陳思宏『亡霊の地』(三須祐介訳)を読みました。
7人きょうだいの末っ子である陳天宏が、ベルリンで恋人“T”との間に起きたことを追想しながら、台湾に帰郷する。
視点は天宏から5人の姉たちや父母へと次々に移ってゆくのだが、誰も彼もがめちゃくちゃ辛い。
田舎の驚くほど狭く逃げ場のないコミュニティの中で、家族という一番近しく濃い関係性から生じる、容赦のない様々な形での抑圧が生々しく描かれており、ものすごく苦しい。
家族は体験を共有していながらも、立場も違うし見たこと知っていたことも自分ひとりだけのものであり、何を感じどうやって生き延びてきたのかもみんな違う。
多視点によって語られる、家族それぞれの痛みと苦悩にまみれた過去と現在とを追いながら、密接に絡み合って最後に立ち現れるものに胸がつまる圧巻の群像劇でした。
『亡霊の地』、とんでもなく壮絶な悲喜劇で、悲壮で痛切でもあるけれどとても美しい瞬間や痛快さもあり、忘れがたいエピソードがたくさんあった。
激しいホモフォビアや暴力、DV、多岐にわたる抑圧が表現されているので注意は必要かもしれません。