それで、ほんのわずかだけ(わずか未満?)お手伝いをした木海さんの訳書、辻真先『アリスの国の殺人』《爱丽丝梦境事件》(簡体字)がぶじにまもなく刊行されるあかつきとなったそうです!まだ現物を確認していませんが、訳者あとがきに僕の名前を入れてくださっているそうです◎(※中国語は学習していないので、単純に日本語母語話者の視点からの助言です)。

編集後記には入れられませんでしたが、今回当誌に寄稿いただいた方、木海さんや山口真果さんなど、(emerging writerを探しあてることにかけてはどんな野生動物よりも恐ろしく嗅覚的な)海外小説紹介者・橋本輝幸さんの文章ではじめに存在を知った方が何人もいます。ここに記しても流れてしまいますが、御礼申し上げておきます。

ちょっと前に締め切っていたSFマガジンのATBアンケートですが、「未訳作は挙げないように」というルールがありましたが「未訳作家は挙げないように」という文言が見つからなかったので海外作家はSamanth Harveyを入れました。そして、海外長篇1位はウィルヘルム『杜松の時』……。小川一水『第六大陸』のような作品もありますが、宇宙開発をテーマ(のひとつ)にした作品でも作家によってここまで根本的にスタイルが違うのかと驚きます。
air-tale.hateblo.jp/entry/2024

本作に限らず、創刊号では多くの未訳作がたっぷりみっちり紹介されているのでよろしくお願いいたします。

【朗報】今号で書評を掲載したSamantha Harveyの長篇Orbitalがブッカー賞を受賞しました!(なんと入稿から10時間後に発表)。英語圏ではすでに多くの書評が出ていますが、関心のある方にはTimes Literary Supplementの、著者自身が出演した2023年11月の回のpodcastが強くおすすめです。
the-tls.co.uk/regular-features

「ブックガイド 詩に近づく小説、小説に近づく詩」は普段はシャイで寡黙な編者・木村の好き好きモード全開で思う存分書いてみたブックガイドです。散文を激烈に賦活しうるものとしての詩、詩が思わず畏怖してしまうような散文と信じられる鍾愛の作品だけを選りすぐって紹介してみました。紹介されている作品の一例:ディラン・トマス「果樹園」、パウル・ツェラン「山中の対話」、マルセル・シュオッブ『モネルの書』、マルグリット・ユルスナール『火』「青の物語」、ヴァージニア・ウルフ「青と緑」、イサク・ディネセン「カーネーションをつけた青年」、オクタビオ・パス「天使の首」、J・G・バラード「終着の浜辺」、ジェフ・ライマン「オムニセクシュアル」、ジョイス・マンスール『充ち足りた死者たち』、タチヤーナ・トルスタヤ「夜」、飯田茂実『世界は蜜でみたされる』(改題『一文物語集』)、入沢康夫『ランゲルハンス氏の島』、金井美恵子『春の画の館』、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『創造者』、李箱「烏瞰図」、安西冬衛『軍艦茉莉』、松井啓子『のどを猫でいっぱいにして』、平出隆『家の緑閃光』、川口晴美『やわらかい檻』、高柳誠『都市の肖像』…。

また、作家ガイドとしてオーウェンを長く愛読してきた西崎憲さんによる「東洋の不思議な物語」を収録しています。書籍には未収録ですが、西崎憲さんがオーウェンやドナルド・コーリイら東方幻想の作家たちについて書いた文章は『幻想文学』『SFマガジン』『翻訳ミステリー大賞シンジケート』などの媒体においていくつも存在します。そのなかでも知る人ぞ知る同人誌『FANTAST』24号(1994年)にひっそりと掲載された「東洋の不思議な物語」こそ出色の出来と判断し、改稿をしてもらった上で再録をしました。

■『jem』創刊号・内容紹介(文学フリマ東京39まで小出しにして投稿していきます)
 小特集〈東方幻想の世界〉として、フランク・オーウェンの短篇二作を高山直之さんの流麗な翻訳で掲載します。1920年代からアメリカの文芸誌〈Weird Tales〉に作品を発表し、今では半ばは忘却の淵に沈んだオーウェンの名を知る方は多くはないかもしれません。定期的なテレビ放送すら始まっていない時代、実際に中国へ行ったことが一度もないにもかかわらず、ほとんどは純粋な想像力を元に夢幻的な東洋を描き続けたという特異な作家です。普段わたしたちは、歪められた日本(人)像に出くわす度に居心地の悪さを覚えます。しかしアジアに関するひどく限られた知識にもかかわらず(ゆえに?)かくも霊妙な物語を紡ぎ続けたフランク・オーウェンの非凡さは、言語表現におけるエキゾティシズムそのものを問い直す力を持っています。

ナイジェリアの作家、Pemi Agudaのついに刊行!初短編集『Ghostroots』読み中。読んだことのある作品についてジョイス・キャロル・オーツや藤野可織のある種の短篇などと対比しながら考えたこともあったけど、なんだか違うような気がしてきました。語彙は平易なのですが、むしろ不要なものが削ぎ落されている印象で、不思議なくらい文章の呼吸が自分に合います。この作風を「陰鬱」として斥ける読者もいるでしょうが、ちいさな世界をいつも描いているように見えて現代人の負の条件を明るみに出している気がしてなりません。一篇読むたびにナイジェリアのことが知りたくもなります。

アーネスト・ブラマ「絵師キン・イェンの不幸な運命」(「ソムニウム」4号)
マンガネッリ「虚偽の王国」
パウル・シェーアバルト「セルバンテス」
アイヒンガー「わたしの緑色の驢馬」
ペルッツ「月は笑う」
パニッツア「三位一体亭」
デーブリーン「たんぽぽ殺し」
クリスティン・ブルック=ローズ「関係」
ロバート・クーヴァー「ラッキー・ピエール」
バーセルミ「バルーン」
バース「アンブローズそのしるし」
三橋一夫「腹話術師」
渡辺温「兵隊の死」
黒井千次「冷たい仕事」
正岡蓉「ルナパークの盗賊」
山本修雄「ウコンレオラ」
藤枝静男「田紳有楽」
中井紀夫「山の上の交響楽」
皆川博子「結ぶ」
山尾悠子「透明族に関するエスキス」
筒井康隆「上下左右」
円城塔「誤字」
ペレーヴィン「倉庫XII番の冒険と生涯」
ムロジェクの何か
野口幸夫が訳したレム
ヘダーヤト「幕屋の人形」

いきなり発表!奇想小説マイフェイバリット(ただしまだ下書き)。入手の困難さなどは度外視して好みを打ち出しました。

オクタビオ・パス「波と暮らして」
カルペンティエール「選ばれた人びと」
コルタサル「クロノピオとファマの物語」(未訳)
アウグスト・モンテロッソ「ミスター・テイラー」
デヴィッド・ブルックス“Map Room”(未訳)
イタロ・カルヴィーノ「王が聴く」(未訳)
ヴォルテール「ミクロメガス」
フーリエ「アルシブラ」
ルーセル「黒人たちの間で」
ミショー「魔法の国にて」
ペレック「冬の旅」
デーモン・ナイト「人類供応のしおり」
エムシュウィラー「ピアリ」(らっぱ亭訳)
ラファティ「町かどの穴」
イアン・ワトスン「スロー・バード」
ベイリー「知識の蜜蜂」
コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」
チャイナ・ミエヴィル「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」
マコーマック「刈り跡」
フラン・オブライエン「機関車になった男」
(つづく)

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