史実の鄭和さんの地理感覚を把握するための読書ルート、『雲南ムスリム・ディアスポラの民族誌』(最初に読むには難しいので一時中断中)→やまもとくみこ『中国人ムスリムの末裔たち:雲南からミャンマーへ』→高野秀行『アヘン王国潜入記』と来て、これがとても面白かったので同じ著者の『西南シルクロードは密林に消える』を読み始め、一気に読了。講談社のカメラマン氏と別れたあたりから加速度的に面白くなっていった。
張騫が西域で見た四川の布の交易ルートを辿ると称して、中国からミャンマーの反政府少数民族ゲリラの支配域に密入国し、そのままカチン人ゲリラ→ナガ人ゲリラの伝を辿ってインドにも密入国し、最後はカルカッタから何故か無事に強制送還されて帰国するジャングルの旅の記録だが、「自分が旅をした」というより「自分は交易品として人から人へと渡されていったのだ」という実感がとても良かった。貝とは知らずにタカラガイを薬として持っているゲリラのエピソードなども。
ということで、引き続き、上田信『東ユーラシアの生態環境史』の再読(私的この地域の原点)、ワ州の話があることに気がついた安田峰俊『独裁者の教養』(どうかなと横目に見ながら10年ぐらい積んでいる)、東方見聞録の雲南行以降などを読んでいく予定。
🚲親父のブログを本にする:その6
昨日はオンライン作業会テレッテレーの日だったので、去年の夏に、もう20年近く前に父が自転車で奥の細道巡りをした時に書いていたブログをうすい本にしてあげるよと安請け合いしたきり、校正の途中で止まっていた作業に久しぶりに取り組んだ。過去の自分が期待していたほど進めていなくて少し慌てる。横書きから縦書きに直すのに色んな記号を置き換えたり、中途半端な横棒を全角ダーシに置き換えたりする作業なんだけど、とにかく面倒くさい。でも、来週末にはめんどくさ校正も終わる筈なので、またInDesign契約して版組を考える。どうも私のInDesign操作にはまだ再現性がないので、この機会にきちんと基礎から習熟したいところ。
…しかし紙のサンプル眺めていると自分の本も(というか自分の本を)作りたくなって困る。印刷所は、本文にカラー写真がほぼ毎ページ入る仕様などから、ほぼSTARBOOKSさん一択なのだが、まず自分の本作ってみてイメージ掴むとかありかな…?(それ自分の本だけ完成するパターンだからね…)
📽TAAF2024の第1弾チケット発売開始!
不思凡監督の「ストーム(原題:大雨)」は3月8日(金)夕方回と3月9日(土)午後回の上映です。楽しみだ〜
https://animefestival.jp/screen/list/2024feature3/
元ネタの「デデ・コルクトの書」もかなり気になってきた。「吟遊詩人デデ・コルクトが狂言回しとなって」とか「口承伝承が凝縮された稀有の書」とか、私のアンテナがぎゅるぎゅる反応する宣伝文だ…
https://www.heibonsha.co.jp/book/b161772.html
📚積読書:カマル・アブドゥッラ『欠落ある写本:デデ・コルクトの失われた書』(水声社)
タイムラインをどんぶらこと流れて来たのを見つけた。メインタイトルと、「デデ・コルクトの書」って確か東洋文庫に入ってなかったっけ題名だけは聞いた覚えがあるというのと、アゼルバイジャンの小説家というのに興味を惹かれて、帯のアオリに文字通りあおられて買った。オルハン・パムク(『わたしの名は紅』の)、イスマイル・カダレ(『誰がドルンチナを連れ戻したか』『夢宮殿』の)、ミロラド・パヴィチ、ウンベルト・エーコなどの名前を思い浮かべ、期待を高めている。いつ読むかはわからないが、自分の勘が当たっているといいな。
続き。「天灯」の構造のネタバレをするので一応伏せ。
成功しているかは別として、「天灯」の設計図はこんな感じで考えていました。中秋の夜の思い出話をBにするAの語りと、その後のどこかの時点で、Aの語りを踏まえつつ中秋の夜の出来事をモチーフにした食籠の図柄を第三者に語るBの語りが交互に来る構造で、Aの語りだけ読んでも、Bの語りだけ読んでも、ABを順に読んで行ってもそれぞれで話が通じるようになっている筈…!です。Aが呂颯でBが鄭和さん。
何でそういうややこしい構造にしたかと言うと、一つは呂颯が極めてプライベートな打ち明け話を始めてしまったので、その聞き手が必要になったこと、その際にアウティングみたいなことにはしたくないなと思ったこと。もう一つには、呂颯の語りを契機として鄭和さんが一人称の語りを獲得していく、みたいな話にしたかったから。現存する鄭和さん関係の碑文をはじめとする文章、とにかく個性が全然感じられなくて非常に歯痒い思いをしていたので、「いつも三人称ですかしてないで、たまには一人称で語ってみろよ」と。なので食籠の説明で三人称で語っているあたりも一応鄭和さんの語りのつもりです。成功しているかは別として…(正直、あまり自信はない…)
(今日はここまで!)
続き。
・ちなみに、馬歓と同様に鄭和に随行した費信の『星槎勝覧』のモルディブ章にはタカラガイの記述はない。馬歓くんによると「モルディブは小さい国で、宝船も1、2隻しか行かなかった」そうなので、実際には鄭和さんモルディブには行ってないかもしれない。馬歓はひょっとすると自身が行ったのかもしれないし、何だったら鄭和からタカラガイの話を聞いていたので特に書き留めたぐらい想像を逞しくしてもよかろうと思う。
なお、「タカラガイ 腐らせる」でぐぐって見つけて参考になった記事はこちら。殻を残すか身を味わうか、根源的な問題だ…
https://dailyportalz.jp/kiji/takara-gai-sagashi
・ついでに脱線すると、費信の報告は割とちゃんと報告報告していてあんまり「あれが可愛い、これが美味しい」を熱弁することはないのだが、馬歓が詳述している上に費信も珍しく言及している数少ない物産がドリアンです。多分、鄭和艦隊の上層部みんなで食べて、美味しいと評価が一致したのだと思う。
(まだ続く)
✏️創作の余談雑談:
ちょっと疲れて来たので「天灯」の鄭和さん関係のネタ語りをします。
・子供の頃の鄭和さんがタカラガイで買い物した話は、上田信先生の『シナ海域蜃気楼王国の興亡』で「少年時代の鄭和もそうしてたかも」と書いていたのを全面採用。なお、鄭和自身も建立に関わった鄭和の父を顕彰する石碑で、父の子は男二人、女四人とあり、鄭和さんには文銘という兄がいるまではわかっているけど、女きょうだいが妹かはわかりません。そこは私の好みを優先させました。末っ子で可愛がられ慣れている鄭和さんの図も、それはそれでアリだが…
・鄭和さんにお小遣いくれたの、最初はお母さんにしていたのですが、最終的に祖父にしたのは、鄭和さんの祖父と父はハッジの称号を持っているので、メッカに巡礼したことがあるらしいから。「この貝は南の海からはるばるもたらされたのだよ」とか旅の話と一緒にしてくれる。
・タカラガイを浜に積んで腐らせる話、ここで読んだと思った本に載っていなくて焦りまくったが、ふと思いついて馬歓の『瀛涯勝覧』を見たら、モルディブの章に言及があったのでそれを根拠にしました。サンキュー。馬歓くんの観察眼にはいつも助けられている。
(続)
✏️創作の余談雑談:
「天灯」の参考に読んでいた呉存存『中国近世の性愛』に、馮夢龍の「情史」には同性愛者を扱った章もあると紹介されたので、「ひょっとすると、同じく馮夢龍が編んだ、「男女の恋愛を大胆に歌った民謡アンソロジー」という触れ込みの「山歌」にもあるのでは?」と読み返してみたら、数首並んでいるのを見つけた! 元祖馮夢龍推しの大木康先生は、同性愛については積極的にマーカー引いてくれる訳ではないので、自分の目が節穴だと見逃してしまう。
ということで、「三十年経った古米はただのカスだし、三十年経った家具は役立たずだし、三十年経った尻でどうしてやれるだろう」というしょーもない歌と、「この歌を「三十歳になって味わいが完全になった」と言っていたやつが聞いたら「尻を馬鹿にするものだ」と言っただろう」という馮夢龍のしょーもないコメントを味わいつつ、この良さをどうやって語ろうかと考えているうちに一日が終わってしまった。しょーもないけど、こんな短いのに、若くない同性愛者(特に受)への世間の侮蔑と、冗談まじりながらそれへ反論するコメントで多角的に状況を描いて一瞬で構造を見せるキレキレぶりは健在だと思うし、「天灯」書いた後で読んだけど答え合わせ的なことができて良かった。
(出典は大木康『馮夢龍『山歌』の研究』p568)
📙「三宝太監西洋記」、読んだ人みんなに「つまらん」とか「文章が下手すぎる」とかボロクソ言われていて、実際「西遊記」はじめ諸々を臆面もなくパクったりしてはいるので、パクってもアレンジ効かせているだけで「すごいやる気に満ちている!」と感動するし、他の小説に文章コピペされてる旨の論文を読むと「お兄ちゃんになったな…!」と嬉しくなってしまう。
なお、文章は下手というより、「Aが言うとBがこう答えるのでAはこう言い、…」的な全然彫琢してないシンプルな文章を繰り返すことが多いので(人によってはそれを「下手」と言う訳だけど)、中国語初心者の私でも頻出する動詞とテンプレ言い回しを覚えれば何となく筋が追えてしまうメリットもある。美辞麗句ギンギンの文章だったら絶対に読めなかった。
(続き)
と言うことで、黄鳳仙は鄭和を南監から解放し、三人のところへ連れて来る。「お前たち三人揃ってどうして捕まったのだ」と尋ねる鄭和に一人(仲人になると言った人。張狼牙と言う厨二っぽい名前)が、王蓮英の術に敗れたこと、唐状元と結婚できるなら黄鳳仙が術を破ると言っていることなどを説明する。すると鄭和はあっさり「何のデメリットもないのだから結婚しなさい。私が式を取り仕切ろう」と言うので、二人は結納を交わし、密かに黄鳳仙の私邸に赴いて一夜を過ごす。翌日、唐状元が監獄に戻ると、王蓮英が鄭和と三武将を共々火炙りにすると命じた話が伝わって一同詰みかけるが、唐状元が策を講じて、王蓮英に「明人は死を恐れないが、馬や武具をともに焼かないと祟って出るらしい」と伝えるよう黄鳳仙に頼む。と言うところで第47回終わり。
最初読んだ時はあんまり意味が取れなかったけど、もう一度読み返したらわかって来たので、あまり省略なく意訳してみた。唐状元が悩む件、「楊家将演義」の宗保さんエピ踏まえてそう(というかパクってそう)だが、こうして見るとキャラも展開もそれなりにアレンジが効いていて、当初の印象ほど丸パクリではなかった。あと女性陣のアタック戦略と男性陣の反応もそれぞれ書き分けられていて、この辺は、まあそこそこ面白いのでは?(今回は以上)
📙「三宝太監西洋記」読書メモ:
女人国の監獄に捕らえられていた鄭和の部下三人は鄭和の行方について話し合うが、黄鳳仙が来たので口をつぐむ。しかし黄鳳仙が彼らに茶を捧げるので唐状元が驚いて「王蓮英のところから助けてくれた上にお茶まで」と言うと、黄鳳仙は「彼女は最初あなたを好いていたが話し合いがうまくいかなかったので怒ったのだ。男は妻が欲しいし、女は夫が欲しいから」と解き明かす。ひとりが「あんたも夫が欲しいのか」と尋ねると黄鳳仙は「仲人もいないのに結婚なんて」と言うが、相手が「自分が仲人になると言ったら?」と重ねると「釣り合いが取れた相手なら」。そこで相手が「唐状元ならあんたにお似合いだろう」と水を向けたところ、黄鳳仙は「唐状元が私を夷狄の女と蔑むのでは」と返す。実は文武両道で智略に優れた黄鳳仙も密かに唐状元の風采に惚れて、彼と結婚するべく一計を講じたのでした――と言うことで、下を向いて無言の唐状元に「私と結婚するなら王蓮英の術法を破ってやる」と言うので、唐状元は「言いなりになって夷狄の女と私通する罪か、どうしたものか」と悩んだ挙句、「鄭元帥をここにお連れしてくれれば言う通りにする」と答えましたとさ。(続く)
マキノヤヨイです。創作集団こるびたるの中のひと(もしくは外のひと)。ここは、主に創作活動のゼミ発表的な使われ方をしている場です。