『グイン・サーガ 9 紅蓮の島』
栗本薫著、ハヤカワ文庫 1981年12月発行

表紙はモンゴールのミアイル公子。天使のように無垢で優しく、義兄と慕うパロ公子の謀略で殺されなければならなかった子。その刺客に使われ、それゆえに母国パロからの離反を決意するマリウス。そのマリウスに関わる、この後も度々登場することになる宿屋兼居酒屋の《煙とパイプ》亭。この店はパイ皮をかぶせて焼いた壺入りの羊のシチューが絶品なんですよね。パイ皮を熱々の壺入りシチューにかき落としたのをフウフウ吹いて食べるの。トーラス名物。美味しそうな食べ物に事欠かないグインサーガの中でも屈指の人気料理。グインサーガの魅力の一つは、王侯貴族や将軍や大魔道士など世界を動かす人びとだけではなく、下々の庶民の生活や文化風俗も丁寧に描いているところだと思う。

『組織デザイン』
沼上幹著、日経文庫 2004年6月発行

言うまでもなく組織をどうデザインすれば良いかの最適解は組織ごとに異なるし時期によっても方向性によっても変わってくる。そこで組織デザインの基本論理・基本原則を学ぶ必要が出てくる。情報処理技術者試験でもマネジメント分野で組織論の基本が出てくるけど、ごく表面的な知識が問われるだけ。もう少し詳しく学びたいとなったら、この本が最適なのでは、と思った。日経も基本書として推しているようなのに、近所の書店はどこも置いてなかった。

『小説を書く人のAI活用術』
山川健一・今井昭彦・葦沢かもめ著、インプレス 2024年10月発行

生成AIに小説を書かせるとなぜかつまらない、毒にも薬にもならない文章が出力される。コツを掴めればそんなこともないんだけど、どうやって小説を書かせたらいいか、小説作成のアシストにどう使えばいいか、本書に掲載された具体的な例が参考になると思う。文系人間の多くは具体例の多くから帰納的に学びやすい傾向があるので、興味のある初心者にはこういう本は参考になると思う。

で、この本、先月発売されたところなのに、なぜか読んだことがある? よく見たら、Kindleで公開されていた『ChatGPTで小説を書く魔法のレシピ』の加筆修正版だそうな。そっちで読みづらかった部分も改善されていけど、多くの部分は最新情報へのアップデートなので、Kindle本を持ってれば改めて買わなくてもよさそう。

こういう試験本を タグに載せる人というのはあまり見たことがないけど、私にとっては、小説もエッセイも実用書も技術書も参考書も図鑑も漫画も教養書も教科書も学術書も、いずれも「楽しく読む」ことのできる本であることに変わりはない。

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『公務員試験新スーパー過去問ゼミ 文章理解・資料解釈』
実務教育出版 2020年9月発行

古本屋に行くと少し前の公務員試験本が新品同様なのに200円とか300円とかで売ってる。まさか公務員を目指すわけはないけど、「数的推理」「判断推理」「文章理解・資料解釈」は時々買って楽しんでる。頭の体操と自分の頭脳のチェックに使えるから。このうち、文章理解は「現代文」「英文」「古文」を、資料解釈は「数表」「グラフ」その他にわかれる。表やグラフの解釈は社会人にとっても有用なはず。文章理解は大学入試ほど難しくないので頭の体操に良い。あと、思わぬ名文に巡り会えたりする。

『iPadショック』
林信行著、日経BP社 2010年6月発行

初代iPadが日本で発売されたのは2010年5月。当時の日記を見ると5月10日に予約し5月28日に受けとったようだ。日本でのiPad発売とほぼ同時に出たこの本は、iPadが世界に与えるであろう影響を数多く取り上げている。著者はアメリカで先行販売されたiPadを使い込み、多くの人にも使わせた上で、iPadがどのように使われていくか、様々なシーンを想像する。そこから15年近く経ってみると、やはりiPodやiPhoneほどのインパクトはなかったように思う。当時予測できていなかったのは、スマホが大型化してタブレットPCのニーズを多く取り込んでしまったことだろうな。当時のiPhoneは画面が小っちゃかったものね。

『オカメインコに雨坊主』
芦原すなお著、文藝春秋社 2000年8月発行

画家である主人公は、たまたま乗り間違えた汽車に乗ったまま終点まで来てしまい、そのまま山間の小さな町に住み着いてしまう。小学生の女の子とおばあさんが住む家が下宿先。汽車が一日に一本しか走っていないような、おそらくは昭和30~40年頃の、ひなびた田舎町で起きるSF(すこし不思議な)連作短篇集。ネコのミーコやアイルランド人英語教師、製材会社社長さんらとの心温まるふれあい。今よりもずっと、大いなる自然と超常の存在が身近だった時代。細やかな優しさと不思議な懐かしさを覚える読後感。

『発展コラム式 中学理科の教科書』
滝川洋二・石渡正志編、講談社ブルーバックス 2014年4月発行

ニュートン誌を定期購読してるから中学理科なんて楽勝、などと一瞬思ってしまった。そんなことないです。義務教育の、中学教科書の内容すら、とりわけ苦手分野はよく理解できてないのを痛感。内容はとてもわかりやすい。短いコラムの形なので、スキマ時間で読み進められる。それにしても、義務教育の範囲というのは現代社会で必須のものが厳選されているんだな、というのは強く感じた。

『すでに起こった未来』
P.F.ドラッカー著、上田敦夫他訳、ダイヤモンド社 1994年11月発行

未来予想はできない。しかし社会や経済における出来事とそれがもたらす変化にはタイムラグが生じる。少子化が進むと学校の入学者数が変化し、その十数年後には労働力人口にも波及するように。ドラッカーはそういった変化を「すでに起こった未来」と呼んだ。

"重要なことは「すでに起こった未来」を確認することである。すでに起こってしまい、もはやあとに戻ることのない変化、しかも重大な影響力をもつことになる変化でありながら、まだ一般には認識されていない変化を知覚し、かつ分析することである。"

40年以上にわたって書かれた論文集。

『社会言語学入門 改訂版』
東照二著、研究者 2009年10月発行

本書を目にするまで「社会言語学」という分野があることすら知らなかった。夕方ブックオフに立ち寄ったとき、ふと棚を見るとこの本が「買って!買って!」と呼んでいたのだ。経験上、そういう本は現在もしくは近未来の自分が必要とする確率が極めて高い。

で、社会言語学は、従来の主流言語学のように言葉を社会や文脈などの外的要因から切り離して言語を調べていくのではなく、言語が社会的な文脈でどのように使われ、変化し、影響を受けるかを分析していく。なぜ友達と話すときと上司と話すときで言葉遣いが変わるのか、なぜ地域によって言葉のアクセントや言い回しが異なるのかといった、言葉の多様性や変化を、社会的な視点から解き明かそうとするのが社会言語学、らしい。面白そう。

『グイン・サーガ 8 クリスタルの陰謀』
栗本薫著、ハヤカワ文庫 1981年10月発行

表紙がナリス様!グインサーガの絵師は何度も交代したけど、私は初代の加藤直之氏の絵がいちばんしっくりくる。海に落ちたグインは無人島で一行と再会。海賊たちに追われる中、謎の生物と宇宙船とに遭遇する。このあたりの伏線は100巻を超えても回収されていない気がする。徐々にイシュトヴァーンに惹かれはじめるリンダ、少しずつダークサイドに落ちはじめるレムス。これらもやがて中原全土を巻き込む騒乱の種火となる。

『グイン・サーガ 7 望郷の聖双生児』
栗本薫著、ハヤカワ文庫 1981年7月発行

ノスフェラス、草原、レントの海、国境、パロ。いくつものストーリーがそれぞれの場所で展開し、ヤーンは運命の糸を紡ぐ。最後の主役級、マリウスが登場。まだこの頃は兄ナリス様の手先だったんだなー。これまで控えめだった魔道が活躍しはじめる。物質転送の古代機械、墜落して大爆発を起こす宇宙船、ロスの海に出現する潜水艦らしき船など、超科学の断片も出てくる。戦乱の予兆をはらみつつ、皆が一路パロ、クリスタルを目指す。

『グイン・サーガ 6 アルゴスの黒太子』
栗本薫著、ハヤカワ文庫 1981年5月発行

前半は辺境篇のエピローグ、後半はノスフェラスから離れ舞台は中原パロに。表紙は草原の国アルゴスの黒太子スカール。主役級としてはもう一人、才色兼備の宰相、パロのクリスタル公アルド・ナリス様もこの巻から登場する(どうしても様をつけてしまう…)。まったくの正反対であるスカール太子とナリス公。これで主役級としては残すところあと一人となる。アルゴスはモンゴルあたりが、パロはフランスがモデルだったと思う。第二部「陰謀篇」スタート。

『コンピューター誕生の歴史に隠れた6人の女性プログラマー』
キャシー・クレイマン著、羽田昭裕訳、共立出版 2024年7月発行

今のコンピューターの元祖と言えるENIAC。1946年に誕生したENIACの開発に大戦中からかかわり多大な貢献をしたにもかかわらず無名となっていた6人の女性エンジニアがいた。たしかに当時のENIACの写真には女性が写っていたのを知ってたけど、本書の著者が調査するまで名前すら忘れられていたとは。現代のコンピューティング環境とはまるで異なる電子計算機黎明期に活躍した6人の女性エンジニアの伝記。

『ユリイカ 2024/11 特集 松岡正剛』
青土社 2024年11月発行

すごーく久々にユリイカ買ってきた。こういうのが出ると、本当にセイゴオさん亡くなってしまったんだな、と実感する。明日からじっくり読みます。

『地雷を踏む勇気』
小田嶋隆著、技術評論社 2011年11月発行

"特定の話題の周辺が地雷原になっているということは、その話題が「圧力」を獲得したことを意味している。そういう場合、誰かが地雷を踏みに行かないと、議論が死ぬ。無理が通って道理が引っ込む。かくして、弾圧は成功する。"

日経ビジネスオンラインのコラムを再構成した本。小田嶋さん、よく地雷を踏んで炎上していたけど、わざとだったのね。小田嶋さん亡き後、その役割は誰が担ってるのだろうか。ちなみにこの本、技術評論社から出ている。ちょっとびっくり。ずっと日経BPだと思ってたよ……。

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『ラ・ロシュフコー箴言集』
二宮フサ訳、岩波文庫 1989年12月発行

"人が悪徳をとがめるのも、美徳を称えるのも、すべて私利私欲からにすぎない。"

"真実は、見せかけの真実が流す害に見合うだけの益を、世の中にもたらさない。"

"愛されていると思い込むほど自然なことはなく、またこれほど当てにならないこともない。"

"誰も彼も自分はほかの人より抜け目ないと思っている。"

"虚栄心の種類はとうてい数え切れない。"

17世紀のフランス貴族ラ・ロシュフコーによる箴言集。日本で言うと江戸時代初期の本だけど、大半は今でも通じるものがある。人間は変わらないものね。こういうのって、若い頃もそれなりに楽しく読んだけど、ある程度の人生経験を踏まえて読むと、ますます楽しめるものだと思う。

『世界史を動かしたモノ事典』
宮崎正勝編著、日本実業出版社 2002年12月発行

モノに着目した世界史雑学本。ここでのモノは物体に留まらず、文字、都市、太陽暦、メートル法といったものも含まれる。どこかで薦められていたので購入したのだけど、どこだっただろう。なろう系小説の資料としてはけっこう役に立つと思う。十数名の著者による合作だけど、それぞれ参考文献が明記されてるので助かる。

『完結版 アーシアン 1』
高河ゆん著、集英社 2002年10月発行

天使(異星人)が地球人を評価し、マイナス評価が1万になれば人類を滅ぼす。プラスの評価員ちはやとマイナスの評価員影艶コンビを軸に描く、BL漫画でもあり、SFでもあり、ファンタジーでもある。1980年代から15年にわたって連載された作品。2002年完結。

最初の方だけは読んだことがあった。懐かしい。意外と覚えているものだねー。現在の水準で眺めてしまうと、絵とか読みやすさとか構成とかちょっともにょるし、80年代の表現にぎくりとしたりもする。徹底的に同性愛が否定された舞台での同性愛、というのも、なんかテンプレ過ぎるのね。それでも、たまに思い出して、無性に読みたくなったりする、そういう類いの作品。

『グイン・サーガ 5 辺境の王者』
栗本薫著、ハヤカワ文庫 1980年10月発行

第一部「辺境篇」完結。一気に物語が動く爽快感!

この巻から「あとがき作者」栗本薫らしいあとがきになった。そして、これまでの巻には物語世界での単位に矛盾があった理由が明かされる。単位を正確に決めたのは前巻のあとがきを書いた時だったと(笑)。中世あたりは地域によって度量衡はまちまちだったし、多少はよろしいのでは。グイン世界の単位系はわりとしっかり作られているので、今でも「うちから都内まで7タッド」「電車で1ザンちょっと」みたいに、私にとってはヤード・ポンド法よりはずっと自然に使える。

ともあれ、これでノスフェラスを舞台とした物語は一段落し、次からは占領下のパロの宮廷にメインの舞台が移る、だったはず。ヒロイック・ファンタジーから宮廷ファンタジーへ。戦いと怪異と冒険の世界から、文明と陰謀の世界へ。

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