶した訳だ。それは痛みを伴い、行動原理の変容を求めているからだ。

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極端な悲観論が、終末論に結びついて人々の希望を奪ってしまう懸念はある程度理解する。ただ、人々は「理解することの苦痛」を避けて通るものだ(だから「マスクを外そう」が「コロナ禍は終わった」になってしまう)。メッセージは注意深くある必要がある。

インタビューに答えるハンナ・リッチー氏は、気候変動や貧困、飢餓について「大きすぎて解決できない問題だと無力感を覚えていた」と語る。そこに希望を与えてくれたのが、ハンス・ロスリングのデータ分析だった。
そもそも、人は大きすぎる問題をうまく思考できない。だからこそ思考のフレームワークが必要だ。楽観といえば聞こえがいいが、それは「思考する苦痛を避けて通る」ことに非常に近い。

以下、記事から離れた話を少し。

「人は理解する苦痛を避ける」。豊かな側、権力がある側の人ほど。
映画『私はあなたのニグロではない』で、白人の学者が黒人の作家ボールドウィンに「なぜ黒人差別ばかりを強調するのか。黒人の暮らしも良くなっている。前向きに世の中に貢献してはどうか」とお説教する場面を思い出す。

もちろんボールドウィンは反論する。多くのアメリカ人は黒人差別の構造そのものを認めていない。それが多くの黒人を暴力と死に追いやっているのだと。しかし、白人の学者はぜんぜん理解できない。
(続く

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以下の記事を元に、「人の認知の偏り」について考えた。

「世界の終わりではない」気鋭のデータ科学者は地球の未来を楽観する
mainichi.jp/articles/20240124/

有料部分も含めて記事を読んだが、感想は「うーん、そうかな〜?」。

短くいうと、
「気候危機を避けがたい破局だと思いこみ絶望することは、かえってよくない。ハンス・ロスリング(『Factfulness』)を見習って、未来への希望を持ち、持続的な未来に向けて脱炭素を進めていこう」
というお話。

しかし、世の中の多くの人々は「楽観」というところだけを見て安心して「何もしない」道を選択しそうな気もする。日本では「マスクを外そう」という政府のメッセージが、「コロナ禍は終わった」と受け止められた。
この記事で本当に重要なメッセージは、(1) 1.5度目標は絶望的であること。(2) それでも、わずかでも温暖化を避けるための努力は続けるべきであること。なぜなら"わずか0・1度の違いが地球全体への影響や人間の生命を左右するのだから。"

気候変動は、人間を含む多くの生き物の生き死にに関わる問題だ。そこはちゃんと伝わっているだろうか?
(続く

星 暁雄 (Akio Hoshi) さんがブースト

こちらが元講演の動画のようです。目を見開かされています。youtube.com/watch?v=ieAacjnjdy

「あまりにも巨大な問題を前に、人はうまく思考できない」。Brexit投票の際にそれを痛感しました。大きなBBCはさまざまな討論番組や解説番組をしていましたが、目をつぶって象をさわるアレで、結果的に感情論の闘いになって終わりました。

京都大学で2/13に開かれた公開セミナー「人文学の死――ガザのジェノサイドと近代500年のヨーロッパの植民地主義」発の記事。インタビューではなく学術イベントの概要なので、非常に読み応えがある。このような長文で掘り下げた記事はありがたい。

ドイツ言論の硬直化、バイアスを鋭く批判。歪曲も無視もせずに歴史と「向き合う」ことは難しいが、それを避けて通ることは「人文学の死」を意味する。

藤原氏は「シオニズムは、西欧植民地主義が結晶化したもの」と述べる。これはごく自然な議論に見えるのだが、今のドイツの状況ではこのような発言は強い非難に晒されるだろう。(同様に、私たちの側にも、カテキズム=思考の硬直化とバイアスはきっとある)

記事から離れた感想だが「あまりも巨大な問題を前に、人はうまく思考できない」ことを20世紀の偉大な哲学者らは繰り返し警告してきた(戸谷洋志『原子力の哲学』、集英社新書)。例えばジェノサイドや核兵器、原子力災害への思考はまだ足りていない。そこでハンス・ヨナスは「新しい倫理学が必要だ」と述べている。

ドイツ現代史研究の取り返しのつかない過ち――パレスチナ問題軽視の背景 京都大学人文科学研究所准教授・藤原辰史, 長周新聞, 2024年2月23日
chosyu-journal.jp/heiwa/29293

メモ。
2/22、BlueskyはATプロトコルのフェデレーション(連合)機能を公開した。
bsky.social/about/blog/02-22-2

ATプロトコルは、Mastodon/ActivityPubとは設計思想が大きく異なる(なので互換性はない)。ユーザーから見た最大の特徴は、ユーザー体験に影響を与えずに「ホストの引っ越し」ができること。既存の投稿、「いいね!」、フォローを失うことなく、他のプロバイダーにデータを移動できる。

モデレーション機能として、ブロックリスト、ミュートリストは各ホストPDSで共通に使える。ここもMastodonと違うところ。

PDSのアーリーアクセスは、現状では10アカウントまで、1時間1500イベント、1日1万イベントまでの制限あり。今後も頻繁な変更が予想される。
docs.bsky.app/blog/self-host-f

感想:予告されていたATプロトコルの機能が公開された。今のBlueskyは「ATプロトコルのホスト(PDS)の一つ」の位置づけになる。Twitterのように、投稿内容やフォロワーを「人質」にとられる心配がなくなる。

一方、Mastodonはサーバーごとにユーザー体験が異なる。この特徴を好ましく思うユーザーもいるだろう。

Neuralink社の脳インプラントを埋め込まれた患者が「マウスを操作できるようになった」。イーロン・マスクがX/TwitterのSpacesで明らかに。詳細は不明。

感想:この情報だけでは、侵襲性がある「脳インプラントでなければできないこと」が何なのかが不明だ。

私の出身研究室では、1980年代に(侵襲性がない)脳波検出だけで(ゆっくりと)文字入力をする技術を実現していた。原理は、画面に表示した文字群の明滅周期と脳波との相関を取ること。同じやり方でゆっくりマウスを動かすことはできる。

脳インプラントならではの優位性は何か。
reuters.com/business/healthcar

日独GDP逆転の背景

- 日本のGDPは2Q連続マイナス成長。ここ3年で円安が30%進む
- 2000年→2023年でドイツ経済は1.95倍に。日本経済は10%増に留まる
- ドイツ企業は賃上げ圧を受け生産性向上に力を注いだ。日本企業は低金利と賃金抑制に甘んじ、設備投資、研究開発を怠った。
nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/49

EUは、TikTokを運営するByteDanceを調査する。透明性と未成年者を保護する義務違反の疑い。欧州委員ティエリ・ブルトンが明らかにした。

DSA(デジタルサービス法)に基づくテック企業への取り締まりは、X/Twitterに続き2社目。
twitter.com/ThierryBreton/stat

第2次世界大戦の惨禍を繰り返さないため、国際社会は世界人権宣言を採択。この明文化された理念に基づき国際人権法は詳細・堅牢に構築され続けてきた。

世界人権宣言は、地球上の「すべての人」が平等に不可侵・不可分の権利群を持つと宣言する。よりよく生きる権利。不当に自由を奪われない権利。公平な労働条件で尊厳ある収入を得る権利——

現実の世界は、人権侵害に満ちている。

それでも、世界を(たとえ少しずつでも)明文化された理想に向けて改善し続ける。逆行には抵抗する。その根拠が人権。

人々は長い間、世界を改善し続けてきた。これからも改善し続けるだろう。
unic.or.jp/activities/humanrig

fedibird.com/@AkioHoshi/111957 [参照]

作家・島田雅彦のインタビュー記事より抜粋。

「自民党は保守ではなく『保身』。党内調整が政治だと思っている彼らを政権の座から追放すべきだ」

"(島田の小説)「パンとサーカス」ではこう記している。<講和条約によって、独立国家としての体裁を取り戻したというのは建前に過ぎず、日本は実質、アメリカの植民地として、半永久的に支配されることになったのだ>"

「米国の間接統治の受け皿として自民党は機能してきた」
「露骨な対米従属政策を取った政権は長持ちした」
「米国に服従し、貢いだ見返りのように私利私欲をむさぼる構造がある。保守を掲げてはいるが、単なる保身なのです」

"政権交代のリアリティーを感じられないからと諦めず、能動的に1票を投じてほしい"

「自民党とは絶対組まない野党の候補者を一人でも多く国会に送り出せば、野党が主張する政策や法改正も通りやすくなるし、税金の無駄遣いも糾弾できるし、疑惑議員を証人喚問の場に引きずり出せる」

「自発的に米国に服従するだけでなく、独自の外交戦略、経済、福祉政策を持つ。私利私欲ではなく公益に奉仕する。そういう大きなビジョンが今こそ問われている」
mainichi.jp/articles/20240219/

ロシアのプーチン政権を批判しながら死亡したアレクセイ・ナワリヌイ氏の「評価を下げる投稿」がいくつか目に入ってきました。これらは、ひとまず懐疑的に見た方がいいと思っています。拡散している人に悪気はなかったとしても、です。

理由はFIMI(Foreign Information Manipulation and Interference)である可能性があるからです。「ナワリヌイ氏の評価が下がると、どの集団にとって嬉しいか」を考えてみましょう。

21世紀の「新啓蒙」が必要と唱える動きは複数ある。

アダム・スミスに立ち返って資本主義の倫理を再生しようと考える立場もある。スティーブン・ピンカーは科学的合理主義を復権させようと考える。マルクス・ガブリエルはそれとは反対に、科学的世界観を万能と考える考え方を否定し、カントやフッサールらドイツ哲学の伝統を引き継ぎながら、ポストモダンの「異議申し立て」——ポストコロニアル思想やフェミニズム思想を統合した新しい思想が必要だと唱えている。

私はマルクス・ガブリエルの言うことを100%鵜呑みにはできないと考えているが、「カントの倫理学を見直すこと」「脱植民地主義、脱家父長制」は同意する。科学的合理主義は万能ではないが重要である、というところも同意する。

私のラフなイメージでは、21世紀の新啓蒙とは、カント倫理学の復権と、ポストコロニアル理論、フェミニズム理論、それに科学的合理主義のミックスのようなものになるのではないだろうか。

短くいうなら、「新啓蒙は人権をより強力にする思想」と捉えておけばいいだろう。

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記事の感想から離れて、個人的な思いを。

人権に対する冷笑、嘲笑の傾向がある、という話は困ったものです。「ひろゆき」的センスでは、正論や倫理を唱える言説は笑いの対象になる。だが、そのような言説は理性への反動=反啓蒙にすぎない。

それだけではない。トランプの台頭、Qアノン、Jアノン言説の蔓延、差別言説の流布、"ポスト・トゥルース"——これらは21世紀の反啓蒙といえる。

啓蒙、反啓蒙はセットでやってくる。

理性を称揚した18世紀の啓蒙思想は、人の本質は感情と見る19世紀のロマン主義に押し流れた。理性から人の倫理を導いた18世紀のカント哲学は、まず国家権力ありきと考える19世紀のヘーゲル哲学で上書きされてしまい「マルクスはカントを無視した」(柄谷行人)。人の平等を嘲笑するニーチェはヒトラーに影響を与えた。

対抗するには、21世紀の新啓蒙が必要だ。理性を取り戻さないといけない。(続く

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私も、Big Techによる人権侵害など「ITと人権」の話をする前に、「そもそも人権はすべての人の不可侵の権利です」という当たり前の話をする必要性を痛感しました。

印象的な言葉は
「怖いから関わりたくない」——異議申し立てには、まず傾聴を。

「ヘイトや差別扇動にはマーケットがある」——メディアにとって売上、政治家にとって票に結びつく。だからといって差別を助長することは倫理に反する。これは「あしきKPI至上主義」の弊害。

2月20日 16:33まで全文閲覧可能。
人権を「怖い」と敬遠する若者 ジャーナリスト安田浩一さんの危惧:朝日新聞デジタル digital.asahi.com/articles/ASS

記事によれば「2023年の賃上げ率は3.6%と30年ぶりの高水準で、2024年は前年を上回る伸びになるとの予想が多い」と、人手不足からの賃上げという流れはある。

自然な流れに任せるだけでは、マネーは株主の方へと流れていく。実体経済と庶民の暮らしの改善という観点では、企業組合活動や政治への働きかけを活溌にしていくべき局面といえる。企業統治の強化とは、従業員や取引先からは絞れるだけ絞るということなのだから。

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日本経済新聞の記事「日本株大解剖 データで探る 歴史的株高の背景」に目を通した。(有料記事)
nikkei.com/telling/DGXZTS00008
大筋は「日本株が元気。NISAもあるよ」という話なのだが、興味を引いた部分は、「企業統治改革」により企業はマネーをより多く株主に回すようになったというお話。

「世界で3番目に時価総額が大きく、割高感が乏しい日本株は有望な投資の受け皿とみられている(日本株はPER低めでお買い得)」
「2013年に企業統治改革がスタートしてから10年あまりがたち、企業の資本効率の改善や株主還元が進んだ」。記事によれば配当金の総額は2023年3月期は9年前に比べ2.5倍の18.5兆円、自社株買いは2.7倍の9.3兆円に増えた。

過去10年で日本の株式会社のガバナンスは強化され、株主をより重視するようになった。企業はがんばって稼いだお金を、(従業員や取引先ではなく)株主に還元し、株式市場での人気を高めようとする。

日本の実体経済に寄与するには従業員や取引先にお金が回らないといけない。しかし企業内部のロジックで考える限り、従業員や取引先へのお金はケチれるだけケチるべきということになる。
(続く

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