『波止場』観た
波止場を仕切るやくざ者になるかならないか、それが問題だ。
犯罪の手先に使われた青年が、しがらみを捨て良心に従えるか、真に勇敢になれるかを語る作品。逡巡をじっくり描いていて面白かった。
人にもともとある良心を信じている話だったな。主人公テリー、最初から組織のやる事に不満たらたら、ボスへの恩もそれほど…な様子が、ボスの右腕の兄とのやりとりで、そもそも望まない生活なのだとはっきりする、あの場面でテリーが兄ちゃんに失望した様子が好きだった。仕方ないだろ、何ができたっていうんだと流されていた、その気持ちはわかる。
あくまでも、主人公テリー個人の心の変化に焦点があたっているけれど、その心の動きの結果が、恩義や保身という私的なところから、労働者たちの意志の象徴という公的なところに到達するのが面白かった。
やはり神父の役回りが大きいのが、信仰で道徳を支えてるアメリカらしさだと感じる。最後の行進とかイエスのようだ。
ゴッドファーザーとジョニデの映画に出てる(でも印象に残ってない)のしか見たことがなかったマーロン・ブランドの若い頃を初めて見た。正統派ではない格好良さかな、弱さと頑なさが同居してるような魅力があるんだな。あと腫れぼったいような目元が印象的なのかも。
『グランツーリスモ』
GTアカデミーの部分、やはりドラマが薄いのがもったいないかも。トップガンマーヴェリック並みに可能性があるけど、それやったら映画の尺に間に合わないか…レース場面をたくさん見たいからな…。レーサーのライバルがいるし。あいつもコーチと絡めて色々膨らみそうなんだけど。惜しい。
デヴィッド・ハーバーのコーチが、予想より早く主人公応援隊になっていくのが微笑ましかった。いや、きちんと理由は提示されるので、ちゃんとした能力ある良い大人って感じがしてそこが好きなんだけど。
日産、ビジネスサイドの役を担うオーリーが絶妙に嫌な奴らしさをかわしていて面白かった。こいつ…って憎みそうになるところを踏み込ませない。ほんわか主人公を応援している感。
日本描写が予想以上にあって驚いた(日産の話だと知らなかったくらいなので)が、きちんといま外国人から見る日本という感じで、真面目だな~と感心した。トンチキジャパンに慣れてるから…
ゲームのグランツーリスモの制作過程も紹介されてるけど、そこも格好良く描いていて、真摯に向きあってるのがわかって良い。
国旗を運ぶフランス軍の部分だけ変に尺をとってる気がしたのだけど、あれは監督の趣味が出たとかそういう?
『グランツーリスモ』観た
面白かったー!
シムレーサーが現実のレーサーになる。努力と挫折と勝利!の少年漫画的とも言えそうな王道成功物語の人間ドラマは深入りせず淡泊。でも丁寧に拾っているので面白くて燃える!親子や師弟関係もその淡泊さがちょうどよい温度になって楽しい~。
中盤のレースデビュー以降は、それこそギアを上げたような爆速展開。白眉はレース場面で、すっごく楽しくて手に汗握る興奮!
ドローン使い、路面すれすれの視点、ペダルやステアリング操作、内蔵機関の動作、レース展開なんかの編集のテンポが良くて興奮するし、わかりやすくもあった。ペダルとエンジン、タイヤの音が良かった、とても好き。
音楽の使い方も好きっていうか教科書的感じがあって上手くて楽しい。ブラック・サバスにエンヤ~
ゲーム的演出が所々入るのも良くて、ゲームとリアルのシームレス感、その楽しさ、車やレースの興奮を表現しようという気持ちが伝わる。
デヴィッド・ハーバーが絶対良いだろと思ってたけど、本当に良かった。ドラマの深みを一人で背負ってたんじゃないかなってくらい。反発から信頼、そして自身の諦めを次代に残さないよう支える師匠、好きー。この役まるごと脚色らしいのだが、入れて大正解です。やはり師弟は良い。
『グランツーリスモ』が楽しかったのでホクホクしてる。レース場面が本当に高揚できて、いやー良かったなぁ。感想はまた後でまとめたいが。
認識してなかったけど、自分、モータースポーツの映画かなり好きだな。
『夜の大捜査線』他に
緩めの捜査の裏で、黒人への憎悪がじわじわ増していくように感じられるのが怖かった。時間経過がゆっくりに感じられるので余計に。ただ町にいるだけで襲われるのが本当に怖い。とんでもない社会だったのだなと改めて思う。
署長の、バージル個人の能力や差別を理解してはいるが認められず傲慢な態度を変えられない、けれども厳しくも当たりきれず、なんとなくいい人寄りになっていくモヤモヤ、本当に面白い。こういうの大好物なので。
バージルは夜汽車を降りてくる所、駅の待合所の全身登場シーンからもう格好良い。
誤認逮捕された男と打ち解ける場面がかなり好きだ。コミュニケーション能力に長けてるのと、人間的魅力もあるのが見て取れて。この場面でもそうだけど、ほとんど渋い表情なのに何度か破顔するところがあって、それもまた良い。
殴られたら即殴り返す気合と反射神経と不屈の精神もいいな。あの場面普通にびっくりした。
巡査のキャラもなかなか面白かった。調子がいいのに、変に強がりで反抗心があるの。めんどくさい奴だけど。
綿花のプランテーションの風景は複雑な気持ちになる。
『夜の大捜査線』観た
見知らぬ街で、殺人事件の容疑者と間違えられ逮捕されたのは殺人課の敏腕刑事だった。嫌々ながら事件捜査に協力する…と定番のサスペンスなのだが、刑事は黒人、舞台は60年代の人種差別の根強い南部のミシシッピ州、と途端に人種差別の緊張感が張り詰める。ユーモラスさに緊張の陰影がつき、とても面白かった。
数々の差別に努めて知的にクールに振舞う刑事を体現するシドニー・ポワチエの抑制された演技。北部の洗練さをひとり貫く。その奥に煮えたぎる思いが見え素晴らしい。躍起に捜査する中で「すっかり白人だな」と掛けられる声に、こちらもはっとする。
彼と対立しつつもバディ関係に陥ってしまう強烈に横柄な白人警察署長、演じるロッド・スタイガーがまた素晴らしく。じわじわと黒人刑事の能力を認めざるを得なくなる感情の揺らぎが絶妙。可愛げすら感じる。しまいには疎外された者同士の心が交錯する一夜、友情でもない寄り添い、という大好物な場面まである。偏見が消えないのがリアリティあって良い。数日の捜査で変わるほど人の心は単純ではない。
それでも、ラストの素っ気なくも、一時的であっても心の通ったやり取りに、爽やかさを感じ笑顔になる。
『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』他には
本筋からは少し逸れるけど、育児中の記者二人が上司からはい出張!と言われて、マジですか?……あーーーーじゃあ私が行くことになるよねそうだよねー、ってなるのには育児していない自分でもそうだよねーとなって見ていた。乳幼児の親より小中学生の親が当然行くことになるよね。育児しながら仕事するのって、人手が要るっていうか大変っていうか、労力がかかることだと思うよ。
記者という仕事上、常時仕事してる感じで、当然夫婦や子供が協力しあって生活してる様子も沢山描写されてたね。協力してこの慌ただしさなんだから、協力が無いとそもそそも無理な仕事なんだというのもすごい理解する。
キャリー・マリガンの役の記者が、産後鬱っぽくなった後で職場復帰した際に、仕事をしてるとかなり楽と言っていたけれど、仕事が人格の大事な一要素であるんだよね。そういう人も多い。で、今回の事件で仕事の場を奪われた被害者達がいる。何重にも理不尽を迫る行為だったんだと思う。
『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』観た
ワインスタインの性暴行疑惑に迫る調査報道記者。報道ものにあるオーソドックスな作りで、真相を報道できるまでの道のりが遠いのだが、この作品(と記者達の関心の多く)は被害者の訴えが取り沙汰されないことの問題、構造にも焦点があるので、もどかしさを共有しやすいと感じた。
被害女性達の中で、勇敢に立ち向かったが理不尽な条件を飲まされ絶望した人、被害に遭遇後に静かに仕事から去ったが後悔している人が特に印象に残った。理不尽な判断を迫られた事自体に、その状況に屈してしまった事自体に、深く尊厳は傷つけられるのだとわかる。精神を蹂躙されてしまった重み。
記者が女性として仕事をし生活をこなす日常を送る場面が多いのも印象的。日々の中で向き合い続ける粘り強さ、それが一つの連帯の態度なのだと伝えている様に感じた。報道の価値があると信じて仕事をしているとは言え、記事を出しても世間の反応が薄かったらどうしようという不安も、この隠され続けた事案ならより強く感じるだろうことも理解。真剣なお仕事映画でもある。